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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-14 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子14

「誰も・・・居ない!?」


二階層を見た役員室の一同と冒険者達は離れた場所で異口同音に呟いた。二階層はただ水浸しになっているだけで、フロアのどこにも悠の姿を見つける事が出来なかったのだ。


「途中の床は抜けているはず。どこかに引っ掛かるはずは・・・まさか!」


自分の考えが正しい事を信じてオルネッタは再び四階層の映像に戻させた。相変わらず四階層は無人で、オルネッタは肩を落としそうになったが、ふと違う視点の映像で見る垂れ下がったロープがゆらゆらと揺れている事に気付いた。


その揺れは等間隔で続き、固唾を飲んで見守るオルネッタや冒険者の目に、遂に虹色の小手ガントレットが暗闇を突き破って半円の足場に手を掛けるのが見えた。


「ユウ!!!」


「ば、馬鹿な!? 奴は不死身か!?」


「やるう!!! さっすがオルネッタのお墨付きじゃないの!!!」


「うむ!!! 最後まで諦めぬとは素晴らしい!!!」


「そ、そんな・・・!」


「ふふ・・・」


約2名ほど落胆している者が居たが、もうオルネッタはそんな事には構わなかった。久方ぶりの熱を感じてオルネッタの心臓が激しく鼓動し、感動に目を潤ませる。


(コロッサス、ありがとう!! あなたが送り込んでくれたユウこそは本当にⅨ(ナインス)に相応しい人だわ!!)


少人数の役員室ですらこうなのだから、悠の姿を再確認したギルド本部の冒険者からは大歓声が上がっていた。


「すっげえええええええ!!! 落ちてなかったのかよ!!!」


「うおおおおおん!!! 俺は今猛烈に感動しているぞッ!!!」


「ああ、ユウ様・・・」


「そうだよ、諦めちゃ駄目なんだよ諦めちゃ!!! ふぐぅっ!」


「な、泣くなよ・・・俺まで泣けてくるじゃねぇかチクショウ!!!」


もう隣の者と抱き合う者やら胸倉を掴んでいたギルド職員にキスするものやらへたり込んで大泣きする者達まで居てとても収拾はつきそうにないが、一人の冒険者が声を張り上げた。


「待て皆!!! 向こう岸に渡る為の唯一の手段だったロープは切れちまったんだ!!! ユウが助かったのは嬉しいが、このままだとユウは先に渡れないぞ!!!」


その冒険者の言う通り、このままでは先に渡る事は出来ない。それに思い至った冒険者達は多少頭を冷やしてどうしたものかと頭を悩ませた。


「見た所、ユウの最初の持ち物にあそこを渡れる物はなさそうだな・・・」


「ああ、手持ちのロープじゃ全然長さが足りないし、そもそも向こう岸が見えねぇんだ。弓とかで打ち込むにも場所が分からなくちゃ話にならねぇ。それに風の問題もあるしな・・・」


「壁に土属性魔法をかけて迂回する足場を作るのはどうだ?」


「時間が掛かり過ぎるし、土系統を使えなけりゃそれまでだぜ。それに、さっきも言ったが風だってあるんだ。ちっさい足場じゃ吹っ飛ばされて今度こそ死ぬぞ?」


「ん~・・・どう考えても一人じゃなぁ・・・」


「おい職員!!! ロープが切れたのはそっちの不手際だろ!!! 張り直してやったりは出来ねぇのかよ!?」


「そ、そう言われましても・・・」


喧々諤々と意見が出されては打ち消され、時には職員すら巻き込んでの議論は益々熱を帯びて行くのであった。




そんな下界の事情とは関係なく、悠はじっと闇の先を見つめている。


(ふむ・・・レイラ、ここの壁や天井の厚みはどの程度あるか分かるか? それと材質も同じか?)


(そうね・・・壁は1メートル、天井は1・5メートルよ。材質は一階層と同じね。どうする、アリーシアの時みたいにして壁伝いに行く?)


