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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-34 多忙な日々7

ルーファウス、ローランの注目度は当然高いが、この場で最も注目度が高いのは他ならぬ悠である。悠はミーノスに現れてから3ヶ月足らずで世界最高とまで称される冒険者に上り詰めた立志伝中の人物であり、その活動は単なる冒険者の範囲に留まらず超法規的に政治にすら関わりを持つ。宰相であるローランの良き相談相手であり、ルーファウスに至っては友人であると公称して憚らないのだ。ある意味では他国の王より悠を重要視していると見なされても不思議ではなかった。


そして事実としてルーファウスもローランも他国などより悠を重要視しているのだ。人間の中で悠の事を最も深く理解している2人からすれば、それは当然の事に過ぎなかった。


開会式の始まった会場では、まず後援者としてルーファウスが声を伝える魔道具を持ち、短く学校に対する想いを述べていく。


「今日、予定通りにこの良き日を迎えられた事を嬉しく思う。我が国は人材を求めている。それは単に血筋や能力だけを意味する物ではない。能力とは正しい心が備わってこそ国の発展に寄与し、民衆を幸せに導くと私は信じている。君達は今それを手に入れる機会を得た。私は今後も君達を応援しよう! そしていつか私を助けてくれるのであればそれに勝る喜びは無い。君達の学校生活に幸多からん事をここに願う!」


万感の思いを込めてルーファウスが締め括り、ローランに魔道具をバトンタッチした。


「宰相兼理事長を務めますローラン・フェルゼニアスです。・・・私は皆さんが羨ましい。私達の世代にはこの様な進歩的な施設は存在しませんでした。同年代の貴族の人間は仲間ではなくただ蹴落とす敵か従わせる駒と見なすのが当然の時代でした。庶民の者達とはそもそも接点が殆どありません。そのせいでと言いましょうか、ここだけの話、私は気の置けない友人というのがほんの片手ほどしか居ないのですよ! ああ、もっと一緒に青春を謳歌出来る友人が欲しかった!」


ローランの冗談に生徒の中から笑い声が漏れた。


「ですが、これからの時代は違います。貴族であろうと幼い頃から庶民と交流を持ち、庶民であろうとこの学校に居る間は対等に貴族と学ぶ事が出来るのです。ぶつかり合いもあるでしょう。時には殴り合う事もあるかもしれません。しかしくれぐれも最初に言っておきますが、貴族と庶民の違いでその処遇に手心を加える様な真似はしません。問題が起こればその内容を調べて悪い方により重い罰を課します。それは当然の事だと心得て下さい。誰がやっても悪い事は悪いのだと肝に命じて下さい。それは私やルーファウス様であってもです。ルーファウス様が仰った様に、我が国は正しく生きる者を求めます。私はこの学校がその一助となるよう努めていきたいと考えています。どうか、実り多い時間を過ごして下さいね?」


ローランの言葉に拍手拍手が起こる。だがそれも全てが心からの拍手では無かった。上の学年の貴族の子弟ほど特権意識が染み付いており、渋々学校に入った者は形だけの拍手で内心では冷たく吐き捨てる者もそれなりの数に登っていたのだ。


その中には筋金入りの自尊心を持つエリオスも含まれていた。


(誰がこんな奴らと対等なものか! 貴様ら庶民がのうのうと遊び呆けている間に俺は死に物狂いで努力していたのだ! 知能も剣も魔法も同年代のクズ共に遅れを取る訳が無かろうが!!)


エリオスは登用試験に落ちてから、仕方なく高等学校に入学する事に決めた。別に能力が劣るからでは無く、上辺だけでも反省しているとローランに見せ付ける為だった。来年にもまた登用試験を受けるにしてもせっかく作った学校に入らずに過ごしたと知られれば印象が悪くなるだろうと思っての事だ。決して悔い改めたからでは無い。


実際、エリオスの能力は3年生の中でもトップクラスだろう。賄賂やコネで手に入れた物では無く、それは純粋に努力の賜物である。


(今度こそ何があっても合格して王宮に入るのだ! 宰相がどんな卑怯な手を使って来ても俺は絶対に諦めないからな!!)


