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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-62 事後5

その後閑散としたギルドで手早く正装に着替えた悠は予定通り王宮へと向かった。途中ですれ違った者達は悠の威厳溢れる佇まいに「うちの国にあんな将軍様はいらっしゃったかな?」と疑問符を浮かべたが、とにかく名のある人物であろうという点では全く疑いを持たずに道の端に寄って畏まった。


「別に威圧するつもりでは無いのだが……」


《一般人からしたら怖がるのも無理ないわよ。諦めましょう》


そもそも背に羽織るマントにはフェルゼニアス家の家紋が隠す事無く翻っているのだ。もし他国の家紋についてバロー程度に知識がある者なら他国の重鎮と目される人物が単身ノースハイアの街を歩いている事に疑問を持った事であろう。たまに近くで悠を見た兵士達も畏まりながらも首を捻っていた。しかし、兵士達はどうも忙しいらしく、慌てた様子でその場から立ち去っていく。


そろそろ誰かが声を掛けてきてもおかしくない状況になる寸前に悠は何とか王宮の門に辿り着いた。どう見ても軍の高官にしか見えない悠に門番達に緊張が走る。が、悠は普段と変わらぬ口調で門番に話しかけた。


「失礼する。自分は冒険者の悠と申す者だが、ラグエル王にお取次ぎを願いたい」


「冒険者? ……ユウ!? ま、まさか、Ⅸ(ナインス)の冒険者の『戦神』ユウ様でいらっしゃいますか!?」


「過分な名であると思うが、その様に呼ぶ者もおります」


「お、お会い出来て光栄です!! い、一応でございますが、冒険者証のご提示を願えませんでしょうか?」


「これでよろしいか?」


ガチガチに緊張する門番に悠は特別製の冒険者証を提示して見せた。


「おおっ!! これはまさしく……少々お待ち下さい、王よりユウ様がいらっしゃった時はお通しする様に触れが出されておりますが、準備もございますゆえ」


「結構だ、待たせて頂こう」


「ありがとうございます。後ほどご案内を――」




「ユウ様~~~~~!!!」




兵士の丁寧な説明をぶった切って頭上から女性の声が悠に向かって放たれた。思わず振り返った兵士は自分の見た物に絶句し、顔から音を立てて血の気が引いていく様であった。


そこには自室の窓から服を繋ぎ合わせたと思われる手製のロープにぶら下がり軟禁からの脱出を図るシャルティエルの姿があったからだ。しかし当のシャルティエルは悠と再び会えた事が嬉しいのか、満面の笑みで手を振っている。


しかしこんな脱出を容易に成功させるほどシャルティエルの腕力は強くない。そして致命的な事に衣服同士の結び目も弱く、手を振った事でバランスを崩したシャルティエルの体が揺れた拍子にその一部がズルズルと解け始めた。


「いかん、入るぞ」


それを見た悠の行動はまさに電光石火と評するに値する速度でその場から掻き消える。瞬時に最高速まで速度を上げた悠が小手を操って投げナイフを取り出したその時、シャルティエルの体を支えていた即席のロープがその重量に耐えかねて解けてしまった。


「キャアアアアアアア!!!」


悠は全力で投げナイフを投擲し、それは寸分違わずシャルティエルの握るロープを貫通して石壁に連続して突き立った。


「ひっ!?」


一瞬の浮遊感の後の急制動でシャルティエルの体が大きく揺れるが、何とかその場に留める事に成功して遠くで見ていた兵士達はホッと胸を撫で下ろす。


しかし、シャルティエルの持っている衣服は戦闘用の丈夫な物ではない。それは華美で装飾が過多の弱い布でしかなく、急激に体重が掛けられて耐えられたのは精々数秒が限度であった。


文字通り、衣を裂く音と共にナイフの刺さった地点からロープは引き千切れ、シャルティエルは再び空中に投げ出される。


もはや悲鳴も上げられないシャルティエルは今度こそ絶体絶命かと思われたが、悠にとってはその数秒があれば事足りたのだった。


落下地点まで辿り着いた悠はそのまま速度を緩めず、容赦なく壁面を穿ちながら壁を登っていき、まだ勢いが最高潮に達する前のシャルティエルを受け止める為に壁から跳びだした。


片手でシャルティエルを抱き止める事に成功した悠だったが、その身はシャルティエルとともに宙に投げ出されている。このまま落下しては悠は無事だとしてもシャルティエルは激しい衝撃に見舞われるであろう。壁から離れている分、アリーシアの時よりも状況としては悪いかもしれない。


即座にレイラが思考を加速して悠に問い掛けた。


(どうする、ユウ? あんまり強引な手段を使うとその無鉄砲なお姫様が怪我するわよ? それとも怪我は『再生リジェネレーション』で治す?)


(自業自得だとは思うが、恐ろしい目に遭った上に痛い目に遭わせるのも気が引けるな。それに、『再生』はみだりに見せぬ様にと釘を刺されている事ゆえ……レイラ、物質体マテリアル制御でどうにかなるか?)