(ここの壁は塔という構造上、内側に傾斜しているからあまり得策では無いな。風に耐えられるかも不明だ。一つ試してみて、駄目ならそうしよう。まずはこれを使うか)


悠は懐から水中で手に入れた発光石を取り出した。既に効果が薄まっているのか、その光は淡い。


悠は体を低くして左手に発光石を握り横風が吹くのを待った。そして風を感知した瞬間、上に向かってバラバラとその発光石を投げ上げる。


ごうごうと風が唸る中、悠は体を固定してじっとその軌跡を見続けた。


(・・・よし、決めたぞ)


風がやむのを待って立ち上がった悠は踵を返して入り口に体の向きを変えた。それを見た冒険者から落胆の声が上がる。


「ああ・・・流石のユウでもどうしようもないよな・・・」


「仕方ねぇよ。あれじゃ本当にどうしようも・・・え?」


そう予測していた冒険者の前で悠が入り口に向かって疾走し始めた。その行き先は入り口・・・では無く、悠は入り口の上の壁に向かって跳び上がり、2歩3歩と壁を駆け上がって更に壁を蹴って反転しながら上昇する。


迫る天井を前に悠は片手を背中に回し、一階層で手に入れたある物を取り出して天井に斜めに突き立てた。それはしっかりと食い込み、悠の体を支える事に成功したのだった。


「あ、あれは・・・!」


「・・・矢だ!!! 一階層の罠で受け止めた矢だ!!!」


「「「捨ててなかったのかよ!!!」」」


「そういやあの矢・・・石の壁に突き刺さってたよな・・・」


そんな驚愕を味わっている冒険者とは裏腹に、悠は天井から下を見下ろした。


(よし、これで先に進めるな。投擲もこの高さには行われておらんようだ。それに・・・)


その時また突風の気配がしたが、悠の髪はそよそよと風になびく程度にしか乱れなかった。


(風の影響も殆ど無いわね。やっぱりあの道は罠だったのよ。正解はこうして風や投擲を避ける事だったんだわ)


(必要な物は内部に用意されていたのだな。流石はⅨ試験、奥が深い)


悠は風の影響がどこまで及んでいるのかを見る為に発光石でそれを確認したのだ。


(・・・いや、考案者はそんな事は意図していないと思うのだが・・・)


と、スフィーロは思ったが、言っても意味が無いので心に思うだけに留めた。


悠は背中に手を回し、更にもう一本の矢を少し先に突き刺して固定し、後ろの矢を引き抜く。そして体を前に進ませまた刺し、後ろを抜きと繰り返して何の障害も無く闇の中を渡って行ったのだった。




「・・・良かったですね、ホーロ。ユウはあなたの罠を有効利用してくれているようですよ。製作者冥利に尽きるではありませんか」


「あ・・・あぐ・・・」


オルネッタの冷たい言葉に今度こそホーロは顔色を失って喘いだ。まさかこんな事に自分の罠を利用するとは思っていなかったのだ。矢の材質をもっと安物にしておけば良かったと、ホーロは真剣に後悔していた。




パチパチパチ・・・。




「諦めない心と創意工夫、何より鉄の如き意志の力・・・素直に尊敬出来る人物に出会ったのは久方ぶりだ・・・」


拍手を送るロンフォスの目には光る物があった。外交担当という立場上、ロンフォスは他国と火花を散らす交渉をする事が多く、大抵は金銭や土地の事で揉めに揉める。そんな中で尊敬出来る人物を見つける事は中々難しいからこそ、ただひたすらに先を目指す悠の姿に心を打たれたのだった。


「最早疑いない。例え彼が最終試験を失敗するとしても私は彼をⅨであると認める事を表明する。彼こそ人間の可能性そのものだ。彼がⅨになれないのなら、冒険者ギルドが存在する意味が無い」


「・・・私もそう思う。これまでの功績を見てもそうだし、何よりも見てよ、あの冒険者達の目を。あれはもう同格を見る目じゃないわ。実力を持ってユウは纏まりの無い冒険者の心を掴んでしまった。私達はそれを評価しなければならないわ。でないと・・・私達がここから引きずり降ろされるわよ」


リレイズが目を向けた方向には冒険者ギルド内部を映し出した映像が流れており、そこには嘲る様な者はどこにも見つけられなかった。皆が悠の活躍を熱い眼差しで見入っている。


「そうだね。ユウは力と心を示した。私も賛成するよ」


ティーワもオルネッタに片目を瞑って賛意を表明する。


オルネッタはそれらの意見に軽く目を閉じた。当然オルネッタ自身も賛成であり、役員6名中4名が試験終了を待たずして悠にⅨを与える事を確約したのだ。ここにオルネッタの思いは遂げられた。


「ただし」


ティーワはその先の言葉を続けた。


「彼女の処遇に関してだけは話が別です。彼女の事情からして、約束を果たされないのでは承服は出来ません。それはオルネッタ統括代理にもお分かりですね?」


「ええ、それは勿論ですティーワ殿。ユウならばもしかしたらとは思いますが・・・」


ティーワの言葉にオルネッタも頷く。悠はあのメモを覚えているだろうかと、オルネッタは最後の心残りを思い、顔を引き締めたのだった。

悠とレイラの勘違いがポジティブ過ぎて辛いスフィーロの巻。

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