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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7α-3 Ⅸ(ナインス)試験と奈落の申し子3

「・・・あの、ユウ様、大丈夫なのでしょうか?」


「心配はいらん。この子らも立派な冒険者だ。特に戦闘能力ならⅤ(フィフス)の冒険者にも引けを取らんぞ?」


「ダイクさん、僕達を信じて下さい。必ずダイクさんを無事送り届けますから」


「わ、若様がそう仰るなら・・・」


ダイクの目の前には大勢の子供達が待機していた。言わずと知れた悠の保護する子供達である。


「樹里亜、行動については全てお前に任せる。ルーレイ、ハリハリ、お前達は馬に乗れ、他の者達は徒歩だ」


「了解しました。では出発しましょう、ダイクさん」


「あ、ああ、よろしく頼むよ?」


不安ながらも悠とアルトが太鼓判を押す相手と考え直し、ダイクは馬車を発車させた。そして半日も過ぎる頃にはその言葉が偽りで無かったと思い知る事になった。


「なんとまぁ・・・人は見た目だけで判断出来ませんな! 傷一つ負わずに森林狼フォレストウルフを10匹も片付けてしまうとは! それにここまで誰一人音を上げない。まだ幼いのに素晴らしい体力です!!」


「皆ユウ先生に鍛えられていますから、ダイクさん」


「さ、森林狼は依頼の討伐対象よ、ちゃんと討伐証明部位を切り取ってね!」


「「「はーい!」」」


昼近くに出発し、その間軽い小休止を挟んだだけで延々5時間の行程を子供達は誰一人不平を漏らす事無く踏破した。その合間には魔物モンスターの襲撃もあったが、非常に上手く連携が取れており、大抵の魔物は数分で駆除され殆ど時間のロスも無く進めた為に予定よりも行程の消化が早く、初日は野宿を覚悟していたダイクとしては嬉しい誤算である。


「ユウ様は先生としても良い腕をお持ちなのですね?」


「いや、俺が教えた事は戦闘技術だけだ。冒険者としての先生はビリーとミリーであって、褒められるべきは彼らと努力を怠らなかった子供達の方だろう」


「謙遜が過ぎますよ、ユウのアニキ。ユウのアニキが心も鍛えてくれたから子供達もやる気になってるんです。俺達こそほんの少し手伝っただけに過ぎません」


「なるほど、お互いがお互いを尊敬し合う良いパーティーです。『戦塵』の噂は聞き及んでおりましたが、やはり噂になる方々とは一味違いますな!」


そうこうしている内に、森林狼の処理を終えた樹里亜が話し掛けて来た。


「では行きましょう。もう1時間ほどで町が見えて来るんですよね、ダイクさん?」


「ええ、正直この半分も来れるかどうかと思っていましたが、想像以上に進む事が出来ましたから。皆さんもベッドで休めますよ」


別に町に着かなくても悠には『虚数拠点イマジナリースペース』があるので何の問題も無いのだが、ダイクは好意で言っていると分かっているので何も言わずに頷いた。


そして無事一行は最初の町に辿り着いたのである。




その後の行程も順調に進んだ。魔物が襲撃してくる事はあったが、そもそもⅤ(フィフス)を超えない魔物では子供達の噛み合った連携にヒビを入れる事は出来ず、着々と依頼を消化出来るのでむしろ有り難いくらいである。


