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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-68 事後11

悠達はそのまま街を離れ街道沿いに雪原を進んで行った。平原の夜は深い雪に閉ざされてしんと静まり返っており、ノースハイアに未だ春の兆しは見られない。


「今思えばミーノスは暮らしやすい土地だったよな。こんなに寒くもねぇし雪もねぇし」


「ノワール侯はミーノスに行った事がおありなのでしたね」


「ああ、そこでビリーやミリーに会ったんだし、冒険者としての拠点でもあったしな。……ユウ、そろそろ街からは見えなくなったぜ」


「ああ、この辺りでいいだろう」


バローに促された悠はその場で『虚数拠点イマジナリースペース』を設置……するのではなく、遠くまで何も無い平原である事を確認するとおもむろに手を突き出して唱えた。


「『火竜クリムゾンスピア』」


構築された魔法陣に竜気プラーナが流され、眩い奔流が雪原を横切って1本の道を作り出した。


「こ、これはあの時の!?」


「ああ、クリスには詳しく説明してなかったな。こいつがあの時の赤い鎧の騎士だよ。ま、立ち話もなんだ、今は付いて来てくれ」


「は、はぁ……」


「もう、魔法を使うなら使うって私達にも教えて下さい!!」


悠が今『火竜ノ槍』を使ったのは万一街道の側を通る者が居ないとも限らないからだ。この厳冬の中を夜に旅をする命知らずが居るとは思えないが念には念を入れたのである。


『火竜ノ槍』で作られた道は幅が5メートルほど、長さはどこまで続いているのか夜では見通せない長さであった。赤熱した道はしばらくの間蒸気を噴き上げていたが、程なくして冬の冷気に冷やされて固まり、しっかりとした道として歩けるようになったのだった。


「ユウがいりゃあ除雪が楽でいいな。街道の除雪は冬の領主の悩みの種だしよ」


「近くでこんな大魔法が連発されていては旅人や商人は怖がって近付きませんよ。まるでドラゴンが吐息ブレスを吐いた跡みたいですし……」


そんな雑談を交わしながら悠達は出来たばかりの道を歩いた。雪が無いだけで歩きやすさは段違いに向上し、10分も歩けば街道からでは見えない場所にまで到達出来たのだった。


「レイラ、『虚数拠点』展開」


《了解よ》


先頭に立つ悠が平坦な土地に向けて『虚数拠点』を設置するとまたクリストファーとレフィーリアが驚きの声を上げたが、そこはバローがとりなし予定調和の流れで一行は屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。


「……ノワール侯とは随分と親しい間柄に見えましたが、ユウ殿は一体……?」


「まずはメシだぜクリス。ガキ共が腹を空かせて待ってるからな」


「腹を空かせて待ち切れないのは貴様だと思うが」


「う、うるせぇな! 腹が減ったままだと集中力が落ちるだろうが!」


思えばこの2人の関係もクリストファーにはよく分からない。最初は冒険者と依頼人の貴族という関係なのかと思っていたが、全く気の置けないやり取りは友人のそれであり、むしろ会話の主導権は悠の方が握っているようにクリストファーには感じられた。厳格な階級社会のアライアットでは考えられない事である。


その時玄関の扉が開いて中から小さな人影が現れ、悠達を出迎えた。


「おかえりなさーーーい!! あれ? お客さま?」


「ただいま明。こちらはバローの妹のレフィーリアと客人のクリストファー殿だ」


自らの思考に浸るクリストファーを可愛らしい声で遮ったのは明であった。小首を傾げる動作に思わずレフィーリアとクリストファーの顔が綻ぶ。


「レフィーで構いませんよ。こんばんはメイちゃん」


「私もクリスで結構です。アライアットは捨てた身ですので……。こんばんは、お嬢さん」


「レフィーお姉ちゃんとクリスおじさん? 明は小鳥遊 明です! ホントは7歳だけど6歳です!!」


「「?」」


年齢の紹介にレフィーリアとクリストファーは疑問を覚えたが、バローが再びまぁまぁと取りなした。


「疑問は後だぜ、とにかくまずは席に着いてくれよ」


腑に落ちないながらもこの後に説明して貰えるのだろうと無理矢理自分を納得させ、クリストファーは口を噤んで悠達に付き従ったのだった。




「はじめまして、私はベロウ・ノワールの妹レフィーリア・ノワールと申します。本日はお招き頂き感謝します」


「同じくクリストファー・アインベルクと申します。元はアライアットの貴族で、今はノワール侯の所でお世話になっております」


「「「こんばんは!」」」


「これで全員では無いが、ここで俺が保護している者達だ。カロンとカリスがまだ研究中でやって来ていないが……」


「なるほど、思った以上に大所帯ですな。幾人かは尋常ならざる気配をお持ちの様ですし……」


そう言ってクリストファーが見るのはサイサリスやシュルツの方だ。ギルザードは飲食不能であるし、シャロンも殆ど食事を必要としないのでこの場には居らず、自室で待機していた。


