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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-51 多忙な日々24

授業終了の鐘が響き、アルト以外の面々はその場に腰を落とした。


「これにて授業を終了する。俺の言った鍛練法を続ければ各自の課題はその内解消していくだろう。続けるか続けないかは自分次第だ。ご苦労だった」


それだけ言うと、悠はアルトに目配せして踵を返し、鍛練場を後にして行った。


「へ、へへ・・・流石は超一流、厳しさもハンパじゃねぇな・・・」


「・・・ジェイ、いつもはこの3倍はやっているよ? あれでも随分ユウ先生は手加減してくれたんだ」


「やっぱ人間じゃねえ・・・」


起こしていた上半身を床に投げ出してジェイは呻いた。アルト自身が疲れ切っていない事からその発言が真実だと思い知らされたからだ。



「さあ皆、教室に戻ろうよ。後は先生の話を聞いて帰るだけだから」


「お先に失礼致しますわ、アルト様」


アルトの言葉にエルメリアが立ち上がって服装の乱れを直し、少しふらつきながらも毅然とした態度で立ち去っていった。


「・・・なぁアルト、別に陰口ってワケじゃねえんだけどよ、あの女、今のままじゃマズいんじゃねぇのか?」


その小さくなっていく背中を見ながら呟くジェイにアルトは意外な思いを抱いた。


「心配してくれてるの、ジェイ?」


「そんな上等モンじゃねえよ。庶民庶民ってうるせぇ女だがよ。ちょっと肩に力が入り過ぎなのが見え見えだからな。あれじゃいつまで経っても周りに溶け込めねぇぞ」


熱くなっている様に見えてその実ジェイは冷静にエルメリアの事を観察してしていたらしい。挑発的な態度や口調はジェイ特有の偽悪的な性格によるものである。


「エルメリアはそう言う意味じゃ悪い貴族じゃないわ。ただ、自分の中の理想の貴族像が凝り固まっててそれから抜け出せないのよ。でも、他の人間から見たら横暴な貴族と変わらない様にしか見えないでしょうね・・・」


「エクレアさんはエルメリアさんとは旧知なの?」


訳知り顔のエクレアに尋ねると、エクレアはコクリと頷いた。


「ええ。・・・エルメリアは知っての通り、お父様は財務大臣のサフィリエ様よ。サフィリエ様はしっかりとしたお考えを持った貴族だけど、当時のこの国ではそんな貴族は少数派だったし、相容れない人はたとえ爵位が上でも譲らなかったから軋轢も多かったの。そのせいでエルメリアもサフィリエ様の失点を探そうとする貴族達の厳しい視線に晒されて生きてきたせいであんな頑なな性格になっちゃったのよ。もうそんな必要も無いのに・・・」


「エルメリアさんもそうだったんだ・・・」


それはアルトにも大いに覚えがある事である。ローランの足を引っ張ろうとする貴族はサフィリエより更に多く、ローランもなるべくアルトを公式な場に出さない様にしていたのだ。アルトも万一の時の為にしっかりと勉学や礼儀作法を修めていたのだが、失点を見つけられなかった為に命を狙われる羽目になったのは皮肉な事だ。


アルトがエルメリアの様にならなかった要因は色々あるだろう。最高の爵位を持つフェルゼニアス家には迂闊に手を出せなかったという事もあるだろうが、やはり家庭環境が大きいかもしれない。アルトは両親やアランから惜しみない愛情を注がれ、また守られていた事を知っている。愛情には愛情で応える事をアルトは自然と学んだのだ。


しかしエルメリアはそう言う訳にはいかなかった。伯爵であるサフィリエには上位者が何人も存在したし、サフィリエも家と家族を守る為に奔走しなければならなかった。そのしわ寄せは不在という形で現れ、随分と寂しい思いもしたのだろう。それが幼いエルメリアの人格形成に影響を及ぼしたであろう事は想像に難くない。


「で、どうするつもりなんだ、アルト?」


「どうするって?」


「お人好しのお前の事だ、知らんぷりするつもりはねぇんだろ?」


ジェイにはアルトの考えている事などお見通しらしかった。そんなに分かり易いかなとアルトは頬を掻きながら答える。


「僕が頭ごなしに言ってもエルメリアさんは余計に頑なになるだけだと思う。でも何とか機会を見つけてちゃんと話し合いたいな。本音で話し合えばきっと分かってくれると思うんだ」


「甘ぇな。世の中話して分かる奴が少ねぇからこそ諍いが絶えねぇんだぜ。話を聞かせたかったら、それこそ一発ひっぱたく事くらい覚悟しとくんだな」


「殴られるのは構わないけど、殴るのは好きじゃないな。特に女の子を深い理由もなく叩けないよ」


「だから甘ぇってんだよ。・・・ま、それがお前のやり方ならいいさ。ただ、困ったら俺達も頼れよな。面倒くせぇが手助けくらいはしてやらぁ」


ニヒルに笑ってジェイはアルトの胸を拳で軽く叩いた。これまで自分の周りに居たどの子とも違うジェイの言いようにアルトは新鮮さを感じて自然と笑顔が零れる。


「うん、その時は皆の助けを借りるよ。ありがとう」


輝かんばかりの笑顔で礼を言うアルトにエクレアやラナティは思わず顔を赤らめた。もしかしたら顔を背けているライハンもそうなのかもしれない。ジェイはあまりに素直なアルトの頬を手でむにっと掴んで変形させた。


「だーかーら、お前は無防備なツラをコッチに向けんな。その内掘られんぞ?」


「ふぁなひへよ! ・・・もう。でも掘られるって何?」


「お子様にゃ教えてやらねー」


拘束から逃れたアルトが不満げに問い掛けたが、ジェイは背中を向けて歩き出してしまった。


とりあえず初日の成果としては上々な1日だったのではないかと、その背を追いかけるアルトには思えたのだった。




一方、アルトの不在は一人の人物の精神失調を加速させていた。屋敷に取り残されたルーレイである。


「う~~~~~、アルトアルトアルトーーーーーッ!!!」


いくら駄々を捏ねても、ベッドの上で足をバタバタさせても当然アルトが現れたりはしないが、その衝動は行動として表さなければ耐え難いのだ。ちなみにこのベッドはアルトが悠の屋敷に寝泊りする時に使用するベッドである。


「こ、こんなのが最低でも一週間!? 無理っぽ!!! 俺ちゃんぜーーーーーったい耐えらんないべさ!!! 一日一アルトしないと俺ちゃんの一日は始まらないのにぃ!!!」


一日一アルトとは単にアルトとスキンシップを図る事であってやましい事ではない。少なくともアルトにはそのつもりはない。


「こ、こ、こうなったら俺ちゃんにだって考えがあるもんね!!! そうと決まれば早速兄上に・・・」


・・・アルトに斜め下方向から余計な悩み事が湧いて出て来そうなフラグが成立してしまっていたのだった。

当然、絡んでくるワケです。

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