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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-32 多忙な日々5

翌日、再び工事関係者は唖然とする他に選択出来る表情は存在しなかった。前日まで無残に崩落していた鍛練場が全く無傷で元に戻っているのだから当然と言えば当然だ。


現場監督は走り寄り、周囲をぐるりと回って、更に中に入って確かめたが、ごく微妙な差異以外にそれは完全な形で修復されていたのを確かめるだけの結果となった。むしろ正確に言えば分担して作った際の微妙なイメージの齟齬が無い分、今の方が綺麗に出来ていると言って過言ではない。


「何てこった・・・これは誰か一人の手で修復されてる・・・いや、もうこれは修復なんてモンじゃねぇ、再構成したと言う方が正しい! 一体どんな大魔法使いを呼んで来たんだ!?」


悠の元に駆け戻って来て喚く現場監督に悠は小さく首を振った。


「悪いが昨夜何をしたかという質問には答えられん。結果だけ受け取っておいてくれ。地中の雨に弱い部分は昨夜の内に修復しておいた。今後は大雨が降っても陥没する事はなかろう」


「おやっさん、本当みたいですよ! ここら一帯に『硬化ハーディング』が掛け直してあります。どうやって一晩でこんな範囲をやったのか、見当もつきません!」


「しかも鍛練場は完全な形で直ってます! これで間に合いますよ!!」


現場監督は悠が何をしたのか非常に気になったが、それは見せないし聞かせない約束であったのでそれ以上の質問を何とか堪え、全てを飲み込んで結果だけを考える事にした。


「・・・分かった、もう何も言わねぇ。だが礼だけは受け取ってくれ、ありがとう」


「いや、俺達も勉強になった。残りの作業も共に頑張ろう」


悠は差し出された手を握って現場監督と頷き合った。そこには遠慮の無い、確かな信頼関係が構築されていた。


それから2週間後、円滑さを増した作業は効率よく進み、予定された日時を更に2日短縮して竣工したのだった。




「では改めて、お疲れ様でした!」


ハリハリが杯を掲げると他の者達も一斉に杯を掲げた。今日は全ての作業を終えた慰労会である。


「いやー、工事って思っていたよりもずっと鍛練になるね! この3週間足らずで大分筋力が上がった気がするよ!」


「いいなぁ・・・僕も手伝ってみたかったんですけど、流石に公爵の息子が工事現場で作業するのは勘弁してくれって土下座までされると我儘も言えなくて・・・」


さっぱりとした笑顔で成果を喜ぶ智樹にアルトは無念そうに答えた。素性と顔を隠せば出来ない事も無かっただろうが、冒険者ギルドの依頼も相当に忙しく、そこまでして自分の欲求を優先させる訳には行かなかったのだ。それにアルトが本気を出すなら『勇気ヴァロー』を発動する事になるし、そうなれば自らに多少は傷を付けなければならない。何かの拍子にアルトの正体が露見すれば工事関係者は卒倒しただろう。


「今回の殊勲者は間違いなく始だったな。始が居なければまだ工事は終わっていなかったに違いない」


「そ、そんな事・・・! でも、ありがとうございます!」


「やるじゃん始! 悠せんせーに褒められるなんてよ!」


褒められた始は心底嬉しそうにはにかんだ。始の成果は全体の工事の5分の1に及ぶだろう。何しろ、鍛練場を丸々作り直したのは始であるし、校舎でも相当な範囲に始の手が入っているのだ。戦闘力では京介達に一歩譲る始であるが、汎用性で言えばトップクラスであろう。


「悠お兄ちゃん!! 明達も頑張ったんだよ!!!」


「そう、私達も頑張った。悠先生に褒めて欲しい」


「勿論明や蒼凪も良く頑張ってくれた事は知っているぞ。他の皆もよくやってくれた」


悠は明と蒼凪の頭を撫でながら皆を見回して感謝の念を込めて称賛した。明と蒼凪は気持ち良さそうに目を細めており、欲求に忠実な人間の方が楽しく人生を送れるのではないかと思わせた。


