7α-28 多忙な日々1
明くる日の行程は迅速であった。何しろ悠は『竜騎士』となって飛んでいたので当然なのだが。
「クォーラルからミーノスはそれなりに遠いと聞いていたが、随分と近いではないか」
「当然だ飛んで来たからな」
「?」
ヒストリアはまだ悠の『竜騎士』を知識として知ってはいても実際に目で見ていなかったのでそんな誤解も発生したりしていたが、行きに掛けた時間を15分ほどで消化し、ミーノスに近付いた所で悠は変身を解いた。子供達を残し、ハリハリ、シュルツ、ヒストリアと向かう先は王宮であるが、街に入る前に門番が注意を告げて来た。
「実は5日前、ルーアン前国王陛下が亡くなられましてね。皆昨日まで喪に服していたのですよ。お陰で流通も学校の工事もその間は滞ってしまってご覧の有様です」
元々人の出入りが多いミーノスの正門には普段に倍する人間が集まっている様に見えた。それもここで足止めを食っていた商人や旅人、そして冒険者が多いのだろう。
「という事は王宮も忙しそうですね・・・」
「帰りの行程分は早く帰ったのだから今日の所は冒険者ギルドだけにしておくか。土産の品々は明日にでも渡せばよかろう」
「それがいいと思いますよ。一刻を争う依頼を受けた訳ではありませんしね。コロッサス殿にⅨ試験合格の事と、ヒストリア殿の事をお伝えしておけばいいでしょう」
「ここのギルド長はころさか。会うのは久しぶりだな」
そういう訳で悠は冒険者ギルドに向かう事にした。弔意を示すなら正装が必要であるし、忙しい中で仕事を増やす事もないと思ったからだ。
冒険者ギルドに入ると悠達に気付いた冒険者が気さくに挨拶を送って来た。一時期の張り詰めた雰囲気は既に無くなっており、合同訓練は予想外の結果ももたらしていたのだった。
まず悠は幾つか受けた依頼と魔物の討伐を報告しにカウンターへ向かい、当然の様にエリーが応対した。
「おかえりなさい、ユウさん。お怪我が無いようでなによりです」
「ああ、ただいま。買い取りの事もあろうから先に報告しておく」
悠は懐から特注の冒険者証を取り出してエリーに提示して見せた。
「あっ! おめでとうございます、ユウさん!! Ⅸ(ナインス)試験に合格なさったんですね!!!」
「何とかな。これでコロッサスの面目も保てるだろうか?」
「勿論ですよ!! 何しろユウさんはミーノスギルドの推薦ですから!! わぁ、凄い凄い!!」
初めて見るⅨの冒険者証にエリーのテンションは限りなく高まっていた。エリーにとってもⅨの冒険者は憧れの存在だったのだ。それは元Ⅸのコロッサスに助けられたからでもあるし、亡き父が冒険者をしていた事も関係しているが、単純に冒険者の最高位に対する尊敬の様な感情がエリーにはあったのだった。
「うおおおおおおっ!? き、教官がⅨになったぞーーーーーっ!!!」
「マジか!? うはっ、Ⅸの冒険者証なんて初めて見たぜ!!! ありゃあ魔銀に魔金か? あれを売るだけでいい金になりそうだ!!!」
「キャア!!! 凄いわ、これでこのギルドの格も上がるわよ!!! もう弱小なんて言わせないんだから!!!」
「へへっ、これで大手を振ってミーノスの冒険者だって言えるな!!!」
「きょうかーーーん!!! おめでとうございまーーーす!!!」
エリーから発生した熱は瞬く間にギルド内を伝播し、冒険者達は快哉の声を上げた。Ⅸの冒険者が所属しているとなれば、その付加価値として他のギルドよりも一段高く見られるのが慣例である。悠はこのギルドでランクを駆け上がった新人にして生え抜きであるし、二月少々でⅨまで上り詰めた悠の記録は誰にも抜かれる事は無いだろう。そもそも最初にこの地に降り立った時点で悠であればⅨ試験程度は受かっていただろうが、その間に掛かる手間を省く事は出来ないのだからやはり最速と言うに相応しい。
