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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-30 多忙な日々3

その後解散となるはずだったのだが、それはギルド内の冒険者達が許さなかった。


「教官、今日はお祝いとして一杯やりましょうよ!」


「本部ではデカイ宴会をしたらしいじゃないですか! まさか私達とは一緒に飲んでくれないんですか!?」


「そりゃああまりに不義理だよな? そもそも教官はこのギルドの推薦だったんだから、まずここで騒ぐのが筋ってモンですぜ?」


義理や筋の話をされると悠も折れざるを得なかった。


「・・・分かった、明日からも忙しいから深酒は出来んぞ? 夜中まで飲んだら満足して切り上げろ」


「「「やったー!!!」」」


「お優しい事で・・・」


苦笑しながらも止めないハリハリは今回の顛末を聞かれるのだろう思い、リュートを一撫でしたのだった。




多数の冒険者を酔い潰し、翌日悠はまず王宮へと足を進めた。その服装は正装であり、装備も帯びてはいない。弔意を表す為に必要な物以外は全て置いて来たのだ。供にはルーレイとアルトを連れているが、ルーレイにしてみれば心が通っていないとはいえ自分の父親なので当然であるし、アルトも公爵の子息として顔を出すべきだという判断からだった。


迎えたルーファウス、ローラン、ヤールセンの顔色は予想したほど疲労に苛まれてはいなかった。


「お父上のご逝去にお悔やみを申し上げる」


「ああ、ありがとう。・・・正直、既に死んでいたのと殆ど変わらない状況ではあったけれど、昔の父上を知ってしまうと少々胸に迫る物を意識しない訳にはいかなかったよ。最終的には苦しまずに逝かれた事が救いかな。あまり民衆には慕われていなかったけど、それでも父上がこの国を守って来た事は事実だから」


「・・・もう一回くらいまともに話しても良かったかにゃ~・・・」


口をもにゃもにゃとさせながらルーレイがそんな事を呟くと、ルーファウスが目を細めた。


「お前がそんな事を言ってくれるとは、父上もあの世で喜んでるかもしれないな。私達親子はすれ違い過ぎた・・・。せめて墓前に花でも手向けてやってくれ、私も付いて行こう。ローラン、護衛にベルトルーゼを連れて行くよ」


「ああ。アルト、お前も一度参っておきなさい。お前にとっても主であった方だ」


「はい、父様」


そう言ってルーファウス達は退室して行った。


「・・・ふぅ、実は忙しかったのは昨日からでね。大きな声では言えないが、喪に服している時間の方が仕事自体は少なかったんだよ。まぁ、その分昨日から余計に忙しくなったんだけど、いつもより長く眠れたのは助かった。ユウ、Ⅸ(ナインス)になったんだってね、おめでとう」


「ああ、これは土産に約束されていた酒と、ギルド統括代理のオルネッタからの書状、及び『伝心の水晶球』だ。今後はミーノスとの連絡を密にし、様々な分野で協力体制を築いて行きたいと願っている。ちなみに俺の事情もオルネッタには通じていて、そちらも協力してくれる事になった。また、学校の分野でも一口乗りたいそうだ」


「流石に仕事が早いね。冒険者ギルド本部は第四の大国とも称される組織だ、情報網は随一だろう。ヤールセン君、その水晶球の使い方覚えておいてね。今後頻繁に活用するから」


「あの、これ以上仕事を増やされるとそろそろ俺も倒れそうなんですけど・・・」


流れで仕事を振って来るローランに軽く戦慄しながらヤールセンが同情を引く声で訴えた。


「ああ、それについては・・・ユウ、コロッサスに言っておいた話、受けて貰えたのかな?」


「俺が言い出した事だからな。手伝うのは当然の事だ」


「よし! これでヤールセン君は校舎建設の方から比重を移せるよ。建設に関わる絵図面をユウに渡しておいて。後は現場の人間の指示に従って貰うから」


割と本気の感謝の視線で悠を見ながらヤールセンは頭を下げた。校舎の建設は今やらなければならない第一の仕事であるが、これ以上どこからも人を調達出来る当てがなかったのだ。


