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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-16 激突の時4

「・・・アイオーンの奴、どうやら本気だな。俺を殺してでも勝つつもりらしい」


フェルゼンの冒険者ギルドに踏み込んだコロッサスが眉を顰めてギルド内を見回したが、中には職員以外誰も居なかった。その職員達も奥から漏れ出る殺気に居心地悪そうに囁き合っている。


「ようこそ、コロッサス様。アイオーン様が奥でお待ちです」


「直接顔を合わせるのは久しぶりだな、マリアン」


表情も口調も硬いマリアンに気さくに話し掛けたコロッサスだったが、マリアンはそれに構わずコロッサスに訴えた。


「・・・お願いします、コロッサス様、どうかアイオーン様に勝って下さい。何も仰ってはくれませんが、アイオーン様は勝ったらギルド長を辞して居なくなる様な気がしてなりません・・・」


「分かってる、俺だってアイオーンに花を持たせる為にここに来た訳じゃないさ。そろそろアイツも自分の身の回りの人間にも目を向けるべきだ」


俯くマリアンの肩に手を乗せてコロッサスはマリアンを慰め、奥へのドアを睨んだ。


「マリアン、奥には俺達以外誰も通さないでくれ。それとユウ、万一の時には治療を頼んでもいいか?」


「畏まりました」


「了解した。存分にやるといい」


コロッサスは自分の頭の中の戦いのギアを一気にトップに引き上げた。




「来たか、コロッサス」


「来たぜ、アイオーン」


同じパーティーで苦難と共にしたはずの両者だったが、少なくともアイオーンの目からはそんな親密な関係を窺わせる気配は微塵も浮かんではいなかった。服装も普段着などでは無く、胸部鎧ブレストアーマー手甲ガントレットを身に着けた本気の戦闘スタイルだ。手にしたスピアもカロンの槍では無く、いつか悠に見せた風槍シルフェを握っている。


「随分と物々しいじゃねぇか。隙あらば首でも刈ってやるってツラだぜ?」


「悪いが力を手に入れる好機を逃す気は無い。首とは言わんが、腕くらいは覚悟して貰う」


「真っすぐなのか捻じ曲がってるのか分からん野郎だな。・・・今のお前を見たらシュレイザが悲しむぜ?」


「死んだ者は悲しみなどしない」


「だったら生きてる人間にも目を向けるんだな。・・・と、今のお前に言っても無駄か」


「言葉などこれ以上不要だ、後は切っ先で語れ」


研ぎ澄まされた殺気を叩き付けるアイオーンにコロッサスは嘆息し、腰から鞘ごと『裂空』を抜いて悠に手渡した。


「ユウ、終わるまで持っててくれ。すぐ済ませるからよ」


「分かった」


模擬戦用の剣を箱から引っ張り出したコロッサスにアイオーンが眉を顰めた。


「・・・何の真似だ? そんなナマクラを使って負けた時の言い訳にする気か?」


「逆だ、アイオーン。大層な装備を使って負ければお前も多少は目が覚めるだろ。俺がナマクラを使うのは、お前に言い訳させない為さ。まともな武器を持たない俺に勝てない様なら絶対ヤツには勝てないぜ」


「・・・いつまでも私を小僧扱いするな。『六眼』の時の私と同じと思うなよ!」


「あの頃のお前の方がいい目をしてたぜ。もう一度修行をやり直すんだな、小僧」


アイオーンと話す内にどんどん冷静さを取り戻していくコロッサスと、更に殺気を膨れ上がらせるアイオーンの間に立ち、悠は両者に離れる様に促した。


「位置につけ。審判は俺がやる。勝負は一本先取か降参によって決着とする」


睨み合っていた2人は無言で訓練場の中央まで進み、10メートルほどの距離をおいて対峙した。


(シュレイザ・・・私はコロッサスを超えるぞ。見守っていてくれ・・・!)


(もっと早くやり合っておくべきだったな・・・済まん、皆・・・)


「それでは・・・始めっ!」


悠の合図で2人のギルド長は激突の時を迎えたのだった。




(やはりコロッサスは待ちの姿勢か。恐らくは『朧返し』での一撃必殺を狙っているに違いない。ならば私はこの間に強化を・・・!?)


アイオーンは長年コロッサスの戦い方を知悉する者として、その戦闘パターンを予測していた。コロッサスは後の先を取る事においては天才的であり、相手に手を出させておいて、そこから恐ろしいまでの一閃を繰り出して来るのがコロッサスの必勝パターンだ。だが遠距離攻撃能力を持たないコロッサスはまずアイオーンの間合いに飛び込まなくてはならないのだが、派手な動きをしている時には『朧返し』を使う事が出来ないのだ。十全に力を発揮出来ないコロッサスであれば、魔法が使えるアイオーンの方が有利なのは疑うべくも無い事であった。


だが、コロッサスは突然眼帯を引き毟り、一気にアイオーンとの間合いを詰めて来た。どちらか一方であればアイオーンの動揺はもっと小さかったに違いない。しかし、2つの計算違いはアイオーンに刹那の逡巡を与えてしまっていた。


「くっ!? アイオーンが奉る――」


それでも10メートルを踏破するのにはほんの少しの猶予があり、アイオーンの持つシルフェは風の魔法を増幅し、持ち主の敏捷性を高める効果がある。高速のバックステップで距離を稼いだアイオーンはコロッサスが間合いに侵入するギリギリ手前で魔法を解き放った。


「風の矢よ、敵を撃て!!」


一気に視界を埋める『ウィンドアロー』が生成されコロッサスを切り刻む・・・はずであったが、そこには既にコロッサスは存在せず、空しく通り過ぎるだけだ。


『風の矢』が着弾する前に横に体を投げていたコロッサスを目で捉えていたアイオーンは今であれば自分の得物しか届かない事を確信し、その胸の中心に向けて穂先を突き込んだ。


(勝った!!!)