悠は軽く手を上げてそれに応え、エリーに向き直った。
「取りあえず確認が終わったらコロッサスに繋いで貰えるか? 少し報告もあるのでな」
「はい! すぐに済ませますね!!」
上機嫌に仕事を片付けるエリーだったが、これだけ騒いでいて中に居るコロッサスが気付かないはずが無く、ほどなくして執務室のドアが開いた。
「おーい、うるせえぞー。・・・ユウ、この様子を見るに上々の結果だったらしいな?」
「ああ、ご覧の通りだ。それと・・・」
悠はチラリと後ろに視線を送った。
「うん? そっちはもしかしてヒストリアか?」
コロッサスの一言にギルド内が静まり返った。が、悠は全く気にせず話を続けて行く。
「ああ、これからは俺と行動する事になった。面識はあるのだろう?」
「おう、2回くらいだけどな。久しぶりじゃないか、ヒストリア」
「・・・あまり名前を連呼するな、ころさ。皆が驚いているではないか」
「だったらどうしたって言うんだ? これからはユウと行動するんだろ? だったら遅かれ早かれ周囲に知れる事だ。今言おうと後で言おうと同じ事さ。それにしても流石だな、ユウ。ここにヒストリアが居るって事はだ、お前さん、ヒストリアに勝ったんだろ?」
オルネッタから事情を聞いたらしいコロッサスが眼帯の無い片目を軽く閉じて見せた。これを機にサッサとヒストリアを一般に認知させる腹積もりらしいと察した悠もその話に乗っかる事にした。
「ああ、これまでやった相手の中でも攻撃力、防御力共に最高クラスだったが何とかな。とりあえずは俺と行動して制御力に更に磨きを掛けて貰う。現状でも殆ど穴は無いが、鍛える余地はあるからな」
「ははっ、『奈落の申し子』もお前にとっちゃまだまだか。ミロとサイコを倒してヒストリアにも勝ったお前さんだ、心配はしてねぇさ。しかし五強の勢力図も書き換えだな。バローやシュルツもいい線いってるしよ」
「拙者には過大な評価かと。現役に拘らなければコロッサスやアイオーンだって引けは取るまいに」
「ヤハハ、あと2人倒せばユウ殿が名実共に五強筆頭ですね。争わないに越した事はありませんけど」
あまりに軽く悠とコロッサス達が雑談を交わしているので、冒険者達のヒストリアに向ける戸惑いの目も次第に悠への尊敬や憧憬にすり替わっていった。
「そっか、教官が飛びぬけて凄いだけなんだよな。もう五強だって半分以上に勝ってるんだし」
「良く見たらあの子、可愛いじゃない。そんな怖い子には見えないわ」
「流石五強クラスだと『戦塵』に入れるのかぁ・・・いっその事、五強全員を『戦塵』に入れちまえば最強じゃねぇか?」
「バーカ、他の四人の噂は聞いてるだろ? 素直にパーティーに入るもんか。・・・ミロやサイコがお行儀良く教官の後ろをトボトボ歩いてるって想像は笑えるけどな?」
「言えてる! ギャハハハハハハハ!!」
いつの間にかギルドには喧噪が戻り、コロッサスやハリハリはニヤリと相好を崩した。それは謀が成功した共犯者の笑みだ。
「とりあえず中に入れよ。こっちはこっちで色々忙しいんだ。特に前国王陛下が崩御して仕事が止まっちまってたからなぁ。オルネッタから聞いている話もあるしよ」
「確かに大変だったらしいな。俺も王宮に行くつもりだったが明日に回す事にした」
「正解だな、せめて今日は行かない方がいい」
そんな雑談を交わしながら、悠達の姿は執務室へと消えて行った。
新年一発目。・・・すいません、年越しそばを啜りつつ一杯やったので誤字があるかも。また朝になったら見直します。
そして明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします(礼)