「……あの人ってバロー先生の妹さんなんだよね? 確かに少し面影はあるけど美人だわ……不思議……」


「うん……遺伝子って不思議だよなぁ……」


「不思議って何だよお前ら!?」


「あら、聞こえました? ごめんあそばせ」


「くっ、ワザとかよ……!」


樹里亜と神奈があえて聞こえる様に言った雑談にバローが青筋を立てるが、悠はそれを無視してクリストファーに話し掛けた。


「食事が出来るまでの間に掻い摘んで俺の話をしよう。聞いて貰えるか?」


「はい、伺いましょう」


食事の用意が整うまで30分前後と見積り、悠はこの世界に来る事になった経緯やノースハイア、ミーノスの顛末を語り、途中でレフィーリアやクリストファーからの質問に受け答えしつつこれまでの疑問に答えた。


ある程度聞かされていたレフィーリアはそれほど大きな驚きは無かったが、クリストファーは悠の話が終わるとまるで一気に何冊も本を読破したかのように目と目の間を揉み解しながら唸った。


「うむむ……まるで夢物語ですな。しかし、ノースハイアの『異邦人マレビト』の多さといい、その後の事といい、全てに合点が行くのも確かです。しかし、流石にエルフやドラゴンにまで話が及ぶと疑う訳では無いのですが、私の頭では荷が重い様です」


「本当ですよ、ホラ」


バローの隣に座っていたハリハリが指輪を引き抜くと、変身が解けてエルフ特有の長い耳が伸び、髪の色も変化した。


「ね?」


自分の耳を摘んでピンと弾いてウィンクするハリハリを見てレフィーリアが顔を青ざめさせた。人間にとってエルフとは恐怖の対象であり、傲慢で恐ろしい魔法の使い手という印象しかないのだ。分かっていても本能的に身構えてしまうのは仕方が無い事である。


「ほう……本物のエルフは初めて拝見しました。本当に耳が長い以外は人間と変わりませんな」


「実際、髪を染めて耳を隠せばエルフだとはばれないでしょうね。もっとも、ワタクシほど物分かりのいいエルフなんて殆ど居ませんけど」


一方、クリストファーはむしろ実物を見て腹が据わったらしく、まじまじとハリハリの顔を見つめた。そこにようやく一区切りついたカロンとカリスの親子が姿を現した。


「いやー、腹減った!! 今日は朝からまともに食ってないもんな~」


「こら、客人が来ているのだからだらしない言動は慎まんか! ……む? もしや……アインベルク子爵では?」


「お久しぶりです、カロン師。ご無事で何より」


「あん? オヤジの知り合い? イテッ!?」


ぞんざいな口を聞くカリスの脳天にカロンの拳骨が落とされた。


「自分の国の貴族すらお前は知らんのか……。こちらはアインベルク子爵だ。アライアットでは珍しく道義を弁えた人物で、私も度々お世話になったのだぞ! アインベルク子爵、申し訳ない。鍛冶しか知らぬガサツな娘に育ってしまい……」


「いや、今の私はアライアットの貴族では無くノワール侯に全てを委ねた身です。私の方こそ貧乏貴族の身の上で発言力が無いばかりに、カロン師が国を追われる身となってしまった事を悔いております」


「とんでもない! むしろ、あれは私の生き方が傲慢であったがゆえに起こった事です。ただひたすらに切れる武器を求めるあまり、私は人として大切にしなければならない物をおざなりにしてしまいました。だからこそ弟子にも裏切られ、挙句追い出される羽目になったのです。全ては私自身の責任です」


「……お変わりになられましたな、カロン師。以前は話し掛けるのも一苦労でしたが、険の取れたお顔をしてらっしゃる。それにずっと充実した人生を送られているように感じます。私も心の重荷が少し軽くなった気がしますよ」


五体満足で精気に溢れるカロンを見てクリストファーが微笑んだ。カロンを追放した貴族はクリストファーよりもずっと上の爵位の貴族であり、いくらクリストファーが庇おうと思ってもどうにもならなかった事がクリストファーの心に棘となって気分を重くさせていたのだ。


「正直、ユウ殿に助けて頂けなかったら私は今頃失意の内に野垂れ死にしていたでしょう。今は一度死んだものと思って初心に返って楽しくやらせて頂いていますよ。……しかし、一体クリストファー殿に何があってユウ殿やバロー殿とご縁が?」


「それは……」


「おっと、一旦そこまでだ。メシは熱い内に食うモンだぜ、お2人さんよ」


そこまで話した所で恵の料理が出来上がったらしく、子供達の手によって次々と料理の皿が運ばれて来たのでまず食事の時間にする事にしたのだった。


「では食事の後に再開という事でバローは酒抜きでいいな。酔っていては舌も鈍るだろう」


「ちょ!? 多少酒が入った方が舌の回転がいいんだよ俺は!!」


「ヤハハ、バロー殿は言い訳を見探す時は舌も頭も回転が速いですからね」


ハリハリの冗談で広間に笑いが広がり、少し重くなっていた空気は食事時に相応しいものに変わったのだった。

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