(厳しいわね。50メートルの高度から2人分の重量で落下したらユウはともかく、そのお姫様がもたないわよ。鍛えてもいないその体じゃ、何本か骨が折れるわね。内臓も潰れるかも)


『竜騎士』ではない状態ではレイラも十全にその能力を発揮出来ない。かと言って『竜騎士』は衆人環視の中で見せられる物ではない。


(やむを得んな、レイラ、至近に爆裂型の『竜砲』を発動、それに合わせて結界を頼む。爆風で壁に寄るぞ)


(了解、しっかり掴んでてね!)


悠もハリハリに習って幾つかの魔法を習得しているが、それは総じて竜気プラーナを用いる為に威力が高過ぎるのだ。『火竜クリムゾンスピア』では体勢の崩れた今、下手に放てば街に着弾する危険性があった。だからこそ威力や性質を任意に変えられる『竜砲』を悠は選択し、レイラもそれを了承したのだった。


悠は空いた片手を斜め下に突き出して『竜砲』を発動させる。それは光る球状で、悠の体から5メートルほど下へと射出された。


(結界展開!)


更に連続で発動させた結界が悠達を覆うのとその光球が弾けるのはほぼ同時であった。


威力を絞ったとしても人間に直撃すれば満身創痍は免れないであろう『竜砲』の衝撃を受けて悠達の体は結界ごと壁に向かって吹き飛ばされる。


(結界解除!)


結界を展開したまま壁に当たればまた跳ね返ってしまうので、悠は己の肉をクッションに、そしてレイラの物質体制御を最大限にしてその衝撃を緩和した。それでも悠の体がぶつかった衝撃で石の壁にヒビが入るが、シャルティエルへの衝撃緩和が優先なので建物への被害は甘んじて貰うしかない。


シャルティエルを前に抱えている関係で悠は壁に背中からしか当たる事が出来なかった。それはアリーシアの時の様に手で掴まる事は出来ないという事を意味している。そのため悠は靴の踵を壁に当て、激しく擦過させ速度を殺し、石と龍鉄の靴が擦れ合い壁に一直線の火花が刻まれていく。


幾多の努力の甲斐あって、悠とシャルティエルの落下速度は最初の半分程度まで落とす事が出来、残り5メートルほどの地点で悠は背後の壁を蹴って地面に着地した。当然、レイラの物質体制御をフル稼働させての事だ。


地面についた悠の摩擦で焼けた靴が雪に当たって蒸気を噴き上げたが、何とかシャルティエルは無傷といっていい状態で地面に降り立つ事が出来たのだった。


「……何とか無事か?」


《どれどれ……うん、特に怪我はしてないわ。もう目を覚ますわよ》


悠の腕の中で気絶していたシャルティエルはレイラの言葉通り、その数秒後に目を開いた。


「……ん……」


しばしぼんやりとした目をしていたシャルティエルだったが、その目で悠を認識するとバッと上体を起こして悠の首に手を回して抱き付いた。


「ユウ様!? 助けて頂いてありがとうございますわぁ!!!」


「……姫、心得もなくこの様な危険な真似は慎んで下さい。自分が居たからいい様なものを、一歩間違えば怪我では済まない所です」


「ユウ様にお会い出来るのでしたら本望ですわ!!」


(なんでこう面倒臭い娘ばっかりなのかしらね……)


悠が諭してもシャルティエルはうっとりした目で悠の首筋に顔を擦り付けるのに夢中になっていた。なかなかどうして大した度胸である。


とりあえずシャルティエルを下ろそうとした悠だったが、シャルティエルの靴は今の落下でどこかに失われており、しかも地面は雪が積もっているので降ろす事も出来ない。仕方なく悠はこのままシャルティエルを運ぶ事に決めた。


「姫、お部屋までお運び致しますので道を教えて下さいますか?」


「姫なんて他人行儀な呼び方はおやめになって。シャルティと呼んで下さいまし……」


潤んだ目で見つめて来るシャルティエルの説得は困難と見た悠は一歩だけ譲る事にした。ラグエルを待たせる訳にはいかないし、やらねばならない仕事はまだまだ残っているのだ。


「……シャルティ様、案内を願います」


「……ん~、まぁいいですわ。行きましょう、ユウ様♪」


今命の危険に晒された事などまるで忘れてしまったかと思える様な幸せそうな笑みでシャルティエルはもう一度悠に縋り付く手に力を込めたのだった。

軟禁状態のシャルティエルでしたが、密かに脱走を企てていました。もう価値を見出せなくなったドレスを破り、繋ぎ、機を窺っていたのですが、街の一角から上がる火柱を見て悠がやって来たと確信し脱走を試みたというのが裏筋です。


とはいえ、昼間に脱走など企てても速攻で見つかって終わりなんですが、こと恋愛に関してはシャルティエルの理性のリミッターは容易に弾け跳ぶ様です。


ついでに、兵士が街で慌しくしているのも悠の魔法が原因です。街のどこからでも見えるほどの魔法が連射されれば、そりゃ一般市民は通報します。

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