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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-11 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子11

塔に入った悠の目にまた立て看板が目に入った。そこにはこう記されている。




一階層の迷宮を突破せよ。また、この階のどこかに存在する宝箱の中から薬籠を見つけ出せ。


制限時間:3時間




(ふむ・・・如何にも冒険者的ではあるな。レイラ、探査は出来るか?)


(任せて。・・・・・・・・・ちょっと私の探査範囲じゃ全部は分からないわね。外観から見るに、この階の大きさは大体100メートル×100メートル。今分かるのは半分程度だわ)


(その中に宝箱の様な物は?)


悠の質問にレイラは情報を精査していく。


(・・・この範囲には無いわね。もっと奥に進んでみましょう、ユウ)


(了解だ、のんびりはしていられん、駆け足で行くぞ)


(罠もあるみたいだから気を付けてね!)


悠が石積みの通路を進むと、すぐに先は3つに分かれた。その中で悠はまず左の通路を選択する。


その途端、通路の先から高速で矢が幾本も悠に向かって放たれた。


だが悠はそれに驚きもせず、足も止めずに掴み、一気に通路を駆けて行く。やがて突き当りの壁に矢を放つ壁の穴を発見し、そこに蹴りを突き込んだ。


内部の機構が破壊されたのか、それきり穴は矢を吐き出すのを停止する。


悠は壁から足を抜くと更にそのまま通路に沿って走り始めた。




「な・・・なんたる野蛮人!!! ワシの作った罠をあんな力任せに・・・!」


「あら、足止めにもなっていませんね? 至高の逸品でしたっけ?」


意地悪く言うオルネッタにホーロは唾を飛ばして反論した。


「さ、最初から最高の罠を仕掛けるはずが無かろうて!! つ、次の悲嘆の回転鋸ローリングホイールや後悔の針山サウザントニードルが彼奴の足をズタズタにして・・・ズタ・・・ずた・・・に・・・」


そんなホーロの前で発動したそれらの罠を悠は蹴り飛ばし、或いは飛び越えてクリアしていく。後に残るのは罠だった物の残骸だけだ。


「確かにズタズタになりましたね、プライドが。えっと、悲嘆の・・・なんでしたっけ、あそこに転がっているのは? まあ、壊れてますからもう出番は無いのかもしれませんが」


ホーロの二重顎がカクンと落ちて指先が震えていた。悠がこれらの罠を突破するのに費やした時間は20秒である。普通に走った時とさして変わってはいない。


それでも気合で口を開いたホーロが言葉を発する前に、悠に大きな岩が転がって来て、悠は後ろ回し蹴りでその岩を粉砕して走り去った。


「あ、壊れた。さしずめあれは絶望の巨岩ラージストーンとでも言うんですかね。主に作った人が絶望してますけど」


「・・・プッ、わ、悪いですよ統括代理」


隣で吹き出したティーワがオルネッタを諫めたが、そんな彼の肩も震えていた。


「はぁ~・・・こりゃあ本物だわ・・・もうⅨ(ナインス)でいいんじゃないの?」


「・・・・・・・・・はっ!? ば、馬鹿を言っては困ります!! た、たかが一階層でそんな事を決められるはずが無いでしょう!?」


呆れた様に言うリレイズに反応が遅れたザマランが必死になって言い返す。


「これは凄いな。罠を全て見破って進むのでは無く、有ると分かっていて気にもしないとは。普通これだけ罠を仕掛けられたら慎重になるものだが・・・」


悠の鮮やか過ぎる手際にロンフォスも唸った。そんなロンフォスの前で悠の直上の天井が崩落するが、それが悠の頭があった地点に到達する頃には既に悠の姿はとっくに消え去っていた。


(こ、ここまでとは私も予想外だったわ! あのコロッサスが絶対の太鼓判を押す訳よね・・・)


ホーロを挑発していたオルネッタも内心では汗を掻いていた。恐らくコロッサスと同程度はやると思ってはいたが、はっきり言って映像で見る悠はコロッサスを凌駕していると断じざるを得ない。


結局、悠が宝箱を探し出すまでに要した時間は10分程度であった。




「あはははは!! 凄いなぁ悠先生!! あたしも行ってみたい!!!」


「すげー!!! 悠せんせー、左右の壁を蹴って落とし穴を回避してる!!! ビリーせんせー、落とし穴ってあんな風に回避すればいいの?」


手を叩いて爆笑する神奈と目を輝かせて尋ねて来る京介にビリーは冷や汗を流しながら虚ろに答えた。


「・・・あんなのユウのアニキしか出来ないから・・・あ、もう宝箱見つけた・・・」


「し、しっかりして、兄さん!! ここで兄さんが教えた技術がきっと役に――」


「うわっ、何か変な色の空気が一杯出て来た!!! ・・・けど、悠先生、なんともないみたい・・・」


「悠先生、息止めてるね・・・普通に中身を取り出したよ・・・」


「行っちゃった・・・誰も居なくなっても煙を出してる宝箱が切ないんだけど・・・」


宝箱に仕掛けられていた罠は落胆の麻痺香パラライズエアーと言う名であり、その効果は2時間も継続する強力な毒だったのだが、悠にそもそも毒は効かず、しかも一吸いもして貰えなかった為、その場をしばらく漂い、やがて周囲の大気に混ざってその役目を終えた。


