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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-24 空城3

謁見の間から滑り落ちたラグエルとサリエルが辿り着いたのは城の地下の奥深くにある迷路の様な場所であった。


最初は闇に閉ざされていたその場所であったが、王座が床に固定されると自動的に通路に光が灯り、その石造りの様相を照らし出していく。


「・・・よし、行くぞサリエル」


「お父様、ここが王家の秘密の通路なのですか?」


「ああ、くれぐれも余の手を放すでないぞ。当然の事ながら、追っ手を撒く為の罠も仕掛けられているのでな」


その言葉に反応して、サリエルはラグエルの手をギュッと握り締めた。


「・・・でも何故お父様はお兄様が謀反を起こすと分かっていて放置されたのですか? ヨークラン公やお兄様は自分達の策略に自信を持っている様でした。先回りして芽を摘んでおけばお兄様もこんな愚挙には出なかったかもしれませんのに・・・」


「ふむ・・・それには2つの理由があるが、一つはサリエルでも良く考えれば分かるはずだ。これも勉強と思って自分で考えなさい」


「え? う~ん・・・・・・・・・お兄様や、ヨークラン公を止めなかった理由・・・・・・・・・」


サリエルはここしばらくの間、ラグエルから直接習った政治知識を総動員してその理由を推測し、一つの答えを導き出した。


「・・・早期に企てを暴けば謀反自体は止める事が出来ますが、一体誰が参加していたのか分からなくなる可能性が高いですね」


「うむ、その通り。まずは誰がこちらに敵対しているのかをしっかりと見極めねばならなかった。そしてカンザキとの約束の日までを考えると、それを悠長に探っている時間は残されていないのだよ。だから余はあの場に残り、参加した貴族達が誰なのかを知らなくてはならなかった。それと、兵士や官吏達が逃げる時間も稼がねばならなかったからな。ヨークラン公の誤報は上手く利用出来る物であって幸運であったが」


マルスが親衛隊をおびき出したのは大規模な反乱の兆し有りという密告だった。ラグエルはそれが誤報だと最初から見抜いており、兵の輸送や反乱加担者の捕縛に使うという名目で多数の馬車を随行させていた。そしてその馬車に城詰めの兵士や官吏を乗せ、親衛隊と一緒にノースハイアから逃亡させたのである。マルスもまさか自分が引っ掛けたつもりの誤報を利用して城内の者を逃がす一手に使うとは考えておらず、みすみす逃亡を許してしまったのだ。ラグエルは敵対勢力を確かめるついでにその者達が逃げる時間をギリギリまで稼いでいたのだった。この辺りの駆け引きの巧みさは流石大国の王であると言えよう。


「それについては分かりました。・・・でも、もう一つの理由というのが私にはどうしても分かりません。お兄様に謀反を起こさせて、それでお父様は一体何を得るのでしょう?」


「全ての状況を複合的に考えるのだ、サリエル。余がこれまでに述べた事を全て繋ぎ合わせれば答えが浮かび上がって来るはずだ。・・・ここだな」


ラグエルは行き止まりに見える場所までサリエルを連れて来て足を止め、懐から鍵を取り出し、丁度ドアの鍵穴がある高さの隙間に差し込んで捻った。


「うむ、中に入るぞサリエル」


「わぁ・・・」


そのまま突き当たりの石壁を押すと、それは抵抗無く押し込まれていき、その中に存在していた部屋の存在が露わになった。


「ここが王族が緊急避難する為に作られた部屋の一つだ。特にこの部屋は外からは容易に侵入出来ぬ様になっておる。一見壁も普通に見えるが、内部には魔銀ミスリル、鉄、そして更にドアは厳鋼鉄アダマンタイトの複合障壁が仕込まれていて魔法的にも物理的にも鉄壁であると言えよう。カンザキが来るまでは強行突破は不可能であるし、向こうの様子を探る事も出来るぞ。その壁を見て見よ」


ラグエルに促されてサリエルが壁を見ると、そこには何本もの鉄パイプが壁に沿って天井を貫通して伸びており、その先端は曲がっていて金属の蓋が取り付けられていた。


「これは何ですの、お父様?」


「これは伝声管だ。それぞれ城の各所の音を管を通して知る事が出来る。単純に空気を取りれる為の穴もあるがな。当面余とサリエルはここでカンザキの来訪を待ち、確認出来れば速やかに城内へ戻って権能を取り戻すという訳だ。・・・アグニエルは間違いなくカンザキに敵対するであろうからな、音を聞いておれば分かるだろう。それにこんな事も想定して食料も運び込んである。ただ・・・」


ラグエルが初めて深刻そうな顔をして言葉を濁したので、サリエルは何か重大な不都合があったのかと思い恐る恐るラグエルに尋ねた。


「た、ただ・・・何ですの?」


「・・・・・・・・・食材を運び込んだはいいが、余は料理など出来ぬのだ。サリエル、お前はどうだ?」


「・・・・・・・・・は、恥ずかしながら、私もお料理は全然出来ません・・・どうしましょう、お父様! これでは私達、飢え死にしてしまいます!!」


政治には非凡な才能を持つラグエルだったが、王族にとって料理はさせるものであり、するものではない。女であれば多少は教わる機会があったかもしれないが、サリエルも主にラグエルが刃物を持たせたくないという自分勝手な理由で料理は習わせていなかった。


「待て、そう悲観するのは早計だ。こんな事もあろうかと、余は初心者用の料理本も用意しておいた。本こそは人類の英知、これを見れば我らでもきっと垂涎の料理が作れるに違いない!」


「流石はお父様ですわ!! サリエルは今、お父様の深慮遠謀に深く感動致しております!!」


・・・本を見ただけで美味い料理が簡単に作れるのならこの世に料理人などという職業が成り立たないという事に家事に疎い2人は気付かなかったし、またそれを指摘出来る者も存在しなかった。


「食材はゆうに一月は食うに困らぬ量を用意してある。・・・が、まずは体を休めるとしよう。余もサリエルも昨夜は一睡もしておらぬからな。起きたら早速料理をし、その後はサリエルの教育をしつつカンザキを待つとしようぞ」


「私、楽しみですわ! お父様と一緒にお料理をする機会なんて、普通に暮らしていたら決して無かった事ですもの! これも花嫁修業の一環かしら?」


「・・・サリエルに近付く糞共は余が直々に去勢してくれるわ・・・」


「え? 何か仰いましたか、お父様?」


「いや、何も言っておらんよ? では休むとするか」


不穏な言動を流し、ラグエルとサリエルはそれぞれ床に就いてしばしの休息を取る事にした。・・・起きた後、2人が料理の壁の高さに悪戦苦闘する事になるのはまた別のお話である。

後半、所帯染みた理由で緊張感が抜けていますが、これが後々大変な事に。

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