だがそこでコロッサスが思わぬ行動に出た。突き込まれる穂先にあえて刺さりに行くかの様にコロッサスが前進したのだ。


それでもアイオーンは突き込む槍を緩めなかった。・・・それだけアイオーンは勝ちたかったのだ。


限界まで引き伸ばされた知覚の中でアイオーンの穂先がコロッサスの胸に届いてもその思いは変わらなかったが、アイオーンが最大の驚愕を覚えたのはその瞬間であった。




フッ・・・




確かに突き込まれたはずの穂先が何の抵抗も無くコロッサスの胸を刺し貫いて行く。それはコロッサスの妙技を知るアイオーンであったからこそ逆に戦慄をもたらした。


(『朧返し』? まさか、当たるはずが・・・!?)


その思考を最後にアイオーンの意識は強烈な一撃を持って刈り取られていた・・・。




「それまで。勝者コロッサス」


「・・・ふぅ」


残心を解き、一息付いたコロッサスは模擬剣を地面に突き立て、アイオーンの側に屈み込んだ。


「おい、アイオーン、起きろ」


「・・・ぅ・・・くっ・・・私は・・・・・・負けたのか・・・」


「ああ、俺が勝った。満足したか?」


「何故だ・・・何故私がこうも簡単に敗れる!? 油断などは無かったはずだ!!」


「・・・」


無言でアイオーンを見るコロッサスに変わって悠が口を開いた。


「油断はあった。お前がその槍を持ってこの戦いに臨んだその時からな」


「何だと・・・!」


「お前は言っていただろう、風槍シルフェは風の魔力を増幅すると。遠距離の手札を持たないコロッサスに魔法を使うとすればそれは風魔法に相違あるまい。そして急激に間合いが詰まれば使って来る魔法と言えば『風の矢』以外有り得ん。タイミングを見計らえば避けるのは難しくあるまいよ」


悠が以前アイオーンにシルフェを使わない方がいいと忠告したのはまさにその点であった。優れた武器を持つ者は、その武器の特性に嫌でも頼らざるを得なくなってしまう。剣であれば剣を使った攻撃を、槍であれば槍を使った攻撃に固執し、結果として自分の選択肢を狭めてしまうのだ。シルフェの事を知るコロッサスがその点に思い至らぬはずがなかった。


「それにカロンの槍を良く見ろ。その槍は切れ味もさる事ながら、非常に丈夫に作られている。それはカロンからお前に向けられたメッセージだ。魔法と組み合わせて戦うのもいいが、もっと槍を振って修練しろという無言の想いが込められているのだ」


そこからはコロッサスが言葉を繋いだ。


「それにアイオーン、お前、俺が後手に回ると勝手に決めつけていただろ? 俺はもう『隻眼』じゃないんだよ。『朧返し』の完成形・・・どんな攻撃に対しても反撃を「取りに行く」『破鏡』の事は知るまい。お前が負けた原因はただ一つ。俺は未来を見て、お前は過去を見ていた。それだけだ」


「・・・そんな馬鹿げた精神論で私が負けただと!? 認められるか!!」


槍を杖にして吠えるアイオーンに今度はハリハリが口を開いた。


「精神論じゃありませんよ。例えば・・・『ファイヤーアロー』『ストーンアロー』『風の矢』」


ハリハリにしてはゆっくりと訓練場に立っている標的に向かって『火の矢』『石の矢』そして『風の矢』を立て続けに放って一息に標的を3つ蹴散らしてみせた。


「うおっ!?」


「な!? 何だ今の魔法は!? 魔法の連続発動だと!?」


「このくらいは別に大した芸でもありません。今のワタクシでも使えるくらいですしね。アイオーン殿、貴方は確かにそれなりにお強いですが、もっと他人と交わって切磋琢磨しなければなりません。独りよがりで鍛えてもそれなり以上には強くなれませんよ? コロッサス殿の仰る通り、過去ばかりを見ていても何も変わりません。他ならぬ、過去を見続けていたワタクシが言うのですから間違いありませんです」


数々の指摘にアイオーンの肩が落ちた。手放したシルフェが乾いた音を立てて脇に転がったが、アイオーンはそれに見向きもせずに地面に両手を付いて握り締めた。


「私は・・・あの時から何の成長もしていなかったのか? これでは・・・シュレイザに合わせる顔が無い・・・」


アイオーンが普段から纏っていた威圧感は霧散し、そこに居るのは既にただ打ちひしがれる一人の人間に過ぎなかった。『氷眼』などと呼ばれてもアイオーンもまだ30を少々過ぎた程度でしかなく、心に抱えた傷を必死に押し隠して生きる普通の青年であったのだ。


「アイオーン様!!」


そんなアイオーンにマリアンが駆け寄り、その肩を抱き締めた。


「これ以上アイオーン様を責めないで下さい!!! 本当のアイオーン様はとてもお優しい方なんです!!!」


「マリアン・・・」


「アイオーン様は・・・アイオーン様は・・・」


アイオーンに取り縋って涙を流すマリアンをアイオーンは険の取れた目で見つめた。その姿はアイオーンの目にいつかのシュレイザの姿と重なって見えたのだった。

コロッサス対アイオーン、開始と決着です。戦闘時間自体は10秒前後という所ですね。


両目状態のコロッサスの動体視力はバローの『絶影』すら見切ります。

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