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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-37 多忙な日々10

女子寮でそんな事があったとは露知らず、悠はハリハリ、ルーファウス、ローランと共に酒杯を合わせていた。


「初日から大忙しだったね、ユウ。ハリハリも予定に無い訓練までしてくれてご苦労様」


「そろそろ正しい無詠唱と高速展開術くらいは広めておいてもいいかと思いましてね。しかし大人は頭が固くて教えるのに苦労します。屋敷で子供達に教えた時の20倍は掛かりそうですし・・・魔法言語マギコードの理解も足りません。初等学校は基礎からなのでいいとしても、高等学校の先生方はワタクシが講義して理解を深めた方がいいでしょう。幸い、大半の先生方は興味を持って話を聞いて下さってますから。良い人選をなさいましたね、ローラン殿」


今回ハリハリは満を持して2つの魔法技術を開陳したが、やはりと言おうかそう簡単に実践出来る物ではなかった。独自に詠唱の短縮や魔法陣の改良を行っている者は居てもその先に辿り着くのはまだまだ時間が掛かるのだ。


それでもローランの人選は流石なもので、勤勉かつ善良と言える者達を短い期間で集めたのは流石と言えるだろう。


「・・・本当はこの倍は集めたかったんだよ・・・数だけならこの10倍以上は就職希望者が居たんだけどね。でも教師になって欲しいと思える者は思いの外少なくて・・・。いっそハリハリが教頭として教師陣を統括してくれたら盤石なんだけどねぇ・・・」


「すいませんね、ワタクシは魔法使いの先生ではなく、吟遊詩人になりたいのですよ。その為に死んだフリまでしたくらいですから、ヤハハハ」


「分かっているよ。でも時々でいいから学校にも顔を出して欲しいな。君は子供達にも人気だし、教えるのも上手だからね。それと聞いておきたいんだけれど、学校の印象はどうだった、2人共?」


ローランは本題となる話を切り出した。動き出した学校の第一印象を聞いて今後の参考にしたかったのだ。


「初めての事にしては上手く動き出したとは思うが・・・最も気になったのは庶民と貴族の間の溝が深い事だな。見た所、庶民は庶民同士、貴族は貴族同士で固まっている所が多い。低学年はまだそんな意識差も少ないが、学年が上に上がるにつれて顕著になっているように見受けられた。特に自我が固まってきた高等学校はあのままでは早晩衝突が起きるだろう。お互いが顔を腫らす程度の喧嘩で済むなら笑い話だが、下手に刃物や魔法でも使われると血を見る程度では済まんかもしれんな。早目に手を打った方がいいぞ」


「ワタクシも同じ様に感じましたね。そもそも魔法は基本的に庶民には馴染みの薄い物ですし、習熟にも時間が掛かるので高学年の者が多いです。そして高学年の者はより排他的ですから、庶民の子達は居辛そうでした。これでは庶民と貴族の意識差を埋めるという学校の理念が体感出来ません。これまで培われて来た既成概念を払拭するのは相当手間が掛かりますよ?」


「やはりそうか・・・壇上で見ていても私もそういう印象を受けたよ。同じ学年でも貴族は貴族、庶民は庶民で固まっている者達が多かったからね。だからこそああいう事を言って釘を刺したんだけど・・・このままじゃ共学にした意味が無いな・・・」


ローランは貴族であるが庶民に対する感情は悪くは無い。というのも彼の周囲の貴族が悪い意味で貴族的な人間が多かったので貴族に対する幻想が薄いからであり、相対的にそうなったのだ。高位の貴族ほどよく働くべきだというのがローランの持論であり、だからこそ多くの人間の上に立つ資格足りえると考えていた。ただ特権だけを振り回す貴族はローランにとって唾棄すべき存在だった。


