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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-24 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子24

「・・・えーと、何これ?」


「あ、オルネッタ様・・・その、ユウ様が・・・」


ギルドの食堂兼酒場の一角にぽっかりと存在していた空白にオルネッタが呟きを漏らし、額に汗を滴らせるギルド職員がそれに応じた。食堂はそろそろ混み合い始める時間だというのに誰もその周囲に近寄ろうとはせず、馬鹿騒ぎする者も居ない。そしてその中心には当然の様に悠が居て、静かに本を読んでいた。その膝には恵と樹里亜が頭を預けて横になっている。


「構わないから報告しなさい」


「は、はい。あの、お連れの方が眠っていて、それでユウ様が動けないと考えた冒険者が何人かちょっかいを掛けようとして・・・」


レベルの低い冒険者の行動にオルネッタは額を押さえた。どうして昨日の悠を見てそんな命知らずな真似が出来るのか、いっそ頭の中を切り開いて見てみたいくらいである。


「・・・はぁ・・・そんな力量も弁えない馬鹿は牢にでも叩き込んでおきなさい」


「多分その前に治療が必要です・・・」


「当然自費よ。冒険者は自己責任、それで死んでも自業自得ね。はい、行動行動」


ぞんざいに言い捨て、オルネッタは悠の方へ足を進めて行った。立場上、悠にも一言言わねばならない。


「ユウ、ギルド内での揉め事は困るのだけれど?」


「正当防衛です。突然得物を抜く様な輩が冒険者をしていてはギルドとしても体面が良くなかろうかと」


「・・・とにかく今後は自重して、お願いだから。Ⅸ(ナインス)のあなたは他の冒険者達の規範になって貰わないと」


「配慮はしましょう。次からは外でやる事にします」


コロッサスに返答した時と同じ様な返答をして悠は先を促した。


「それより自分にご用があっていらっしゃったのでは?」


「そうよ。取り急ぎ、ヒストリアの禁忌限定解除の書類とあなたのⅨ認定書類、この両方に署名して。それと、あなたの冒険者証も更新するわ。・・・ところでヒストリアはどこ?」


オルネッタから書類を受け取って目を通しつつ悠は答えた。


「釣魚亭という宿屋に宿泊しております。もうそろそろ全員でこちらにやってくるのではないかと。・・・これでよろしいか?」


悠は必要な部分にサインし、出来た書類と冒険者証をオルネッタに渡した。


「結構。・・・それと、くれぐれもまだこの街からは出ないでよ? あなたには頼みたい事があるんだから」


それはミーノスへの伝言だろうと察した悠は無言で頷いた。




さて、恵と樹里亜であるが、オルネッタと悠が話している時に実は覚醒していた。だが彼女達は容易に起き上がる事は出来なかったのだ。何しろ、周囲の者が皆オルネッタと悠を見ているのである。そんな中、自分達の現状は悠に膝枕されて爆睡中となれば、恥ずかしくて起き上がれないのも無理はない。・・・それと若干、この状況が終わってしまうのが勿体無いという考えもある。


(ど、どうしよう・・・樹里亜が起きたら私も起きれば注目されないかな!?)


(顔に変な跡とか付いてたら恥ずかし過ぎる!! せ、せめて先に恵が起きてくれれば・・・)


そしてそんな2人に一番最初に気付くのは当然悠なのだ。


「・・・? 2人とも起きているか?」


体に入る力から違和感を感じ取った悠が口を開くと、恵と樹里亜はビクッとして恐る恐る目を開けた。そしてどちらからと言う訳でも無く俯いたまま体を起こす。


「・・・い、今起きました・・・」


「お、同じく今起きました。・・・ちょ、ちょっと顔を洗って来ます!」


「わ、私も!」


なるべく他の者に顔を見せない様にして恵と樹里亜は大急ぎで顔を整えに水を求めて走り去っていった。


(ユウ、女の子にはもっと配慮しなさい。年頃の女の子は寝起きの顔なんて人に見られたくはないものよ)


