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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-10 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子10

《ユウ殿、準備が整いましたら塔の入り口へご移動下さい》


部屋に響く声に悠は必要な物を身に着けて部屋を出た。


(結構厳しい内容ね。普通の冒険者じゃ、だけど)


(なに、装備品も無しと言われる事も想定していたのだ。それに比べれば随分と緩い)


持ち込める物に制限があると聞いても悠に動揺は無い。そもそも無制限に何でも持ち込めると考える方が楽観的過ぎるのであり、最悪は何も持って入れない事まで悠には想定済みであった。


(真龍鉄の小手ガントレットと投げナイフと龍鉄の靴。それにローランに貰ったマントにロープ、『高位治癒薬ハイポーション』。これだけでやりくりしないといけない訳ね)


(他の武器や道具などは邪魔になる。これだけあれば十分だ)


(我に出番は無さそうだな)


そんな事をレイラやスフィーロと話し合いながら塔の入り口に着いた悠の目に、その入り口横に設置されている立て看板が目に入った。


《ユウ殿、これから鐘が鳴るまでの10分間、その立て看板の内容を心に刻んで下さい。それがⅨ(ナインス)試験のルールです》


「了解した」


悠は素早く看板の内容に目を通した。




一つ、制限時間は大枠で夜の鐘(午後六時)までの6時間。また、各階層毎にも制限時間が設定されている。制限時間を超過した場合はその場で失敗とみなす。


一つ、各階層には目的が設定されている。その目的を果たさずして上階へ至る事を禁止する。


一つ、塔は全五階層である。外からの登る事、また天井を破壊して上階へ至る事は禁止する。


一つ、『冒険鞄エクスパンションバッグ』の持ち込みを禁止する。また、それに類する道具も禁止する。


一つ、禁止事項に抵触した場合、失敗とみなす。


一つ、棄権は可能である。その場合はその場にて棄権を申し出、待機する事。なお、当然失敗となる。


一つ、当試験は生命の危機を伴う。その事に同意出来ない場合はこの場で棄権を申し出る事。




(・・・特に注目すべき点は無いか。制限時間があるならのんびりは出来んが)


(そうね。後は内容次第でしょ)


予測通り、魔法に関する制限事項はないようだ。逆に言えば魔法がなければ切り抜けるのが難しい事が想定されるが、その程度は織り込み済みである。


《目を通されましたか? それでは鐘が鳴ったら中へとお入り下さい》


その声と同時に昼の鐘が街の全てに鳴り響き、悠は試練の塔へと入って行ったのだった。




役員室は開始当初からピリピリとした険悪な気配に包まれていた。


「ブフフ、始まりましたなぁオルネッタ殿。御贔屓の冒険者の活躍、楽しみにさせて頂きますよ?」


「ええ、存分に」


出過ぎた腹を撫でながらニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべる開発統括官のホーロにオルネッタは表情筋だけで作った笑みで短く答えた。ホーロは最新の道具を開発する技術関連のトップであるが、その発明品はしばしば倫理的に眉を顰める物があり、悠に渡されたこの円環サークレットへの関与も疑われる犯人の最有力候補である。


「それにしても無謀というかなんというか・・・これも若さゆえの焦りなのですかな? 私には愚かな行為にしか見えませんが・・・」


「事はやってみなければ分かりませんよ、ザマラン殿」


オルネッタへの嘲りの波に乗って口を開いたのは財務統括官であるザマランである。こちらはホーロとは打って変わって体に肉が殆ど付いておらず、まるで枯れ木の様な体型である。2人を足して割れば丁度いいんだわとオルネッタは埒も無い想像をしてしまった。


