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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-61 事後4

それを見ていたレイシェンとキャスリンの口から悲鳴が上がる。


「キャッ!? や、やり過ぎだわ!! 何でユウ様はぼんやり突っ立っているの!?」


「ああ、あれじゃもう避けられないよ!? ひー!!!」


他の冒険者達も数瞬後に訪れるであろう破局に思わず目を背けた。……が、いつまで経っても悠の悲鳴が聞こえて来ない事を訝しみそっと目を開けると、そこには見た事も無い光景が出現していた。


「…………え? あれ? お、俺の目がおかしくなったのかな?」


「……安心しろ、俺も多分同じ物が見えてる……」


「魔法を……掴んで、る? なんで? 反属性防御?」


「馬鹿、反属性防御なんてのは、ちょこっとだけダメージがマシになるだけの技術よ!? 万一水属性が得意だとしても、あんな火力の魔法を掴むなんて出来っこないわ!!!」


周囲で見ている冒険者ですら全く理解が及んでいないが、悠はいつも通りに飛んで来た魔法を物質体マテリアル干渉により掴み取っていた。それはさながら鳥を手掴みした様に悠の手の中でジタバタと暴れている。


「多少凝った形をした『火球ファイヤーボール』といった所だな。威力は恭介の方が上だが。散々もったいぶっておいてこれとは……」


詰まらなそうに『極炎鳥』を掴む悠を見て最も驚いていたのは勿論それを放ったマーヴィンとオリビアである。


「わ……我らの最強魔法が……手掴み……」


「う、嘘……これは夢、夢に違いないわ……!」


「現実逃避に忙しい様だが、返すぞ」


「「……え?」」


悠は軽く振り被り、手にした『極炎鳥』を2人の後方の地面に向かって投擲した。単純な力によって投げられたそれは魔法の効果として放たれた時の数倍の速度で地面を穿ち、爆発音と共に周囲に炎の欠片をばら撒いた。


「ひぇえええええええっ!?」


「キャアアアアアアアッ!?」


その火の粉は当然の如く2人にも降りかかり、衣服の所々に焼け焦げを作る。マーヴィンとオリビアは慌てて地面を転がり、残っていた雪によって消火を果たした。


「さて、散々待たされたが次は俺の番だな。火属性魔法の礼はやはり火属性魔法で応えねばなるまい」


悠は真っ直ぐに2人に手を向けて照準し……思い直して手を頭上に掲げて解き放つ。


「『火竜クリムゾンスピア』」


言葉と共に魔法陣が構築、魔力充填が成され、悠の手から太く赤い光線がノースハイアの冬を貫く。途中でぶつかった雪の粒が瞬時に蒸発して儚い旋律を響かせた。


雲にまで到達するのではないかと思われる悠の魔法は単発では終わらない。


「『火竜の槍』。……『火竜の槍』。……『火竜の槍』」


1秒以内の間隔で次々と『火竜の槍』が天を穿つ。その現実離れした光景に誰一人言葉を発する者は居なかった。


撃ち終えた悠は雪と煤に塗れたマーヴィンとオリビアに視線を戻す。その動作だけで2人は死人の手で心臓を掴まれたかのような錯覚に陥ってしまった。


マーヴィンの口の端から涎が垂れ、目から涙がこぼれる。オリビアのローブも股間が変色して湯気を上げていた。そして全身をとめどない震えが支配している。


「あ、あ、あああああ……」


「あひ、ひ、ひ、ひぅ……」


既に反抗する意思など欠片も残っていない2人に悠は無表情に手を掲げる。


「ではさらばだ。短い付き合いだったな……」


悠の手に光が灯った瞬間、その間に割って入る人影があった。


「お願いです!! 手を下ろして下さい!!!」


「そ、それ以上はダメですぅ!!!」


そう言って立ちはだかったのはレイシェンとキャスリンの2人であった。2人とも見事なまでに膝が震えているが、それでもなんとか崩れ落ちないようにしっかりと大地に立っている。


「……レイシェン、一応聞くが何故止める? マーヴィンとオリビアは明らかに俺に対して命を奪うつもりで魔法を放った。俺が反撃をしないで済ます理由が無いが?」


「……もう、勘弁してあげて下さい。大勢の前でここまで恥を掻かされれば2人はもう死んだも同然です。マーヴィンギルド長はオリビア様のこれまでの行いも相まって責任を追及され解任されるでしょう。オリビア様も良くて降格、悪ければ資格剥奪の上に投獄されるかもしれません。ですからこれで許して頂けませんか?」


