1-50 千葉家7
亜梨紗達が広間に戻ると、悠と滉、そして睦月がお茶をしつつ歓談していた。
「随分楽しそうじゃないか」
「あら、お姉様、ごゆっくりでしたわね?」
「ああ、女三人寄ればというやつだ。それより滉、ちょっと来てくれ」
「なんですの?」
そう言って滉を部屋の隅に引っ張っていく亜梨紗。他の人間は黙ってそれを見守っている。皆事情を知っているからであろう。
そして亜梨紗は滉の耳に口を近づけると、宣戦布告した。
「もうお前を嘗めたりはせん。私は全力で戦う。そして悠さんは渡さん」
亜梨紗の言葉に少しだけ驚きながら、滉はにっこりと笑って答えた。
「私はいつでも全力ですわ。勿論負けるつもりはございません。叩き潰して差し上げます」
「上等だ、やってみろ」
「ええ、精々枕を涙で濡らすといいですわ」
見つめ合う両者の視線は火花が飛びそうなほどに熱く交わされていた。
「ああ、それとは別に、一言ある」
「?」
そう言ってすすっと更に滉に近寄った亜梨紗は、素早く滉をヘッドロックし、頭頂に尖らせた拳をぐりぐりと押しつけた。
「あいたっ!!痛いですわお姉様っ!!!」
「私でもじっくり見た事の無い悠さんを裸を拝みよって!それはやはり許せん!!」
「小さい!器が小さいですわお姉様!!あいたたた!!!」
激痛に半泣きになっていた滉だったが、ふと頭の片隅に今の亜梨紗の言葉への疑問が沸き上がった。
「・・・ん?、お姉様、いつ悠様のお体をご覧になりましたの?」
その事を滉が問い質すと、ぴたりと二人の動きが止まった。
「あ、いや、・・・昔千葉家で悠さんがお風呂に入っている時に偶然かち合って見たのと、軍で訓練後にシャワーを浴びようとした時に、ちょっとだけ・・・」
「ず、ずるいですわお姉様!回数ではお姉様の方が多いじゃありませんの!!!」
「わ、私のは事故だ!!それに時間でみても滉の方がずっと一杯見ただろう!!私だって悠さんの背中をお流しして差し上げたいのだぞ!!!」
「今と違う、青い肉体の悠様・・・そんな値千金な物を見ておいて誰にも言わないなんて、お姉様のド淫乱!」
「誰がド淫乱だ!!」
ヘッドロックされたまま亜梨紗の胸を鷲掴みにして離さない滉と、ヘッドロックを緩めない亜梨紗。嫁入り前の年頃の娘が惚れている相手に見せる姿では決して無かったが、当然悠はそんなものは視界の隅に追いやり燕と蓮とでお茶談義をしていた。
「うむ、俺はお茶は薄めで温度が高めが好きなのだが、天城はどうだ?」
「あたしも薄めが好きですけど、猫舌なので温度はぬるめが好きですね~。あ、一口試してもいいですか?
」
「ああ、構わんぞ」
「ではでは・・・ごく。・・・ふぅぅぅううう。あ、熱いお茶もたまにはいいものですね・・・のぼせちゃいそうですぅ」
「悠さん、私は濃いめが好きなんですけど、温度は高い方が好きなので、私にも一口頂けますか?」
「ああ、いいぞ」
「では・・・はふぅ、お、温度は丁度いいですね。どんどん飲んでしまいそう・・・」
ドサクサに紛れて燕と蓮が悠との間接キスを楽しんでいた。更に、
「まあ、悠さんのお茶が無くなってしまいますわね。ささ、もう一杯どうぞ」
と、睦月がお茶を足して、
「あら?少しお好みより熱いですわね。ふーっ、ふーっ・・・はい、悠さん」
などと甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
遅まきながらそれに気付いた二人は、力は緩めずにそちらに戻ろうとした。
「お、お姉様!私達も争っている場合ではありませんわ!悠様印の玉露も凌ぐ逸品がっ!」
「あ、滉のせいだぞ!!母上までそんな美味しい所を・・・」
そこに気絶から立ち直った真がやって来たが、皆に声を掛ける前に、目の前で着衣を乱しながら妹を締め上げる姉と姉の胸を握り潰さんとする妹を見て嘆息した。
「お前達はもう少し慎みを持ってくれ・・・」
「お兄様は随分『慎み深い』ようですものね」
兄の股間を見ながらいう滉に、流石に男の沽券に関わると熱くなった真が、つい言ってはならない事を言ってしまった。
「馬鹿!悠さんと比べるな!俺は標準だ!!大体、悠さんのがデカす」
ガシッと音がして、真の後頭部が何かに万力の如き力で掴まれた。
「面白い話をしているな、真」
そこにはいつの間にか背後にいた悠が真の頭を鷲掴みにしている。真はいつ頭に血が上って失言した事を悟ったが、後の祭りである。
「あ、いや、そ、そんなに面白い話ではありませんよ。ハハッ!」
最後の甲高い笑いが涙を誘う真だった。
「ゆ、悠さん!!そこさっきぶつけた所でっ!!いだだだだだだだだ!!!」
悠の握力は強かったとだけ記しておく。
真が一番ワリを食ってますね。