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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-64 合流7

「ノースハイアは変わった。そしてこれからも変わっていく最中にある。ゆえに俺が手や口を出す段階は過ぎたと判断する」


悠の言葉にラグエルとミルマイズの緊張が僅かに綻んだ。覚悟は決めていても、やはりそれを告げられる瞬間は2人に多大な緊張を強いていたのだ。


「だからと言って慢心すれば、たとえ俺が手を下さずともノースハイアはいずれ潰えるだろう。日々精進を怠らぬ事だ」


「貴様に言われるまでもないわ。小僧共に率いられるミーノスや宗教狂いの狂人を戴くアライアットなどに遅れをとるつもりは無い!」


「今は小僧でも彼らはやがて老練していく。墓の下で歯噛みしたくないのなら、精々今の内に後進の育成に力を注ぐのだな」


火花を散らす悠とラグエルだったが、そこに鋭さはあっても暴発の気配は無かった。悠が変わっていないのなら、これはラグエルの変化であろう。


「さて、そろそろ俺の事情も語らねばならんな。しばし耳を傾けて貰おうか」


悠の言葉にラグエルとミルマイズは静聴の姿勢をとった。相変わらずシャルティエルはうっとりと悠に体を預けていて聞いているのかいないのか定かではないが、特に排除する理由もないのでそのままだ。


「長い話になる。まずは何故俺がここに来たのかという所から始めようか・・・」


3ヶ月の時を経て、ラグエルはようやく全ての事情を知る事になったのだった。




「・・・」


ラグエルは悠から得た情報を自分の中で理解出来る様に噛み砕いていた。この期に及んで悠が嘘を付いているとは思ってはいないが、それでも齎された情報は俄かには理解に苦しむレベルであり、咀嚼するのに時間を要したのだ。悠もそれを分かっているから急かす事はせず、ラグエルからの反応をじっと待っている。


「・・・あの女に余は利用されていたのか・・・益々愚かだった昔の自分自身を絞め殺してやりたくなったわ・・・」


やがてラグエルから湧き上がって来たのは憤怒の感情だった。賢しいつもりで利用していたつもりが全て相手の手の平の上であった事がラグエルの自尊心を深く傷付けていた。


ラグエルとて最初は効果に反して多量の魔力マナ以外の代償を必要としない召喚に疑念を抱いていたのだが、それが常態化してくるといつしか疑念自体を忘れ去ってしまったのだ。


「カンザキ様は異世界からやって来た救世の騎士様だったのですね・・・素敵・・・」


シャルティエルの乙女フィルターは全肯定モードに固定されていて、悠が何を言ってもロマンの燃料になるらしい。ミルマイズは特に自分の意見を述べずに会話の行く末を見守っていた。


「俺の目下の一番の関心事はその女にある。どの様な意図を持って世界に悪意の種をバラ撒いているのかを突き止め、そして相容れぬならば排除せねばならない。彼の者が居る限り、世界に安寧は訪れぬだろう。ノースハイアの召喚、ミーノスの『虐殺人形キリングドール』に『虐殺獣キリングビースト』、大量の神鋼鉄オリハルコンの供与、ドラゴンの『変化メタモルフォーゼ』・・・恐らく他の種族に対しても同様に接触を図っているはずだ。そのどれもが世界の均衡を崩し得る力があり、皆その女に疑念を抱きながらも力に酔って冷静な判断力を失ってしまっている。このままでは近い内に世界は未曾有の戦乱に巻き込まれよう。それは世界の滅亡へと続く退路の無い一本道だ」


「神など聖神教徒の世迷言と断じておったがまさか実在するとはな・・・」


「祈れば即座に助けてくれるような便利な存在では無いが、実在する事は確かだ。ラグエル、今一度聞くが、その女について何か情報は?」


悠の質問にラグエルは自らの記憶をもう一度深く掘り起こしたが、やがて小さく首を振った。


「・・・やはり若い女という事以外、顔すら思い出せん。特徴と呼べるほどの特徴も無い。たとえ今会って顔を見ても余には分からぬだろう。何しろ20年も前の事なのだからな。今ではそれなりの年齢に――」


「待て」


ラグエルの口上を遮って悠は今聞いた事を吟味していた。


(・・・妙だな・・・マッディの口振りではくだんの女は自分より目下の者に対する嘲りに満ちていた。マッディの正確な年齢を俺は知らんが、精々30半ばであろう。であればその女がノースハイアを訪れた時に仮に20前後としても、今はとうに40を越えているはずだ。マッディより年下であるはずがない)


(年を取っていないって事?)


(少なくとも外見上はな。供与している技術といい年齢の件といい、いよいよ人間では有り得ん存在のようだ。レイラ、俺達も心して掛からなければならんぞ)


(相手の用意した戦場で戦うなんていい気はしないわね。でも私達はいつだってそんな温い環境で戦って来た訳じゃ無いわ。そうよねユウ?)


