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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
503/1111

7-47 御当主閣下の誤算8

「クレロアの様子はどうだ、ガルファ?」


「今日も頭の中の神に媚びるのに一生懸命ですよ。遠からず現実世界から退場なさるでしょう。このまま続けますか、ロッテローゼ様?」


「今しばらくは踏みとどまらせておけ。少なくともこの戦が終わるまではな・・・」


クレロアのテントに負けず劣らずの豪華なテントの中には僧侶の男ガルファと、女性用騎士鎧を纏ったロッテローゼ・ダーリングベル伯爵が信仰に狂ったクレロアの処遇を話し合っていた。そこには同じ人間に対する敬意も配慮も一切存在していない。しかしその目がガルファと合うと別人の様に柔らかくなった。


「それとガルファ、2人きりの時にはロッテと呼べと言っているだろう? 演技が過ぎるぞ?」


「・・・ああ、僕はあまり演技が得意じゃないからね、そうコロコロ態度を変えるとボロを出してしまうんじゃないかと気が気じゃないのさ、ロッテ」


「ふふ、数々の貴族を帰依させたお前が言っても説得力が無いぞ? 同じ任務についている者の中でもお前の成績は抜群だともっぱらの噂じゃないか」


ガルファの首に自らの手を絡めながらロッテローゼは甘く呟いたが、ガルファは自嘲気味に言い返す。


「それでもミスが無い訳じゃないさ。特にミーノスではせっかく口説き落とした公爵家の時期当主を拘束されてしまったし・・・。もっと上手く立ち回らせればミーノスを内側から腐らせる事も出来ただろうに」


「当主が別の計画に従事していたのだから仕方がないさ。詳しくは知らないが、あの家にもあの女の手が伸びていたのだろう?」


「うん、我々とは全く別の技術を提示されたからこそ謀反を企んだんだ。もっとも、あの事件のせいで却ってミーノスは一つに纏まってしまったのは何とも皮肉だけれど・・・」


今少し時間があればミーノスの公爵家が一つ、アライアットの手に入っていたかと思うとどうしても惜しむ気持ちがガルファの中に湧き上がっていた。しかも以前のミーノスと新生ミーノスはモラルの面で桁違いであり、迂闊に布教活動などしようものなら即座に捕縛されてしまうだろう。神の威光も満ち足りた者には届かないのだ。


だからこそガルファは多少強引である事を自覚しつつもドワイド領、そしてノワール領の切り取りの機会に躊躇わなかった。ドワイド領主クレロアは予想よりも容易に手駒に変える事が出来たのは僥倖であったが、もう一方のノワール領主、ベロウ・ノワールは神の威光を信じる様な脆弱性を抱えておらず、中央との関係も密であるという情報がある為に付け入る隙を見い出せなかったのだ。結局はこうして数の力で短期に押し通すしか方法はなかった。


「今は逸した大魚を思っても仕方あるまい。差し当たっては取れる大きさの魚から食らっていこう。次回の戦は春になるだろうが、それまでにこの地から絞れるだけ絞り、精々疲弊させてやろうではないか」


「ドワイド兵の士気も目に見えて低いからね。倍以上の数でも揃えなければ敵前逃亡したかもしれないよ。せめて我々の肉の盾として機能して貰わなくては・・・」


「ノースハイアの人間などに多くを求めても始まらぬ。街に家族を残している者は逆らえんさ。その数が3000にもなれば尚更な。係累は万を超えよう」


人というよりも既に奴隷か家畜に対する口振りで2人は話を切り上げた。彼らにとってドワイド家、そしてノースハイアの人間はその程度の価値しかないのだ。


「無粋な話はもういいだろう。これからは男と女の話をしようではないか、なぁガルファ・・・?」


「一応僕は聖職者なんだけどね・・・いや、それこそ無粋か。おいでロッテ・・・」


負ける事など露にも思わず、2人は顔を突き合わせて笑い合った。




《今日はいい天気ねぇ。空を飛ぶにはもってこいだわ》


「しかしこう見通しが良くては低空では兵士に発見されかねんな。レイラ、もう少し高度を上げるぞ」


《了解よ》


白く覆われる平原を下に、悠は高く大空に舞い上がった。昨日から天気は和らいでいたが、今日は快晴である。しかし、そのせいで放射冷却が起こり気温自体は昨日より低いだろう。たとえマイナス何度であろうとも悠の行動に何の支障もありはしないが、相手の動きには変化があるかもしれない。


悠は今パストールからの報告を元に予測される敵軍の侵攻ルートに沿って飛行していた。蓬莱で真から受け取っていた情報に比べれば有るだけマシといったレベルでしかないが、高度な隠蔽技術もない5000の兵を見つける事など悠にとっては些事ですらない。


更に数分も飛んだ所で雪原をノロノロと進む人の群れを発見し、悠は相手の視界に入る前に地上に降り、『虚数拠点イマジナリースペース』を出現させて内部で待機していたバロー達を呼び出した。


