表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
487/1111

7-31 舞い戻る竜7

「ふぅ・・・」


悠とバローの去った謁見の間でラグエルはようやく一息ついた。多大な緊張感から解放された事と、潜伏生活で体力が殆ど底をついていたのだ。


「ふぇぇ・・・」


サリエルも魂の抜けた様な表情でその場にへたり込んでしまう。我ながらよく最後まで立っていられたものだと回転の鈍った頭でぼんやりと思った。


「王よ、ご無事ですか?」


「ミルマイズか、余は大事無い。ただアグニエルがあの有様でな、至急医者に診せておけ」


「畏まりました」


無精髭を生やしたままのミルマイズは部下の兵士に命じて担架を用意させ、痛みで気絶したアグニエルを丁重に運び出した。そのついでにマルスも治療の為に連れ出していく。


親衛隊長のミルマイズがここに居るのは自分で牢を出て来たからだ。以前牢を訪れた際、ラグエルは牢の中に密かに鍵を隠しており、自ら牢に入ったミルマイズは実はいつでも外に出られる状態であった。自ら牢に入る人間が脱獄を準備しているとはマルスもアグニエルも見抜けなかったのだ。


「アグニエル、マルスの沙汰は追って知らせる。今はまず治療に専念させるがよい。それ以外の者共は牢に入れておけ。今更抵抗など無意味と痛いほどに悟ったであろう」


ミルマイズが頷いて兵士に連行させても貴族達は一切の抵抗の意志を見せなかった。ラグエルの言う通り、下手に抵抗してまた同じ目に遭うのでは何の意味も無かったし、本物の暴力を目の当たりにして精根尽き果てた事が大きかったのだろう。


「さて、これで大方の掃除は済んだ。以後は余に逆らう者もおらんだろう。サリエル、シャルティエル、ご苦労であった」


「お父様こそ毅然とした態度、ご立派でした。・・・そうだ、よろしければお夜食などお作りしましょうか? 私、お料理致しますわ!」


「い、いや、それには及ばんぞ!! 明日からはまた激務になる、早く休みなさい!!」


サリエルの提案にラグエルは悠と対峙した時よりも必死になって思い止まらせた。明日以降の政務に差し障りがある要因は可能な限り排除しておかねばならない。


「そうですか・・・残念ですけどお父様がそう仰るならお言葉に甘えさせて頂きます。お姉様、参りましょう。・・・・・・・・・お姉様?」


一言も口を聞いていないシャルティエルを不審に思ってサリエルが姉の顔を窺うと、シャルティエルは手を胸元で包み込む様にして佇んでおり、どこか熱っぽい瞳で呟いていた。


「・・・カンザキ、様・・・素敵なお方・・・」


シャルティエルはライトなM体質であった。




「バロー、お前の実家に案内しろ。この際寄って行けばよかろう」


「はぁ!? べ、別にいいっての!! 俺が居なくなって妹が上手くやってるって!!」


「いいから案内しろ、これ以後いつ立ち寄れるか分からんのだ。長居する訳ではない」


それでもバローは実家行きを散々に渋ったが、単なる駄々をこねた程度で意見を変える悠では無く、2人は王宮から去るその足で(実際には飛んで)バローの実家へと向かったのである。




ノースハイア東部、アライアット寄りの場所にノワール家の領地は存在した。大都市と言えるほどの規模では無いが、以前に訪れたアザリアなどに比べれば大きな街である。


「まだ眠ってはおらんようだな」


「なぁ、やっぱり帰ろうぜ? ウチの奴らとユウとじゃ合わねぇよ。決裂しに行くのも馬鹿らしいだろ?」


「ならば俺は口を出さんからバローが仕切れ。一言も無く家を出たままでは家族も混乱するだろう」


「そんな可愛げあったかな・・・?」


妹を筆頭に近しい親族を思い浮かべても、自分が居なくなったからといって取り乱す様な人間味のある者が思い付かず、バローは暗澹たる気持ちになった。だからこそ王都で仕事をしていたのであり、実家には年に一度程度帰ってガラクタを持ち込むくらいであったのだ。


だがラグエルにも念を押され、更に悠にここまで連れて来られたのであればこれ以上ゴネてみてもしょうがないと思い直し、悠を案内して実家の屋敷の前に2人は降り立った。


夜も深まっているとはいえ、仮にも伯爵家ともなれば門番の2、3人くらいは居て当然である。急に頭上から現れた2人に門番はしばし呆然としたが、自らの職務を思い出して手にしたスピアを悠とバローに突き付けた。