「グフ、そうは言っても試練の塔の罠はワシの謹製にして至高の逸品ばかり。とても一人では突破出来まいて、ブフフフフ!!!」


「内部の魔物モンスターにも相当な額を注ぎ込んでいます。さぁて、五体満足で済むのでしょうかね? フッフッフッ」


既に言い返すのも辟易していたオルネッタが口を開こうとした瞬間、オルネッタの隣に居たローブを纏った男が口を開いた。


「控えなさい、我々は今言い争いをする為にここに居るのではありません。勇敢な冒険者の挑戦を見守る為にここに居るのです。それが分からない者に冒険者ギルド本部の役員たる資格はありませんよ?」


「しかしですな、ティーワ様・・・」


「その通り、答えの無い憶測など不要。我らはただ結果だけを判断すべきだ」


「・・・そうですな、ロンフォス殿」


2人を諫めたのは人事統括官のティーワと外交統括官のロンフォスだ。2人の援護を受けたオルネッタは作り物ではない笑みを浮かべて2人に目礼を返した。


少しだけ緊張が和らいだ場に更にもう一つ声が上がる。


「でも、実際問題一人でどうにかなるのかしら? 今まで数々のⅧ(エイス)が上限まで人数を揃えて挑んで誰も3階以上まで行けなかったのに」


そう発言したのは事務統括官であるリレイズである。ボリュームのあるくせっ毛を指で弄ぶ姿は30歳には見えない幼さがあった。


「いや、人数の多さこそが足を引っ張る事もあるよ。誰かが負傷したせいで先に進めなくなるなんて事は今まで何度も見て来た事じゃないか。オルネッタ統括代理は一人という不利を覆すほどの逸材と見込んだからこそこうして公開試験に踏み切ったんだ。そうですよね、統括代理?」


「その通りです、ティーワ殿。流石統括のご子息、私などよりも慧眼の名が似合うのでは?」


「ハハ、おだて過ぎですよ、統括代理」


2人の笑顔でのやり取りに毒気を抜かれたリレイズは憮然として黙り込んだ。オルネッタの見た所、やはりホーロとザマランは明確に自分の敵だ。リレイズは口では色々と突っかかっては来るが、それはティーワとオルネッタが仲良くしているのが気に食わないだけだろう。彼女に関しては中立と見て良い。


そしてティーワとロンフォスは自分の味方だと言える。それはこのやり取りからでも明らかであるし、これまでもオルネッタの示す改革に協力してくれた実績がある。何よりオルネッタには彼らに伝えていない、隠された能力スキルがあった。


(・・・相変わらずホーロとザマランは真っ黒ね・・・リレイズは一般的な好悪の範疇の黒。対してティーワ殿とロンフォス殿はほぼ無色。やはり警戒すべきはあの2人か・・・)


オルネッタの二つ名である『慧眼』は『六眼』時代、コロッサスに代わって頭脳担当であった彼女に贈られた尊称であるが、それとは全く異なる意味で『慧眼』は存在した。オルネッタは自分に対する人の悪意を見る事が出来るのだ。


オルネッタに悪意を強く抱くほどにその人物の周囲には黒いオーラが立ち上る。他の人間に向ける感情は分からないが、オルネッタはこの能力のお陰で幾多の善意の皮を被った騙し討ちからパーティーの命を救って来たのだった。


悠の『竜ノトゥルーサイト』に似ているが、その性質は大分異なる。例えば悠の場合、善人か悪人かの判断はついても、その相手が自分に悪意を抱いているかどうかは分からない。善人であっても何らかの事情で悠を狙っている者が居ても悠はそれに気付く事が出来ない。


対してオルネッタの能力『慧眼イノセントアイズ』は例え悪人であっても自分に悪意がなければ何の反応も示さない。


そして今現在の状況と予測出来る結果として、試験を邪魔する者の望むのはオルネッタの失脚である。ならば当然その人物はオルネッタに悪意を抱いているはずだった。


(いつ馬脚を現すのか、それともユウが失敗して私が夢半ばにして立ち去るのか・・・ここは我慢比べね)


オルネッタは顔には出さなかったが、真剣な祈りを込めて悠の映る画面へ視線を戻したのだった。

Ⅸ試験開始です。そして悠の無双が始まる・・・!

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