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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-45 多忙な日々18

魔法の授業はまず魔法を使える者を除外し『覚醒儀式イニシエーション』を行わなければならないのだが、これがまた大変な労力を伴う物であった。ハリハリが『覚醒儀式』を行った時、4人同時に『覚醒儀式』を済ませていたのを見てミリーが驚いていた事を思い出して欲しいが、普通『覚醒儀式』は1人ずつ行うものなのだ。魔力マナを流し魔法陣を認識させ実際に自分で描かせ呪文を唱えてイメージを固定し魔力を通して発動させる。やる事だけを書けば一行で済む事であるが、それを実際に行うのは一度も魔法を使った事の無い子供達なのである。予想外に時間が掛かるかもしれない。


高等学校は一クラス250人、4クラスまであり、1組と2組、3組と4組は魔法、体術は合同授業である。つまりこの場には500人からの生徒が集まっていて、魔法を使える者を除いても450人ほどが魔法未経験者だ。教師も魔法を教える事が出来る者が総動員されているが、それでも20人ほどしか居ないのだった。20人ずつ10分で回転しても、全員の『覚醒儀式』が終了するまで23回転だから230分、倍以上の時間が掛かってしまう計算だ。


そこで助っ人の切り札として呼ばれたのが教師達の満場の一致で選ばれたハリハリである。


生徒達より一足先に鍛練場に到着したハリハリは早速教師陣との打ち合わせに入った。


「この度はわざわざご足労頂き感謝致します、ハリハリ様」


しかし鍛練場に入った瞬間、教師陣全員に地面と水平になるまで頭を下げられたハリハリには苦笑しかない。


「敬って頂けるのは有り難く思いますが、ワタクシの本職は吟遊詩人です。あまり大仰にしないで欲しいですねぇ」


「しかし、それでは我々の気が・・・」


「とにかく変な呼び方はやめて下さい。じゃないとワタクシ、これから皆さんに教えるのやめちゃいますからね」


「「「わ、分かりました!!」」」


ハリハリは元々魔法開発者として国の栄誉を一身に集めていた過去を何の躊躇いも無く捨て去っていたのだ。今更場所を変えてその名誉を求めるつもりはまるで無かった。もっとも、吟遊詩人として名を残す事には全力で邁進していたが。


「さて、今回の『覚醒儀式』にワタクシの手を貸して欲しいとの事でしたが、そもそも皆さんは『覚醒儀式』を行うに当たってどの程度時間が掛かりますか?」


ハリハリに問われて教師達は端から順に申告して行った。


「そうですな・・・20分という所ですか・・・」


「私もそのくらいです」


「生徒の理解が早ければ15分くらいにはなるかもしれません」


大体全員の平均は20分前後という所らしかった。ハリハリは相当手間取っても10分以内で『覚醒儀式』を終える自信があるが、他の者は一人に行うだけで20分というのならばはっきり言って全く時間が足りそにない。終了予想時間が450分も掛かるのでは、それだけで5回も授業が潰れてしまう。


「う~ん・・・出来れば今回の時間内に全員終わらせたいんですよね・・・」


ハリハリは何かいいアイデアは無いかと頭を捻った。ハリハリがエルフの本性を現せば20人程度なら同時に『覚醒儀式』を行えるが当然それは禁じ手である。それにいつまでもハリハリが出しゃばるのも学校として健全では無いし、叶うならハリハリが居なくなってもその理論を実践出来る方法を考えなくてはならない。


そんなハリハリの目に付いたのは鍛練場に設置されている『遠隔視聴リモートビューイング』の装置であった。


「・・・これだ!! 皆さん、説明無しで魔力と魔法陣を伝えるだけなら2人同時に出来ますか?」


「ふ、2人同時ですか!?」


「うむむ・・・経験が無いので何とも言いかねますが・・・」


「もし出来たとしても生徒と話すのは厳しいかと思います」


そこでハリハリは自分の案を提示した。


「それについてはこの『遠隔視聴』を使わせて貰います。皆さんには出力を担当して貰い、ワタクシが『遠隔視聴』で生徒全員に呼び掛けます。これならば説明の時間を短縮し、更に人数を増やす事で少なくとも3倍以上の効率で『覚醒儀式』を進める事が出来ますよ!」


「おお、なるほど!!」


「『覚醒儀式』で使う魔法は『光源ライト』と決まっているのですから説明を各自でする必要は無いのですね!!」


「それでしたら我々も魔力の操作に集中出来そうです!!」


喜ぶ教師陣にハリハリは更に付け加えた。


「今回はぶっつけ本番な上、生徒達もまだ親交が深まっていませんから見送りますが、この方法が確立すればある程度魔法を修めた生徒に手伝って貰ってもいいかもしれませんよ? 少なくとも1割程度は魔法を扱えるでしょうから、高等学校に入ったばかりの生徒でも集中力さえあれば『覚醒儀式』の出力くらいなら手伝えるかもしれません」


「素晴らしい! これは革新的な手法と言っていいでしょう!! やはりハリハリ殿は素晴らしい才能をお持ちです!!」


「これならば上手く行けば何とか時間内に終える事が出来るやもしれませんな!! ハリハリ殿には説明に専念して貰って――」


「あ、ワタクシもやりますよ。時間が足りなくなったら困りますし、4人ずつワタクシに回して下さい。自分がやりながらの方が説明しやすいです」


「「「・・・は?」」」


ハリハリの言い出した事に他の者達は理解が追いつかずに固まってしまった。魔力操作に専念して尚教師達は2人が限度と見積もったのに、更にその倍をこなしながら説明までするというのだから困惑して当然であった。


