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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-61 合流4

突然受付嬢が叫び声を上げてひっくり返った事でギルド内は俄かに騒然となってしまった。そして不審の目で見られるのは当然ながら新参者かつ男である悠の方なのだった。


「おい、お前何してんだよ!! いくらノースハイアのギルドに人が居ないからって白昼堂々押し込み強盗とはとんでもない奴だな!!」


「いや、俺は・・・」


「うるせえ、言い訳してんじゃねえ!!」


悠の言い分も聞かずに一人の冒険者が拳を握って悠に殴り掛かって来た。その視線はひっくり返った受付嬢の方をチラチラと見ており、恐らく正義感で言っているのではなく、気になる異性にアピールしたいがためだろうと悠は推察した。したからといって殴られてやる義理は無いが。


はっきり言って緩慢な拳を悠はそっと受け止めたが、相手は受け止められるとは思っていなかったらしく慌てて拳を引き戻そうとした。


だが悠に握られた拳はまるで巨大な岩にでも挟まったのではないかと思えるほどに強固に固定されていて、押しても引いてもビクともせず、その場で真っ赤な顔をして奇怪なダンスを披露する事になっていた。


「は、放せよこの野郎!!」


手を解放させるために自由になる足で蹴りを放つ冒険者だったが、悠は今度はその軸足の関節を正面から軽く蹴って冒険者を無力化した。


「うぎゃあああああああああッ!!! あ、あし、足がああああッ!!!」


「別に折れても砕けてもおらんよ。少し靭帯を痛めただけだ。先走る前に人の話を聞け」


のた打ち回る冒険者に言い捨てた所で背後の受付嬢もようやく復帰したらしく、椅子と戯れながらも何とか起き上がるとカウンターに手を付いてこちら側へと飛び越えた。


「とうっ!」


あまりスカートを履いてするべきではないアクションにチラリと白い布が見えるが、下着どころか全裸で突撃して来ても動揺する悠ではなく、温度の無い目でその動向を見守っていた。受付嬢はそのまま悠の前まで駆け寄ると門番と同じく風を巻き起こす勢いで地面に膝と額を擦りつけた。


「もーーーしわけございませんでした!!! ま、まさかあなた様のような方がこんな辺鄙な場所にいらっしゃるとは露にも思わず・・・か、数々のご無礼をお許し下さいぃぃぃい!!!」


寒さによらない震えで震動する受付嬢の姿を見てようやく周囲の冒険者達も過失は悠にではなく受付嬢にあると悟ったが、そうすると今度は受付嬢がここまで恐れる悠の正体の方に関心が集まった。


「俺は気にしていないから平伏するのは止めてくれ。別に貴族でもなんでもない、一介の冒険者に過ぎんのだからな」


「で、でも~・・・やっぱりダメです!! 恐れ多くて!!」


「・・・」


どうもこの土下座は悠に謝りたいが顔を見るのは怖いという無意識から発生しているらしい。放っておくといつまでもこのまま動きそうに無いので悠はつかつかと土下座する受付嬢の背後に回り込み、後ろから両手で腰を掴んだ。


「ニャ゛ッ!?」


「このままでは話が進まん、悪いが運ぶぞ」


そのままひょいと受付嬢が土下座スタイルのまま悠の手で持ち上げられる。女性とは言え人一人を持ち上げているとは思えない足取りで悠はカウンターに向かい、


「失礼」


と、一言断ってカウンターを飛び越えた。


「ヒギャ!?」


2メートルほど飛び上がってカウンターの向こうに音も無く降り立ち、受付嬢をそっと床に置いて倒れた椅子を起こしてカウンターの前に設置し、もう一度受付嬢を持ち上げて尻を下にして椅子の上に座らせた後に素早くカウンターから飛び出して向き直った。


