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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-8 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子8

悠の予測通り、その後の実況見分、事情聴取が終わった頃には朝の鐘(午前6時)が街に響き渡っていた。


《こうして襲われるっていうのもⅨ(ナインス)試験絡みなんでしょうね。それ以外に昨日付いたばかりのこの街で襲われる理由が無いわ》


「たとえしくじっても俺の睡眠を妨害する事で試験突破の確率を下げる事も出来る。成功すれば言うまでもない。となると相手は俺にⅨ試験を突破させたくない何者かの犯行か?」


《単なる物盗りがあんな物を付けて放火を企むはずないもの。そう考えるのが自然よ》


宿へ帰る途中も悠達の議論は続いた。犯人の遺体は引き渡したが、何分顔の判別もままならない状況では捜査は難航するだろう。


「となると考えられる線はオルネッタの敵か、または俺達の栄達を妬んだ冒険者の犯行か・・・いずれにせよ、敵が一人という事はあるまい。ある程度組織として動いているのだろうな」


《ギルド関係者が敵だった場合、今日の試験は危険を伴うのではないか? ユウを亡き者にすれば目的は達せられるのだろう?》


「ならば答えは簡単だ。俺がⅨ試験を突破してしまえばいい。どちらにしても今日中に結果の出る事だ。探偵ごっこは俺の役回りではないな。ある程度警戒すべき相手が絞れていればそれでいい」


この街に来たばかりの悠に名も知らぬ犯人を試験開始までに見つけろというのは無茶な話だ。そんな無意味な精神的重圧を感じるくらいならサッサと割り切る方が精神衛生上好ましいと悠は考えた。


そのまま宿に戻った悠を出迎えたのは宿の女将であった。


「ご苦労さん。さぁ、朝飯は出来てるから食べちゃいなよ」


「女将、迷惑を掛けて申し訳ない」


悠の謝罪に女将は首を振った。


「客の安全に配慮するのはこっちの仕事さ。兄さんからはちゃんと宿代を貰ってる。だったらあんたらが責任を感じる事は無いよ。今晩からは見張りを付けておくから安心おし。そんな事より朝飯だよ! 今日は昇格試験を受けるんだろ?」


「ああ、ここの朝飯を食って試験に合格したとギルドで触れ回っておこう」


悠のジョークに女将は朝だと感じさせない高笑いを放った。


「アッハッハッハ!!! いいね、ウチにも箔がつくってもんだ」


さりげない・・・ように見えて露骨な仕草で悠の腰に手を回した上機嫌の女将に押され、悠は宿へと入って行った。




「いきなり先行き不安ですが、どうしますか? 理由を言えば今日の試験は延期してくれるのでは?」


ハリハリの提案を悠は却下した。


「次の襲撃が今回以下の規模だとは限らん。隣近所も纏めて火の海にされては厄介だ、この程度で済んでいる内に決着をつける」


悠の周囲には全員が揃っている。悠は周囲を見回しながら警告した。


「皆も安全には十分に気を使ってくれ。万一の場合は戦闘も許可する。それとハリハリ」


「はい、なんでしょう?」


悠は懐から昨夜の襲撃者が身に着けていた円環サークレットを取り出してハリハリに見せた。


「昨日の襲撃犯が身に着けていた物だ。何か分かるか?」


「ほう、どれどれ・・・」


悠から円環を受け取ったハリハリはしばらく観察した後、顔を顰めて言った。


「・・・随分とタチの良くない代物ですね。装備してから30分後に内側に向けて発動する『電撃ライトニング』が組み込まれています。適当に外そうとしても発動するようですね。どう考えても強制的に何かをさせる為の道具としか思えません」


「これを作るのはそれなりに技術が要る事か?」


「そうですね・・・高等技術と言っていいと思います。証拠隠滅の為にあえて素材に木を使っている辺り、かなりの魔道具の知識を持っていると思いますよ。それに魔道具を使い捨てるという発想からして、それなりに金回りのいい者の仕業でしょう」


