1-47 千葉家4
「あら?悠さん、真はまだお風呂ですか?」
「ええ・・・少々湯当たりしたのか、風呂の隣の休憩室で休んでおります」
「全く、何をしているのかしら、うちの男連中は・・・」
嘆く睦月だったが、真がダウンしているのは違う理由からだ。
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「ふぅ・・・温まりますわね、悠様」
「ああ、千葉の風呂は俺好みの温度で嬉しいな」
あの後、悠と滉が風呂に浸かってまったりとしていると、自分も風呂に入ろうと真がやって来たのだ。滉は予め自分の脱いだ服を隠していたので真はそれに気付かずに風呂に入って来た。
「すいません、ご一緒させて頂きます。お背中流しましょうか?」
「いや、もう滉がやってくれたから大丈夫だ」
「そうでしたか、滉が・・・って、なんで滉がここに!?」
その時ようやく真の目に滉が認識された。人は思いもよらないモノは目に入らないらしい。
子供の時以来、妹と風呂に入った記憶の無い真は大いに狼狽した。
「あら、お兄様、御機嫌よう」
「な、な、な、・・・おっわあっ!!!」
さらりと答える滉に真の動揺は高まる一方で、我知らず後退していた足は段差に引っかかり、積んである桶の中に真はダイブした。ガランガランとかなり派手な音を立てて飲み込まれた真はしっかりと気を失い、悠に担がれて休憩室のソファに寝かされたのだ。出来れば意識と共に記憶も失っていて欲しいが。
「まだまだ悠様には及びませんわね、お兄様。・・・色々と」
桶の山からはみ出た下半身を見ながら呟く滉であった。
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「大方、滉が居るのに驚いて転びでもしたのでしょうね」
その言葉に逆に悠が驚く。
「ご存知だったのなら、止めて欲しかったのですが・・・」
「これが普段の事なら勿論止めましたよ?でも、あの子は今日は本気でしたし、しばらくは悠さんには会えませんから。今ならまだ兄と妹の『ようなもの』の範疇で済みますし。大丈夫です、情事は流石に許可しませんでしたから」
そういう問題では無いと思うのだが。
「未婚の女性が独り身の男に肌を晒すのは好ましく無いと思いませんか?」
「思いますよ?でも悠さんでしたから、大丈夫だと確信しておりましたわ」
「・・・ご信頼はありがたく思います」
さすがは亜梨紗と滉の母親である。二人は間違い無くこの目の前で穏やかに笑う女性の血を引いている。
「念の為、私も一緒に入ろうか迷いましたけれど」
思わず抜け落ちた頭のネジが2、3本どこかに落ちているのでは無いかと疑うセリフであった。
「謹んでご辞退申し上げます」
「あら、残念だわ。それに、万一悠さんがその気になったら、滉でも亜梨紗でも好きな方を娶って貰って構いませんからね?」
「そろそろご勘弁願えませんでしょうか?」
「うふふ、では私達も入浴して参りますわ。少々お待ち下さいね?」
「はい、自分には構わずごゆっくりどうぞ」
そう言って睦月は浴室へと歩き去った。
「・・・やはりまだ慣れないな」
《僕は別に人間の裸なんて見てもどうとも思わないよ?》
「いや、そういう問題では無くてだな・・・今までは居なかったから何とも思っていなかったが・・・」
《居たよ?ただアリサとはお話出来なかっただけだよ?》
「あ、そうか」
亜梨紗は昨日初めて竜騎士になったので、ウィナスといつも一緒にいるという状況にまだ慣れていなかった。そもそも竜の媒体となるペンダントは外す事は基本的に出来ない。これを外すには竜を『顕現』させるしかない。『顕現』とは簡易的に竜を作り出す技である。これには物質体、精神体、星幽体を制御出来る必要がある為だ。体を作り、精神を固定し、魂を定着させて初めて『顕現』が可能となる。そして悠をもってしてもレイラの『顕現』には莫大な竜気を必要とする。わざわざ風呂の為に外したりはしないのだ。
《それに、どうも誤解があるね?》
「誤解?」
《僕は雌、つまり人間で言うオンナノコだよ?一緒に入っちゃまずいのかい?》
「なっ!?そ、そうだったのか!?」
《やっぱり。すぐ気付いてくれると思ったんだけどね?昨日からお風呂に入る時に妙に意識していたからおかしいな、とね?》
「その、済まなかったウィナス。今まで女性型のパーソナリティを持つのがレイラさんしか居なかったから思い違いをしていたよ」
《そうらしいね?雌は個体数が少ないから仕方ないけどね?》
「しかし、それは嬉しい知らせだな。同性だと思うと肩肘を張らなくて済む。朱理さんのサーバインとかどうしているんだろう?」
《何年も一緒に話をしていれば、もう一番近しい友人みたいなものじゃ無いかな?それに、シュリは話した事は無いけど、そういうのには耐性がありそうだったよ?》
「ああ・・・確かに、朱理さんなら特に動じないかもしれん」
《それに、サーバインさんは紳士だから、多分入浴中に話しかけたりはしないと思うよ?それにさっきも言ったけど、竜は人間の裸には興味が無いし、そもそもその程度で動揺している人間は普通竜騎士にはなれないね?アリサは修行が足りないね?》
「うぐ・・・」
大体、悠とレイラ、朱理とサーバインという前例もちゃんとあるのだ。反論しようとして他の竜騎士の面子を脳裏に浮かべた亜梨紗だったが、誰も彼もが裸程度では動揺しなさそうだ。悠、匠、轟の三人は自分はおろか他の異性の裸でも動揺しなさそうだし、朱理も表面上は耐える気がする。兄の真は微妙に怪しいが。
妹の慧眼というべきか、先ほど滉の裸に動揺して転倒から気絶のコンボで沈んだ真がこの事を聞いたらきっと苦い顔をしたに違いない。
「・・・分かった、見られたい訳では無いが、精神は鍛えよう。私も燕や蓮の訓練に混ぜて貰うかな・・・」
《それと、物質体制御も同時にね?他の竜騎士に追い付きたいと思ったら、今までよりも2倍、3倍は頑張らないとね?ましてやユウさんとレイラさんに追い付こうと思ったら・・・どれだけやったらいいか、見当も付かないね?》
「普通にやっては絶対に無理だと思う。悠さんの訓練は常人の域を遥かに逸脱している。私では1時間も持たないだろう」
《では諦めるかな?》
「それは絶っっっ対に嫌だ!!だから、私は悠さんにどうしたら勝てるかも考えようと思う。協力してくれないか?ウィナス」
《それは中々建設的な意見だね?同じ道を歩いても追い付けないなら、別の道を探すのは悪い事じゃ無いね?いいよ、僕も協力するよ?》
「ありがとう、ウィナス」
《それでも尚且つ厳しい道のりになるね?僕もレイラさんとやりあった事は無いけど、間違い無く当時のままでは勝てなかったね?だから、お礼は成果が出るまで取っておいて欲しいね?》
「ああ、了解だウィナス。一緒に、強くなろうな・・・」
そうして亜梨紗は悠とは違う方法で強くなる決意をした。それが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰にも分からなかった。
ウィナスはウィナスちゃんでした。疑問符喋りは割と書き易いですが、読み易さはどうですかねぇ。