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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-12 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子12

三階層に足を踏み入れた悠はこれまで通り、まず立て看板を確認した。




沈んでいる発光石を6個集めろ。一階層で手に入れた薬籠の中の誘因剤を上手く利用する事。


制限時間:2時間




(沈んでいるとはどういう事だ?)


(どれどれ・・・ああ、なるほどね。見れば分かるわ、ユウ)


レイラに促され、三階層の入り口を潜るとそこはまた広大な空間になっており、先ほどと違って薄暗く上も先も見通す事は出来なかった。そして微かにこの閉鎖空間に不似合いな音が響いている。


(これは・・・水か?)


(この階層自体が大きな溜池になってるのよ。沈んでいるって言うのはそういう事ね。それに・・・)


悠はレイラが言わんとする事を悟り暗闇に目を凝らすと、入り口付近の半円状の足場の先にある暗闇の水面に影が横切るのを見て取った。


(どうやら水棲の魔物モンスターが放たれているようだ。誘因剤とはこいつらをおびき寄せる為か)


(その間に潜って拾えって事かしら。色々な方法があると思うけど、私達はそれが一番手っ取り早そうね)


水中に目を凝らすと底の方にぼんやりとした光が見える。朱音辺りなら水を魔法で操ってこの場に居ながらに回収する事も出来るだろう。また、他に人員が居るのなら魔物の気を引いておく事も出来そうだ。しかし悠には物理的な手段しか取れないので全て自分一人でやらなければならない。


(光の強さからして深さは目算で8メートル。この程度の深さなら一度潜れば全部回収出きるか)


(でも誘因剤でどのくらい時間引き付けておけるのか分からないんじゃゆっくり潜っている暇は無さそうね。どうせなら排除してから潜りましょ)


(そうだな、そうしよう)


方針が決定すると悠はおもむろに服に手を掛け、衣服を脱ぎ去っていった。上半身が晒され、アンダーに手が掛かった所でレイラが慌てて止める。


(あっ、全部脱いじゃ駄目よ、ユウ!! これは公開試験なんだから!! 男の裸を見せるにはまだ早い年齢の子も居る事を忘れないで!!)


(む・・・そうか。それなら慎まねばならんな)


仕方が無いので悠は下を脱ぐ事を諦め、龍鉄の靴だけを脱いで素足になる。服を脱ぎ散らかさずにしっかり畳んでいるのが何とも悠らしい。


一方、本部では悠が脱がなかった事で一部から無念の溜息が漏れていた。


「わぁ・・・いい体してるわ・・・全部脱いじゃえばいいのに・・・」


「傷だらけだけど、なんていうか目が離せないわよね・・・」


「・・・美しい・・・」


最後のセリフが「男の」冒険者から漏れたのを聞いた周囲の同性が少しだけ彼から距離を取ったが、画面に釘付けになっている彼はそれに気が付く事は無かった。


閲覧室でも皆が胸を撫で下ろしている所だ。ただ、その内容は男性陣と女性陣で少々異なるが。


「悠先生なら誰が見てても躊躇う事無く脱いじゃうかと思った・・・」


「た、多分レイラさんが止めてくれたんだと思うよ・・・。ユウ先生、普通に脱ごうとしてたし」


「別にいいじゃん、な、始?」


「ぼ、僕は恥ずかしいよ・・・」


女性陣の意見はこうだ。


「良かった・・・他の人に見られなくて・・・」


「この課題を公開するのって倫理的にどうなのかしら? セクハラだと思うわ」


「・・・悠先生の裸を見る権利は私達の特権。誰にも渡さない」


「そ、それはちょっと違うと思うな・・・確かに見られたくはないけど・・・」


そんな喧噪を生んでいるとも知らず、悠は至ってマイペースに行動していく。


薬籠の蓋を開けると中には赤い錠剤が10個程度入っており、これを水の中に投入する事で魔物をおびき寄せられるのだろうと察した悠は水際まで進んで一気にその中身を水中へと振り撒いた。


よほど強力な薬剤なのか、投入して10秒ほどで激しい水音を立てて魔物が誘引剤に群がり、激しく水面を波立たせる。


(もうちょっと・・・・・・・・・いいわよ、やっちゃって!)