「な、何奴!?」


「ここをノワール伯のお屋敷と知っての事か!? おい、応援を呼んで来い!!」


「だああああっ!! イキナリだからって動揺してんじゃねえ!!! 俺の顔をよく見やがれ!!!」


騒ぎが大きくなりそうな気配に堪らずバローが制止を掛けると、門番達は訝しそうにバローの顔に魔道具の明かりを向け、それが自分達の主人であると気付いて色めき立った。


「べ、べ、ベロウ様!? ご無事だったのですか!!!」


「おう、この通りピンピンしてるぜ。・・・で、入ってもいいのか?」


「も、勿論です!! どうぞお入り下さい」


慌てて槍を引いて門番達は畏まった。その顔には未だ拭い難い戸惑いが見え隠れしているが、少なくともバローがベロウ・ノワール伯爵本人だと認識はしたようだ。


だが、その視線が更に後ろに居る悠に向けられた時、再びその槍が跳ね上がった。王都から一応の顛末はノワール家にも届けられており、それによるとバローは赤い鎧の男に連れ去られたという事になっていたからだ。


「待て待て!!! カンザキは今や王の協力者だ、槍を向ける無礼は許されねぇ!!!」


「し、しかし、こやつこそが元凶ではないですか!! おい、やはり応援を――」


「いいから言う事を聞け!! こんな所でウチの兵力が削がれちゃアライアットが攻め込んで来たりしたら抑えられねぇだろうが!!! 例え国軍全部揃えたってカンザキには敵わねぇよ!!! お前ら無駄に死にてぇのか!?」


「で、ですが・・・!」




「騒がしいですね、一体こんな夜更けに何を騒いでいるのですか?」




押し問答する声が屋敷内部にも届いていたのだろうか。中から出て来たのは悠より幾分か年下に見える女性であった。少しキツ目の面立ちであるが大抵の人間であれば「美人」と評する事に異論は出ないであろう程度には容姿が整っている。バローと同じ色の光沢ある茶髪と意志の強そうなグレーの瞳、そして雰囲気などの共通点から、恐らくこの女性こそがバローの妹なのだろうと悠は推察した。


「・・・レフィー、今帰ったぜ」


だがその推察に反してバローの声音は苦々しげであった。いや、これまでのバローの話からしてどうやらバローはこのレフィーと呼んだ妹を苦手としているのだろう。


「・・・私の名前はレフィ―リアです。あなたに愛称で呼ばれる謂れはありません、「ベロウさん」。確かに血縁上誠に遺憾ながら私達の間には繋がりがありますが、王宮を襲撃した不逞の輩とこの非常時に仲良く遊びまわっている者を私はノワール家の人間とは認めません。これ以上痛くも無い腹を探られたくはありませんので疾くお帰りを」


実の兄を見る目とは思えない冷たい視線でレフィ―リアはバローの事を切り捨てた。これには流石にバローも腹に据えかねて声を荒げて言い返す。


「フン、残念だったな、俺はこのカンザキの随行員として付いて回ってるってのがラグエル王のお達しだ。そしてカンザキも今やノースハイアの協力者的な位置づけになってんだよ。当主代理のお前がいくら吠えたって、今でもこの家の当主はこの俺だ、女は黙ってな」


「ラグエル王は追われて今はアグニエル様の御世、その言葉に効力があるとは思えません」


「情報が古いんだよ。アグニエル王子とヨークラン公はこのカンザキによって除かれた。今俺が言った立場は今日ラグエル王から賜った言葉だ。分かったら引っ込め」


「・・・」


およそ兄妹としての心温まるものを感じさせないやり取りであったが、レフィ―リアはバローの後ろで傍観する悠の姿を見てその言葉が真実であろうと考えざるを得なかった。


(・・・分かり易い悪女みたいなのを想像してたけど、想像とは随分違うわね?)


(だがこれは確かにバローとは相性が悪いだろうな。融通も利かなそうだ。もっとも、俺も人の事を言えた義理では無いが)


心通話テレパシー』でレイラと悠はレフィ―リアの人物評について意見を交わした。タイプとしてはサロメに近いが、それよりも更に柔軟性が欠如しているレフィ―リアとざっくばらんなバローは水と油の様なものだろう。なまじ血縁関係があるせいでどちらも相手に対して容赦がないのも歩み寄れない原因かもしれない。


「・・・では何をしにここへ?」


「別に俺は用なんかねぇが、ラグエル王とカンザキが実家に顔を出していけって言うから寄っただけだっての。ついでに幾つか私物を持ち出しにな」


「あなたの部屋はもう整理してしまいました。私物は全部物置です」


「んだとっ!? チッ、勝手な事しやがって!」


「勝手はお互いさまです」


険悪な雰囲気で睨み合う兄妹に門番達は居心地悪そうに視線を逸らしていた。そしてその原因を作った悠を非難の目で覗き見るが、当の悠は全く気にしてはおらず、その不毛な会話に割り込んでいった。


「実りの無い会話を続けても意味は無かろう。伝えるべき事は伝えたのだ、その私物とやらを取りに行って帰るぞ」


「・・・そうだな、これ以上は時間の無駄だ。あばよ」


バローは吐き捨てる様に言って、レフィ―リアの前から踵を返したのだった。

シャルティエルは今まで男性からは尽くされるだけだったのでちょっと色々おかしいのです。


そしてバロー妹レフィーが登場。想像とは違ったんじゃないでしょうか? まだ表面的な所しか出ていませんけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