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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-43 多忙な日々16

「あ、アルト様は我らに加勢して下さるのでは無いのですか?」


この期に及んでまだ貴族の権威を振りかざす事を諦められない者がアルトに作り笑いで問い掛けたが、返って来たのはハッキリとした拒絶の意志だった。


「こんな馬鹿げた事に僕が参加するはずがないでしょう。君達は貴族というものを勘違いしている。彼ら庶民は僕達貴族が守らねばならない人達であって、決して僕達が好き勝手に命令していい人達じゃない。彼らが税を納めてくれるから僕達は生きていけるんだ。野菜も家畜も育てられない僕達の代わりに彼らが作ってくれるから僕達は毎日こうしてご飯が食べられるんだ。家も、服も、履いている物だって作ったのは皆庶民の人達だ。君はこの内の一つでも自分で出来るのかい?」


「それは・・・その・・・」


珍しくアルトは相当怒っているらしく、その鋭い舌鋒は収まらない。


「貴族は義務を果たさずに権利を主張する事は許されない。大勢の人間の上に立つ者は誰よりも己を厳しく律しなければならない。僕の先生はそう教えてくれたし、僕もそう思ってる。君達に貴族として恥じる心があるのなら、彼らに頭を下げるんだ。彼らもちょっと行き過ぎだけど、どう見ても君達の方が悪い」


「わ、我々が・・・謝る?」


「そうだよ。悪い事をしたら謝る。それは庶民だって貴族だって、王族だって変わらないんだ。・・・まさか謝り方を知らないとは言わないよね?」


アルトの地位に恐れを抱いていた貴族達だったが、こうも上から物を言われたのでは面白く無かった。そもそも彼らの忍耐力は初等学校の低学年並にすらあるかどうか怪しいのだ。たとえそれが遥かな上層に位置する者であっても我慢の限界が近い事に変わりはない。むしろ、年齢が幼い分、彼らは本音を隠し通す事が出来なかった。


「謝る・・・庶民に!? 冗談ではない!! 我々は貴き一族、貴族だ!! お前の様な貴族のツラ汚しはこの場でげっ!?」


暴発して魔法の構築に移ろうとした貴族の生徒に一体いつアルトが自分の目の前まで移動し、尚且つ肝臓を抉り取る様なボディーブローを放ったのかは最後まで分からなかっただろう。悠のアルトへの体術の鍛練は今でも続いており、その熟練度は最初にジャブを練習していた時の比では無いのだ。


「はぐっっっ!!! うぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」


「貴族は血が貴いから貴族なんじゃない。貴い義務を果たす一族だから貴族なんだ。それを分からない君は貴族じゃない」


肝臓を打たれた貴族の生徒は塗炭の苦しみを味わって転げ回った。内臓系へのダメージは即効性に欠ける反面、痛めると長く尾を引くものだ。特に腹筋を鍛えていない相手であれば即効性すら期待出来る。彼は今晩辺りは血尿が出るかもしれない。


あっという間に2人を戦闘不能に追い込んだアルトに貴族の生徒達の心は完全に折られその場から一歩退いた。それを睨んでいたアルトだったが、ふと何を思ったかバッとその場を振り返る。


「・・・」


アルトが振り向いたのは他の着席している者達の方である。突然振り向いたアルトに心にやましい所がある者はそっと目を逸らし、そうでない者は陶然と見惚れた。


やがてアルトは再び貴族の生徒達に視線を戻す。


「・・・で、どうするの? 君達も殴られないと謝る事も出来ないのかな?」


「「「も、申し訳御座いませんでした!!!」」」


ずいと一歩踏み出したアルトの迫力に屈し、貴族の生徒達は一斉に頭を下げた。なまじ顔が綺麗な分、今のアルトは異様な迫力に満ちていたのだった。


しかしアルトは首を横に振った。


「僕に謝ってどうするの? 君達が謝るのは難癖を付けた彼らで僕じゃない。それに、こういう時の謝る言葉は取り澄ました言葉なんかいらないよ。素直に「ごめんなさい」って言えばいいんだ。・・・出来るよね?」


出来るかと言われれば否と言える者などもう誰も居なかった。貴族の生徒達は体の向きを90度変え、未だナイフやフォークを持っている庶民の生徒達に頭を下げた。


「「「ごめんなさい!!!」」」


「・・・という事なんだけど、許してあげてくれないかな? 何度も許せとは言わない、一回だけでいいんだ。多分、次は僕が何を言っても父様も彼らを許さないと思うから・・・」


