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1-51 千葉家8

ちと長い回想です。

それから1時間少々でお茶の時間も済んで、悠の姿は真の部屋の中にあった。


「悠さん、手加減して下さいよ・・・」


「してなかったら貴様の頭は今頃無いぞ」


「・・・そうですね」


愚痴を吐きながらも納得してしまった真。あれは意識を失わないギリギリを見極めた絶妙な手加減ではあった。


「悠さん、もう明日で最後ですね・・・」


「ああ・・・」


真と悠はしばし今まで共に過ごした日々を思い出していた。


~~~~~~~~~~~~


「アンタが神崎先輩ですか?」


その生意気そうな年下の少年は開口一番そう言って来た。


「ああ、俺が神崎だが、君は?」


悠はその頃には既に年不相応な落ち着いた雰囲気を身に付けていて、年下の少年からの挑発的な言葉にもまるで動じなかった。しかし、目の前にいるその少年はそれが面白くなかったらしい。


「ふん・・・僕は千葉 真。神崎先輩の場所は僕が貰います。先に断っておきたくてね」


その頃の真は少々攻撃的な少年だった。名家に生まれた使命感と責任に押し潰されないように真なりに必死だったのだ。努めて強がり、自分は強いのだと思い込もうとしていた。


事実、真の成績は主席であり、その為今年度よりこの特練(特別修練過程)へ行く事が許されたのだ。


しかし、悠はその強がりに何ら反応を見せなかった。真実どうでもいいと思っていたからだ。


「そうか、頑張れよ千葉」


そう言ってその場を後にした。自分の宣戦布告が軽く見られて真は激発しかけたが、すぐにこの後組み手があるのを思い出して気持ちを静めた。


(全員が見てる前で叩きのめせば、その無表情も泣き顔に変わるかもしれませんね、神崎先輩)


そう思い、その場は黙って背中を睨みつけた。







「では、今年度主席の千葉から組み手相手を選んで貰おうか」


この頃も教官をしていた匠は今期特練入りした中の主席である真に声を掛けた。表向きは新入生の力量を見る為であるが、裏の目的は新入生に先輩の力を思い知らせる事である。


大体、ここで一年先輩であれば、他の過程の軍学生とは比較にならないほどの差を生んでしまう。それを目の当たりにし、多少強い程度で油断している新入生の鼻を折るのがこの行事の肝だった。


「ここに居るのが二年の先輩の席次五番までだ。好きな相手を選べ」


真の前には五人の先輩陣が並んでいる。毎年20人しか居ない特練の先輩陣でも五本の指に入る強さを持った強者達だ。次席の学生まではもう既に竜器使いとして覚醒もしている。しかし、真は首を横に振った。


「防人教官殿。自分は神崎 悠先輩とやらせて頂きたいのですが?」


「何?」


「この過程で現在一番であるらしい神崎先輩と組み手出来れば自分にはプラスになると思いまして。・・・もっとも、終わった後も神崎先輩が一番であるかは分かりませんが」


「おい、悠、貴様嘗められているぞ?俺に譲らんか、あいつ」


「何を言っている。千葉は俺をご指名だろう?引っこんでいろ、真田」


「俺はあいつの為に言ってやっているのだがなぁ」


真の挑発に獰猛な笑顔で笑い、悠に声を掛けたのは同年の雪人だ。席次は次席である。


「神崎、千葉はこう言っているがどうする?」


「自分は構いませんが、よろしいのですか?」


このよろしいのですかは、自分がやってもいいのかという意味と、どこまでやっていいのかという二重の問い掛けであった。


「構わん。あと、30%で無しだ」


「了解しました」


その言葉に悠は即答で返した。千葉には最初の承諾の部分しか意味が分からなかったが、匠の言葉を詳しく解説するとこうなる。つまり『30%の力で相手をしろ。着装は無しで』だ。つまり、もう既に悠は・・・


そのまま悠は皆の列から離れて練兵場の中心へと歩いて行った。真もそれを見て、匠に声を掛けた。


「では自分も行きます」


「ああ」


そして真も中心へと歩き出したが、ふと他の特練生が一言も発していないのに気付いて振り返ると・・・上級生全員が非常に気の毒そうな顔で真を見ていて思わず顔が引き攣った。ただ一人、雪人だけはにやにやと笑っていたが。


(な、なんだこの反応・・・いくら強いって言っても所詮学生レベルじゃないか。僕は竜器使いとしても覚醒してるんだ。そんなに簡単に負けるはずが無い!)


不吉な予感を断ち切り、勢いよく真は顔を前に戻した。目線の先の悠は自然体で真を待っている。