(済まん、次からは気を付ける)


「ああ、昨日手伝ってくれた子達ね。厨房のジスカから謝礼を受け取っているわ。随分料理が上手いらしいじゃないの」


「我ら全員の食事を作ってくれていますので」


恵が『家事ハウスキーパー』の才能ギフトを持っている事は口には出さなかった。どうやら相当希少で応用範囲の広い才能である事は恵の活躍を見れば明らかだ。知れ渡れば恵の身に危険が及ぶかもしれないと悠は考えたのだった。


「さて、動ける様になったのならちょっと付き合って頂戴。他の人達が来たなら案内させるから」


「了解しました」


自分達の事を話すいい機会だと考え、悠もその場から立ち上がったのだった。




悠が居なくなった後のギルドの食堂での一幕。


「・・・ぶはぁ! 怖かった・・・!」


「誰だよちょっかい掛けたアホ共は!!! 昨日のアレを見てよくそんな馬鹿な真似をしやがるな!?」


「あいつらこの辺を拠点にしてる奴らじゃなかったからな・・・大方、今日街に入ったんだろ? でもってどこかでユウさんの噂を聞いて名前を売ってやろうと・・・」


「連れの子に触ろうとした瞬間、あいつらの手にフォークが生えたもんな・・・。お前ら見えたか?」


「刺さった後にようやく気付いたっての・・・こんなモン、どんな勢いで投げたら腕を貫通すんだ?」


「とにかく、ユウさんがここに悪印象を持ってもう来なくなっちゃ困る! 次からは馬鹿な奴が現れたら俺達でシメるぞ!」


「おう! あの嬢ちゃん達には美味いメシを食わせて貰った義理があるからな!」


「ウチのパーティーに入ってくれねぇかなぁ・・・ウチの女共と来たらもう動物のエサとしか・・・」


「ちょっと! 働きが悪いクセに量だけ食ってるあんたに言われたくないわよ!!! 大体ね・・・」


「ああ、そう言えばこの祭り、定例化するって噂が・・・」


「噂っていうなら、ここでもミーノスでやったみたいな合同訓練をやるとか・・・」


そしてギルドは普段の喧騒を取り戻して行くのだった。




ミーノスよりも随分と広い執務室で悠とオルネッタは向かい合って座り、悠は自らの事情を明かしていた。オルネッタにしてもコロッサスに問い質す時間もなかったので悠からの説明は初耳である。


「・・・つまり、あなたも子供達の大半も『異邦人マレビト』なの?」


「そうだ、ノースハイアに降り立った俺はその後ミーノスへと移り、紆余曲折を経てここにいる。ミーノスは旧貴族派は一掃され、ノースハイアは改革の最中にある。次はアライアットに向かう事を予定している」


「各地のやけに大掛かりな改革の裏にはあなたが居たのね、ユウ」


冒険者ギルドは各地に拠点を持つ組織であり、オルネッタの下には常に最新の情報がもたらされる。この二月で大規模な改変がミーノスとノースハイアに起こっている事は知っていたが、それに全て悠が関わっていたとまではオルネッタにも知る術はない。


「ノースハイアの『竜騎士』カンザキがあなただったとは思わなかったわ。疑う訳では無いけど、一度見せてくれないかしら?」


「ああ。レイラ、変身だ」


《了解よ》


悠がペンダントを掲げ、その体を赤い靄が包む込む。そして晴れた時には赤い鎧を身に着けた『竜騎士』がそこに在った。


「これが、『竜騎士』・・・」


オルネッタは目の前に居る『竜騎士』が自分がこれまで出会った全ての存在よりも隔絶した力を秘めていると一目で悟っていた。これまでで最も強大であると思っていた自分達のパーティーと互角だった魔族すら、『竜騎士』の足元にも及ばないであろう。


