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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-56 御当主閣下の誤算17

投稿したと思っていたら投稿されていませんでした。寝ぼけて確認画面に行った時点で投稿したと思い込んでいたようで・・・猛省です。

一応の事情聴取が終了した夜、今度はサリエル、アグニエル、そして悠も呼ばれて夕食兼報告会となった。


「我が国へようこそ、アインベルク子爵」


「お、お初にお目に掛かります、サリエル殿下、並びにアグニエル殿下。敵対し、更に敗残の将である自分へのご厚意に深い謝意を・・・」


「そう緊張なさらないで下さい。・・・アライアットの方々に多大なご迷惑をお掛けしていたのは我が国の方です。しかし、我が国も一人の騎士のお陰で長い悪夢からようやく目覚めました。これからは是非アライアットとは良き関係を築いて行きたいと私は思っています」


「・・・戦場で指揮を執っていた者としてこちらからも深い謝意を表したい。厚かましいと思われるだろうが、今後はアライアットとの関係修復に努めたいと思う」


突然現れた仇敵とも言えるノースハイアの王族を前にしてクリストファーは多大な緊張を強いられた。しかし、サリエルやアグニエルも謝意を表明した事で多少それも緩和された。


「それは願ってもない事です。・・・正直、ノースハイアに思う所が全く無いとはとても申せませんが、ノワール伯は信頼出来る方とお見受けしました。アライアットとて全ての国民がノースハイアを憎んでいる訳ではなく、今やそれは二の次になっております。我が国で最も問題なのは国が聖神教に支配されており、国政のほぼ全てが聖神教によって動いている所にあります。それさえ排除されれば時間は掛かっても両国の関係改善は可能でしょう」


「兵士の方々の身柄はノワール伯に預けます。その方がアインベルク子爵やその配下の方々も安心でしょう。衣食住に関しては王家で責任を持ちますので、必要と思われる物資や金銭を計上して下さい」


「サリエル様、ノワール領に関してはある程度の算定は完了しております。後ほど書類をお渡し致しますので」


「ありがとう御座います、レフィーリアさん」


レフィーリアの高い事務能力にサリエルが笑みを浮かべた。


「子爵並びにアライアットの兵士の方々には理性的な行動を期待します。また、ノワール伯には住民の方々とアライアットの方々の間に無用な軋轢を生まないよう配慮をお願いします」


「はい、目を光らせます」


「畏まりました。とりあえずは兵士同士、合同訓練と称して交流を図ろうかと。当家の訓練は過酷ゆえ、動けなくなるまで絞り上げれば自然と連帯感も生まれましょう。そうだな、パストール?」


「・・・そうですな、最初は軋轢もありましょうが、始まってしまえば競争心がいい方向に向かうかもしれません。余計な諍いなどが入り込むほど、当家の訓練は甘くはありませんから」


これまでの日々を思い出してパストールは苦笑いを浮かべた。バローの扱きはとても軽口を叩ける余地など存在しないので、共通の苦しみが連帯感に繋がるのではないかとパストールも思ったのだ。


「さしあたっての住居だが・・・悠、お前がさっき作ったあのバカでかいカマクラとかいうやつを倉庫に使わせてくれよ。1000人分の物資を保管するにゃちょうどいいや」


「了解です、ノワール伯」


バローが言っているのは悠が子供達やヒストリアと協力して作り上げた巨大なカマクラの事であった。最初それがソリューシャの兵士の目に映った時、新たな拠点を敵対勢力が築いているのかと勘違いするほどの規模でバローの元に報告が来たほどだ。それはカマクラなどという言葉で表すのは適当とは言えず、天然の倉庫と言えるレベルであった。直径50メートル、高さ20メートルもあれば当然だろう。


「それに関して私からも一言宜しいでしょうか?」


「なんだハリハリ?」


そこにハリハリが口を出した。ハリハリがこの場に居る事に微妙な違和感を覚えた者も居たのだが、当主のバローが何も言わないので特に問題視される事も無く話は進んでいく。


「現在、アライアットの兵士の方々は街の許容量の関係で外にテントを設営しております。しかし、ノースハイアの冬を越すにはそれだけでは些か心許ないのも事実。ですので、居留地の状況改善の為に雪塁せつるいを築く事を提案致します」


