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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-60 事後3

「とにかく双方引け!! 特にユウとやら、余所のギルドで勝手は許さんぞ!! 資格を剥奪されたいか!?」


何故か悠が悪いと決めつけているマーヴィンに見かねてレイシェンが口を挟んだ。


「お待ち下さいマーヴィン様、そちらのユウ様はまだ何もしておりません! 誤解がある様ですから先に事情を伺うのが筋では……」


「ただの職員は黙っておれ!! 普通に戦ってオリビアが負けるはずがないんじゃ!! どうせコイツが卑怯な事をしたに違いないわい!!」


「……」


「酷い……レイシーは間違った事を言ってないのに……」


今の物言いには相当数納得行かない者が居たようだが、相手がギルド長という事でそれ以上の反論は無く、後ろ盾を得たオリビアはニヤリと口の端を吊り上げた。


最早味方のいない悠をどうしてやろうかと心の中で舌なめずりするオリビアだったが、ノースハイアの者達はあまりに悠を知らなさ過ぎた。


「資格の剥奪か……」


「フフン、せっかくなったⅨ(ナインス)ですものねぇ……どうせ私の時と同じように卑怯な手を使ったんでしょうけど?」


「全く、ギルド本部も何をしておるのやら……こんな男をⅨにするなど、所詮は経験浅き馬鹿共――」


注視していたはずの誰もが次の瞬間に起こった事を理解出来なかった。悠の姿が一陣の風を残してその場から掻き消えたかと思えば、いつの間にか奥に居たはずのマーヴィンの顔面を掴み、中に吊り上げて居たのだ。


