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1-48 千葉家5

「ねえ~、お風呂で何難しい話をしてるの~」


「ん、ああ、実はウィナスが同性でな。助かったと言っていた所だ。それとこれからの訓練の件だな」


「え?ウィナス、そうなの?」


《皆に気付いて貰えないと自信を無くすね?そうだよ、僕はオンナノコさ》


「口調だけで気付くのは難しいと思うな~。ウィナスにも責任があるよ」


《ふん、どうせ僕は女らしく無いですよ?ええ》


「拗ねないでくれ、ウィナス。私達が悪かった」


「ごめんなさいね、ウィナス」


「あー・・・ごめんね、あたしも言い過ぎたわ」


《ふふ、別に気にしてはいないよ?だから謝らなくていいと思うよ?その分訓練の内容に上乗せしようと思っているから覚悟してね?》


「う・・・ウィナスみたいなタイプは怒らせると怖いな~」


《さっきアリサとも話したけど、ツバメとレンはまず竜騎士になりたいんでしょ?なら生半可な事じゃなれないから丁度いいと思うよ?》


「う~ん、道のりは険しいなぁ・・・」


「でもやるしか無いわね。決めたんだもの、私達」


蓮の言葉に他の二人もしっかりと頷いた。


「あらあら、皆青春してるわねー」


そこに亜梨紗の母親の睦月が入って来た。千葉の家では女性はみだりに風呂で肌を晒さない習慣があるので、胸元までバスタオルを巻いている(ちなみに滉は分かっていて尚全裸で突撃した)。