つい、悠が自分に敵意を抱いていないかと思い、オルネッタは『慧眼イノセントアイズ』を発動させた。


(・・・どうやら私に悪意は抱いていないみたいね・・・)


その体から黒いオーラが見えなくてオルネッタはこっそりと胸を撫で下ろしたが、悠の一言に凍り付いた。


「・・・オルネッタ、お前も今、何らかの能力スキルで俺を見ているな?」


「・・・!? ど、どうして分かったの!?」


「俺の目にも少々それに類する力があるのでな。それに俺の相棒であるレイラは力の流れを見る。不可視の魔力マナであろうと誤魔化せんよ」


《害する目的の力じゃないのは分かってるわ。何を見たのかは説明して欲しいけどね》


オルネッタは観念して自分の能力を悠に話した。


「それがレイラ、リュウの力・・・いいわ、私の能力は『慧眼』。私に悪意を持っている者は私の目には黒いオーラを伴って見えるの。私はそれを最大限に利用して仲間を集め、敵に警戒してきたからこそこれまで生きて来れたのよ。ユウ、あなたは?」


「俺の目は『竜ノトゥルーサイト』。その者の善悪を見抜く事が出来る。と言ってもどちらかに相当偏っていない限りは確実とは言えんが」


《類似した部分のある能力ね》


「あの・・・ユウ、その目で私の事を見たのかしら?」


何となく気になったオルネッタに悠は首を振った。


「いや、見ていない。必要とは思わなかったのでな」


「ちょっと見てくれないかしら? 恥じる様な生き方はして来なかったつもりだけど、後ろめたい事が無い訳ではないから」


魔法を扱う者としてオルネッタも悠の『竜ノ瞳』が気になるらしい。


「ああ、別に構わん。レイラ」


《ちょっと待って、この『慧眼』の仕組みを流用して、『竜ノ瞳』の強化を図るわ》


レイラは類似する2つの能力から更に良く見える目を全力で構築していった。この世界に来てから得た魔法の知識も総動員して最適化を行い、思考加速を限界まで振り絞って5分少々で『竜ノ瞳』を強化する。


《・・・・・・・・・出来た! 名付けて『竜ノ慧眼トゥルーアナライザー』! 試してみて、ユウ!》


「どれ、許可も得ている事だ、試させて貰おう。『竜ノ慧眼』」


悠が『竜ノ慧眼』を発動させるとこれまでの漠然としたオーラの強さに加え、その横に数値としてカルマが表示された。そこには『+335』と表示されている。


「・・・薄い青、つまりは善人の側だな。中庸に近いので確たる事は言えんが、これまでの経験からするに少なくとも交渉は可能だと判断出来る」


《残念だけど、私の解析能力だと数値化が限界ね。この数値が多いのか少ないのかも憶測でしか無いし、今後も色々視て判断しましょう》


「・・・そう、私はまだ一応善人の側なのね・・・」


これまでの人生を振り返ってオルネッタは目を閉じた。人を殺した事もあったし救った事もある。騙し合いや腹芸で成果を得た事も。それでもまだ善の側に居るという事実は何故かオルネッタを安堵させた。


「分かったわ、私も今後はあなたに協力します。冒険者ギルドの理念に善悪の概念はないけれど、それは必要無いのではなくて言わなくても当然だからだと私は思っているから。世界がほんの少し優しくなるのなら、それは私の目的にも適います」


「助力感謝する。今後はミーノスのギルドと連絡を密にしてくれ。コロッサスにも事情は話しているし、ルーファウスやローランも同じだ。ノースハイアも近い内に結論が出ると思う」


「ええ、これからもよろしくね、ユウ」


「こちらこそ」


目的を同じくしたオルネッタと悠はその場で固く握手をかわしたのだった。

悠の能力強化、『竜ノ慧眼トゥルーアナライザー』。


数値化はするつもりでいたのですがここまで時間が掛かってしまいました。今後も色々強化される予定です。

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