「・・・ユウのアニキ一人でダンジョン攻略して日帰り出来そうだ・・・は、ハハハ・・・」


今まで冒険者として培って来た自信がガラガラと崩れ落ちるビリーであった。




そして最も大きな衝撃を受けているのは勿論本部で映像を見ている冒険者達である。


「「「・・・」」」


「あ、あれ? だ、誰か幻覚効果のある薬でも撒いたか? 俺の目には一階層攻略時間が14分って見えるんだけど・・・」


「・・・安心しろ、俺にもそう見える・・・有り得ねえ・・・」


「も、もしかして、あの罠って怪我しない様に出来てるんじゃねぇの!?」


「飛んで来た矢が石の壁に突き刺さってたよ・・・それにあの轟音、本物に決まってるだろ・・・」


「あわわ・・・お、俺って奴は何て人にタメ口を・・・!」


酒を口に含んでいた者は吹き出し、或いは口からダラダラと零しながら映像に目を奪われていた。昨日悠に絡んだ男などは真っ青になって右往左往している。


しかし彼らの驚きはまだまだ序の口であると、この後嫌でも知る事になるのであった。




階段を駆け上がった悠に新たな看板が目に入る。




二階層の敵を全滅させよ。


制限時間:2時間




(今度は戦闘力か)


(サッサと倒して行きましょ。得意分野だしね)


特に休む事も無く悠が二階層に踏み込むと、そこは先ほどと違い壁も何も無い広大な空間が広がるフロアであった。そしてその至る所にずんぐりとしたフォルムの物体が蠢いている。


石人形ゴーレムって言うんだったわね。数は・・・目視で40体。だけど、色の違うのも居るのが気に掛かるわ)


(何か仕掛けが有ると見て良かろう、試してみるか)


石人形は普通に灰色をした物と、真っ赤な個体の2種が半々で存在していた。悠は一階層で拾った拳大の石を赤い石人形に向かって投擲する。


目にも止まらぬその投擲は赤い石人形をアッサリと貫通すると、次の瞬間、その石人形は爆音を放って爆発を引き起こした。


(なるほど、倒すと爆発するのか。これでは接近戦では倒せんな)


(ふーん、じゃあ一網打尽にするに限るわよね。灰色の方はどう?)


レイラの言葉に従い、悠は今度は灰色の石人形を投石で倒してみたが、こちらは何も無くその場に崩れ落ちた。


(決まりだな。レイラ、突っ込むぞ)


(はいはい、いい範囲に纏まったら教えるわよ)


石人形の特性を確認した悠はそのまま二階層の中央まで走り、付近の石人形の攻撃を回避する事に徹し始めた。


最初は悠が何をしているのか見ている者達にも分からなかったが、やがて二階層内に居る石人形が全て悠に寄って来るのを見て聡い者達は気付き始める。


数分もすると、悠の周囲は灰色と赤色の石人形で埋め尽くされた。普通なら絶望的な状況であるはずだが、石人形の鈍重な攻撃は悠の体術の前では掠る気配すら無かった。


(ユウ、そろそろいいわよ)


(了解、離脱する)


レイラの合図を受け、悠は2メートルを超える石人形の頭に飛び乗り、その上をピョンピョンと飛び石の様に飛び越えて包囲の外周に着地する。そこは悠が最初に灰色の石人形を倒した場所であり、その体を構成していた石がそのまま残されていた。


(消え去ってしまう性質の物であれば『火竜クリムゾンスピア』が必要だったかもしれんが、残っていてくれて助かったな。バラける前に行くぞ)


(ユウ、右から4番目の赤いのを狙うと一番効率的よ)


レイラの助言を受け、悠は足元の石人形のパーツを拾うと指定された目標に向かって再度投擲した。


バゴッと鈍い音がして頭部を吹き飛ばされた赤い石人形は最初の個体と同じくその場で爆散し、更にその周囲に居た石人形に致命傷を与え、そこに含まれていた赤い石人形が爆散し・・・と連鎖爆発を起こし、二階層に居る石人形全てがその爆発に巻き込まれていく。素早く後退し、壁を背に飛んで来る残骸から身を守っていた悠がそれらを叩き落し終える頃にはもう動いている石人形はどこにも存在しなかった。


《・・・す、全ての石人形の破壊を確認しました・・・ど、どうぞ先にお進み下さい・・・》


「教えて貰えるとは有り難いな。では進ませて貰おう」


こうして二階層は6分という短時間で攻略されたのだった。

更新も駆け足です。

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