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1-43 デートという名の戦い5

「悠さん、足のサイズはいくつですか?」


「29センチだ。こっちの棚なら三段目だな」


「うわ~おっきい~。靴って数センチの差でもなんでこんなに大きく見えるんでしょうね?」


「横だけ測ると数センチでも、質量的にはもっと増えてるからじゃないかしら?」


「そうか~なるほど~」


今日はそんなに長い間買い物をしている訳にはいかないので、四人は旅装品が一通り揃いそうな大型の総合店舗へやって来て、まずはどこも変わらない保存食を買い求め、その後に靴を見に来ていた。


「でも軍で支給されるブーツより丈夫なのは流石にあんまりないですね」


「本当はあれが持って行ければ良かったが、あくまで軍は装備品は貸しているに過ぎんからな。軍服は各自の購入だが」


「しかも長い距離を歩くとなると軽いのがいいですし、でも軽いと耐久性に欠けるんですよね・・・となると、やっぱりこれしかありませんよ、悠さん」


「私もそれがいいと思うわ。つま先に龍鉄のガードも入っているし、軽くて丈夫。デザインも軍ほど厳しくなくていいわね」


「ただ、値段が凄いな・・・」


「うん、あたしの靴の30倍以上するよ・・・」


「いや、これにする」


「いいんですか、悠さん?」


「これなら過酷な旅にも耐えてくれそうだからな」


龍鉄とは、鉄と龍の鱗を溶かして混ぜ合わせた金属で、同じ厚さで鉄の5倍の強度を持った特殊合金の事である。軍が倒した龍から剥ぎ取ったもので、ランクの高い龍になるほどに価格が跳ね上がる。5倍の強度とはⅤクラスの龍の鱗の値で、一ランク上がる毎に更に硬度は増していく。


もし悠の倒したアポカリプスの鱗があったならば、1キロもあれば家が建つほどだ。残念ながら悠はアポカリプスを完全消滅させたので、鱗どころか爪の欠片すら残ってはいないが。


「Ⅵクラスの龍鉄など軍の工廠でもそうそう出回る物では無いからな。これ以上の物は望めないだろう」


「分かりました、じゃあ決めちゃいますか!」


その調子で靴は決まり、次の服に関しては女性陣の意見に任せた。何しろ普通の服より軍服の方が着慣れている悠であったので、一般的なセンスに欠けていたのだ。それでも旅装という事で格好良さよりも汚れに強い事や丈夫で洗濯に耐えるものと考えると無難に落ち着いたのだった。


「悠さん、一応軍服も礼服として持っていった方がいいかもしれませんよ。私達の知らない国に悠さんなら辿り着けるかもしれませんから」


現在、国とは東方連合国家以外は周辺に小国がいくつかあるだけだ。――ちなみにナナナはその小国からの国賓という扱いである――だが、それは遠くへ行って確かめる手段が無かったからで、東方というからには当然西方もある。しかしそれらの連絡は20年前の龍の侵略以降年々細っていき、やがて絶えた。今の情勢ならそれらの探索も可能かもしれない。


「ああ、参考にしよう」


悠としては異世界に行くに当たって礼服がいるかどうかは疑問なのだが。


「じゃ、悠さんの買い物はこんな所ですね」


「ああ、今日は助かった。改めて礼を言おう」


「いえいえ、じゃあ次は悠さんのご意見をあたし達に賜りたいので~」


「しかし、俺は女の服の事は良く分からんぞ?見当違いな事を言うかもしれん」


「いいんですよ、悠さんの好みでご意見下されば」


むしろ悠の好みを探りたいのだから、願ったり叶ったりである。


「さ、悠さん、参りましょう」


そう言ってするりと蓮が悠の腕を自分の腕に絡ませて女性服の売り場へと導いて行った。三人の中で一番女性的な蓮だからこその自然な動きである。


「あっ!蓮!抜け駆け禁止ーっ!」


「ずるいぞ!私だって腕を組みたいのに!!」


置いて行かれた二人はあわあわと二人の後を追いかけた。







「とんだ恥を掻いた・・・」


「いやー、大き目の試着室だったけど、流石に三人はきつかったね~」


「私なんて悠さんと目が合っちゃったわよ・・・うう」


買い物を終えて荷物を置いてから、四人は千葉家へと向かっていた。女性陣が赤面しているのは時間が無いからといって、試着室に三人で入って品評しながら早着替えをしつつ悠に見せていたからだ。


