7α-56 多忙な日々29
Ⅸ(ナインス)試験、校舎建築、アルトの短期就学と畳み掛ける様に折り重なる多忙な日々が新たな展開を見せたのはアルトが学校生活を始めた2日目の事であった。
(ユウ、聞こえるか? 俺だ、バローだ)
(聞こえるぞ。どうした、何かあったか?)
領地に戻っているバローから悠にバローから『心通話』で連絡が入ったのだ。
(ああ、ちょっと困った事になっててな。実は・・・)
バローはこれまでの経緯を詳細に悠に語って聞かせた。妹であるレフィーリアの縁談破棄とその後のドワイド家との確執、そして今まさに攻め込まれようとしている事、そこに何故か隣国のアライアット兵まで混じっている事などだ。
(こっちは王都からの監察に事の経緯を説明して判断して貰おうとした矢先の出来事で正直面食らってんだ。しかもノースハイアは真冬で寒さも厳しいし、こんな時期に街を傷付けられて領民の生活を脅かされるワケにゃいかねえ。それでお前にも手を貸して欲しいんだよ)
(そうか・・・人間同士の下らん戦争であれば手を貸す謂れはないが、理由も無く攻め入って来る侵略戦争とあれば手助けしても構わん。戦争に巻き込まれる民草が哀れだ)
悠は親しく付き合っているローランやバロー、ルーファウスの要請があろうとも他国に対する侵略に力を貸すつもりはなかった。悠が手を貸せばたとえどの国の軍勢が相手でも一蹴出来るだろうが、それでは力による恐怖政治を生み出すだけで悠の望む世界の更生は成し得ない事は明白だからだ。むしろそんな事を意図しているのならその人物をこそ改めさせねばならない。
(そう言ってくれると思ってたぜ。それと、なるべく街の近くでは戦争なんぞしたくねぇからな。出来れば今日中に来てくれ)
(分かった・・・ちょうど一月ほど経つからな、先にやっておきたい事もある。そちらに着くのは夜の鐘(午後六時)が鳴る頃になるだろう)
悠のやっておきたい事とは各所に不在を告げておく事と、先にノースハイア城に立ち寄る事である。今やミーノスで知らぬ者など居ない悠は名実ともに英雄であり、顔も知られていなかった頃とは違ってその毎日は多忙に過ぎる。何か役職にある訳ではないので義務などは無いが、それでも悠は時間が許す限り国の各所を奔走する毎日だったのだ。先日の学校の臨時教師もその一環である。
(分かった、それじゃ待ってるぜ)
バローが感謝を伝えて『心通話』を切り、悠は今の話を他の者達に伝える為広間に全員を集めた。が・・・
「・・・一人足らんな、ルーレイはどうした?」
集まった面子の中にルーレイが居ない事に気付いた悠が問うと、恵が首を傾げて答えた。
「あれ? 確かルーレイ君なら「今日から俺ちゃんも学校行くっちゃ!!」って言っていましたけど? ユウさんの指示ではないんですか? 私、制服と運動着を縫いましたよ?」
「・・・あのバカ弟子・・・アルト殿が居ないのが我慢出来なくて追い掛けましたね・・・」
どうやらルーレイの忍耐は一日足らずで限界に達してしまったらしい。それを察したハリハリは大きな溜息と共に額を押さえた。
「どうしますユウ殿、学校に行って連れ戻しますか?」
「・・・いや、そもそもここで預かった経緯が学校に行けないからという理由なのだから、自発的に行ける様になったならばそれはそれで良い事だ。それにアルトも学校に居て付いて来れんのだからそう不安はなかろう。・・・ただ、勝手に外出した事に関しては次に会った時、少々物申さねばならんがな・・・」
「少々」物申す悠の姿を想像してその場の者達はそっと目を逸らした。何となく拷問部屋の様なイメージが湧いて来たのでそれ以上考える事を止めたのだ。
「それは今は置いておくとして、領地に戻っているバローから連絡があり、唐突だが俺はそちらに向かう事になった。どうやらバローの領地が侵略行為を受けているらしい。つまりは戦争だ」
戦争という言葉に樹里亜や小雪の体がビクッと跳ねた。2人はまさに戦争に駆り出されて死に掛けたのであり、特に樹里亜は一度臨死体験まで味わっているのだ。トラウマになっていても不思議ではなかった。
「と言っても俺は子供に人殺しを強要するつもりは無い。基本的には俺とバローで蹴散らして帰って来るつもりだ。しかし数日は掛かるだろうから、一応全員連れて行くという事を言いたかっただけだ。そんなに緊張してくれもいいぞ」
その言葉に樹里亜と小雪のみならず多くの子供達はホッと胸を撫で下ろした。襲われて自衛の為に戦う覚悟はあっても、自ら積極的に人と争いたい訳ではないのだ。例外は神奈や蒼凪くらいである。
「ちぇっ、前にやられた借りを返したかったなぁ」
「私はユウ先生が行く場所なら何処にでも付いて行く覚悟は出来てる」
神奈は戦う事が好きだし、以前不覚を取ったアライアット兵にリベンジしたい気持ちがあり、蒼凪は悠に敵対する者であればたとえ誰であろうとも同じ天は戴かぬ覚悟である。
「お前達の力は人間同士の戦争などという下らん物に使う為の物では無い。それは自分を守り、そして自分の大切な者を守る為の物だ。そこは取り違えるなよ」
「「はい!」」
素直に返事をした2人に続きシュルツが口を開いた。
「拙者は付いて行きます。常在戦場が剣士の心得であり、師が戦場に赴くのに付いてゆかぬなど有り得ませぬ」
それに更にハリハリ、ギルザード、ヒストリアが続いた。
「別に皆殺しにする訳でもないのでしたらワタクシの魔法も有用でしょう。頭さえ潰してしまえば軍など脆いものですよ。ここはバロー殿の為に一肌脱ぎましょう」
「私も共に行こう。この時代の戦争は見た事が無いのでね」
「地に足を付けて戦うなら誰もひーを害せん。ひーも勿論付いて行くぞ」
その後ろでビリーとミリーも首を縦に振った。
「アニキ達が戦場に立つんなら、当然俺達も行きますよ、そうだろミリー?」
「ええ、微力を尽くさせて頂きます!」
意志を表明した全員を見渡し、悠も頷いた。
「ならば頼りにさせて貰おう。詳しい情報はバローと合流してからになるがな。とりあえず数日は留守にする事をギルドやローランに伝えてその後出発だ」
「ギルドの方はワタクシが言っておきますので、ユウ殿は王宮をお願いしますよ」
「分かった。それとノースハイアはこのミーノスと違って相当に冷えるので、各自防寒を怠らぬ様に。昼食を済ませたら出発にしよう」
ある程度の方針を決めると、悠はそのまま王宮へと向かったのだった。
ここでバローサイドの話と合流していきます。その後は一気に戦後の話になるかと思います。
この話は後で加筆するかもしれません。書き切らないとモヤモヤするので(笑)