確かに貴族は国の中心である。広大な領地と多数の領民を抱えるその存在は庶民にとっては雲の上の存在であろう。これまではただ貴族であるというだけで庶民から畏敬を集め、何不自由無く生活する事が出来たが、ローランはそこに使命感と責任を持ち込みたいと思っていた。片方だけが支えるのでは無く、貴族と庶民がお互いに支え合う社会である。それには両者の相互理解が必須なのだ。


「・・・正直な所、それについては私もルーファウスも頭を悩ませているんだ。ヤールセン君も必死に今までの遅れを取り戻しているけど、彼も一応貴族で食うに困らない生活をしていたからね・・・」


「私は王族として生まれて生きて来た。それにはそれの苦労があったけど、だからこそ両者の融和策などという物は不勉強なんだ。王族は統治する者であって、民衆を懐柔はしてもおもねりはしないのだから」


「ユウ、ハリハリ、何か両者を近付ける良い案は無いかな?」


残念ながらローラン達は庶民に対する理解はあってもその実情には疎く、これ以上は別の視点を持っている悠やハリハリの意見を参考にしようと話を振ってみた。


「さて、お約束の展開としては激しくぶつかった両者が互いに認め合って「やるな!」「お前もな!」という感じで仲良く・・・」


「あのね・・・真面目に考えてくれないかい? そもそも最初にぶつかり合った時点で死人でも出たら困るからもうちょっと穏便な方法は無いかって尋ねてるんだけど?」


「ヤハハ、これは失礼。ですがこんな試みは初めての事ですし、流石に私には思いつく事がありませんねぇ・・・若い者同士、同じ場所に暮らしていればその内仲良くなるんじゃないですか?」


「そうなればいいけどさ、今の様子を見ると不安なんだよ・・・」


頭を悩ませる3名を余所に悠が口を開いた。


「知らぬからこそ溝が深いのだ。ならば手本を見せてやればいい。ローラン、今回入学した中で知っている貴族の子弟は居るか?」


「何人かは居るよ。でも手本になるかと言われるとどうかな・・・。特にサフィリエ殿の娘さんなんかは貴族意識が高くて手を焼いているらしいし。副騎士団長のジェラルドも妹が入学したと言っていたけど、心根はいいけど喧嘩っ早いので困ってるんだって。とても手本とは言えないよ?」


ローランの答えに悠は首を振った。


「居るかどうか分からぬ者を手本に探してもしょうがない。この場合、手本になる貴族は爵位が高いほど良かろう。それも出来れば最も爵位が高い公爵家の人間が望ましい。そして今この国の貴族で公爵位にある貴族は一つしかないはずだ」


悠の言葉にローランは誰の事を言っているのかを悟って立ち上がった。


「その手があったか!! つまりユウ、君は・・・!」


そんなローランに悠は頷いて言葉を続けた。


「アルトを期間限定で学校に仮入学させる。公爵家の長子であり、誰に対しても偏見無く接する事が出来るアルトは適任だろう。剣や魔法、勉学、礼儀作法についてもアルト以上に修めている人間は同学年に2人と居るまい。少々細工や演技も必要だがな。今晩の内に内容を詰めるぞ。酒はここまでだ」


酒を仕舞う悠の隣ではハリハリが盛んに頷いていた。


「なるほど! 確かにアルト殿であればこれ以上無いお手本ですし、アルト殿にとっても同年代の子達との接触は良い経験になるでしょう! これは気合を入れて考えてあげなければなりませんね!!」


「残念だけどウチのルーレイじゃお手本にはならないしなぁ・・・それが出来ないからこそユウに預けているんだからね・・・。よし、私に出来る事なら何でも言っておくれ。王家としても喜んで協力するとも!」


「まず制服の用意が必要だな。それと日程の調整も・・・」


人の心を解き解す事は権力でも腕力でも上手く行かないものだ。だからこそ悠達はそれをアルトの人柄に託し、着々と詳細を煮詰めていったのだった。

やはりここが頭を悩ませる所です。という訳でアルトに頑張って貰いましょう。

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