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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-35 多忙な日々8

開会式が終わった事で今日の学校は終了・・・となるほど時間に余裕は無いので、早速悠には教師陣との模範演武が設けられた。生徒達の一部低学年の者は鍛練場に設けられている中二階に移動してぐるりと周囲を覆い、それ以外の生徒も壁側に寄って鍛練場の中央にスペースを作ると普段の動きやすい服装に着替えた悠が腕を組んで教師陣を待ち受ける。


「では現役最強と呼ばれる冒険者が一体どれほど強いのか、少しお手本を見せて貰いましょう。ユウ、準備はいいかい?」


「いつでも構いません」


「結構。では教師陣、前に!」


ローランの問い掛けに頷いた悠の前にそれぞれ武装した教師陣が現れた。半分ほどは知らない顔だが、幾つか見覚えのある顔も見受けられた。


「残念だ、今日は本当ならバロー殿が来ると伺っていたのだが。この前の雪辱を期していたというのに」


「うむ、我ら3人を1分掛からず倒してのけた彼の方と今一度手合わせを願いたかった」


「格闘場で優勝経験がある程度で慢心していた我らの目を覚まさせてくれたバロー殿には感謝の念が尽きぬ。しかし、相手はⅨ(ナインス)の冒険者、各々方、油断召されるなよ?」


そう言ってそれぞれ得物を握り締めるのはバローが格闘場で秒殺した3戦士である。剣使いグロス、槍使いピアース、そして斧使いバルドの3名は教師を募集していた際、それぞれの格闘場優勝経験の肩書きによって採用されていた。他人に教える事で自分達の技を一から鍛え直そうという計算もある。


その他にはある程度年齢を重ねて引退か現役か迷っていたベテランの冒険者達も混じっていた。悠と目が合うと恐縮して深々と頭を下げてくる辺り、かなり合同訓練で悠に絞られたクチかもしれない。


格闘術や冒険術を教える教師は30名ほど居たが、あまり腕に自信の無い者は外れて20名ほどがこの模範演舞に参加する様だ。その他投擲術や弓術などをメインに扱う者も周囲の生徒が危険なので外れている。


「ではまず俺が行かせて貰う」


剣使いのグロスが教師陣から一歩前に進み出た。


この時点でグロス達3人は実は悠がバローより弱いと思っていた。それくらいバローの強さは印象的であったし、彼らは悠が戦っている所を見た事が無かったのだ。


(得物も持たない相手に剣を使うのも大人気ない気もするが・・・)


それなりに手加減すればローランや悠の顔を潰さずに済むかと考えていたグロスはふと視線を悠に移した瞬間、その立ち姿を見て凍り付いた。


それは戦闘を生業とする者がいつか辿り着く事を願う完璧な立ち姿だったからだ。体の何処にも重心が傾いておらず、体の力も偏っておらず、気配は渦巻いて絶えず周囲を探っている。その制空権にほんの少しでも不用意に踏み込めば、たとえ背後から斬りかかっても瞬時に叩き伏せられる事は間違い無い。


グロスの額に浮いた大粒の汗が雫となって顎先から滴り落ち、鍛練場の床を叩いた。


「・・・ユウ殿、もう少し抑えて下さい。そのレベルでやり合っても生徒には伝わりません」


「そうか、分かった」


動けないグロスを見かねたハリハリが口を出すと悠の纏っていたプレッシャーが薄まり、体の各部にごく僅かに隙が見い出せる様になった。


手加減されたのだとその場の教師陣は全員気が付いたが、対峙するグロスですらそれを責めようと思う気持ちは抱けなかった。それだけ全員が悠の力量を肌で感じ取っていたのだ。感じ取れただけ彼らは優秀であり、幸運であった。


「さあ、参られよ」


「よ、よろしくお願いします・・・」


悠の言葉を受け、すっかり畏まってしまったグロスはせめて無様にならぬ様、気合いを入れ直して悠に向かって行ったのだった。




そして二時間後。悠はまだ鍛練場で剣を受けていた。


「もう一足深く踏み込め。その位置では君の剣の切っ先は俺の体に届かない。怖くても相手に近付く勇気を持つんだ」


「は、はい!」


そう言って目で自分の足元を確認するのは三年生の男子生徒である。教師陣との演武は30分ほどで終了したのだが、そのハイレベルな(と、生徒の目には映っていた)やり取りは生徒達の心に強く印象を残し、最前列に座っていた生徒の目を見た悠が模擬剣を無言で差し出すと、その意図を悟った生徒は驚喜してその剣を受け取り悠と手合わせを始めたのだ。


