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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-21 初対面3

通信が切れた後、ハリハリが大きく溜息を付いた。


「いやぁ、なんともお美しい方でしたね!! あれほどの美貌を備えている者はエルフにだって滅多に居りません。ユウ殿を篭絡するのは不可能だと改めて思い知りましたよ」


「むむ! シャロン様だって『吸血エナジードレイン』なされば負けておりません!! 成長なされたシャロン様の男好きのする体と言ったらもう・・・」


「は、恥ずかしい事を言わないで、ギル!」


「師は女の上辺などに騙されたりはせぬ」


「ふむ・・・人間の美醜には疎いが、あの女が稀な美貌を持っている事は私にも分かったぞ。あれが傾国の美というものか」


「ぐおぉ・・・テメェら、ぐぐ・・・ごく自然に俺を排除しやがって・・・!!」


「分からなかったと思うが、一人少女が居ただろう、あれが神の眷族だ。今回伝えた情報から何かしら分かるかもしれん」


一部の会話を無視して悠が今映像に映った者について語り始めた。


「主として話していた口の悪い男は何者ですか?」


「あいつは真田 雪人、俺の悪友だ。この上なく口と性格は悪いが、奴の知恵がなければ我ら人類はドラゴンに滅ぼされていただろう。俺が最も信頼する男の一人だ」


シュルツの質問に対して悠は手放しの賞賛をもって答え、シュルツは微かな嫉妬を覚えた。


「・・・拙者とどちらが強いのでしょうか?」


「単純な戦闘能力という意味なら互角だろう。雪人は普段は前線に出ない情報担当だからな。志津香様を抜かせばあの中で最も弱い・・・はずだが、どうやら鍛え直しているらしい。この二月でどの程度腕を上げたかは分からん」


「・・・すぐに突き放してみせます!」


頭脳担当の者ですら自分と同等程度には強いと言われ、シュルツは更に厳しい鍛練を自らに課す事を誓った。


「ではユウ殿の次に強いのは誰ですか? まさかあの少女が・・・」


「ナナナ殿は神の眷族と言えど戦闘能力はさほど高くないと見ている。特殊な能力を持ってはいるがな。俺の次に強いのは俺の事をダンナと呼んでいた男だ。轟 仗と言う名だが、広範囲への影響力であれば俺を超える力を持っている。最終決戦で一撃でドラゴンを500体以上屠って見せたぞ。当人もその際に重症を負ったが、どうやら回復したらしいな」


「「「500!?」」」


その数にハリハリやバローのみならず、スフィーロやサイサリスも驚愕の声を上げてしまった。500と言えばドラゴンズクレイドル全てのドラゴンを掻き集めて丁度それくらいであり、改めて2人は悠が脅しや虚勢でドラゴンズクレイドルに乗り込むなどと言っているのでは無いと思い知らされた。


「後は壮年の男性が俺の師であり教官でもある防人 匠竜将だ。その隣に居た若い娘が千葉 亜梨沙。先ほどの轟と共に『竜騎士』の同僚で、志津香様を支えていたのが秘書官を務める西城 朱理、そして姿が見えなかったが、後輩の千葉 真、こちらの2人も『竜騎士』だな。つまり、俺の暮らしていた世界には俺を含め6人の『竜騎士』が存在する。・・・本当はもうあと7人居ったのだが、長い大戦の間にドラゴンに殺され、その御霊は天に召された」


幾多の別れた者達を想って悠はほんの刹那の間、感傷を目に浮かべた。


「それほどの方々が居てもですか・・・」


ドラゴンの首魁であったアポカリプスは真正のランクⅩ(テンス)を冠していたからな。俺がもう一度やっても勝てる見込みは五分か、更に低かろう。俺も以前より多少は強くなったが、奴には俺の奥の手を見せねば勝てなかった」


「ど、どんなバケモンだよ・・・って、ユウ、お前に奥の手なんてモンがあったのか?」


悠の言葉に戦闘を嗜む者達は興味を引かれ、全員が悠を注視した。


「必勝を期す戦いに臨むのならば当然奥の手の一つや二つは誰しも用意していよう? それはお前達も同じだろうが」


「とは言っても・・・」


「ワタクシ達とユウ殿では奥の手のレベルが違いますよ」


「相手の命に届くのならば本質は変わらんよ」


そこでスフィーロが悠に問い掛けた。


《ユウ、そのドラゴンとは何処からやって来たのだ?》


「この世界の住人ではなかったと聞いている。そうだな、レイラ?」


《ええ、ドラゴンは違う世界体系からこの世界にやって来た、真の意味での『異邦人マレビト』ね。というか、あなた達より年上のドラゴンはそんな事も教えてくれないの?》


その言葉にスフィーロは沈黙し、サイサリスは首を振った。


「いや、私は知らん。500年を生きるスフィーロ様も知らんのだから当然だが。更に長く生きるプラムドやウェスティリアなら龍王陛下に近しいゆえに何か知っていたかもしれないが・・・」