急峻な峠も鍛えられた子供達の足を鈍らせる事は無く、馬車に合わせ若干速足で進む距離は1日50キロにも達する事もあった。


そして4日目の日暮れ前に悠達は遂に目的地であるギルド本部のある街・・・というか国に辿り着いたのである。




「身分証の提示を願おう・・・っと、ダイクさんじゃないか、随分お早いお帰りだな?」


「ああ、お陰様でね。皆さんもご用意を・・・」


そこで樹里亜が前もって預かっていた冒険者証を纏めて見せたが、そこに混じっていた悠の冒険者証を見た門番は目を剥いた。


「あっ!? ま、まさかこちらはあの『戦塵』の方々なのか!?」


「ああ、そうだよ。たまたまこちらに来るご用事があるとの事で、運良く便乗させて頂いたんだ。そのお陰でこの早さという訳なのさ」


「あ、あの!! も、もしよろしければ握手など・・・」


最早ダイクの言葉など耳に入らず、ガチガチに緊張した面持ちで門番が直立不動で悠の前に手を差し出した。


「俺の手にそんなに価値があるとは思えんが・・・」


それでも悠が門番の手を握ると、感動した門番はブンブンとシェイクハンドする。


「いやぁ、今この街では『戦塵』の方々が話題にならない日はありませんよ!!! ここは冒険者の街ですからね、その手の話題には皆敏感なのです!!!」


「ヤハハ、ならば夜には酒場にでも繰り出してみますか。これまでの『戦塵』の活躍を語ればウケが良さそうです」


「おお!! あなたは『勇者の歌い手』ハリハリ様ですね!!! 自分も勤務が終了したら飛んでいきます!!!」


「・・・えー、そろそろ入ってもいいかね?」


話を切り出すタイミングを窺っていたダイクの言葉で門番は名残惜しそうに悠の手を放し、道を開けた。


「もちろん! ようこそ、冒険者の街クォーラルへ! 楽しんで行って下さいね!!」


こうしてダイクとの依頼は完了し、悠達はクォーラルの街の地を踏んだのだった。




「では皆様、私は自分の家に戻ります。・・・本当は我が家にご招待したいのですが、生憎そんなに大きな家ではありませんので・・・申し訳ありません」


「こちらこそお世話になりました、ダイクさん」


「宿でしたらこの大通りの右手にある『釣魚亭』がお勧めです。憚りながら、私もそこに食料を卸しておりますのでね。では御機嫌よう」


樹里亜はホッと胸を撫で下ろしてダイクに別れの挨拶を告げて別れた。


「よくやったな、樹里亜。予定より早く目的地に到達し、怪我人も出ていない。何より笑顔で依頼人と別れる事が出来たのが今回の依頼の成功を物語っているだろう。ご苦労だった」


「あ、ありがとう御座います!」


悠にそう言って貰えるのが樹里亜には何より達成感を覚えさせたのだった。


「さて、では早く宿に行きましょう。そろそろ夜の鐘(午後六時)も鳴る時間です。急がないと宿が混んで来るかもしれません」


「そうだな・・・ではダイク殿の勧めに従うか。どうも俺達は目立っている様だ」


悠の言葉通り、通行人は遠巻きに悠達に注目していた。また握手でも求められれば更に時間を食ってしまうだろう。


「では全員駆け足、宿を目指すぞ」


「「「はい!」」」


「うう・・・俺ちゃん馬に乗り過ぎて股が痛い・・・」


「もうちょっとだから頑張ろう、ルーレイ?」


一番体力とタフネスに劣るルーレイをアルトが励まし、悠達は『釣魚亭』に向かって走り出したのだった。




「これはこれは、大人数だね。本日はお泊りかい?」


「ああ、ダイク殿に紹介されてやって来たのだ。なるほど、中々立派な宿だな」


「ダイクの? ハハハ、あいつはいい商人さ、ちょいとお人好しだけど、扱ってる物は確かだし。そのダイクの紹介じゃ無碍には出来ないね! ウチは商隊なんかも泊まれるくらいの規模はあるから、部屋には余裕があるよ! どんな風に分けるんだい?」


ダイクの名を出すと、恰幅のいい女将は更に愛想良く悠に尋ねて来た。


「そうだな・・・子供達の男女と大人の男女で分けるか」


「あいよ! えーと、女の人は一人部屋だね」


「・・・あの、私の隣の人も女性ですので、2人部屋でお願いします・・・」


やはりシュルツは外見では女性には見られないのだった。


「あらま! 悪かったねぇお姉さん! 顔が見えなかったからつい・・・」


「いや、気にしてはいない。良くある事だ」


「バロー殿が居なくて良かったですね。きっと揉め事になりましたよ」


「そうですね・・・シュルツさんとバローのアニキはすぐ喧嘩しますから・・・」


そんな一幕がありつつも、悠達は無事宿に落ち着く事が出来たのだった。

私も駆け足で進行しています。道中の小話を入れると何倍にも膨れ上がってしまいますので・・・

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