「見つけたぞ。ここから約二キロ先を亀の如く進んでいる」


「相変わらず仕事が早ぇな。さっき飛び始めたと思ったらもう着いたのかよ」


見栄えのする部分鎧を身に纏ったバローがニヤリと悠に笑い掛け、その後ろからゾロゾロと他の者達が続いた。


「流石に何人もユウ殿にぶら下がっていては遠くからでも目立ってしょうがないですからねぇ。長々と雪道を歩かなくても良かった事に感謝しましょう」


「ばろ、ひーの許可も無く飛び出すなよ。巻き込まれて死んでもひーのせいじゃないからな?」


「生きている時は煩わしかった雪も、こうして見ると美しいな。何より寒くないのがいい」


彼らの顔にも口調にも緊張や気負いは見られなかった。ごく普通に戦い、ごく普通に勝利する事を全員が慢心ではなく確信として捉えていたからだ。数で勝ったからと言って安心しているガルファやロッテローゼとはまるで性質が異なっている。


そもそも数で言うならば、ノワール家側は軍とすら呼べない陣容だ。悠、バロー、ハリハリ、シュルツ、ギルザード、ヒストリア、ビリー、ミリー。たったの8人を普通は軍とは呼ばない。それは小隊よりも更に下の分隊のレベルであった。


だがその戦力は間違い無く大軍のそれである。一番弱いビリーやミリーは高ランクの冒険者なりの能力であるが、それでも兵士10人程度に遅れは取らないし、それ以外の者達の強さは既に人間の範疇を逸脱している。ハリハリやギルザードは元より人間ではないが。


子供達も加えれば尚盤石だろうが、悠は自衛以外で子供達に人殺しを経験させるつもりは無かった。また、サイサリスも仲間になった経緯から人間相手の戦争に駆り出すつもりはなく待機している。あくまで今回バローに手を貸しているのは希望者だけなのである。


「じゃあ手はず通り俺とビリー、それとヒストリアの3人でまずは前口上に行ってくるぜ」


「へへ、旗持ちなんて目立つ役目は初めてですよ」


「ひーの傍から離れるなよ、ばろ、びり」


顔の見えるタイプのヘルムを被りながらバローが言い、ビリーが家紋の入った旗を得意気に翻す。ヒストリアはも相変わらず口は悪いがこれから3人だけで大軍と対峙する事に異論は無いようだ。


「では我々も準備しますか」


「ふふ、腕が鳴るな」


「あまり弱い者を斬るのは本意ではないが、慮外者に遠慮は要らぬか」


「私の出番なんて無いと思いますけど、頑張ります!」


続いてハリハリ、ギルザード、シュルツ、ミリーも集まって準備に掛かる。


最後に悠が一同に宣言した。


「相手次第ではあるが、基本戦略としてドワイド兵は極力殺さぬように。また、バローの交渉によっては計画の変更も有り得る。だが最も優先されるべきは各自の命だという事は心に刻んでおいてくれ。・・・俺は万一すら無いと信じているがな」


悠の言葉にバローは兜を直す振りをして照れた表情を隠した。ハリハリはニコニコと笑い、その隣のビリーも同じく笑っている。ギルザードは兜で表情が分からないので拳で胸の辺りを叩いて心配無用とジェスチャーし、シュルツとミリーは謹聴の姿勢から頭を下げた。ヒストリアはトコトコと悠に近寄り、垂れた手を握って口を開く。


「信じているなら言わなくていい。ゆーはたまに心配性が過ぎる」


「済まん、どうにも軍生活が長くて上官面が抜け切らなくてな。無論、ヒストリアがどうにかなるとは思っていないからこそ送り出すのだ。バローとビリーを守ってやってくれ」


悠も意志を伝える為に手にほんの少しだけ力を込めた。その気遣いが嬉しくて、ヒストリアは力一杯悠の手を握り返す。


「ゆー、終わったら皆で雪遊びしよう。じゅりに聞いたカマクラとか言うの、ひーも作ってゆーと入りたい」


「ならば昼までには終わらせて帰らねばな。俺は遊びにも手は抜かん主義だ」


「うん!」


打ち解けた笑顔を見せるヒストリアの後ろでバローは隣のビリーに小声で尋ねた。


(おいビリー、あのガキ本当に27歳なのか? ユウのヤツも甘いし、本当はサリエル様と同い年くらいなんじゃねぇのかよ?)


(色々事情があるんです、深く詮索しない方がいいですよ。・・・俺も最初子供扱いして酷い目に遭いましたから・・・)


「行くぞばろ! モタモタしているとひーが全部片付けてしまうからな!」


「うおっ!? こら、ここは俺が主役だっての!!」


「ま、待って下さいよバローのアニキ~!!」


雪原に突撃するヒストリアを追ってバローとビリーも急いでその後に続いたのだった。

一日2話は久しぶりですね。


さて、戦争よりも恋愛と政治遊戯に夢中な若い2人と、戦争前なのにほのぼのした悠一行のどちらがより非常識なのでしょうか。また、どちらがより好ましいのでしょうか。案外難しい所なんじゃないかなと思います。

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