「では早速俺は行く。ルーファウスにも話を通しておいてくれ。俺は当分忙しいとな」


「分かったよ、こっちはこっちで上手くやるさ」


そして悠は先に王宮を辞し、ギルドに待たせていた者達の中から工事に向かう者を選んで建設現場へと向かったのだった。




工事に参加するのは悠、智樹、始、ヒストリアの他に足場設置要員として樹里亜、装飾品制作担当として恵が参加する事になった。蒼凪は相当参加する為に食い下がったのだが、闇属性魔法に建設に有用な能力が無い為に泣く泣く冒険者としての依頼を消化する方に回された。


「・・・今ほど自分の得意属性を呪った事は無い・・・!」


「そ、その分依頼を頑張りましょう? 一杯頑張ればユウ先生もきっと褒めてくれますよ!」


「リーン、いい事言った。私、頑張る!」


割と単純ではある。


「そっちも頑張れよ、始! 俺も魔物をバッタバッタ倒して来るからな!!」


「うん、加工なら僕得意だから頑張って来る!」


「ハリハリ、ビリー、ミリー、引率を頼んだぞ」


「お任せあれ。シュルツ殿やギルザード殿も居ますから大丈夫ですよ」


「今回はシャロン様も一緒だからな。気合を入れて臨もう」


そう、今回は依頼の消化にシャロンも参加する事になったのである。


「シャロン、落ち着いてやればこの中ではお前が一番強いはずだ。自分を見失うなよ。危ないと感じたらすぐに下がるんだ」


「え、ええ、わ、分かりました・・・」


シャロンは自分だけ何もしないでいる事に罪悪感を持っていたので今回から簡単な依頼からこなして行こうと決意していた。シャロンは吸血鬼バンパイアの中でも最上位である『真祖トゥルーバンパイア』なので日の光の中ですら活動可能である。弱点らしい弱点と言えばその控えめで戦闘向きでない性格くらいであって、体力も魔力も莫大だ。相手がドラゴンでも負けはしないだろう。


「では出発だ。各自自分の出来る範囲で精一杯頑張る様に」


「「「はい!!!」」」


こうして現場入りした悠を待っていたのは大量の建設物資とずらりと平伏す作業員達であった。一緒に来た者達もその異様な光景には絶句するしかない。


「「「・・・」」」


「ほ、本日はお日ぎゃら・・・ンンッ! お日柄も良く、え、ええと、こ、この様な場所にごそ、ご足労頂きまして、えー・・・ま、誠に感謝に尽きず・・・」


「・・・おやっさん、もうちょっと流暢に言ってくれよ、これじゃ逆に無礼だよ・・・」


「し、仕方ねぇじゃねぇか!!! 俺ぁ生まれてこの方こんな偉い人と話した事なんかねぇんだぞ!!! 急に救国の英雄様が土木工事の手伝いに来るなんて何の冗談だってんだ!!!」


「おやっさん! 聞こえる、聞こえるから!!」


「あっ!? し、しちゅれ、ゴホン!! し、失礼致しました!!!」


どうやら急に悠達が来ると知らされて工事関係者一同は緊張していたらしい。動いてもいない内から額に汗を流す現場監督らしき男性に悠が立つ様に促した。


「・・・皆普段通りにして頂きたい。我々は工事を手伝う為に来たのであって、工事の邪魔をしに来た訳ではないのだ。敬語も必要無いし、余計な気遣いも無用。やればいい事だけを教えてくれ」


「・・・ほ、本当ですか?」


「本当だ。いいから始めよう。これ以上工期を遅らせる訳にはいかん」


悠の目が真剣なのを見て、現場監督の男性は自らを鼓舞して立ち上がった。


「よ、よし、それじゃ始めるぞ!! あ、あんたらの担当は向こうの壁面だ!! そこにある建材を運んで絵図面通りに加工してくれ!! 出来たら次の場所に移って貰う!! ・・・あの、こ、こんな感じでよろしいですか?」


