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1-40 デートという名の戦い2

四人はテーブル席について各々でメニューを開いていた。


「おお、凄い!お肉料理だけで20種類もあるよ!」


「万遍無く揃っているな。これでは逆に目移りしてしまう」


「皆で色々とって分けたらいいんじゃないかしら?」


「そうだな、斉藤の言う事が効率的でいいんじゃないか?」


「じゃあなるべく被らないように頼もうね~」


色々試したいという事で、コースにはせずに単品を多めに頼む事にした。普通は高くなるからあまり出来ない贅沢だが、今日は悠がいるので心配は無い。悠自体に浪費癖も贅沢を好む嗜好も無いが、金銭にも執着が薄いので、いい機会だから使っておこうと思っている。どうせこの後一年ほどは使えないのだ。







「わっ、おいし~~」


「うん、中々いいじゃないか」


「今日はいい日になりそうね」


「うむ、美味い」


四人はやって来た料理に舌鼓を打ちながら歓談していた。その量は四人では少々多いのではないかと思われたが、悠は2、3人前くらいは余裕で食べるし、女性陣も軍人だけあってそんなに胃の容量は小さくは無かった。気になる男性の前で暴飲暴食するほどでは無いが、悠が沢山食べるおかげで相対的に他の三人が食べる量が少なく見えて、特に制限せず料理を心行くまで平らげられたのだ。


「この後はどうするんだ?」


「この後は服や靴を見に行こうと思います。あと保存食も」


「旅に出るなら服の代えや歩くのに適した靴、嵩張らない保存食なんかは揃えておいた方がいいですよ~」


「なるほど、確かに着の身着のままという訳にはいかんか」


異世界で服や靴が楽に入手出来るかどうかは分からない。食料もすぐ手に入らないかもしれないのだ。それを考えれば、最低限押さえておいた方がいい物だろう。


そんな会話をしながらお茶を啜っていると、燕が微妙に暗い顔をしているのに悠は気付いた。普段が明るいだけに、少し浮かない顔をしているだけでも目立ってしまうのだ。


「・・・何を悩んでいる、天城」


「え?あ、いやー、分かっちゃいましたか・・・」


「俺が部下の相談に乗れるのも今日明日が最後だ。解決策を提示出来るかは分からんが、話すだけでも楽になるかもしれんぞ。話せない事なら無理には聞かんが」


「悠さんも無関係じゃないから、お聞きしてもいいですか?」


「ああ、構わん」


「亜梨紗と蓮も」


「ん?私もか?」


「ええ、いいわよ?」


「悠さんが旅に出るって聞いた時から、ううん、大戦が終わった時から考えていたんだけど」


一呼吸置いて、燕は言った。


「・・・あたし達って、この先必要なの?」


「何?」


燕の疑問は思っていたよりも重く、深いものだった。それは悠も悩んだ問題であったからだ。悠は軍を離れて世界を旅しながら平和を守ろうと考えていたが、それもここには竜騎士や竜器使いが居てくれてこその選択だった。


「もうすぐドラゴンは居なくなるよね?そうしたらきっと軍の規模も小さくなるよ。竜騎士や竜器使いを軍は力の象徴として残すかもしれないけど、きっともう日の目を見ない。そういうのって、飼い殺しって言うんだよね」


指でストローを弄りながら燕は続けた。


「もう倒すべき相手が居なくなって、あたし達は何と戦うの?」


「それは・・・」


慰めようとした亜梨紗も言葉が続かなかった。自分はようやく竜騎士の端くれに引っかかったばかりだし、何より強くなるモチベーションがある。隣にいる悠がそうであるが、それを他の人間に押し付ける訳にはいかなかった。


「多分皆無意識にでも感じてる。今は守ってくれた軍と国に感謝してくれているけど、この後に生まれてくる子達は知らないんだもん。きっと、力が疎まれるようになるよ。そうしたら今度はあたし達は・・・守ってきた人達と戦うの?」


燕は普段は軽い雰囲気と口調で周囲の緩衝材として重宝されているが、これで中々に頭の回転が速く、物事の本質を素早く理解する頭脳を持っていた。しかしそのせいで、先が見え過ぎて不安になる事もあるのだ。


「天城、甘えるな」


落ち込んだ顔をする燕に悠は厳しい言葉を浴びせた。


「・・・あたし、甘えていますか?」


「ああ、自分の戦う理由を他人に預けようとしている所がな」


「悠さん!言い過ぎですよ!」


「そうです!燕も真面目に考えて・・・」


「黙っていろ、亜梨紗、斉藤」


悠は亜梨紗と蓮のフォローを一言で切り捨てた。


「天城、お前は頭の回転は速いが浅い」


「え?」


「この世界から龍が駆逐されたとしよう。だが忘れていないか?龍は最初、どこからとも無くやって来た。では他の脅威になる存在がどこからとも無く現れる可能性は無いと言い切れるのか、天城?」


「それは・・・でもそんな可能性なんて殆ど」


「その殆ど無い可能性で俺達の世界は滅びかけたのでは無かったのか?」


「!?」


悠の言う通りである。そのような存在は確認されなければ一笑に付されるが、『居た』以上は無視する事は出来ない。何らかの対策が必要なのだ。しかもこの三人は知らないが、レイラやナナの話ではこことは違う世界など売るほどあるのだ。


「俺がこの国を離れるのは必要あっての事だが、それもお前達のような頼りになる若手が居ると思えばこそ、安心してこの国を空けられると考えたからだ。それは俺の買い被りだったのか?大切なものも守りたいものもここにはもう無いのか?」


「・・・・・・」


燕は俯いて反論の一つも無い。他の二人も言いたい事はあれど、言葉には出来なかった。


「お前達は人形じゃない。しかし、軍人は時に機械的に従う事を求められる。その矛盾の中で、お前達は『人間』を貫かなくてはならない。たとえどれだけ力があろうともな」


悠は冷めかけたお茶を一口啜って続けた。


俯いた燕の机の上には、ぽたぽたと涙が滴っていた。


「軍は辛いか?天城」


「ぐす・・・皆と居ると楽しいです。訓練は辛いけど。でも怖いです。必要とされなくなるのが」


両親を大戦で無くした時、燕はまだ幼かった。そして一人になるのが怖くて怖くて空気を読んで明るく振舞う事を覚えた。そんな燕には誰かに疎まれるというのはとても恐ろしかったのだ。


「バカ!」


横から突然罵倒の声が上がった。亜梨紗だ。


「燕、私はそんなに友達として頼り無いか!?お前が居ないと悲しくなるとは思って貰えないのか?」


「亜梨紗・・・」


亜梨紗は席を立つと燕の背後に回り、後ろから抱きしめた。


「必要だとか必要じゃないとか、そんな事はいいんだ。ただ、元気に笑っていてくれたらいいんだ・・・」


「そうよ燕。貴女は私達の頭脳担当なんですからね。私と亜梨紗の二人じゃ今日ここにもこれなかったわ。ずっと、ずっとお友達で居ましょう?」


そう言って蓮も横から亜梨紗ごと燕を抱きしめた。


「亜梨紗ぁ・・・蓮・・・あたし、間違ってたよ。大切なもの、守りたいもの、ちゃんとあったよ・・うぇぇぇええ・・・」


そうしてしばし三人は抱き合ったまま泣き続けたのだった。

燕は見た目ほど単純な人間ではありませんでした。頭のいい人は考え過ぎて動けなくなったりするものですね。

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