「他の子達も本当に良く頑張ってくれましたよ。学校の備品が膨大で国から材料の調達依頼がひっきりなしでしたからね。木を切って魔法で乾燥させたり、鉄の材料の鉄鉱石を取りに行ったり、糸の原料になる魔物モンスターを退治して繭を採取したり・・・連日東奔西走してようやく一息つけました」


ハリハリ達はハリハリ達で多忙な日々を送っていたのだ。学校には机や椅子も必要だし、武術の講義に使う武器や防具も必要になる。制服の布にしてもどこからか湧いて来る訳でも無いし、食事を出すのなら材料の食材もどれだけあっても足りないのだから。


「父様が喜んでいましたよ、ユウ先生。やっぱりユウ先生に頼んで良かったって」


「ウチの兄上もね~。大見栄切った手前、どうしても間に合わないとこまっちんぐだったって。後でご褒美くれるってさ。何かにゃ~?」


「正直、お金はもうそんなに必要ないですけどね。依頼をこなした分だけでも相当稼ぎましたから。ワタクシ達のパーティーは皆一芸に秀でていますから、大抵の事は出来ちゃいますし」


ギルドの依頼でも、例えば木はそのまま持ち込んでも価値が低いのだ。木を材料として使う時はまず乾燥させて水分を抜かねばならず、それが出来ないパーティーは依頼料も安くなってしまう。しかし『戦塵』には火属性を得意とする京介と水属性を得意とする朱音が居て、どちらも乾燥を促す事が可能なのだった。ここに始が加われば鉄鉱石から鉄だけを選り分ける事も可能で更に効率が上がっていただろう。


「しかし初年度の6年生までの入学者が4000人を超えるとは。高等学校も含めると7000人という話だったな」


「それだけの人間がよくもまぁ・・・。教える方も大変ですよ、これは」


「一学年当たり700人弱の計算だからな。とにかく大きく頑丈に作った意味があったと言うべきか」


「冒険者ギルド本部から『遠隔視聴リモートビューイング』の技術がもたらされたのは僥倖でした。そうでなかったら拡声器で講義をしなければならない所です」


学校は各学年4クラスまであり、一つのクラスの上限は200人ほどで設定されている。もっと少なければ前の方に全員を寄せて生の声で講義をする事も出来るが、学年によっては殆ど上限まで達している為、『遠隔視聴』無しでは後ろの生徒がまともに講義を受けられない可能性すらあったのだ。


「ミーノスは豊かだが、それでも孤児や食うに困る者は限りなく存在する。これまでは裏社会に身を落とすしか無かった者達が衣食住を求めて殺到すればこの数も理解出来る。皆が好き好んで裏に生きる訳では無いのだから」


「中には年齢を偽って低学年に入ろうとする者も少なくないそうです。より低い学年で入学すればその分長く学校に居られますから。流石に大人の入学希望者は6年生に固定という事になりましたし」


ミーノスの学校は初年度の今年だけは6年生に限って大人も入校可能である。今ある暮らしから学生を始めるというのはそれなりに冒険だが、結局6年生は大人の専用クラスという事になり、6年生の年齢の子供は5年生に振り分けられる事になった。お陰で5、6年生はどちらも定員一杯である。


「ただ食う為に学校に居座られては意味が無い。試験によって在校出来る最低ラインは設けておいて正解だった」


「そうでもしないとずっと留年して学校に留まろうとする不届き者も居そうですしね」


学校制度についても予測される問題点を話し合い、高学年からは留年無し、足切りラインに引っ掛かれば退学という厳しい基準が設けられた。もっとも、アーヴェルカインにはそもそも留年の概念すら存在しないのでそれが厳しいかどうかは分からないが。


「明日の開校式にはユウ先生も出席なさるんですよね?」


「ああ、俺とハリハリは出席する。共に武術、魔法の実演を求められているのでな。ハリハリ、ほどほどにしておけよ。十全に力を振るえなくてもお前の魔法技術は卓絶しているのからな」


「それはユウ殿も同じだと思いますよ? 『竜騎士』にならなくても規格外なんですから、他の教師を必要以上に叩きのめしたりしないで下さいね?」


「・・・なるほど、お互いに気を付けよう」


そんな打ち合わせをして、悠とハリハリは翌日の開校式に備えたのだった。

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