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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
513/1111

7-57 御当主閣下の誤算18

レフィーリア・ノワールの見合いに端を発した一連の騒動は決着した。


当主クレロア、前当主フェローザ、並びにバルボーラはナグーラにて領民の前で公開処刑となり、ナグーラの住民はこれを歓呼を持って受け入れた。


喚き散らすフェローザ、バルボーラとは対照的にどこか違う世界を見つめたまま首を差し出したクレロアはただひたすらに神への祈りを捧げ続けたのが印象的であったと記されている。


更にラグエル王の意によりドワイド領はノワール領に吸収され、いち早くナグーラに救援物資を送った事、戦時にドワイド兵を損なわなかった事などで信頼を勝ち取ったバローはスムーズにドワイド領の住人に認められたのだった。


また、アライアットの尖兵を撃退、恭順たせた手腕を高く評価され、王家はベロウ・ノワールに侯爵号を贈りその功績に報いた。ただ、これにはラグエル王のバローを国に留めようとする政治的な判断もあったであろう。


これらの結果、ノワール家は広大な領地を有する大貴族の一員として名を連ねる事になるのであった。




「なんだか話がデカくなっちまったなぁ・・・最初は単に実家に立ち寄っただけだったのに、レフィーの見合いからどこをどう弄れば俺が侯爵だのになるんだよ。ワケ分かんねぇぜ 」


「それを言うなら俺達兄妹だってそうですよ、バローのアニキ。いきなりお前達は実は王族だーなんて言われても何の実感もありませんし・・・」


「だよなぁ・・・アレだな、ユウに関わると人生変わるよな。いいか悪いかは別にして」


全員身に覚えががあるのでバローの発言に笑いが起こった。


「師と出会っていない人生か。今より強くなれていなかった事は間違い無いな」


「ワタクシもアザリアで謎の吟遊詩人として腐ったままだったでしょうねぇ・・・」


「我々も未だアザリア山頂で寂しく暮らしていたでしょうね、シャロン様」


「ユウ様は私の救世主です。この上はあの方の行く道を微力なりともお助けするのがせめてもの恩返しでしょう」


「うむ、ゆーには世話になった恩がある。ひーは恩知らずではないからしっかりと返すぞ」


「愛しい者と一緒になれた。その分は報いよう」


「何にせよ、退屈だけはしそうにねぇな。誤算続きでもそれだけは確信出来らあ」


同意する一同であったが、そこでバローがふと周囲を見て首を捻った。


「ビリー、ミリーはどうした? さっきから姿が見えねぇが・・・」


「・・・厨房だと思います。ユウのアニキに差し入れを持って行くんだって張り切ってましたから・・・」


あれからというもの、ミリーは悠への好意を隠さなくなっていた。元々淡い想いは抱いていたが、それが例の一件で顕在化し行動として表れているのだろう。


「兄貴としちゃあ複雑な心境か?」


ニヤニヤと笑いながらバローはビリーを小突いた。


「そ、そんな事ありませんよ!! ユウのアニキが本当のアニキになってくれるってんなら俺にも願ってもない事です!! ・・・でも、きっとミリーじゃユウのアニキには付いて行けません。それを思うとミリーが不憫で・・・」


悠が女性に求める最上は強さである。勿論前提として善良である事は当然だが、それ以外は人型であれば容姿や社会的地位は一切考慮に値しないと公言して憚らないのだ。逆に罪作りと言えよう。


「それはたとえ兄貴であってもお前が口を出す問題じゃねぇな。ミリーだってそんな事は百も承知だろ。それに、別にミリーが出遅れてるワケじゃねえ。ユウの条件の前じゃ誰だって横一線なのは変わらねぇしよ。そもそもアイツ、あのとんでもねぇ別嬪の皇帝陛下でも落ちねぇんだぞ? あんな姫さんに言い寄られて首を縦に振らねぇ男が居るって事が俺には信じられんね」


「ああ・・・綺麗な方でしたね・・・まるで女神様みたいで・・・」


「長年生きて来て、あれだけの逸材を見たのはいつだったか記憶にもありませんねぇ。年甲斐も無くときめいてしまいますよ、ヤハハ」


志津香を思い出してデレデレし始める男性陣に対する女性陣の反応は冬の冷気よりも尚冷たかった。


「これだから男という奴は・・・少し美人と見ればすぐに鼻の下を伸ばす。そのイヤらしいツラをこちらに向けるな、目が腐る」


「特にバローはいい加減身を慎むべきだな。仮にも侯爵ともあろう者が女女と目の色を変えている様ではノースハイアの恥になろう」


「ばろもびりもいい年なのだから、もう少し外聞を取り繕う事を覚えるべきだ。少しはゆーを見習え。はりーは少し枯れろ」


「バロー様・・・」


シャロンにまで眦を下げられ、バローは大いに動揺した。


「ま、待てよ! 俺のはあくまで一般論であってだな? ・・・えー・・・あ! そ、そうだ!! 俺はそろそろ訓練に行かなきゃならねぇんだった!! じ、じゃあな!!!」


「え!? ま、待って下さい、バローのアニキ!! 俺も行きますから~!!!」


「・・・『透明化インビジブル』」


慌ててその場を逃げ出したバロー達が居なくなっても女性陣の話は続いた。


「私には人族の事はよく分からんが、あれで出る所に出れば人族の中でもそれなりの地位にあるのだから、やはり人族は不可思議だな」


「誠に遺憾だが、剣士としても拙者と同等か、或いは上回ろう。この一月足らずで更に腕を上げたようだ。ヤツに負けられんと思えばこそ、拙者も鍛練に張りが出る事は否定出来ん」