「ぐああっ!?」


「お、お師匠!?」


「馬鹿は貴様だ、くたばり損ないが。資格剥奪でも指名手配でも勝手にしろ。いい年をして弟子一人まともに育てられん己自身を恥ずかしいとは思わんのか?」


誰も悠を制止出来ない中、最初に動いたのはオリビアだった。


「お師匠を離せ!!」


接近しながら魔法を紡いだオリビアの手から『ウィンドアロー』が放たれたが、悠は素早く小手を操り、盾を展開して『風の矢』を吹き散らした。


「近くの人間に当てん程度の腕はあるらしいな。……だが遅過ぎる。お前が魔法を放つまでの間で俺は両手に余る数だけこの老害を殺せたぞ」


「くっ!!」


そのやり取りのあと、ようやくレイシェンが我に返り、慌てて悠を止めに入った。


「…………はっ!? い、いけませんユウ様!! それ以上ギルド長に危害を加えたら本当に指名手配になってしまいます!!」


「ちょ、やめなよレイシー!!」


隣でキャスリンがレイシェンを止めようと腕を引っ張ったが、レイシェンは震えながらも悠から視線を逸らさずにジッと見つめ続けた。


「……ならば別の方法を取るか。ここにも鍛練場くらいあるだろう?」


「それは……ありますけど、何をするつもりですか?」


「オリビアは俺との勝負を望んだ。ならば叶えてやろうではないか、師匠共々な。キャスリン、鍛練場はどこだ?」


「あ、あいさー!! こちらですユウ様!!」


名前を呼ばれたキャスリンは一瞬の逡巡もなく転がり出ると、鍛練場の扉を開け放った。


「助かる。……オリビア、師匠の身を案じる気持ちがあるなら付いて来い。相手をしてやろう」


「ぐぅぅッ!?」


「お師匠!? おのれ、どこまでも卑怯な……!」


歯軋りするオリビアに反論せず、悠は片手にマーヴィンを掴んだまま鍛練場へと消えていった。オリビアは目に憎悪を湛えながら、急いで悠の後を追った。


当事者達が居なくなったギルド内の緊張がようやく途切れ、息を潜めていた者達が大きく息を吐いた。


「……ぶはぁ!! と、とばっちりでブッ殺されるかと思ったぜ……」


「お、俺、若干チビったかも……」


「……おい、誰かギルド長を助けに行かなくていいのか? あのままじゃギルド長……殺されるんじゃ……」


「バカキャシー!! なんですんなり案内しちゃうのよ!!」


「だ、だってぇ……怖かったんだモン……」


「もう!!」


怖気づく冒険者や同僚に先んじてレイシェンは鍛練場へと急いだ。後ろでキャスリンが何か喚いているが、それよりも今は悠を止める事が先決であると悟ったからだ。


結局レイシェンの事が心配でキャスリンも覚悟を決めて鍛練場へと消え、残された者達も怖い物見たさでゾロゾロと鍛練場へと続いたのだった。




雪の残る鍛練場の広さは大体ミーノスと同じくらいだと見積もった悠はアイアンクローで固定したままのマーヴィンを引き摺り、一番奥の壁面まで来てから解放した。


「ぐおっ!? お、おのれぇえええっ!!」


「流石元冒険者、老いたとてまぁまぁ頑丈だな」


「貴様……生きてこのギルドから出られると思うなよ!!」


「師弟揃ってキャンキャン吠えるな。弱い者ほどよく吠えると言うぞ?」


あくまで冷静な悠に2人の目に最大限の殺気が宿る。が、悠はそれに頓着せずに言い放った。


「さて、それでは始めるか。鍛練場で手合わせという方式ならば「多少の事故」が起こったとしても仕方あるまいよ。2対1、しかもそれが『殲滅魔女』オリビアとその師マーヴィンギルド長相手となれば少々俺が熱くなってやり過ぎたとしても世間はそういう事もあるかもしれんと思うのではないかな?」


「な、舐めおって、この若僧が!! 我ら2人を同時に相手をするだと!?」


「お師匠、手加減無用です!! この男の言う通り、ここなら殺してしまっても鍛練中の事故で済ませられます。我ら師弟を侮った報いをくれてやりましょう!!」


「……良かろう、すぐに後悔させてくれようぞ!!」


「御託はいい、俺は忙しいのだ。この後王宮にも行かねばならんし、補給物資も持っていかねばならない。貴様らが誇り、驕っていたその力がどれだけ矮小であったかを短い時間で教えてやる」


悠は人差し指を立てると、ちょいちょいと自分の方に折り曲げて2人を誘った。その余裕の態度に2人は更に頭に血を上らせる。


「オリビア!! 我らの最強魔法で仕掛けるぞ!!!」


「はいお師匠!!!」


マーヴィンは何かしらのハンドサインをオリビアに送りながら、自身は素早く魔法を構築した。


「『濃霧フォグ』!!」


マーヴィンの手から乳白色の濃い霧が発生し、2人の姿を包み隠す。レイラの索敵に頼らずともこの程度の霧などで悠が相手を見失う事は無いが、悠はその霧からバックステップで離れ、2人が何をしようとしているのかを見守った。


《待ってないでさっさと叩きのめしちゃえば?》


「完膚なきまでに自尊心をへし折らんと奴らは納得出来んのだろう。発動まで待つさ」


《お優しい事で》


そのまま悠は待った。


10秒。


20秒……。


30秒…………。


《……まだぁ?》


「……まだの様だな。あれほど時間が掛かっては戦闘の役には立つまいに。いや、それだけ射程が長いのか?」


龍哭ドラゴンズシャウトでもあんなに時間は掛からんぞ? いい加減、待っている方が間抜けに思えてくる》


《見た感じ、後20秒ほどで完成しそうよ。ゆっくりのお陰で魔法言語マギコードの解析も楽だわ。ここまで来たらちゃんと待ちましょうか》


その間悠達は雑談しつつ魔法の完成を待った。


「先ほどのマーヴィンは魔法名しか詠唱していなかったな」


《魔法陣を書く速さは中々ね。魔力の充填も普通の人よりずっと早いわ。詠唱に関しては魔法名にイメージを込めているんだと思う。……まぁ、バレバレなのは変わらないし、魔法陣を書いた時点で発動しないならそもそも意味なんて無いんだけど》


「それがあの師弟がのさばっていた強さの秘訣か。一般に広まっておらん所を見ると秘匿していたか。高名な割にケチ臭い事だな。後数年もすればミーノスでは無詠唱が広まって無意味な技術となるだろうに……」


ハリハリは無詠唱の技術を学校に伝えている。つまり、研鑽さえ積めばこの2人の誇ってきたアドバンテージなど一瞬にして過去の物となってしまうのだ。それは恐らく非常に残酷な事だろうが、そんな事は悠の知った事では無い。


そんな事を話している内に2人の魔法はようやく完成したらしい。


「ククククク……貴様が我らの姿を見失っている内に、貴様の骨身を焼き尽くす魔法は完成したぞ!!」


「さようなら、「そこそこ強かった」冒険者さん? 燃え尽きて死ね!!!」


「「『極炎鳥乱舞フェニックスランペイジ』!!!」」


声を揃えて2人の魔法が『連弾デュエット』によって放たれた。それは鳥に似た形をした炎の塊であり、不規則な動きを繰り返しながら悠へと迫っていった。

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