その体はまだ十分に魅力的で、若い男の一人や二人なら容易に引っかけられそうだ。夫を愛しているのでしないが。


「おばさま、相変わらずおキレイですね~」


「ええ、知らなかったらとても亜梨紗の母親だとは思えない所です」


「あら、ありがとう。二人もとても可愛いわよ?」


燕と蓮の二人も千葉家の流儀に従ってバスタオル着用済みである。そのスタイルは対極にあり、燕は18歳とは思えない幼児体型で、蓮は18歳とは思えない豊満さだ。


特に燕はバスタオルの引っかかる場所に苦労するほど凹凸が無い。周りを見てコンプレックスを持ってもしょうがないと思われた。


「唯一の救いは悠さんが顔にもスタイルにも拘らない所だよ・・・」


「燕さんも悠さんを狙ってるの?前はちょっと気になるくらいに見えたけど?」


「はい、今日本当に好きになりました!なので亜梨紗や滉ちゃん相手でも譲れません!ごめんなさい、おばさま」


「いいのよ、だって選ぶのは悠さんなんだもの。・・・亜梨紗、お友達だからって手を抜いてはあなたが泣く破目になりますからね?」


「わ、私だって譲れません!例え相手が陛下であってもです!」


偶然だがいい読みをしていた。


「蓮さんはいいの?」


「少しだけ惜しい気持ちはまだあります。でも私のは憧れだって気付きましたから」


「・・・そう。でも後悔だけはしない様にね。私みたいにすぐおばさんになってしまうわよ?」


「むしろ睦月さんみたいになれるといいんですけど・・・」


そんな女子会じみた遣り取りをしながら4人は体を洗い、湯船に並んで浸かった。


「ふぅぅぅ。あ、そう言えば母上、滉はどうしたんです?」


「あの子は帰って来た時に済ませたからいいそうよ?」


さすがに「さっき悠さんと一緒に済ませたわよ」とは言えない。


「へぇ、風呂好きの晃が・・・?母上、何か隠していませんか?」


「もう、亜梨紗ったら。疑うなんて私悲しいわ」


「いえ、別に・・・まぁいいです」


「案外悠さんと一緒に入ってたりしてね~」


「馬鹿ね、燕。さすがに滉ちゃんでもそこまではしないわよ・・・と、思うんだけど」


「・・・」


睦月はさりげなく三人から目を逸らしたが、注視していた亜梨紗は滉『だからこそ』やってのける気がして顔を青くしていた。


「母上。正直にお答え下さい」


亜梨紗の迫力は軍に居る時のそれになっていた。


「やだわ、亜梨紗。目が怖いわよ?」


「・・・滉のやつ、悠さんと風呂に入りましたね?」


「ええと・・・さ、さぁ?」


「入りましたね?」


「あ、亜梨紗?」


「入りましたね!?」


「・・・バスタオルは巻いていたと思うわよ。多分」


「「「・・・」」」


三人は絶句した。さすがにそこまでの度胸は燕も亜梨紗も無かったのだ。


「くっ、羨ましいような悔しいようなもにょもにょした気持ちが胸にぃ~」


「・・・い、いくら妹でも許されんぞ滉ぁぁ!!」


「バスタオル、本当に巻いてたのかしら・・・」


「しかも母上!ご存知なら何故滉を止めなかったのですか!もし一線を越えていたらどうするんです!」


「それは絶対に無いわよ」


亜梨紗の弾劾に睦月は涼しげに答えた。


「まさか亜梨紗、悠さんが滉に手を出すと思っているの?その目はガラス玉なのかしら?」


「出す訳無いでしょう!それでも万一という事が・・・」


「亜梨紗、今あなた何故怒っているの?」


「それは怒るでしょう!仮にも千葉の娘がそんな事をして良いのですか?」


「誤魔化すのはおやめなさい、亜梨紗」


睦月は嘘がばれた時とは打って変わって威厳に満ちた態度で切り捨てた。


「わ、私は誤魔化してなど・・・誤魔化しているのは母上では無いですか!」


「確かに私は前もって滉に聞かれました。悠さんと大事な話があるからお風呂に一緒に入りたいと。当然凄く怒りましたよ?でも滉は今しか言えないからと何度も頭を下げて懇願して来ました。どうしても、どうしてもと。言わずに突撃しなかったのは、千葉の家を慮っての事でしょうね。それだけ本気なのならと私は手伝いませんが黙認はしました」


「何故ですか母上!突っぱねればいいではありませんか!?」


「私が突っぱねてどうします?滉は諦めずにより過激な方法に出るだけですよ。ならば、悠さんにこれ以上ご迷惑をお掛けしない為にも妥協出来るラインで妥協して済ませた方が無難です」


「ば、馬鹿げています・・・そんな言葉、口から出まかせかもしれないでは無いですか・・・」


「亜梨紗、今度はあなたが正直におっしゃいな?」


「・・・何をですか?」


「あなた、色々言いましたけど、実の所は自分に出来ない事をやってのけた滉に嫉妬しているだけでは無くて?」


「な、なんですって!!」


睦月の言葉は亜梨紗の思いの核心を貫いていた。心の上辺の理由は悠に迷惑がかかるだとか、自分勝手な行動で千葉の家の格を落とすだとか思っていたが、よくよく考えると、そのどれもが一番の理由では無かった。最初にそれを聞いた燕が言った気持ちが自分にもすんなりと理解出来た。そう、羨ましいような、悔しいようなその気持ちが。つまりは・・・嫉妬だ。


「でも、だって・・・」


「当然褒められた行為ではありませんけれど、お風呂から上がったあの子は随分とすっきりした顔をしていました。単に欲情でもしているようなら当分謹慎にしようと思いましたが、思いの外滉はしっかりしていましたよ?ちゃんと悠さんとお話し出来たようですし。多分、その話をする踏ん切りが欲しかったのね」


「・・・」


「燕さんのように、あなたももう少し素直におなりなさい。自分の好きな殿方に裸で言い寄るなんてずるい、許せないというのならいいですが、千葉の家や体面を理由に自分の本心を隠して滉を糾弾するのは卑怯ですよ」


「ぅ・・・」


「とはいえ、確かにやり過ぎではありました。相手が悠さんでなければとても許可は出来ませんでしたけどね」


「はい・・・」


「滉はあなたとは違う方法で悠さんに好意を伝えています。・・・体で誘惑する事ではありませんよ?つまり、自分が変わるのでは無く、相手を変えるというやり方で」


「どういう事ですか?」


「悠さんは強い女性にしか靡かないそうですが、それを変えようとしているのです。自分はいつまでも好きな気持ちは変わらないから、どうかそのままの自分を好きになって、と。あなたは自分が変わる道を選びました。二人の違いはただそれだけなのよ」


亜梨紗は滉の考え方に呆然とした顔をしていた。自分はそんな事は思いもしないで、ただひたすらに悠を追いかけた。それがいつの間にか他の道を見えなくしていたのだ。


「あなたは昔から運動神経が良かったせいか、それとも悠さんと何度も手合わせしてきたせいか強くなる道を選びましたが、滉はそんなに運動神経が良い方ではありません。それでも諦められないから必死に違う道を考えたのですよ」


「そうだったのですか・・・」


亜梨紗はいつも体当たりだった滉の事を今初めて違う目線で見ていた。それはただひたむきに相手に叶わない想いをぶつける、勇敢な行為だったのだ。


「・・・ごめんなさいね、雰囲気を悪くしてしまって。私は上がりますから、三人はゆっくりしていらしてね」


そう言って睦月は湯船がから上がっていった。

伝え方の違いは誤解を生みます。だから睦月は亜梨紗にここでちゃんと説明しました。

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