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1-49 千葉家6

「あたし、滉ちゃんのやってる事も少し分かるな・・・」


三人だけになった浴場に、燕の独白が響いた。


「あたしもまだ全然弱いんだもん。普通にやっても悠さんには追い付けないと思う。でも軍に居たせいか、強くなる事しか考えられなかったよ」


「私もだ。悠さんから手ほどきを受けていたせいで・・・いや、言い訳だな。私は私の強さで悠さんに認めて貰いたかったんだ・・・それが、今分かった」


「凄いわよね、私達より3つも年下の子がそれを思いついて実行しているのよ。・・・やっぱり私程度の想いじゃ足りないのは道理だったわ」


三人の口調はいつもより暗かった。皆、滉に負けたような気持ちになっていたのだ。


《皆、人の話を聞かないのは感心しないね?》


その暗い雰囲気にウィナスが割って入って来た。心なしか少し怒っているような気配だ。


「ウィナス?」


《ただの道の違いだとムツキさんも言っていたじゃないか?なのに、君達はなんでそんな暗い顔をしているのかな?僕には全然分からないよ?》


「え?だって・・・」


「そうよ、私達にはそこまで考えられなかったんだもの」


《それがどうしたんだい?恋愛っていうのは一番考えた人間が勝つ物なのかい?それなら僕には最早理解不能だね?》


「でも、現実的にはその方がいいんじゃないかと思うんだ」


「うん、悠さんより強くなるっていうより、その方が・・・」


《いよいよ君達は馬鹿なのかな?どうしてユウさんを変える方が楽だって思うんだい?僕の見た所、ユウさんを変えるのは勝つのと同じくらい厳しいと見たよ?》


「うっ、た、確かに・・・」


「そう言えば、悠さんがやるといって誰かがそれを変えさせたっていう話は聞いた事が無いよね?」


「ええ、その逆なら腐るほど話はあるけれど・・・」


《君達は、今まで見えていなかったルートが見えて、そっちの方が楽なんじゃないかって迷ってる旅人みたいなものだね?でも今まで進んだ道の長さを惜しんでルート変更をする勇気も持てないっていうんじゃ、想いの差を感じて敗北感を感じるのも仕方ないね?》


ウィナスは普段よりも容赦が無い。そんなフラフラした心根で歩み切れる道では無いのだ。


《そもそも考えてごらんよ?アキラは今君達が居る場所なんて、とっくの昔に乗り越えているんだよ?自分の前には道が無くて、それでもその先に進みたくて、道無き道――獣道であろうとも突き進んで来たんだろうね?だから彼女は揺るぎないんだね?》


滉が何故ああまで悠に正面から積極的にアピールしていたのか、三人は分かった気がした。滉は滉なりに考えて我が道を歩いていたのだ。そして、それを悠に伝えていたのだろう。


しばし沈黙の幕が下り・・・亜梨紗は決然と前を向いて言った。


「・・・分かった。私はもう迷わない。必ず悠さんに勝って振り向かせてみせる!!」


「あたしもだよ!一度決めた道を引き返してる場合じゃ無いんだもん!!」


《そうそう、そうで無いといけないね?道をうろうろしてる時間はもう無いんだからね?》


「ああ、ウィナス、ありがとう。私はいい相棒を持ったよ・・・」


「ありがとうウィナス!あたし達、友達になれるかな?」


《おや、僕はもう皆と友達のつもりだったんだけど、勘違いだったかな?それは少し寂しいね?》


「いいえ、ウィナス。私達はもうお友達よ。・・・ありがとう」


《人間の友達は初めてなんだよ?色々教えてくれると嬉しいね?》


「「「こちらこそ!」」」


三人の明るい声が浴場に響いたのだった。







《さて、新しい友達に僕が一つ秘策を教えてあげようかね?》


「え、うそ、ウィナスってば何かいい考えがあるのっ!?」


「そ、それは是非拝聴させて欲しい!」


「私も参考までに聞いておきたいわ」


ウィナスの発言に三人のテンションはウナギ登りだ。


《なーに、直接的な事では無いよ?要はよく考えてみようという話だね?さっきの道の話を覚えているかい?》


「うん」


《アキラの道は相手の考えを変えて自分を好きになってもらうというものだね。だけど、ユウさんの精神は鋼とは比べられないくらいに硬そうだね?今まで全員撃沈しているのだろう?》


「ああ、恥ずかしながら・・・」


「あたしも・・・」


「当然、私もね」


《つまり、上限が見えない訳だ。それに比べると、まだ戦闘力の方が測り易い。僕達竜リュウも相手の戦力と手段は類推出来る。なにせ、同種だからね?》


三人は教祖の説話を聞く敬虔な信者の様にその言葉に耳を傾けている。


《見えない海の深さより、見えている山の高さを攻略するべきだね?力を付け、ルートを確保し、無駄を省き、装備を厳選し、最良の策を採用する。それは君達軍人が得意とする所だね?》


その言葉が三人に浸透するのを待ってから、ウィナスはトドメの言葉を放った。


《そして、一度。ただ一度でも、まぐれでもなんであってもユウさんに勝ってしまえば、恐らくユウさんは性格上、自分と同等と認めてくれるんじゃないかな?何度挑んだっていいんだよ?1000回戦って、999回負けても、ただ一回でも勝てばユウさんは君達のものさ!》


よくよく考えればその一回が勝てないからこそ茨の道なのであるが、ウィナスの絶妙な語り口で、三人は蒙が開かれた様に感動していた。・・・教祖というより詐欺師かもしれない。似たような物だが。


《いくら敗戦を重ねても諦めてはいけないよ?むしろそれを布石や捨石にして次の勝率を高めるくらいの気でいないとね?まずは強くなるんだよ?策はおいおい練っていけばいいね?なにせ、しばらくは時間があるんだからね?》


語り終えたウィナスに三人は口々にぽつりと呟いた。


「・・・ウィナス、私達は友達では無いな・・・」


「うん、もう友達では無いね・・・」


「そうね・・・」


《え?な、何?何か気に障ったかな?》


ちょっと言い過ぎたかと焦るウィナスだったが、三人は声を揃えてこう言った。


「『親友』だ!」


「『親友」だね!」


「『親友』よ!」


三人組は、今日この時から四人組になったのだった。

三人娘が四人娘になりました。良きアドバイザーとして頑張って欲しいです。

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