表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/1111

1-46 千葉家3

「・・・何をしている、滉?」


「ですから、お背中を・・・」


「そうじゃない。早く出て・・・いや、もういい。というかせめてタオルを巻いて来い」


「え~・・・は~いですわ」


悠は出て行かせようとして早々に諦めた。言って聞くようなら苦労はしないのだ。これまでの経験上、決して引きはしないので、よりましな代案で誤魔化すしか無かった。


《いいの、ユウ。どうみても一緒にお風呂に入る適齢期は過ぎてると思うけど》


「滉が隠していればいい。俺は見られても構わん。気絶させて脱衣所に放り込んでおいてもいいが、誰かが見たら間違い無く暴行事件と勘違いするだろう。かと言って風呂の中で転がしておいたら別の容疑だ。事の範囲が俺だけで済むうちにさっさと風呂を終わらせて出るさ」


《まぁ・・・確かに。どうしようも無いわね。どう転んでも騒ぎにしかならない未来が容易に想像出来るわ》


当然、悠に色仕掛けは通用しないのだが(しかも滉は悠にとって妹の様なものである)、滉は年々悠に対するアピールが過剰になってきていた。今日ほどの事は初めてだったが、15歳になった今、今後を考えると一度自分の女性観について話をする必要があるのかもしれない。そのうち夜這いでも仕掛けて来る勢いだ。いや、今晩はもう危険かもしれない。


「お待たせ致しました!ささ、悠様、座って下さいまし!!」


そんな事を考えているうちにバスタオルを巻き付けた滉が再登場して嬉しそうに悠を促した。


「・・・ああ」


悠はその嬉しそうな顔に、色々言いたい事を飲み込んで、背中を向けて椅子に座った。


「うふ、では失礼して」


そう言って滉はタオルを泡立て、悠の後ろに膝をついて背中を擦り始めた。


「悠様の体、傷だらけですわ・・・でもとても大きい」


「滉、気持ちは嬉しく思うが、こういう事はそれこそ結婚でもした後に相手にやってやれ」


「え?悠様、ついに私と結婚して下さいますのっ!?」


「何故そうなる・・・」


《ユウ、ちゃんと話さないとアキラには伝わらないわよ》


「(どう言ったものか・・・)」


悠がやんわりとアキラに拒絶の説明をしようと言葉を選んでいると、その前に滉から話し始めた。


「・・・分かっていますの。悠様は強い女性がお好みなのですよね?」


「ん?・・・うむ、真にでも聞いたか?」


「はい。『いい加減に諦めろ。悠さんは自分と同じくらい強い女性がお好きなのだ。滉ではどうあっても無理だろう?』って」


滉は悠の背中を洗いながら想いを語る。


「でも私、考えましたけれど、この国に・・・いいえ、この世界に悠様に匹敵するほど強い方なんて女性はおろか、男性でも居ませんわ。例えお姉様が竜騎士になっても、先輩の竜騎士である朱理さんでも、そして私でもある意味同じラインでしかありません。私が蟻として、お姉様が獅子だとしても、結局竜リュウに勝てない事は同じですもの」


「・・・」


悠は黙って滉の想いを受け止めている。


そうなのだ。結局悠に敵わないなら、強さの差には意味が無い。


「それでも私、これっっっっっぽっちも諦めておりませんの」


滉は親指と人差し指を限り無く0に近づけて力説した。


「悠様が女性に強さを求められる理由もなんとなく分かりますの。悠様はお優しいですから・・・弱い女性が力及ばず先立たれるのが嫌だからではありませんの?」


悠は驚いて滉を振り返った(無表情ではあるが)。今まで、誰もその事に思い至った者は居なかったのだ。悠があまりに強いせいで、単に悠の嗜好なのだろうと思われていた。


「・・・ああ、その事に気付いたのは滉が初めてだ。良く分かったな?」


「だって、一番好きな殿方の事ですもの・・・滉はいつも悠様の事を考えておりますのよ?」


《恋する乙女を嘗めちゃ駄目よ、ユウ》


「ああ、恐れ入った。その通りだ、滉。俺は、俺が守れない時に相手に逝かれるのは我慢ならんのだよ」


そんな悠の脳裏にはその思いの原風景たるあの神崎家強襲の日が思い出されていた。悠の母親の美夜は子供達を守り、そして力及ばず倒れた。それでも父親の修と美夜は最後まで相手と共にあった。悠はそれを理想の夫婦像であると思うと共に、更にそこで生き残って笑い合える、そんな家族を願ったのだ。


「戦場で酷い戦いをして皇都を離れている時でも、俺と同じくらい強いのなら、きっと皇都も無事だと信じられるのだ。殴られても、切られても、焼かれても、それでも倒れなければ、と。俺はきっとそんな相手を求めている。だから今はお前の気持ちに応える事は出来ん」


滉はその言葉を聞きながら、悠の傷に手を這わせていた。


「この傷一つ一つが私達の為に負って下さったものだと思うと、滉は自分の身が引き裂かれる思いです。・・・私には人並みの力しかありません。いくら鍛えても悠様の足元にも及ばないでしょう」


滉は悠の肩を掴むとぎゅっと力を込めた。


「それでも私、悠様が好きなんですの。これから平和になったら、もしかしたら悠様がお気持ちを変えて下さるのではないかと期待していますの。むしろ私が悠様のお心を変えてみせると信じているんですの・・・」


いくら力を込めても悠の肩は小揺るぎもしなかった。しかし悠はその手に強い力を感じていた。込められているのは力だけでは無かった。


「だから私、絶対、ぜーったい!諦めませんの!途中で諦める様な『弱い』女性は悠様のお好みではありませんものっ!!」


滉は泣き笑いの表情で悠に宣言した。


「・・・分かった。俺ももう何も言わん。ただ、滉」


「な、なんですの?」


「本当に立派な淑女レディになったな・・・」


肩越しに背後の滉の頭を撫でる悠の顔は普段よりも少しだけ優しげだった。


「ゆ、ゆ、ゆ、悠さまぁっ!!!」


我慢していた涙を悠の背中に抱きついて流しながら、滉は本当に嬉しそうに泣いた。

今の所、悠に本気なのは志津香、亜梨紗、滉、燕ですね。


蓮はそこまでで無く、恵はまだ踏み込めていません。


あ、明も本気ではありますね、うん。(六歳児)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