「それでドラゴンの素材の価格だが・・・」


「な、何事も無かったかのように話し始めないで下さいよぅ!」


「事実何事も無いが?」


「後ろ、後ろを見て言って下さい!!」


悠が振り返るとそこには未だに関節蹴りに悶える男と目を逸らす冒険者達の姿があったが、特に問題は無いと判断して切り捨てた。


「些事だ。襲われたから撃退し、尚且つ重篤な損傷は与えていない。誤解も解け文句を言う者も居ないのだから何事も無いという判断は妥当と認める。これ以上何がある?」


「・・・こわぁ・・・混じりっけ無しに本気で言ってるし・・・はぁ、もういいです、ギルド長が帰ってくる前に本題を済ませてしまいましょう。粗相があったなんて知れたら私が怒られちゃうし・・・」


ショックな事が立て続けに起こり、受付嬢の口調が元の調子に戻った事の方が悠としては有り難いのであった。




思いも寄らぬ所でドラゴンの素材を補充出来た事を僥倖に感じながら支払いを済ませた悠は受付嬢――キャスリンという名前であった――に別れを告げ、ギルド長も不在らしいのでギルドを後にしようとしたのだが、買い物とトラブルのせいで新たな展開から逃れる機会を逸してしまった。




「御免! こちらにⅨ(ナインス)冒険者のユウ殿はいらっしゃるか?」




そう誰何すいかしてギルドの入口から入って来た数人の兵士達はギルド内を見回し、ユウの姿を認めるとそのまま前までやって来た。


「この辺りでは見かけぬ顔だが、貴殿がユウ殿ですかな?」


一応質問の体裁は取っているが、相手はこちらが目当ての相手だと確信を抱いているようであった。恐らく街に入った際に門番から王宮に報告されたのだろう。であればこうして悠を探している兵士はこの一隊だけではないだろうし、厄介だと感じて惚けても余計にトラブルの種になる可能性の方が高く、悠は様々な状況に思いを巡らせながら頷いた。


「いかにも、自分が悠ですが何か?」


実のところ悠のノースハイアにおける立場は微妙である。何しろ悠は隣国であるミーノスの上層部と非常に親しい事は既に知れ渡っており、その国の改革に助言までしているのだ。また悠個人の武名も比類無いものとして鳴り響いているし、そんな人物が単身入国して来たとなればなにかしらの密命を帯びているのではないかと思われても不思議ではない。最悪突然捕縛される事態すら有り得るのだった。兵士達が最初から強硬手段に出なかった事は双方にとって幸運な事であっただろう。


もっと暴力的かつ野心的な人物像を想い描いていた兵士達は予想外に理知的な雰囲気を持つ悠に軽い戸惑いを抱いたが、自らの任務を思い出して全員が深々と腰を折った。


「昨今、並ぶべき者なき英雄殿にお会い出来て光栄に存じます。今日ここに参ったのは我が国の主たるラグエル国王陛下がユウ殿と言葉を交わしたいとご所望であり、もしよろしければこのまま我らと同道願えませぬか?」


(耳も早いし手も速いわね、どうするユウ?)


(ふむ・・・)


ラグエルは周辺の情報収集を怠ってはいないらしく、悠の事をかなり重く見ている事はこの対応の早さからも察せられた。普通王と会おうとすれば前もってその旨を伝え、更に王宮に赴いて順番待ちするのが通常の接見の手順である。


また、改革途中にあるノースハイアの王に暇な時間などあるはずもない。それはミーノスのルーファウス、ローランの両名が忙殺されている現状を見れば自ずと分かる事であった。


(どういうつもりでⅨの冒険者に会おうとしているのかには興味があるな。最悪人質にしてミーノスを強請ろうとでもしているなら今度こそ王のすげ替えが必要になるか。いい機会だ、まずは冒険者として会ってみようではないか)


(そうね、ついでに王宮の中が健全かどうかも見れるし都合がいいわ)


心通話テレパシー』で短くレイラと方針を定め、悠は兵士の要請に首肯してノースハイア城に向かったのだった。

悠の事をベロッベロに舐めてた当時が懐かしいですね。

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