1-45 千葉家2
「私はこの有様では広間には戻れん。酔い潰れた事にして自室に下がらせて貰おう。真、口実として付いて来てくれ」
「はい、父上」
「ではな、悠殿。くれぐれも無理はなさらんように」
「はい、言って参ります。真和殿もどうぞご自愛下さい。真、千葉家は頼んだ」
「了解であります!」
そして今一度固く握手を交わして悠と真和は別れた。
広間では女性陣が他愛無い話題で歓談している。悠はその雰囲気を壊さぬ様にさり気無く席に着いた。
「悠さん、お帰りなさいませ。・・・あら、うちの人はどうされました?」
「真和殿は少々酔いが回ったとの事でお休みになられました。真が部屋まで送るそうです」
「まぁ。今日は悠さんが来たから、楽しくてあの人も飲み過ぎたのね。ごめんなさい、お客様を置いて」
「とんでもありません。自分もそろそろお暇致しますから」
「え!?悠様、今日はお泊りになるのでは無いのですか?せっかくお部屋でお茶の用意もしておりますのに!」
滉はこの世の終わりを見た賢者の様な絶望の表情で悠に詰め寄った・・・だけでは飽き足らず、右手を両手で抱え込んで離さないスッポンのポーズだ。
「いや、挨拶だけのはずが夕食までご馳走になって、その上急な宿泊などあまりに失礼では無いか」
「何をおっしゃいますか悠さん。あの人も言っておりましたけれど、この千葉の家の門は常に悠さんに開かれております。いつでも気軽にお立ち寄り下さって結構なのですよ?」
「しかし・・・」
「お願いです悠様!今晩だけ!今晩だけ滉の我侭を聞いて下さいまし!!」
「私からもお願いします、悠さん」
姉妹&その母親にそう詰め寄られては悠も分が悪かった。それにどうしても帰らなければならない用事がある訳でも無い。単にこれ以上の厚意に甘んじるのは厚かましいと思ったからだ。しかし事がここに至っては、断る方が皆を悲しませるだろう。
「分かりました。今晩は泊まらせて頂きます」
「!ありがとうございます!悠様!!」
「ああ、今晩は世話になる」
「燕と蓮はどうする?」
「当然」
「聞くまでもないでしょう?」
「ふふ、了解だ。母上、二人も今日はここに泊まっていくそうです」
「あら、今日は賑やかね?勿論歓迎するわ」
「ありがとうございます、おばさま」
「お世話になります、睦月様」
「ではまずは悠さんにお風呂に入って頂いて、その後に私達が入ってから夜のお茶会にしましょうか」
「まぁ、素敵ですわ!・・・お風呂も悠様とご一緒でしたらもっと素敵なのですけれど」
「・・・お前は何を言っているんだ・・・」
「亜梨紗、油断してると滉ちゃんに取られちゃうかもよ~」
「まぁ、亜梨紗に色仕掛けなんて無理よ」
「自分は後でも構いませんが?」
「悠さんは今日の主賓なんですもの。先に入って頂くのはあたりまえですわ」
「分かりました。では、お先に頂戴致します」
「後で代えの服はご用意して置いておきますから、気兼ね無くゆっくり浸かって下さいね」
その言葉に頭を下げ、悠は勝手知ったる千葉の家とばかりに千葉家の風呂へと向かったのだった。
「じゃあ、悠さんの浴衣をご用意しないと」
そう言って使用人を使わず自ら用意しようとする睦月を滉が止めた。
「お母様、私がお持ちしますわ。お母様はお姉様達とお話でもなさっていて下さい」
「あら、そう?じゃあお願いするわ。場所は分かる?」
「ええ、心得ておりますわ」
「おばさん、今日街で悠さんに服を品評して貰ったんですよ~」
「あら、いいわね。どんな服を買って来たの?」
「えーっと、これなんですけどね。丁度この服を見せた後にちょっと一悶着ありまして・・・」
「お、おい燕!あの話はいいだろう!!」
「そ、そうよ!今は服の話でしょう!?」
睦月と亜梨紗達が話し始めたのを見計らって、滉はそっと部屋を出て行った。これで・・・準備は万端だ。
悠は服を畳んで脱衣篭に入れると、早速風呂の中に入っていった。
千葉家の風呂は家の大きさに比例してとても大きく10人同時でも大丈夫な作りだった。それだけではなく、トレーニングルムやサウナの様な物まであり、正に至れり尽くせりだった。
(ここの風呂も久しぶりだな)
悠は熱過ぎない千葉家の湯加減が好みに合うので、ここの風呂は好きだった。
早速、体を洗ってから風呂に入ろうとした時、脱衣所でごそごそと音が聞こえた。おそらく、浴衣を持って来てくれた誰かか真だろう。
そのうち人影が磨りガラス越しに映り真が来たと分かったので、悠は扉に向けて声を掛けた。
「真、お前も風呂に・・・」
ドバンと扉が開け放たれると、そこには・・・
「悠様!お背中お流し致しますわ!!!」
ぶれない弾丸娘、滉が一糸纏わず風呂場に侵入して来たのだった。
気持ちも体も隠さないのが滉流です。