「・・・あの、ハリハリ殿、どうやって4人も同時に魔力を通すおつもりですか? そんな事が可能だとは寡聞にして存じませんが・・・」


「出来ますよ? ちょっと今講義を始めると『覚醒儀式』の時間に食い込んでしまいますから省かせて貰います。魔力伝導や魔力抵抗の話もありますからねぇ。今日の放課後まで待って下さい」


学校で教えるほど魔法に人生を捧げて来た者が教師をしている訳で、皆今すぐにでも魔法の深奥を語って欲しい気持ちがはち切れんばかりに溢れていたが、ここでハリハリの機嫌を損ねれば話は無くなってしまうかもしれない。だから教師達は必死で質問したい気持ちを抑えた。


「ついでに生徒に手伝って貰う試みも一人適任が居ますからやってみましょう。構いませんか?」


「それは構いませんが・・・ハリハリ殿の目に適う生徒がいらっしゃるのですか?」


その言葉にハリハリはニヤリと笑みを浮かべた。


「今日からこの学校でお世話になっているはずです。ワタクシが手ほどきをした生徒が一人ね?」




同時刻、鍛練場更衣室。


「ヘクション!!」


「何だよ、汗が冷えたのか? 風邪引くなよ」


「うん・・・ちょっと変な感じがしただけだよ、大丈夫」


そう言ってアルトは運動着の上を頭から被って首を出した。ふと視線を感じて振り向くと、多数の生徒がサッと顔を逸らす。


「ん? 何だろ、貴族は自分で着替えなんて出来ないと思われてたのかな?」


「バーカ、お前が女っぽい顔してっから本当に男かどうか見てたんだよ、きっと」


ジェイの冗談・・・に見せかけた推測は実はかなり的を射ていた。半数以上の男子生徒が顔を赤らめている事からもそれは明らかだ。


「し、失礼だな! 僕はちゃんとした男だよ!」


「ハイハイ、男だな。まだ女は抱いた事がなくても」


「もう、ジェイ!!」


こういうからかわれ方をした事が無いアルトは顔を真っ赤にして怒ったが、そんな可愛い怒り方で恐れ入る様なジェイでは無く、さっさと鍛練場に向けて歩き出していた。


「こんなむさくるしい所、早く出ようぜ。そろそろ始まっちまう」


「ああ、ちょっと楽しみだよな、魔法の授業なんて」


既に着替えを終えていたライハンもジェイに並んで更衣室を出たのでアルトも慌ててその背中を追い掛けた。


「・・・すぐ煙に巻かれちゃうな・・・やっぱりまだ僕には人生経験が足りないや・・・」


そう呟くアルトだったが、今年でやっと13歳になる人間には当然と言えるだろう。こればかりはローランや悠でも教える事は出来ないのだ。


鍛練場を出たアルトを待ち構えていたのはジェイ達では無く教師達と打ち合わせをしていたハリハリであった。


「やあ、アルト殿。清く正しく学生してますか~?」


「ハリハリ先生!? どうしたんですか? ・・・あ、もしかして魔法の授業の手伝いに?」


「ご明察です。ほら、魔法を使う時は『覚醒儀式』が必要じゃないですか。だからワタクシにもお呼びが掛かったんですよ。それはいいとして、アルト殿に頼みがあってやって来たのです」


「何でしょうか?」


早速本題に入ったハリハリにアルトは小首を傾げた。その可憐な仕草に正面側に居る女生徒が数人、ヘロヘロと腰砕けになる。


「・・・中々罪作りですね、天然さんは」


「はい?」


「いえ、こちらの事です。実は今後『覚醒儀式』に魔法の使える生徒にも手伝って貰う案がありまして、それなりに魔法を修めている子に協力して頂きたいのですよ。アルト殿も剣士と言えどあの屋敷で共にワタクシの講義を受けて切磋琢磨しましたから。まさにご協力願うにはうってつけの人材なのです。今日の内容はアルト殿はとっくに終えている所ですからね。いかがですか?」


ハリハリの言葉をアルトは快諾した。


「僕に出来る事ならご協力させて頂きます。・・・でも、僕は先生方ほど上手くは出来ないかもしれませんが・・・」


「ああ、大丈夫です。詳しくは始まる時に言いますが、アルト殿は魔力の操作に集中して下さい。説明はこっちでしますから」


「それなら何とか」


初めての試みに少し緊張していたアルトの気持ちもそれで解れたらしい。


「それで、もうお友達は出来ましたか? もし居るならその子達をお願いしたいんですが・・・」


「友達、ですか?」


さて友達と言えば誰だろうとアルトが思い浮かべる前にアルトの両肩にそれぞれ手が置かれた。一つは男子の物、そしてもう一つは女子の物だ。


「俺達が」「私達が」


「アルト君の友達だぜ(よ)!」


そこには同じ様な笑みでアルトの肩に手を置くジェイとエクレア、そしてその後ろには溜息を付くライハンとオロオロするラナティが居たのだった。

ジェイやエクレアの様に押しの強い人間にはアルトも弱い傾向にありますね。ハリハリもそれを分かっててアルトに頼むんですが(笑)

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