1-42 デートという名の戦い4
ところで、化粧室ではこんな会話がされていた。
「あ~・・・悠さんの前で泣いちゃった。顔ぐしゃぐしゃだよ~」
「言うな。私もなんだから」
「ええ、化粧を薄くしておいて良かったわ、本当」
思い出すと転がり回りたくなる記憶であるが、三人の顔はすっきりしていた。普段はここまで深い話をしないのは、距離が近過ぎて気恥ずかしいのもあったのだろう。それでも今日の話で友人としてもう一歩深い所に踏み込めた気がしていたのだ。
「今度からはちゃんと私達にも聞いてくれよ。悠さんほどはっきりと話せないかもしれないが、それでもちゃんと聞くからな」
「そうよ、燕がそこまで考えてるとは思わなかったもの」
「うん、次からは二人にもちゃんと言うよ。だからね、亜梨紗」
「ん?なんだ?」
「あたし、今まで悠さんの事、恋と言うよりは憧れてたんだ。強いし、揺るがないし、頼りがいあるし、実は・・・優しいし。でも今日からは違うの。本当に好きになったの」
亜梨紗の目を見て話す燕は何時に無く真剣な眼差しだった。
「そうか・・・」
「うん、だから亜梨紗相手でも負けたくない。あたしも竜騎士を目指して頑張るっ!」
「ふふ、負けないぞ!今は私が一歩リードしているんだからな。なぁ、ウィナス?」
《まぁ、かろうじてギリギリそうで無い事も無いかもしれなくは無いね?》
「・・・そ、そんなにギリギリだったのか?」
《今の落ち着いた精神では着装は厳しいと思うよ?あの時はテンションが上がっていたからね?アリサはもっと精神も体も鍛えてね?今のままだと一番戦闘能力が低いガドラスにも全然敵わないからね?》
「くっ、クソミソだな。むぅ、兄上に勝つのが当面の目標か」
「私は・・・逆に恋じゃなくて憧れだったんだって思ったわ。そうね、出来る兄に憧れる妹みたいな感情だった。だけど強くなりたい目標は出来たから、私も竜騎士を目指すわ。燕と当分は一緒に訓練ね」
「蓮もか。あ、そうだウィナス。あの悠さんのやっていた技を出来ないか?あれが出来れば二人の特訓が捗ると思うんだが・・・」
《今のアリサには絶対確実100%不可能だね?億が一、発動しても二人を永遠に物言わぬ人形に変えてしまうのが落ちだね?》
「そ、そんなに難しい技だったのか?」
《竜の奥義だもの。竜は物質体、精神体、星幽体への干渉が可能な生物だけど、今の所全てを使いこなしているのはユウさんだけだね?だからこそまずアリサは物質体への干渉を完璧に出来るようにならないと精神体は扱えないね?卵の殻を割らずに中身をかき混ぜるような真似はそう簡単に出来るものでは無いよ?星幽体に至っては、殻を割らず、黄身を崩さずに味を変えるようなものだね?》
「頭が痛くなりそうだ・・・」
《アリサは頭も鍛えた方がいいね?思考加速に耐えられないよ?課題は多いね?》
「悠さんは上手く手加減してくれたんだね~」
《常人なら廃人だろうけどね?『竜ノ咆哮』は精神攻撃の切り札だからね?多分本気でやっていたらあの3倍以上の威力はあったね?レイラさんの実力から考えて。ついでに言うと、あれは拡散していたからあの程度だったね?収束して本気で撃っていれば・・・まぁ、もう威力の想像も出来ないね?》
「本気だったら私達全員今頃虚ろな目をして病院で壁でも見ていたんでしょうね・・・」
「つまり悠さんは結局30%の力で竜器使い20人を沈めたのか。くそっ、次に悠さんが帰ってくるまでに、全員鍛え直さないとな」
「あたし達三人が竜騎士になれば、きっと勝てるよ!」
「ええ、燃えてきたわ!」
(多分、三人でも無理だね?あのアポカリプスを屠るには物質体、精神体、星幽体の全てに攻撃が必要だね?そしてそれを屠ったという事はユウさんとレイラさんにはまだまだ奥の手があるね?物質体の究極『竜ノ爪牙』に精神体の究極『竜ノ咆哮』、星幽体の究極『竜ノ赫怒』まで使えるなら、本気のユウさんに勝てる生物はもうこの世には居ないんじゃないかな?アリサ達の婚期が遅れないといいね?)
口調は幼くてもウィナスは相当に古い竜だったのでその辺りの知識も豊富に持っていたが、まだまだその知識を扱うには亜梨紗は弱過ぎたので心の中だけに留めた。それに、せっかくやる気を出しているのだ。水を差す事もないだろうと思った。代わりに代案を提示したのだ。
《アリサには使えないけど、他の竜騎士なら使えると思うよ?手加減が上手い竜騎士が居たら頼んでみたらいいんじゃないかな?プロテスタンスさんやアーバインさんなら出来ると思うよ?ガドラスではちょっと難しいし・・・ミドガルドに頼むのは自殺と同義だね?》
「そうか、他の竜騎士の方に頼めば良いのか。えっと、プロテスタンスとアーバインと言えば、防人教官に朱理さんか。・・・朱理さんは陛下の警護で付きっ切りだから無理だろうなぁ。となると防人教官だが、悠さんの後を継いで今度竜将になられるそうだから忙しいかもしれん。兄上が出来るのなら頼み易くて助かるのだがな。・・・轟さんには、まぁ、うん、ホラ、今はお怪我をされているから、な?」
「あたしも轟さんにそれを頼むのは危険だと思うよ・・・」
「ええ、手加減というもの知らない方ですから」
酷い言われようの轟だったが、多少腕に自信のある者は皆一度は轟との手合わせを経験している。勿論徹底的に痛めつけられるという結果付きでだ。
「悠さんが居てくれたらお願いするのだがな」
《教師役としてはレイラさんが最適なんだけど、居なくなるんだから仕方無いね?》
「ああ、分かっている。それに、悠さんが知らない内に強くなって驚かせてやりたいとも思うからな」
《覚える事は多いね?まずは物質体の完全破壊を覚えないと先には進まないね?アリサは物理攻撃は得意だから頑張れば出来るようになると思うよ?》
「ああ、指導を頼むよ、ウィナス」
《任されたね?なんとかアリサを一人前の竜騎士にしてみせるね?》
「あたし達にも色々教えてね?ウィナス」
「ええ、当面は竜騎士になるのが目標ですもの」
「私からも頼む、ウィナス」
《分かったよ?よろしくね、ツバメ、レン?》
「うん!よろしくウィナス」
「よろしくね、ウィナス」
新たな仲間も加わり、意気を上げる三人(四人?)だった。
前より仲良くなった三人。雨降って地固まるというやつです。