ハリハリの分析に悠も頷いた。


「相手はそれを幾つも用意出来るほどには大きい組織だろう。俺が居ない間の取り仕切りを頼む。戦闘指揮は樹里亜に任せるが、それ以外はお前の裁量で判断してくれ」


「心得ました。こちらはご心配なく」


バローが居れば悠はバローに任せただろうが、そうでないならばハリハリが適任であろう。ハリハリと樹里亜が今居る中では特に頭の回転が速いからだ。ハリハリの不安な点は人間形態では本気で戦えない事だけだ。


「さて、それでは行くか」


一応の相談を済ませ、悠達は冒険者ギルド本部へと向かった。




ギルド本部は朝から超満員であった。


「おっ、来たぜ!!」


「何だよ、ヤケにガキが多いじゃねぇか。アッチの方も強いのか?」


「夜の方も連戦連敗の雑魚は黙ってな! 期待してるよ、ユウ!!」


「落ちる方に賭けはしたが、たまにはスゲェ奴だってのを見せてくれよ!!」


朝には些か下品な野次も飛んでいるが、それ以外にも悠を応援する声も散見していた。


「皆さん暇なんでしょうかね? 勤勉な冒険者なら今頃依頼に奔走しているはずですけど」


「娯楽の少ない世界だし、殆ど受ける人が居ないⅨ試験はいい息抜きなんじゃないかな?」


恵と智樹がそんな事を口にし、その後ろではルーレイがアルトの服を掴んでいる。


「う~・・・こういう野蛮なの俺ちゃん苦手~・・・」


「こういうのにも少しずつ慣れて行かないと駄目だよ。・・・僕もそんなに得意じゃないけどね」


高貴な家に属する2人は顔にシュルツよろしく覆面を身に着けていた。特にアルトの容姿は目立つので、無用な諍いを起こさない為にも身分を隠す事は必要なのだった。


悠達がギルドに着いてしばらくすると、奥からオルネッタが職員を引き連れて姿を見せ、場の喧騒が収まる。


「おはようございます、ユウ。よく眠れたか・・・とは聞くだけ無駄ですね。今日は大丈夫?」


「ご心配なく。2日や3日寝れなくても動けなければ冒険者は務まりません、オルネッタ殿」


オルネッタは既に悠が襲撃された件を掴んでいるようだ。悠はそれに対して試験には何の問題も無いと切り返す。


「心強いお言葉。では試験会場まで案内しましょう。ここからはユウのみでよろしくね」


「了解です。・・・では行って来る」


「こちらはお任せを。お気を付けて」


代表して答えたハリハリに悠は一つ目礼して踵を返した。


悠とオルネッタが去った後、ギルド職員がハリハリの元にやって来た。


「『戦塵』の皆様は特別に観覧室をご用意しております。付いて来て頂けますか?」


「至れり尽くせりですね、せっかくですから広々とした場所で観覧させて頂きましょうか」


「ハリハリ・・・」


何か言いたげなシュルツにハリハリはウィンクを送って黙らせた。


「さぁ、ユウ殿の勇姿を存分に味わいましょう。・・・ところで観覧と言ってもどうやって遠くのユウ殿の事を見るのでしょうか?」


「そこはご安心下さい。あの壁に白い布が張ってあるのが見えますよね? 室内の明かりを消し、幾つかの魔道具を中継点に遠くの物を光魔法で映し出す技術が本部で最近開発されたのですよ。『遠隔視聴リモートビューイング』と私達は呼んでおります」


「わ、これ映画だ」


「スゲェ、この世界で映画が見られるなんて! ・・・ところで音は出んの?」


核心部分を先取りされてギルド職員は驚いた顔をしてみせた。


「よ、よくご存じで。ちゃんと音も中継して同時に聞こえる様になっております」


「使ってる物が違うだけで、考える事はどこでも変わらないのかもね」


「そうね、同じ人間だもの」


「コホン、それではご案内願えますか? それと飲み物も欲しいですねえ」


ハリハリがあまり先端技術に突っ込みを入れるのも不味いかと思い、話を切って職員を促した。


「ではご案内しましょう。飲み物はお部屋にご用意致しております」


そうしてハリハリ達も悠とは別の場所へと案内されて行ったのだった。

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