「ふむ……キャスリン、君はどう思う? 何故危険を冒してまで俺の前に立った?」


「分かりませぇん!!!」


べそをかきながらキャスリンは声を張り上げた。


「……分からないのに危険を冒したのか?」


「だ、だって……レイシーってば頭良さそうに見えて割と後先考えずに行動するし、今だって突然、飛び出しちゃうし、私が助けてあげ、な、きゃ……う、うえ~~~ん!」


「キャシー……」


泣き出したキャスリンをレイシェンがそっと抱き寄せた。そのままキャスリンの頭を撫でながら、レイシェンは悠に視線を戻す。


「ユウ様、これ以上なさるのなら遺憾ですがギルド本部に連絡してあなたの資格剥奪を要請します。それがギルド職員として私がすべき事ですから」


そう言い切るレイシェンはもう震えてはおらず、視線も悠を射抜くかの如く強かった。


「……君は素晴らしいギルド職員だ。が、もう少し魔法を勉強した方がいいな」


悠はそう言って手の中の光をポイと横に放った。レイシェンは一瞬身構えたが、それは悠の横でフワフワと漂うだけだった。


「……あっ!? まさかその光は……『光源ライト』!?」


「『火竜の槍』を見せたのはただの脅しだ。あんな物を水平射撃してはギルドの敷地を貫通して街に被害が出てしまうからな。俺は大量殺人と器物損壊で投獄されるつもりは無いぞ?」


「……はぁ……あなたという人は……最初からそのつもりだったのですね?」


「そうでもない。君達とその老体の覚悟が無ければもう少々お灸を据えたかもしれんよ」


「え?」


悠の言葉にレイシェンが振り向くと、そこにはオリビアに覆い被さって気絶するマーヴィンの姿があった。


「咄嗟に庇おうとしたのだろう。マーヴィンのオリビアに掛ける愛情だけは本物の様だからこれまでにさせて貰った。それに、君達の様な者が居ればノースハイアのギルドもそう堕落はせんだろう。マーヴィンの事をどこかに訴えるつもりもない。ただマーヴィンに伝えてくれ。先ほど言った通り、指名手配でも資格剥奪の申請でも好きにしろ。ただし、道を踏み外して暴走し、周囲を巻き込むならば次はギルド長であろうとも容赦せんとな」


悠の言葉に嘘が無い事を感じ取り、レイシェンはごくりと唾を飲み下して答えた。


「か、必ず伝えます」


「ありがとう、それと……」


悠は今近くに居る者達とは別の第三者である冒険者達に体の向きを変え、つかつかと歩み寄っていった。咄嗟の事で冒険者達は動けず、蛇に睨まれた蛙の様にその場に釘付けになる。そして悠は彼らの近くまで行くとおもむろに怒声を放った。


「貴様らは多少なりとも戦う力を持った冒険者であろうが!! それが戦闘員でも無い女に状況を任せて高見の見物とはどういう了見だ!? 惰眠を貪っている暇があるなら働かんか!!!」


「「「ひぃっ!?」」」


最初から最後まで見ているだけだった冒険者に悠は怠惰の気配を感じ取っていた。冬のノースハイアは依頼が少ないせいで、はっきり言えば弛んでいるのだ。今後の世界情勢を考えれば彼らが生きる為には安穏としたその日暮らしを改めなければならない。


「こんな場所で呆けていないでさっさと依頼を消化しろ。依頼にあぶれたならミーノスへ行け。あそこは冒険者の質も高いし依頼も多い。分かったら立て。そして動け。早く!」


「「「は、はいいっ!!!」」」


バタバタと慌しく冒険者達が立ち去っていくのを確認せずに悠は再びレイシェンに声を掛けた。


「色々済まなかったな。これでしばらくはこのギルドにも活気が出るだろう。残念ながらキャスリンと約束した依頼消化の件は果たせんが、代わりの人員を確保したという事で許して欲しい」


「ぐすん…………もしかしてユウ様、もうここには来ないつもりですかぁ?」


涙を拭いて尋ねて来たキャスリンに悠は頷いた。


「思った以上に迷惑を掛けてしまったからな。俺が居ては皆が緊張するだろう。もう会う事もないかもしれんが、達者でな」


非常にあっさりと別れを告げ、悠は踵を返した。そしてそのまま振り返らずに歩き去っていく。


その背にキャスリンが飛び込んだ。


「ダメです!! そんなのダメですよぅ!!」


「そうですよ、ユウ様。一人で悪役になるなんて……私もキャシーもそういうの凄く嫌いです」


レイシェンも追いついてきて悠の袖を掴んだ。その手には精一杯の力が込められている。


「……やはり誰にも言わん方が良かったか」


「もう聞いちゃいましたモン!! それに、代わりの人間で済ませられるほど、私との約束は安くないんですからねっ!!」


「そういう事です。これに懲りず、是非当ギルドをご利用頂きますようお待ち致しております……なんてね」


力任せに引き剥がす事も出来ない悠は空いている方の手を上に上げた。


「……分かった、降参だ。ほとぼりが冷めたらまた必ず来るから解放してくれ」


キャスリンとレイシェンはしてやったりという顔で笑い合い、悠を解放した。そして今度こそ悠は止まる事無く立ち去っていく。


「ではな。……それと、俺はあまり尊称で呼ばれる事を好まない。次からは敬称略で頼む」


「「はい、またのお越しを!! ユウさん!!」」


その声に対し、悠はもう一度手を上げる事で答えたのだった。

強面で脅し、爽やかに締める、と。少し某童話へのオマージュが入っています。

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