「神崎先輩、本気でお願いしますね。負けた後で本気じゃ無かったとか言われても困りますし」


後ろで誰かが噴き出す音が聞こえた気がしたが、気のせいと思って真は振り返らなかった。もし振り向いていたら、肩を震わせて笑いを堪える雪人が見れた事だろう。


「ああ、それはいらん心配だ。千葉こそ本気を出せよ?すぐ寝られては実力も測れん」


「・・・その言葉、後悔させてみせます!」


「では・・・はじめっ!!」


匠の言葉に高速で反応した真は悠へと一直線に駆け寄った。最初の一撃でこのムカつく先輩を殴り倒してやろうと思って。


対して、悠は半身で右手を少し引いただけの姿勢だった。迎え撃つつもりなのか、反応出来ていないのか。どちらにせよ、やはり噂が先行しているだけで大した強さは無いのだと真は判断した。


そして竜器使いとしての真の武器である手甲を引き絞り、既に身体能力向上に使っていた竜気プラーナを更に活性させて、最早常人には目にも止まらぬ速度を持って、悠を殴った。


殴った、と思った。


しかしその手には何の手ごたえも無かった。そして真が覚えているのもここまでだった。


意識を失い、糸の切れた人形の様に真は練兵場の床へと崩れ落ちた。始まってから2秒。それが悠と真の最初の対戦の結果だった。







「う・・・」


どのくらい時間が経ったのか、真が目を覚ました時、もう外は夜の帳が下りていた。昼から今までずっと意識を失っていたのだ。


しかし、真の意識では、自分は悠と戦っていた所までしか記憶が無い。状況からして負けたのだとは思うが、どうして負けたのか、見当も付かない。ただ、左の頬が熱く痛むので、そこを殴られたのだという事は分かる。


「気が付いたか?」


ふと、考え込んだ状況で周りが見えていなかった真に声が掛けられた。そこには本を片手に椅子に腰かける悠が静かに座っていた。


「あ、か、神崎、先輩・・・ここは・・・なぜ・・・」


一気にぼやけた頭に情報が詰め込まれて真は混乱した。


「ここは千葉、お前の部屋だ。何故俺が居るかといえば、俺が運んできたからだ。・・・ふむ、後遺症なども無さそうだな。では俺は帰る。明日も立ち上がれんからゆっくり休めよ」


言うだけ言うと、悠は本を閉じて立ち上がり、そのまま帰ろうとした。真は慌てて起き上がって引き留めようとして・・・ベットに手をついただけで体が崩れ落ちた。


「待って!・・・う、あ、あれ?」


「起き上がろうとしても無駄だ。頭のダメージはそう簡単には抜けん」


「ま、待って下さい!神崎先輩!僕の質問に答えて下さい!」


いつの間にか真の口調は丁寧語になっていた。元々はこれが素なのだ。


「なんだ、千葉?」


「僕は・・・どうやって負けたんですか?」


「俺のライトクロスだ。お前が顔を狙っている事は分かっていた。あとはタイミング良く振り抜くだけだ。そこそこ速かったから合わせやすかったが」


「そ、そんな・・・そこそこだなんて・・・」


同年代で真の動きについてこれる者など殆ど居なかった。それを初見で完璧に見切った上、カウンターを合わせられたのだから、完全な敗北と言ってよかった。


「動きはまぁまぁだ。後はもう少し冷静に戦況を見極める事だな。それと、最後に言っておく」


「・・・え?」


呆然としつつ真は悠の言葉を素直に聞いていた。強がっていた心は既に折られていた。


「戦場で寝るな。痛かろうが辛かろうが立って、そして戦え。今の貴様はそれすら出来ておらん。自分が殴られる事を想像出来ていないから一撃で意識を奪われるのだ。相手を常に自分より強いと思って戦いに臨め。殴られ、蹴られ、地を這わされると思って攻撃しろ。そうすれば認識外の攻撃だからといってそのように無様に寝っ転がる事は無い。じゃあな」


それだけ一息に言い切って、悠は部屋を後にした。残された真は呆然としながらも今悠に言われた事を何度も反芻していた。


(世の中に、僕より二歳年上なだけであんなに強い人が居るんだ・・・なんなんだ、僕は。あんな大口を叩いておいて、一撃で気絶して、しかも家まで運んで貰って。・・・みっともない、みっともない!)


真は力の入らない手を握って何度も自分の膝に叩きつけた。昼の自分をどうにか出来るのなら殴り倒してやりたかった。だが、今の自分は誰にも勝てそうに無い気がした。まるで、世界で一番弱い生き物になったような気分が真を覆い尽くしていた。

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