「ふ、ふざけるなよ!!! こっちは殺されかけたんだぞ!!! せめてそいつらを半殺しにでもしなきゃ気が――」


「・・・そこまでやるんなら、今度は僕は君達と戦わなきゃならない。実際に事に及ぼうとした2人は罰を受けているんだ。過失だけで彼らをそこまで傷付けさせる訳にはいかないよ」


あくまで庶民の生徒達には柔和に接していたアルトの気配が先ほど貴族の生徒達と対峙していた時と同様の剣呑な物に変わって行くと、その手際を見ていた庶民の生徒達は鼻白んだ。逆に謝罪した貴族の生徒達は自分達を庇うアルトを驚きの目で見ていた。


「じ、上等だよ、こ、こっちには何人居ると・・・」


「やめろライハン。お前じゃ瞬きする間にブッ飛ばされんぞ」


「ジェイ!? 怖気付いたのか!!」


「いいから黙ってろ。俺が話す」


庶民の生徒達の一番前でナイフを構えていた少年が仲間を制してアルトの前にやって来た。


「確かに詫びは入れたんだ、これ以上揉めるのは面倒だし、筋も通ってる。だけどな、こんな諍いなんてのはこれからもきっと起きるぜ? その度にお前は今日みたいな事をして回るのか?」


「はい、その場に居る限りは」


ジェイと呼ばれた少年はジッとアルトの目を見ていた。アルトもジェイの目を見返した。


「・・・」


「・・・」


息の詰まる様な沈黙の中、先に目を逸らしたのはジェイの方だった。


「・・・へっ、貴族のクセに滅茶苦茶綺麗な目をしてやがんな。わーったよ、俺らからちょっかいを出す事はねえ。それでいいだろ?」


「うん、ありがとう」


「やめろ、お前の顔見てっと変な気分になっちまう。こっち見て笑うな」


「そ、それは言いがかりだと思うな・・・」


アルトの不満に答えず、ジェイは踵を返した。


「ジェイ、いいのかよ?」


「いーんだよ。貴族の中にもちったあマシなのが居るって分かったからな。それが一番偉い公爵の息子だってんだから、多少は期待してもいいだろ」


「・・・ちぇっ、せっかくの機会だったのによ」


そう言いながらもライハンは手にしたフォークを窓口に返した。それを見て他の者達も一時の熱が冷めたのか、次々とナイフとフォークを戻していく。


「何事だ!?」


そこに遅れて教師陣がやって来たが全ては終わった後であった。その場には貴族の生徒2名が転がっているだけである。


「難癖を付けて喧嘩をし、無断で相手に魔法を使おうとしました。一人は実際に、もう一人は未遂ですが。その事はここに居る大半の人間が見ていましたので間違いはありません」


「・・・分かった、とりあえずその2名は保健室に運んで後で事情を聞く事にする。生徒達は食事に戻れ!」


その言葉に最も安堵を覚えたのは未遂にも至っていなかった貴族の生徒達だろう。彼らはアルトの証言次第では一緒に連れて行かれたのかもしれなかったのだから。今になって頭が冷えてくれば、両親にはくれぐれも学校で問題を起こさない様にときつく言われていたのだ。もし手を出していたらそれは実家に伝わり、相当不味い事になったに違いない。


兵士達が立ち上がり、倒れた2人を担いで食堂を後し、教師陣も退室するとようやくその場の空気が和らいだ。


「あの・・・アルト様、我らを止めて頂き有難う御座います。もし手を出していたら我々も親も相当悪い事になっていたでしょう」


「全くです。つい頭に血が上ってしまって・・・」


「分かってくれたんなら別にいいよ。それより、様付けはやめてってば。さぁ、早くご飯を食べないと・・・って、もう30分過ぎてる!? ら、ラナティさん、エクレアさん、急ごう!!」


先ほどとは人が違った様に取り乱すアルトに貴族の生徒達はポカンと口を開き、エクレアは耐え切れずに忍び笑いを漏らした。


「う、うん・・・でも今からじゃあ・・・」


「ククククク・・・! ざ、残念だけどアルト君、お昼を済ませたら職員室に行く時間しかなさそうよ? 見回りはまたにしましょ」


「そ、そんなぁ・・・」


どうも今日の自分は時間と相性が悪いと途方に暮れるアルトであった。

バトルというほどバトルにはならなかったですね。一方的ですし。


感想でも書かれていましたが、失う物の無い庶民よりも貴族の方が学校での縛りはキツイです。しかも人望が無いと卒業後に就職も出来ずニートになるしかありません(家族が許すならですが)。領民にも知れ渡って他の土地に流れてしまうかもしれません。


近距離にアルトが居る状態で魔法を間に合わせられるのはハリハリくらいですね。まだ生徒はのんびり詠唱とかしてますしお話にならないレベルです。

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