(その通りだ、警戒はしても気負わずに行くとしよう)


素早くレイラと相談を纏め、悠は他の者とも意見の共有を図った。


「なるほど・・・この国でも警戒しておこう。彼の者を直接知るのは既に余だけであるが、もし現れたら貴様に伝えてやる」


「捕らえなくても構わないのですか?」


王の警護を預かる者としてミルマイズがラグエルに尋ねたが、ラグエルは首を横に振った。


「供与された技術から考えても捕らえられるとは思えんな。装備や魔法の力量が違い過ぎる。こちらに出来るのは足止めくらいであろうよ。抗せる存在がいるとすれば、そこの『竜騎士』だけと考えておいた方がよい。今後はミーノスと連絡を密にする必要があるな・・・。しばし待て、今その旨をしたためようぞ」


「了解した、必ずルーファウス達に届けよう」


「では私も準備を整えてきますわ」


「「「?」」」


唐突に妙な事を言い出したシャルティエルに全員の顔に疑問符が浮かんだ。


「・・・シャルティ、まさかとは思うが、お前はカンザキについて行こうなどと考えてはおるまいな?」


「え? 当然ついて行きますわぁ。女が愛しい殿方と一緒に過ごすのはとても自然な事ですもの」


「・・・余はお前を甘く見ていたようだ。まさかここまで色ボケしていようとは・・・」


100%本気なシャルティエルにラグエルはとうとう頭を抱え込んでしまった。


「ウフ、そんなに褒められると照れますわぁ」


「褒めとらん!!」


「きゃん! ・・・カンザキ様~、お父様が怖いんですの~」


「・・・」


ドサクサに紛れて悠にしなだれかかるシャルティエルに反応を返さず、悠はラグエルに視線を固定していた。その視線の意味を解釈するならば「どうにかしろ」と言うのが一番正解に近いであろう。


「・・・シャルティエル、カンザキは常に戦場に身を置いておる。色恋しか能のないお前がついて行っても何の役にも立たんどころか足手まといだ。戦える訳でも無く、金を稼ぐ事も出来ず、料理も・・・せめて料理だけでも覚えさせておくべきだったわ・・・」


何か辛い事を思い出したかの様にラグエルは右手で腹を押さえる。


「た、確かに私は料理も商売も出来ませんけど、出来る事は御座います!!」


「なんだそれは? 言ってみよ」


腹部の幻痛を紛らわせようとラグエルが水差しからコップに水を汲み、ぐっと中身を呷った。




「ょ、夜伽のお相手ですわ!!!」




ラグエルが盛大に吹いた。


「ブフッ!? ガフッ!! ゴフッ!!」


気管に入った水に咽せ返るラグエルの背をミルマイズがそっとさすり続けた。


悠はというと真正面から飛んできた水に物質体マテリアル干渉し、水を球に纏めてテーブルに転がっていたコップにそっと戻していた。とんでもない光景だが、ミルマイズ以外誰も気付いてはいない。


「悪いが居場所を持っている人間まで受け入れる気はない。戯れに女を抱く趣味もな。俺の事は諦めてくれ」


「そんな、カンザキ様ぁ・・・」


この世の終わりの様な表情で嘆くシャルティエルの向こうでようやくラグエルが復帰した。


「こ、こ、このバカ娘がっ!!! 段階を経た付き合いならばともかく、王族の娘に娼婦の様な真似などさせられるか!!!」


ラグエルが謁見の間で悠にシャルティエルを提示したのは別に正体を看破しているゆえのブラフではない。今ノースハイアに足りないのは武力であり、並み居る強豪を撃破した悠の武力とその人脈はラグエルにとって垂涎の的である。それゆえ、もし悠が本気で望むならばシャルティエルを娶らせる事も本気で視野に入れていた。しかし、その後の反応から悠を篭絡する事は不可能と悟り、しかも逆にどういう理由かは知らないが恋愛に奔放なシャルティエルの方が悠に傾倒してしまっている様ではとても王家に取り込む事は出来ないと断じざるを得ない状況であり、そうなればラグエルはシャルティエルという外交上の切り札を1枚失う事になってしまう。そして、僅かながらに親としてもシャルティエルが報われない愛に生きる事を許容出来なかったのだった。


「ミルマイズ! シャルティエルを部屋に連れて行け!! それと、カンザキが帰るまで部屋に見張りを付けておけ!!」


「御意です、陛下」


「やっ、カンザキ様ーーー!!!」


ミルマイズにやんわりと拘束されたシャルティエルはそのまま永遠の別れを惜しむ恋人の様に(強制的に)退出していった。

うん、政治にも軍事にも関心の無いシャルティがここにいるとシリアスになりません。ルーレイですらシリアスな場面はあったのに・・・

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