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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-35 舞い戻る竜11

十数年に及ぶ思いの丈を吐き出すのにレフィーリアは長い時間を必要とした。バローもこれまでの家での自分の行いを反省し、レフィーリアが落ち着くまでその話に耳を傾け、話終える頃には空が白み始めていた。


「・・・落ち着いたか?」


「はい、お兄・・・あ、兄上」


どうやら言動に気を払える程度には失調から回復したと感じたバローはレフィーリアから離れてドアへ向かおうとしたが、その気配を察したレフィーリアに袖を掴まれる。


「い、行ってしまわれるのですか、兄上?」


その瞳は捨てられた子猫の様に不安に揺れており、随分と「可愛く」なってしまった妹にバローは苦笑するしかなかった。


「最初はそのつもりだったがな・・・危ない立場に居るお前を放って行く訳にゃいかねぇだろ? 待ってな、この国が落ち着くまではここに居られる様にユウに頼んでみるからよ」


「本当ですか!?」


「ああ。王都の反乱も終息したし、この国の再統一も進む。そうすりゃ国内に散らばってた兵も国境警備に回されるはずだ。なんなら俺から王に具申してもいいしな。そうなりゃもうこの領地にちょっかいを掛けるバカも居なくなるだろうよ」


バローは恐らく悠は止めはしないだろうと半ば確信に近い想いを抱いていた。傍若無人に見えて、道理が通っていればそれを無碍にはしないはずだと信じていたからだ。そしてそれは裏切られる事は無かった。


「ユウ、起きてるか? 入るぜ?」


隣の部屋を訪れたバローがノックしても中から返答は無く、訝しんだバローはドアを開けたが中は無人で、部屋の中央に据えられたテーブルの上には『冒険鞄エクスパンションバック』と指輪、そして書き置きが残されており、そこにはこう記してあった。




《たまには家族らしい事の一つもやって来い。一月後に迎えに来るが、ここに残りたいなら好きにしろ。連絡用にレイラの『分体アヴァター』を置いていく。あまり妹を泣かせるなよ》




如何にも悠らしい物言いにバローは思わず笑い声を上げてしまった。


「・・・フッ、ハハハハハッ!! 気ぃ使いやがってあの野郎!!」


「どうなさったのですか、兄上?」


そこに遅れてやって来たレフィーリアにバローは書き置きを手渡し、その内容を確かめたレフィーリアは頬を朱に染めた。


「・・・も、もしかして私が泣いていた事も?」


「当然聞こえてただろうなぁ。その時からユウにはこの流れが読めてたんだろうよ。そうなんだろ、レイラ?」


バローが自分達以外に誰もいない部屋で聞き覚えのない名を呼んだ事をレフィーリアは不審に思ったが、その呼び掛けに答える声が上がった事でその思いは驚愕に取って変わった。


《ユウも妹を探してこの世界まで来たんだもの、好き好んで家族の仲を引き裂いたりしないわ。・・・それと、あなた達兄妹でイチャイチャし過ぎよ。聞いてられなかったわ》


「勘弁してくれよ。俺だって今更レフィーに「お兄様」なんて呼ばれるとは思わなかったんだぜ?」


「忘れて下さい!!! そ、そんな事よりも今の声はどこから・・・」


誤魔化す様に怒鳴ってからレフィーリアは部屋を見回し、最後にバローが手の平に乗せた指輪に視線を止めた。


「お察しの通りここからだぜ。これがユウの相棒のレイラってリュウって訳だ」


《正確には本人じゃなくて『分体』だけどね》


「んじゃあ別の名前が要るなぁ。えーと・・・フェルゼニアスのがライラだったから・・・よし、アイラにしよう。これはお前が持ってろよ、レフィー」


「え? え? どういう事なんですか?」


理解が追い付かないレフィーリアの手を取り、バローは人差し指に分体の宿る指輪を嵌めてやると、レフィーリアの指には若干大きかった指輪の径が自動的に調整されてピッタリとフィットした。


「な、何ですかこれは!? 魔道具なのですか!?」


「そんな様なモンだ。何かあってもそいつがお前を守ってくれるだろう」


《しばらくの間だと思うけどよろしくね》


「よ、よろしく・・・喋る魔道具なんて初めて見たわ・・・」


「万一の時はそいつがありゃあユウと連絡を取る事も出来るぜ。まぁ、俺が居る間は誰もレフィーに手出しはさせるつもりはねぇが」


バローの力強い言葉にレフィーリアは微笑みそうになり慌てて顔を引き締めたが、もうそんな必要も無いのだと思い出し、目まぐるしく表情を変えながらもバローへの礼を口にした。


「あ、ありがとう御座います、兄上。大切にしますね」


「礼なら俺じゃなくてユウに言ってくれ。あのお節介の善人気取りにな」


バローはレフィーリアから視線を外してぶっきらぼうにそう告げ、レフィーリアはそれを見て初めて声に出して笑った。


「フフ、兄妹で照れなくてもいいではありませんか」


「照れてねぇよ! ・・・んな事よりもお前も指輪をくれる男の一人や二人居ねぇのか?」


バローが悪態を吐くと、レフィーリアの表情が目に見えて曇った。


「・・・実は私に縁談が持ち込まれています。明後日、いえ、もう明日ですが、隣接するドワイド伯の御子息がこちらにやってくる事になっていて・・・口では色々言っていましたが、目的はノワール家の乗っ取りでしょう。しかし長年の関係から無碍に断る事も出来ず・・・」


「縁談だと!? ・・・入り婿にするつもりなら相手は長男のクレロアじゃねぇな・・・まさか次男のバルボーラか!?」


「はい・・・」


レフィーリアの表情を見るまでもなく、バローは嫌悪感も露わに吐き捨てた。バルボーラ・ドワイドと言えば近隣に聞こえた放蕩息子として有名であり、庶民のみならす貴族からすら蛇蝎の如く嫌われている人物である。領民の女性に手当たり次第に手を着け、それが人妻であろうともお構いなし。逆上して刃向かった領民を殺した数は両手では足りず、いくら貴族の権力が強いこの世界でも父親であるフェローザ・ドワイド伯に謹慎を命じられていたはずだった。間違っても良縁などでは有り得ない。


「冗談じゃねぇ!!! チッ、ラグエル王やユウに感謝するぜ。今帰って来なかったら俺は一生後悔する所だった・・・。よし、後の事は全部俺に任せとけ!! あんな豚野郎に可愛い妹は絶対やらねぇからな!!」


「は、はい!!」


バローの宣言に半ば諦めていたレフィーリアは目尻に涙を浮かべて嬉しそうに首肯したのだった。


その姿は既に互いに慈しみ合う、ありふれた仲の良い兄妹にしか見えなかった。




一方、こっそりと屋敷から出た悠の姿は空の上にあった。


《バローは上手くやってるかしら?》


「そのくらいの甲斐性は期待しても良かろう。レフィーリアも素直になる切っ掛けが掴めたのだ、これまでの年月の分を取り戻したらいい。後はラグエルの手腕に期待させて貰おう」


《じゃあその間に一度ギルド本部に行きましょうよ。コロッサスも催促されて困ってたじゃない?》


「そうだな、一度皆と話し合って今後の方針を決めるか」


そう言って悠は更に高度を上げ、ミーノスの方向へと飛び去っていったのだった。

・・・兄妹というか、素直になれなかった幼馴染みみたいな・・・

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