と、エリオスは固く誓っていたのだが、残念ながらエリオスには知能はあっても経験が絶対的に足りていなかった。人間というより妖怪とも言うべき貴族達を幼い頃から身近に知り、若くして宰相まで上り詰めたローランはその程度の猫の皮で欺けるほど底の浅い人間ではなかったのだ。


(こうやって釘を刺しても内心で舌を出している人間は多そうですね。目に野心が見え隠れしていますよ? よろしい、それならその薄っぺらな自信がどこまで続くのか見てあげましょう。それを粉々に打ち砕かれて尚立ち上がれるのならそれはそれで傑物、手元に置いてもいいですね)


ローランは周囲に絶対的な服従者を欲しているのでは無く、筋の通った意見を臆する事無く述べる事が出来る者を求めているのだ。それが国の為、民衆の為になるのならば自分と対立していようと恐れるものなど何も無い。それは他者を排除する思考に立つエリオスとの絶対的な器の差であった。


「最初から小言ばかりでは皆さんも萎縮してしまうでしょうが、最後に一つだけ厳しい事を言わせて頂きます。来年度からは時間に余裕を持つつもりですが、今年度は年末までで学期末、つまり時間がありません。特に高等学校3年生は気合を入れて臨んで頂きたい。その為に幾つかの条件を満たさなければ卒業では無く放校、つまり退学にさせて頂きます。退学になった者は国に属する仕事には就けないと言っておきましょう。それでも役人を志すというのなら私は歓迎します。どうか頑張って下さいね?」


ローランはまるで誰か特定の人間を攻撃するかのようにエリオスの方を見ながら厳しい条件を提示した。その顔には薄く笑顔すら作られているが、言われた方のエリオスは怒鳴り声を上げないのが精一杯であった。


(糞!! 俺を嵌めて退学者にするつもりなのだな、ローラン!! そんな事で俺が諦めるなどと思うなよ!!)


「まぁ、良識のある人間であれば大丈夫ですよ。ここに居るユウと戦って勝てとか、そんな無茶苦茶は言いませんから安心して下さい。もしそんな人間が居るならすぐ将軍にして差し上げますけどね」


固くなりかけた空気がローランの冗談に紛れて緩和された。


「では私の挨拶はこの辺にしておきますか。次はそのユウに何か喋って貰いましょう」


隣の悠に笑い掛けながらローランは魔道具を悠に渡した。それを受け取った悠は立ち上がり、そして一礼して言葉を発する。


「君達は今何故ここに居るのか、今一度考えて欲しい」


悠の言葉に生徒達は自分が何故学校に来たのかを頭に思い浮かべた。


「その中の幾つかは俺でも察しが付くと思う。食べる為、生きる為に学校に入った者、よく分からないが面白そうだから入った者、冒険者や役人など、夢を持って入った者、単純に周囲の者が入ったから自分も何となく入った者。大体はそのどれかに当てはまるのではないだろうか? 誤解しないで欲しいが、俺はそのどれもが悪いとは思えない。それを前提に聞いて欲しい」


悠は少し間を取って言葉が浸透するのを待った。


「・・・俺も幼い頃に母上を失った。ドラゴンに殺されたのだ。人間がドラゴンに相対するのが如何に絶望的な事かはこの場に居る者達も多少は理解出来ると思う。辛くも助けられた俺はその時6歳だったが、自分の弱さを悔い、絶対に強くなると心に決めた。ちょうど今入学してきた最年少者と同じ歳だったな」


悠は一番小さな子供達の方に視線を向けながら言葉を続けた。


「人の可能性は無限だ。ドラゴンに襲われ泣く事しか出来なかった子供が20年もすればこうしてしたり顔で年少の者に訓示を垂れるようにもなる。今君達には何の力も無いのかもしれない。才能ギフト能力スキルも持っていないのかもしれない。だがそんな物で人間の価値は決まらないのだ。1年、2年、3年と努力を積み重ねる事で、君達は何者にもなる事が出来る。だが、無為に過ごした日々は何も君達に残さない。いつか老いて天に召される時、君達が自分の人生に悔いを抱かない事こそが幸せに生きた何よりの証だと俺は思う。幸いにしてこの国では自分を練磨する時間がある。どうか生きる目標を持ち、幸せな人生を送って欲しい。君達より少しだけ長く生きている大人はその手助けをしてくれるだろう。同年代の者達は良い刺激になるはずだ。時には競い、時には手を取り合って君達が我々の先の時代へ雄飛する日が来るのを楽しみにしている。以上だ」


静まり返った会場のどこかからパチパチとまばらな拍手が上がり始める。それはローランやルーファウスでは無く、悠の言葉を聞いて自然に共感した者から上がる拍手だ。それは急速に周囲に伝播し、会場全体を包み込む大きな拍手へと変化して行った。


どんな英雄や賢者も生まれながらにそうであった訳では無い。また逆にどんな大罪人や極悪人も生まれ付きそうあって生まれて来た訳では無いのだ。悠の言葉は子供以外にまだ何者でもない者達の心に届いていた。


鳴り止まない拍手の中、ルーファウスとローランは深い満足感に包まれながら開会式は無事終了したのだった。

応急処置として国の上層部をお掃除し、次は次代を担う子供にちゃんとした教育を。一歩間違えると洗脳になっちゃうので加減が難しいです。

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