探知出来る範囲の水中の魔物が全て集まったとレイラにお墨付きを貰った悠は足を開いて腰を落とし、上段に構えた右手の手の平で水面を恐ろしい速度で叩いた。




パァン!!!!!




耳をつんざく破裂音に思わず音声を受け取っていた者達が仰け反るが、水中に居た魔物達はその程度では済まなかったらしい。音が収まる頃、水面にプカプカと体長4メートル弱の頭が二つある鰐の様な魔物が目や口から血を流して10匹ほど痙攣する屍を晒していた。悠の掌底は水柱を上げる事無く衝撃を水中へと伝播し、魔物達の体を突き抜けたのだ。ダイダラスに使った浸透性打撃に似ているが、発破を使う漁の原理であろう。


(排除完了。後は潜って探すだけだけど、光っているから簡単ね)


(いや、もしかしたら水中に罠があるかもしれん。油断せずにいこう)


慎重に慎重を期す悠であったが、考案者は流石にそこまで必要とは思わなかったらしく、悠は5分ほど潜って発光石を手に入れるとロープで頭に服を括りつけて向こう岸まで泳いで渡り、その場で高速回転して脱水し、何事も無かったかの様に上階を目指したのだった。




「ここまでの所要時間、30分と少し。・・・はぁ、何だか逆に自信を無くすわね。今までの冒険者の力量が低過ぎたのかしら?」


「「・・・・・・・・・」」


オルネッタに皮肉を言われても、もうホーロもザマランも言葉を発しなくなっていた。ホーロの半ば開いた口の端からは涎が零れていたし、ザマランの目は焦点が合わずに虚ろで、ピンと張っていた口髭の端がへなりと垂れ下がっている。


「・・・ねぇ、あれって本当に人間? 実は魔族とかじゃないの?」


「先ほど彼の体を見たでしょう? 肌の色も普通だし、傷跡も残っています。鍛えられている事以外はごく普通の人間よ」


「そうなんだけど・・・規格外過ぎよ。もう試験の体を成してないわ。あれじゃどんな試験でも意味がないじゃない」


リレイズの愚痴にも似た言葉にオルネッタは笑顔で答えた。


「それこそが我々の望む人材でしょ。本来、Ⅸとはそういうものよ。・・・でもユウが規格外なのは確かね。次回からは内容を見直しして、もう少しだけ易しくしましょう」


「賛成だ。ユウを見た後であればこのままでもいいようにも思えるが、他の者にあの力量を求めるのは酷であろう」


「・・・仕方ないわね、私も賛成よ」


ロンフォスとリレイズから賛成を取り付けたオルネッタは心の中でほくそ笑んだ。これで対立していたホーロとザマランはどうあってもオルネッタに利する流れには逆らえないだろうし、オルネッタ体制が強化されれば生殺与奪は思いのままだ。後は適当な失点を理由に罷免してしまえばよい。


しかしそこに冷や水を浴びせかけたのは沈黙を守っていたティーワであった。


「オルネッタ統括代理、その事については私も賛成ですが、今はまだ試験中です。結論は最後まで見てからに致しましょう?」


「そ、その通りだ!! よ、四階層こそは容易く抜けられる階層では無い!!!」


「そうですとも!!! この階層にいくら金を掛けたと――」


ティーワの穏やかながらも諭す様な口調にオルネッタは自分が優位に舞い上がっていた事を悟り、気を引き締め直した。ティーワの言う通り、まだ試験は終わってはいないのだ。他人の尻馬に乗って騒ぎ立てるホーロとザマランなどサクッと無視し、オルネッタは頭を下げた。


「ティーワ殿の仰る通りでした。今は黙ってユウの試験を見守りましょうか」


そうしてオルネッタは期待する目を、ホーロとザマランは恨みの籠もった目をそれぞれ画面に戻したのだった。

危うく公開ストリップに。

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