「結構だ。恵は向こうの女性達と一緒に暗幕やカーテン、制服の裁縫を手伝ってやってくれ。恵なら10人分は余裕で働けるだろう」


「分かりました、では」


「智樹、俺と一緒に建材を運ぶぞ。樹里亜、絵図面を見て運んだ建材の位置確認を頼む。始は持って来た建材を随時加工してくれ」


「「「はい!!!」」」


「では開始!」


悠が一声掛けると早速子供達は一斉に作業に掛かった。そして悠は手近にあった建材に手を掛ける。


「ふっ!」


悠の持ち上げた建材の大きさに作業員が仰天した。通常、6~8人で何とか持ち上げるはずの建材を悠が一人で持ち上げたからだ。最初は魔法を使っているのかと思ったが、悠がそれらしき詠唱をした気配は無かった。


「よっ!」


その隣では智樹も悠よりは小さいがそれでも200キロは余裕でありそうな建材を持ち上げて肩に担いだ。無理をしていないというのはその表情や足元から嫌でも伝わって来る。


「よし、サッサと運び込むぞ。これも鍛練と思え、智樹」


「はい、どんどん行きましょう」


そう言ってスタスタと危なげない足取りで2人は持ち場へと歩いて行った。


「・・・・・・・・・はっ!? ば、馬鹿野郎!!! 何ボサッと突っ立ってんだ!! お前らも働くんだよ!!!」


「「「は、はいっ!!!」」」


その怒号を持って作業は急ピッチで進められたのだった。




「もうちょっと左ね・・・そう、そこそこ。線が引いてあるでしょ? はい、じゃあ始君は余分な所を削ってね。この絵図面通りに加工してくれたらいいわ。削りカスはヒストリアさんが消して。足元に溜めておくと危ないから」


「ふぅん・・・単純な形だね? これなら朱音ちゃんに水で切って貰ってもあんまり変わらないかも」


「そうなのよね・・・まぁ、仮校舎だしこんな物かもね。あ、ユウ先生、この場の作業は終わりました。次の場所の指示を受けましょう」


「そうか、もう少し効率を高めてもいいな。智樹は大丈夫か?」


「このくらいなら普段の鍛練の方がキツイですね。僕ももうちょっと急いだ方がいいと思います」


「ふむ、次はひーも加工を手伝ってやろう。ハジメには最後の加工だけ任せた方がゴミもあまり出ない」


「よう、作業は順調に・・・って、も、もう終わったのか!?」


悠達が上手く作業を進められているか心配でやって来た現場監督の前には滑らかに加工された壁面が聳え立っていた。作業速度といい仕上がりといい文句の付けようも無い出来栄えである。


「次はもう少し大きめの場所を割り振って貰いたいのだが、構わないか?」


「あ、ああ・・・そ、それじゃあここ一帯の壁は全部あんたらに任せるよ・・・」


「よし、では昼までに終わらせるぞ」


「いい運動になりそうですね」


「次は僕も魔法で運ぶのを手伝います。ひーちゃんが加工を手伝ってくれるなら楽になるから」


「じゃあどんどん運んで下さい。ヒストリアさん、絵図面を良く見て始君の作った部分に近い所まで削ってね」


「うむ、任せておけ」


有言実行、悠達は慄く現場監督や作業員を他所に、本当に昼までで幅50メートル、高さ20メートルの壁を作り終えたのだった。


「スゲェ・・・Ⅸ(ナインス)の冒険者はやっぱりスゲェ・・・!!」


尚、多少工事に関わる人間に妙な認識が広がっていたのは余談である。

始の土木無双。結構立派な一軒家なら一日で作れるレベルですね。


ちなみに運ぶ時は地面を動かしてスイスイと運びます。

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