しかし横着した罰が当たったのか、燕が普段履かない高いヒールなどを試したせいで、出ようとした瞬間にこけてしまい、ついでに下着姿だった二人を巻き込んでカーテンを突き破ってしまったのだ。


悠はその男子垂涎の光景にも顔色一つ変えずに床に広がるカーテンを掴んで三人にかけ、無言で隣の試着室を顎で示して緊急避難させたのだった。


「まぁまぁ、今日は亜梨紗は可愛いので良かったじゃん?蓮のはちょっとえっちぃ感じだったけど」


「馬鹿者っ!可愛ければいいという物では無いだろうがっ!」


「・・・死にたいわ」


当然悠はこの会話には参加せず、着慣れた軍服姿で先頭を少し離れて一人歩いている。近くに居ては燕辺りに「どうでした?誰のがぐっと来ましたか?」と聞かれる事を恐れている訳では無い。決して。


「・・・レイラ、どうにかならんか?」


《敵前逃亡とは最強無敵のカンザキ ユウの名が泣くわよ?》


「敵前逃亡では無い。戦略的撤退と言って貰おう」


《まぁ、今日の事には触れずに話題転換出来れば上々だけれど、ユウにそれを求めるのは酷ね》


「レイラ、段々口が悪くなってないか?」


《近くに居る人間が良くないんでしょうね。特に竜将二人が》


「・・・」


さすがに目の前で数え切れないほど下らない言葉の応酬をした片割れとしては反論出来ない所だ。


そんな会話でも時間は過ぎてくれたらしく、遠くに千葉家が見えてきて、悠は好機とばかりに後ろに声を掛けた。


「亜梨紗、天城、斉藤、もう千葉家に着くぞ。言い争いはそのくらいにしておけ」


「はーい」


「はい・・・」


「・・・」


なんとか気持ちも治まってきたようだ。・・・若干、蓮の目が死んでいる魚の様だが。


「そういえば、今日は滉も帰っているのか?」


「え?滉ですか?さぁ、私が昼に出て来る時には不在でしたが・・・」


「居ないなら、俺が明後日旅に出る事を暇な時にでも伝えておいてくれ。それなりに長い期間顔を合わせる機会が無くなるからな」


「後回しにすると恨まれますよ悠さん。あの子は悠さんの事を慕ってますから」


「残念ながら全寮制の女学校に立ち入る伝手は持っていなくてな」


「ふふ、そうですね」


そして一同は千葉家の扉の前までやってきて、最後に身嗜みを整えた。


名家だけあって大きい屋敷で、本来なら誰かしらの使用人を呼んで取り次いで貰うのだが、今は亜梨紗が一緒の為、亜梨紗の先導で中に入ろうとした。


「ただいま帰りましっ!?」

















「ゆーーーうーーーさーーーまーーーっ!!!」


















玄関の扉を開けて中に入ろうとした亜梨紗を、小さな影が突き飛ばし、一目散に悠へと駆け寄り、そして飛び掛った。


悠は特に驚く事も無く、その小柄な人影を抱き止める。


「悠様、悠様、私、寂しかったんですの。だから会いにきてしまいましたわっ!!」


「・・・分かった。分かったから手を離せ、滉」


「いやですのいやですのっ!今日は離れませんことよ!!」


そのお嬢様口調の弾丸娘こそ、千葉家次女、千葉ちば あきらであった。

さすが妹。姉と行動が似てますね。

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