「雪塁? どういう事だ?」


「つまりですね、この有り余る雪を城壁の延長として利用しようと思うのですよ。ある程度の高さまで雪を積み上げ、寒風から守る防壁として利用すれば良いのではないかというご提案です。直接的に吹き込む風が緩和されるだけで相当寒さは減じるでしょうし、アライアットの兵士の方々も心情的に感謝の念を抱くのではないでしょうか? また、住居を増設するにしても、ある程度整備されていた方が効率も上がりますし」


「ほほう・・・中々いい提案だと思うぜ?」


バローが賛成の意を示すと、レフィーリアも頷いた。


「確かにテントだけではこの先厳しいでしょう。両国の兵士に労働を課せば、それによる連帯感にも繋がるかもしれませんね」


「私も賛成です。平和的な手段で連帯感が養われるならそれに越した事はありません」


「それじゃあ早速そっちは手配して貰おうか。レフィー、計画についてはハリハリと意見を交わしてくれ」


「心得ました、兄上」


「さて・・・次だな・・・」


ある程度成果の見える議論の後には少々頭の痛い問題が残されていた。現在、領主が不在のドワイド領についてである。


「ドワイド領に関してのサリエル様のご意見をお伺いしたいのですが・・・」


「・・・実際にこれほどの事を実行してしまってはドワイド家に領地を任せておく事は最早出来ませんね・・・お父様の裁可を仰がなくてはなりませんが、恐らくは領土没収とドワイド伯爵家の取り潰しは間違いないでしょう。当主に関しては・・・」


そこでサリエルは言いにくそうに言葉を濁した。


「サリエル様、ここで躊躇っては虐げられたナグーラの領民が納得しません。ドワイド伯爵家は当主クレロア、前当主フェローザ、並びに発端となったバルボーラを死罪とするのが適当です。それ以外に累を及ぼさないにはそうするしかありません」


「はい、分かってはいるのですが・・・」


アグニエルの言葉にサリエルは俯いた。自らの言葉で人を死に追いやる事は温室育ちで善良なサリエルには耐え難い事であった。だからサリエルはそっと頭を上げて悠の方を見た。


悠は静かにサリエルの言葉を待っていた。そこには急かす色は無く、ただ夜の様な静謐さがあった。


「・・・クレロア、フェローザ、バルボーラの3名には死罪を。空白になるドワイド領は暫定的にノワール伯に預けます。後に王家から正式な声明が発表されるまで管理をお願いします」


「「「畏まりました」」」


こうしてドワイド領はノワール領の一部となる事が暫定的に決まり、それは後に正式にノワール領となる。ベロウ・ノワール伯爵は今回の戦功により王家より侯爵号を賜る事になるのだった。


「ナグーラの物資は乏しく、住人は飢餓と冬の冷気に喘いでおります。許されるならば軍使の派遣と共に物資の融通をお願いしたい」


悠の言葉にバローが頷いた。


「今回の下知の伝達には管理する都合上、俺が行った方がいいだろう。しかし物資か・・・」


1000人も余分に人間を囲い込んでしまった影響でソリューシャの物資も少々心許なくなっていた。一時的には凌げても、それによって住民が不備を被るようではその怒りの矛先がアライアット投降者に向けられる可能性は高い。


「それならばユウ殿に物資の都合を依頼すれば良いと思いますよ? 温暖なミーノスであれば薪も食料もここで調達するよりもずっと安く大量に手に入りますし、何より個人で大規模な物資搬入を行えるのはユウ殿以外存在しません」


「そうか! ユウ、悪いが引き受けてくれるか?」


ハリハリの提案に一も二も無くバローは乗り気になって悠に尋ねた。


「ご依頼であれば謹んでお受け致します」


「助かる! それに関してはミーノスのロー・・・フェルゼニアス公に話を通せばすぐに用意してくれるはずだ」


「掛かった費用に関しては王家に請求して下さい」


「畏まりました」


この中で一人、クリストファーだけが沢山の疑問で頭を悩ませていたが、それ以外の者達が誰も問題視しないので発言出来なかった。


(街一つを賄う物資を一人で調達? ミーノスのフェルゼニアス公? 今からミーノスに買い付けに行って帰って来るまで街はもつのか? ・・・分からん、このユウという冒険者は一体・・・?)


クリストファーは悠が『竜騎士』カンザキである事を知らない。だからこその疑問だが、いずれ知る事になるだろう。


そこで悠が席を立ったので、議論はこれまでとなった。


「自分は今からミーノスに発ちますので、これにて失礼致します」


「ワタクシも一緒に行きましょう。では皆様、良い夜を」


こうして戦後処理に関する話し合いは終結した。

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