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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-25 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子25

結局4日間、悠はクォーラルの街から出る事は叶わなかった。それでもオルネッタが奮起したお陰で4日で済んだと言うべきであって、本来なら一月程度拘束されても不思議ではなかったのだから破格の待遇と言えるだろう。


その間に悠は請われてギルドで訓練を施したり、街で買い物をしたりして過ごしていた。同行していたヒストリアは全てが物珍しいらしく興奮気味であったが、それを大っぴらにするのも恥ずかしいらしくあえてそんなに興味の無いフリをしたりしていたのだった。


そして訓練を施した事で悠に対する冒険者の対応は益々上位者に対するものに変化していき、ここでもまた悠は教官と呼ばれる事になっていた。


「教官、おはよう御座います!」


「ああ、おはよう」


「教官、今日は訓練は?」


「今日この街を発つ事になりそうでな、今後は自分達で創意工夫してくれ。個々人に行った助言を実践すればある程度まで効果は上がるはずだ」


「「「教官、ありがとうございました!!!」」」


「皆の今後に期待する。努力すれば誰でも同じ様に強くなれる訳ではないが、しなければ決して強くなる事は出来ん。肝に命じてくれ」


それを見てオルネッタは何とも言えない表情で悠を見た。


「・・・あのね、本部の冒険者を私兵団にしないで欲しいんだけど・・・?」


「しておりません。彼らは自由意志で行動しておりますし、自分は彼らに命令する権限を持ちません。あくまで一時の間訓練を施しただけです。そうだな?」


「「「その通りです、教官!!!」」」


一糸乱れぬ返答にオルネッタは額を押さえた。


「・・・そう、分かったわ。・・・はぁ、やっぱりⅨ(ナインス)になるような冒険者はどこか頭がおかしいのね・・・」


「あまりご自分を卑下なさらぬ方がよろしいかと」


「私はもう引退してます!! ・・・もう、分かってて言ってるでしょ?」


「それより自分に何かご用ではないのですか?」


軽く冗談で流し、悠は会話の先を求めた。


「これを持って行って頂戴。ルーファウス陛下、フェルゼニアス宰相閣下に宛てた書簡よ。冒険者ギルドはあくまで国に拠らない独立独歩の組織だけど、正当な理由がある事案に対して協力を惜しむものではないわ。今後はミーノスとは連絡を密にしておきたいの。その証として『伝心の水晶球』をミーノスに贈るわ。是非役立てて欲しいとお伝えしてね」


「これは指名依頼と思ってよろしいのですかな?」


「ええ、そうして。もう手続きは済ませてあるから。それとあなたの冒険者証よ」


オルネッタが懐から魔金グラリルで装飾された冒険者証を取り出して悠に渡した。他の冒険者の物とは違い、それ自体が魔銀ミスリルのプレートで作られた高級品である。Ⅸの刻印がギルド内の明かりに反射してキラリと輝いた。


「ありがたく拝領します」


「・・・これでお別れね、ユウ。あなたには言葉では言い表せないくらい色々とお世話になったわ。改めてありがとう」


「自分は自分のやりたい様にやっただけです。何かお困りの事がありましたらミーノスにご連絡下さい。微力ではありますがお力になりましょう」


「微力ねぇ・・・フフ、いいわ、その時はよろしくお願いします。それと、ヒストリア」


オルネッタは悠からヒストリアに視線を移した。


「なんだ、おるねー?」


「いつか言わなければと思っていたの。・・・あなたの事を長い間ギルドに閉じ込めてしまって本当に――」


「言うな!!」


謝罪の言葉を口に仕掛けたオルネッタをヒストリアが強い口調で遮った。


「別にひーは無理矢理閉じ込められていた訳ではない。後先を考えなければ出る事くらいは簡単だった。ひーは禁忌指定という肩書きを利用して籠に閉じこもっていただけだ。おるねーが謝る事なんか何もない」


「ヒストリア・・・」


「むしろ言わなければならない事があるのはひーの方だ。・・・・・・おるねー、ひーに優しくしてくれてありがとう。おるねーやてぃーが居なかったらひーはもっとずっと早く生きるのを諦めていたと思う。この7年でつくづく思い知った。強いだけでは生きていく事は出来ないと。人が生きていくには誰かの温もりが必要なんだと。・・・おるねーの事は、お母さんみたいに思ってた・・・」


「っ! ・・・ば、馬鹿ね、そこはせめて、お姉ちゃんって、言いなさいよ・・・!」


別れの前口上にオルネッタは目頭が熱くなり、跪いてヒストリアを抱き締めた。初めて抱き締めたヒストリアはやはり悲しいくらいに細く、小さかった。その事がオルネッタの罪の意識を大きくさせた。


急に抱き付かれたヒストリアは驚いた様子だったが、やがておずおずとオルネッタの背中に手を回した。


「ひーには姉は居なかった。だから知ってる事でしか表現出来ない。・・・お母さん・・・」


「・・・もう・・・! 泣かないって決めてたのに!! ・・・ヒストリア、体に気を付けて、病気にも、怖い人にも、危ない所にも、それに、それに・・・」


言いたい事は沢山ある。引き留めたい気持ちも同じくらいに。だがそれはヒストリアに言ってはならない事だと分かっていたオルネッタの口からは嗚咽が漏れるだけだった。


「大丈夫、ひーにはゆーが居る。もう無意味に死のうとしたりはしない。・・・たまに帰って来るから、ね?」


「・・・ええ。行ってらっしゃい、ヒストリア。ユウ、ヒストリアの事をくれぐれもお願い。この子に広い世界を見せてあげて。そして叶うならば平和な世界も・・・」


「承知しました。その事について骨惜しみするつもりはありません」


悠の口調は普段と変わらなかったが、普段と変わらないという事は約束を守るという事だ。オルネッタにもそのくらいは悠の事が分かる様になっていた。


ヒストリアが手を放したのを感じ、オルネッタも名残惜しく思いながらヒストリアを放した。


「・・・ユウ、アライアットには気を付けなさい。あの国はもう以前と同じじゃない。国力は減じたけど、その分不気味さは増したわ。ギルドでも詳細は掴めていないの。行くつもりがあるなら注意して」


「ご忠告痛み入ります。気を付けましょう」


悠は受け取った品々を鞄に詰め、今一度ギルドを見回した。皆が悠を注視している。


「冒険者こそ最も自由なる者。歩む道は一人一人全く違う物であろう。皆がその道を全う出来る事を祈っている。さらばだ」


踵を返した悠の背後の冒険者が武器を斜めに掲げた。周囲の者もそれに倣い、次々と己の得物を抜き放って掲げて行く。冒険者に敬礼などという堅苦しい事は似合わない。だからせめて戦友を己の武器を掲げて送り出すのだ。


だから悠も右手を突き上げてそれに応えた。それで十分なのだ。


「冒険者こそ最も自由なる者、か・・・。生きるも死ぬも、汚名も名誉も選択するのは自分次第と言う事ね・・・私も自分の道を全うするわ、ユウ」


この時の悠の言葉は冒険者達の心に強く残り、以後冒険者ギルド本部の入り口にその言葉は飾られる事になるのであった。

ヒストリア加入編、完です。全体としてシリアス色が濃い感じになりましたね。


さて、七章ではまだ書かなければならない事が幾つかありますので、次からはそちらに以降していきます。

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