「まだ人間社会に知れ渡っていないのが不思議なくらいの男だ。私が生きていれば婿候補くらいには加えてやっても良かったな」


「ばろはやる時はやるが、ダメな時はとことんダメな男だ。特にひーを子供扱いするのは許せん」


「バロー様は人の心の機微の分かるお方です。人の為なら道化を演じる事も厭わないような・・・ユウ様の良き相棒だと思いますよ」


「「「それは褒め過ぎだ(です)」」」


一斉に否定されてシャロンはしょんぼりと肩を落とした。


「しかしなぁ・・・ビリーもミリーもアライアットの王族とは。段々高貴な身分の者が仲間内に増えて行くではないか。ルーレイも王子だし、アルトは公爵子息。バローも侯爵になったし、この上ナターリア王女やアリーシア女王でも加わろうものならちょっとした多国籍軍だな」


「そんな事よりもひーが気になるのはゆーの周りにゆーに惚れている女が多過ぎる事だ。サイサリス以外のこの場に居るお前達も多かれ少なかれ、ゆーを好いているのだろ?」


「「「!!!」」」


「そうなのか、皆?」


サイサリスの悪意の無い問い方にシュルツは覆面を引き上げて顔の露出面積を小さくし、ギルザードは小脇に抱えていたヘルムを被り直した。結果、隠す物のないシャロンの真っ赤に染まった顔だけがその場に残る。


「あ・・・そ、それは・・・・・・ぎ、ギル!!!」


「・・・黙秘致します、シャロン様」


「し、シュルツ様!!!」


「・・・拙者、世事には疎いので言える事はありません」


「そうか、やはりしゃろはゆーが大好きなのだな!!!」


「大声で言わないで下さいまし!!!」


「否定はしないのだな」


冷静なサリサリスの突っ込みに、とうとうシャロンは赤くなったまましゃがみ込んでしまった。


「別に責めている訳ではないぞ? ただ、もし思う所があるのならみりを見習って素直になった方がいい。言葉や態度に出さなければ、ゆーは応えてくれんぞ? ・・・しゅるちもぎるもな」


「いや、拙者は・・・」「別に私は・・・」


反論のタイミングが被り、シュルツとギルザードは顔を見合わせた後、同時に逸らした。


「大人ぶって本心を隠すのは本人の勝手だが、この程度の話し合いは子供達ですらしている事だぞ? 現にそーななど、元の世界に戻らずにゆーと共に行くそうだ。ゆーとて人間、いつ心変わりするかも分からん。繰り返すが、少しはみりを見習うのだな」


ヒストリアの言葉に他の者達は黙り込んだ。色々と反論はあったが、そのどれもが口に出せば言い訳染みて感じられ、容易に口に出せなかったのだ。


「ゆーの行く道は長く険しい。多少腕には自信のある我らでも道半ばで倒れる事もある。ゆめゆめそれを忘れぬようにな」


そう言ってヒストリアはその場を離れていった。


「経験者として忠告するが、愛する者を失うのは身を引き裂かれるほどに辛いぞ。それこそ気が狂わんばかりにな。後悔したくなければヒストリアの言う通り、自分に素直に生きるべきだ。死戦を繰り返す我らには躊躇っている間などありはしない。・・・強き力を持っていても、我らは女である事に変わりはないのだからな」


サイサリスも去り、残されたシュルツ、ギルザード、シャロンはそれぞれ己の胸に問い掛けていた。


(今は戦時、拙者は幾つもの事を同時に考えられるほど器用ではない。師の事は無論敬愛しているが、それが男と女の感情なのかは拙者には分からぬ・・・)


(死体が動いているだけのデュラハン(首無し騎士)に恋も何も無かろう。私はシャロン様が幸せであればそれが最上、ヒストリアは深読みし過ぎなのだ・・・・・・・・・多分)


(呪われた吸血鬼バンパイアが誰かを愛する事など出来るのでしょうか? ・・・私も見た目通りもっと幼かったならば、自分の心のままに行動する事も出来たでしょうに・・・。私は子供達に嫉妬しているのかしら・・・)


それぞれが自分なりの悩みを抱えている。人から見れば一笑される悩みであろうとも、本人達にとっては重大な問題である。シュルツは未知ゆえに、ギルザードは忠義ゆえに、そしてシャロンはその力ゆえに。大人になるという事は、悩みを積み重ねて生きて行く事なのかもしれない。


そんな個々人の悩みとは関係なく、再び大きな戦乱が悠達の先には待ち構えているのであった。

これで7章本筋は締めと致します。


悩み多き面々ですが、世界は自分を中心に回ってはいません。公園で永遠の愛を誓う恋人達の背後で犬が粗相をしていたり、アパートで一家団欒をしている隣の部屋で人生に絶望した人が首を吊っていたりします。


世界は個人の集合体であり、自分達の感情や状況など全く関係無く進行している事柄が幾つもあります。だからといって、個人に認識出来るのは自分の周囲だけですし、小説では意図的に外的要因は排除されて綺麗な場面として抜き出されているでしょう。


しかし、その枠の外側にも世界が続いているのだという事を私は肝に命じて小説を書いています。それがリアルという事なんだと思うので。ラナティ辺りがいい例かも。


こんな事を考えているから長くなるんですね、ごもっとも。


しかしこれに懲りずにこのまま7章閑章としてバローと別れた悠が何をしていたのかをこの後書いていきます。同一時間軸なので章分けはしません。


こんな事を考えているから長(ry

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