《そっか、スフィーロってまだ500年しか生きてないんだったわね・・・》


「引っ掛かる言い方だな、それならレイラは何年生きていると言うのだ?」


《少なくともその10倍は生きているわよ》


スフィーロが若僧扱いされて気分を害したサイサリスがレイラに食って掛かったが、レイラの返答に絶句せざるを得なかった。


《ご、5千年以上生きているというのか!?》


《やめてよ、年寄り扱いされるのは好きじゃないの。ドラゴンは寿命なんて無い様なものなんだから、何年生きていても不思議じゃないでしょ?》


「・・・ヤハハ、エルフも長寿に掛けては他の種族よりも優越していると思っていましたが・・・これがジュリア殿が言っていた井の中の蛙という心境なんですねぇ・・・」


「バカヤロー、んな事言ったら人間なんか100年も生きればもう大往生だぜ? お前ら皆長生きし過ぎなんだよ!!」


最も寿命の短い人間を代表してバローが吠えたが、それに対してシャロンが悲しげな顔で言葉を返した。


「・・・バロー様、長く生きる事と幸せに生きる事は等しい意味ではありません。・・・私も千年以上生きていますが、その間に楽しかった事なんて、片手で数えるほどしかありませんでしたよ?」


「シャロン様・・・」


「あー・・・その、済まなかった。配慮に欠けた事を言ってしまって・・・」


自分の発言がシャロンを傷つけたと感じたバローはばつの悪そうな顔でシャロンに謝罪した。


「いえ・・・ただ知っておいて欲しかったんです。短くても一生懸命生きて、誰かを愛し、子を成し、その成長を見守りながら老いていくという人の営みは、そうでない者からしたら時に眩しく映るのだという事を。それは悲劇なんかじゃない、素晴らしい生き方なのだという事を」


「・・・そうですね。ワタクシもそんな人の営みに惹かれてエルフの国を捨てた変わり者ですから、その気持ちは良く分かりますよ」


ハリハリが横に置いていたリュートを取り上げ、軽く爪弾いた。


《むしろ、100年も生きられぬ脆弱な生物に我らが狩られたりする事が驚きだ。人族は長く生きぬが、その強くなる速度には目を見張る物がある。それも寿命があるからなのかもしれんな・・・》


哀切な曲調と共にしんみりした空気が流れた場に、手を叩く乾いた音が響いた。


「新しい年を迎えて早々から萎れていても始まるまい。少なくとも俺がここに居る間は全員その能力の限界まで必死に生きて貰う。種族や寿命など関係あるまい。そんな事を斟酌するつもりならば始めから人間以外の種族をこの場に受け入れたりはしなかったぞ、俺は」


いつもと全く変わらぬ悠の言葉にバローはニヤリと笑い、シュルツは小さく頷いた。ハリハリは手を止めて曲を変え、ギルザードはシャロンの肩に手を置き、シャロンは悠を見て微笑んでいる。サイサリスは悠の目をじっと見て、そこに誤魔化しが一切存在しない事を見取り目を閉じた。


そこで広間のドアがノックされ、恵が中に入って来た。


「お話は終わりましたか、皆さん?」


「恵か。ああ、今終わった所だ」


「それではそろそろお夜食をご用意しようと思います。樹里亜の世界は季節の行事を大事にする所らしくて、年越しの時に麺を食べる風習があるそうですから」


「おっ、いいなそれ! 丁度小腹が減って来た所だったんだよな!」


「ええ、せめて今日くらいは小難しい話は止めて楽しみましょう! ケイ殿、子供達はもう寝てしまいましたか?」


ハリハリがそう尋ねた瞬間、恵の後ろのドアが大きく開き、寝たと思っていた子供達やビリー、ミリーがドッと中に押し寄せた。


「起きてるぜ!!」


「せ、せっかくのお正月だから・・・年越しソバを食べるんでしょ?」


「うーん、ソバは無いんじゃないかしら? 似たような物はあるでしょうけど」


「恵お姉ちゃんが作った物ならなんでもいいの~」


「夜中に食べて太らないかしら・・・?」


「どうせまたガンガン動くんだから大丈夫さ。冒険者は食べられる時に食べるのが鉄則だろ、ミリー?」


夜中とは思えぬテンションの高さは、特別な日だという認識の共有から来ているのかもしれない。特に少し前までは年を越せると思っていなかった者達にとっては尚更であった。


「・・・よし、明日の鍛練は休みだ。今日は夜更かしを許可しよう。恵、早速始めるぞ」


「はい!」


「「「やったーーー!!!」」」


悠の言葉で更に上限知らずに高まるテンションを抑える事もせず、大賑わいの中で悠達は異世界で新しい一年を迎えたのだった。

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