そこからは雪崩式に我も我もと希望者が並ぶ事になり、その度に悠は求められるままに全員と手合わせをするに至っているのだ。


だがいくら希望者だけと言ってもその数は膨大であり、一人ずつやっていては夜になっても終わらないので悠に向かっていく生徒は4人がかりであったが、それでも悠には掠る事すらしなかった。


だが4人同時ともなれば悠は終始喋り続けなければならず、むしろ手合わせ自体よりそちらの方が大変だっただろう。


さて、生徒の全員が戦闘術に興味がある訳ではないが、それ以外の生徒がどうしていたのかというと、外に出てハリハリの魔法講義を受けていたりするのだった。


「まだ皆さんは魔法が使えない人が大半でしょうから、今日はワタクシが魔法がどんなものか教えて差し上げましょう。先ずは基本の『ファイヤーアロー』から」


そう言ってハリハリは藁で作った標的に向かって手を掲げた。


「魔法は一般的に4工程で行われます。魔法陣の構築、呪文、魔力充填、発動となりますが、まずは基本通りに行きましょう」


ハリハリは生徒に正しい手順を教える為にあえて工程を省かずに魔法を行使した。


「炎の矢よ、敵を撃て。『炎の矢』」


ハリハリの手の先に炎の矢が10本出現し、30メートルほど先にある標的に残らず撃ち込まれ藁人形を炎上させると感嘆の声が上がった。魔法を見た事の無い生徒の物が殆どであったが、中には今ハリハリが使った魔法の高度さを見抜いた教師の物も含まれている。


というのも、アロー系の魔法は数で狙いを付ける者が大半であり、この距離では半分以上は的を外してしまうのが普通なのだ。しかしハリハリは全ての矢を完璧に集弾させて命中させた。それは余程緻密に魔法陣を構築している証拠であるし、余分な魔力も使っていない事でもある。更に魔法行使に当たっての時間も素早く、相当な魔法使いである事は疑いない。


「少しずつ難度を上げて連続で行きますよ」


ハリハリが宣言して今度は手を斜め上に手を伸ばして『炎の矢』を詠唱して発動させるとそれは中間地点から下降に転じ、上方向から標的を撃ち抜いた。


「一口に『炎の矢』と言いましてもその使い方は応用次第で千差万別。単純に発動する様になったからそれで終わりではありません」


今度は横に駆けながら詠唱したハリハリは並んだ標的に一発ずつ正確に打ち込んでいく。


「そして慣れてくればこんな事だって出来るようになります。先ほど言った4工程の内の呪文を省き、魔法陣に魔力を充填しながら魔法を発動させるのです」


講義の口を止めずにハリハリの手から基本の手順と変わらない『炎の矢』が発動し、狂い無く標的を打ち抜いていくと教師陣は度肝を抜かれてしまった。今彼らにはハリハリが魔法陣構築から発動まで短縮されているのは分かったが、何故魔法の規模が減衰せず、魔力も過剰に消費しないのかが分からなかったからだ。魔法陣に魔力を充填しながら構築するという方法も初耳である。


「そしてここまで出来るようになれば極めたと言っても過言ではありません」


ハリハリがクルリと生徒達を振り返り、人差し指を立ててそう言うと『炎の矢』が上空に向かって縦横無尽に射出され、それぞれが様々な弧を描いて標的を射抜いていく。無詠唱高速魔法行使にアレンジを加えた超高等技術であった。


派手な魔法に生徒達は大喜びしたが、教師陣は全員顔色を無くしてしまっていた。なまじ知識があるせいでハリハリがどれだけ凄まじい事をしたか分かってしまったのだ。


ハリハリは立てた人差し指にフッと気障な仕草で息を吹きかけ、生徒達に向き直った。


「こうなるまでには相当努力しなければならないでしょう。それこそ年単位の鍛練が必要ですが、決して不可能ではありません。だから皆さんも頑張って練習して下さいね」


そう言って講義を締め括ったハリハリの下に殺到したのは生徒ではなく教師陣であった。もし生徒が今のハリハリのレベルを教師に求めているのなら出来ないままにはしておけないという教師としての矜持があったし、何より同じ魔法を行使する者としての興味が体面を上回ったのだ。


生徒達に向けた魔法講義は今度は教師に対象を変えて続く事になるのだった。

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