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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-14 激突の時2

急いでミーノスの街から出た一行は街道から外れ、旅人はおろか冒険者すら殆ど出入りしない様な平地へと移動していた。時間制限がある為、悠は人目が無い事を確認するとすぐに『虚数拠点イマジナリースペース』を出現させる。


「うおっ!? これが話に聞いていたユウの屋敷か・・・」


「入ったらすぐに移動するぞ。バロー、案内してやってくれ」


「おうよ」


今まで『虚数拠点』を見た者は例外無く驚くので、悠やバローの対応も手慣れたものになっていた。悠は敷地内にバロー達が入ったのを見極めるとすぐにまた収納し、『竜騎士』となって一路フェルゼンへと飛んだのだった。




さて、悠に収納されている間の『虚数拠点』はどうなっているのだろうか。内部の者達の視点から見て行こう。


「・・・なぁ、この中は一体どうなってるんだ? さっきまで青空が広がっていたはずなのに・・・」


キョロキョロと周囲を見回すコロッサスが疑問を口に出した。外に設置している時には当然見える景色は平地だったり林だったりする訳だが、今コロッサスの目に映るのは灰色一色の景色であり、その膨大な空間内に屋敷が敷地ごと浮遊しているかの様な錯覚を覚えさせたからだ。


「詳しい事は俺にだって分からねえよ。まぁ、ここの奴らはもう皆慣れたからな。『冒険鞄エクスパンションバック』の中はこんな感じなんじゃねぇか? それよりウチの奴らが出て来たぜ」


「適当な説明だな・・・ん?」


説明途中で玄関の扉が開き、中から出て来た子供達を見たコロッサスはまた首を捻ってしまった。


「・・・おい、お前ら何をしやがった? この前にギルドに来た時にはあんなに育ってなかっただろ!?」


「あん? ・・・ああ、ガキ共か? ユウが言ってただろ、『竜ノ微睡オーバードーズ』ってヤツを。一年分育ってんだよ。ガキの成長は早いからな」


「いくら成長が早くても一年であんなにデカくなってたまるか!!」


他の者が居ればコロッサスの主張は全面的に受け入れられただろうが、残念ながらこの場でのマイノリティはコロッサスの方であった。子供達はそんなコロッサスに軽く頭を下げ、いつもの鍛練を始めてしまう。


「ヤハハ、現に育っているのですから仕方がないではありませんか。実力ももう全員並みの冒険者以上になりましたよ」


「そんなに居るんならギルドの仕事手伝えよお前ら・・・」


『黒狼事件』から改善したとはいえ、ミーノスの冒険者は人口に対して手薄であり、更に学校の入学希望者や工事関係者、それらを標的に商機を狙う商人などでギルドに寄せられる依頼は上限知らずの有り様であり、現在コロッサスが多忙を極めるのもその余波の影響が大きい。その原因に間接的に関わっている悠に愚痴の一つも言いたくなろうというものだ。


「俺達だって忙しいんだぜ? 来年早々にゃギルド本部にも行かなきゃならねぇし、ミーノスはクソ忙しいし、ドラゴンは襲ってくるし・・・ギルドの依頼だって高ランクのは俺達が優先して片付けただろ?」


「それについては俺だって感謝してる。だがな、とにかく中間層の依頼を消化出来る奴が足りないんだ。頻繁にとは言わんから、一度手伝いに来てくれよ」


「わーったよ、年が明けたら手伝ってやるから煩く言うなって」


「ユウ殿が単独で動いている時にでも別行動で消化するよう提案してみましょう。子供達も自分で稼いでユウ殿の手助けをしたいと言ってましたから」


「頼むぜ? もうサロメが煩いのなんのって・・・」


「尻に敷かれてんなぁ・・・」


どうやらミーノスではギルド長よりもその補佐の方が立場が上らしい。フェルゼンのアイオーンとは真逆の構造だが、各々で上手く回る方法を採っていると考えた方が良さそうだ。


「バロー、そちらが例の客人か?」


「おう、現時点で恐らく人間じゃ世界一の剣士のオッサンだぜ」


「オッサンは余計だ!!」


そこに子供達に混じって迎え出たギルザードがバローに尋ね、バローもざっくばらんに説明した。


「ほう・・・お初にお目に掛かる。私はギルザード・シュルツ。見ての通り・・・っと、デュラハン(首無し騎士)だ」


会話の途中で兜を外したギルザードが首の部分を露出させてその証拠を見せつけた。


「うおわっ!?」


長く冒険者を続けて来たコロッサスは幾度も戦った事のあるデュラハンに気さくに話し掛けられて思わず後退してしまった。


「ハハハ、やはり一般的にはそうなるな。ここの者達はもう誰も気にしてくれんので物足りないと思っていた所なのだ」


「お、おい、バロー!! なんでここにデュラハンが居るんだよ!? お前達が召喚したのか!?」


「いや、違うけどよ。別にいいじゃねぇか、デュラハンくらい。ここにゃドラゴンや吸血鬼バンパイアだって居るんだぜ? 一々驚いてたら身が持たねぇよ」


「ドラゴンに吸血鬼・・・だと!? ・・・ああ、頭が痛くなって来た・・・」


討伐を推奨する立場であり、自身もデュラハンはおろかドラゴンすら屠って来たコロッサスは思わず目を覆って蹲ってしまった。


「言っとくけど、シャロンに酷い事を言ったらコロッサスだって許さねぇからな。他の女共と違ってシャロンはそりゃあ可憐で奥ゆかしくて清楚で・・・」


「・・・もういい、言うな、何も言うな。俺はここで何も見なかった。見なかったったら見なかった!!!」


「そんな事より貴殿の剣の技を見せて欲しいな。1000年の時が過ぎた今、現代の人間はどの程度の物か是非拝見したい」


首をフワフワさせながら語り掛けるギルザードにコロッサスは心を鈍化させて対応する事に決め、顔を上げた。


「・・・はぁ、いいぜ、見せてやるよ」


「少々お待ちを。久しぶりですな、コロッサス殿」


そこにコロッサスが来訪したと聞いたカロンが珍しく顔を出した。


「これはカロン殿! この度は素晴らしい剣を打って頂き誠に――」


「止して下さい。私はもう以前の私ではありません。今の私はただ少しでも良い物を作る事に心を砕くただの職人です。以前は偉そうな事を言って済みませんでした」


そう言って頭を下げるカロンにコロッサスの方が取り乱してしまった。以前のカロンは良く言えば職人気質であり、悪く言えば高飛車な所があったのだが、今のカロンはそんな雰囲気は一切感じられない腰の低さだったからだ。


「い、いえ、こちらこそ。・・・その、変わられましたね?」


「・・・お恥ずかしい限りです。昔の私は少々出来のいい物が作れるからと言って図に乗っていました。その報いで一時は鍛冶の世界を断念する所でしたが、こちらのユウ殿にお救い頂きまして、以来初心に帰って一心に鍛冶の道を邁進させて頂いております。その剣も私の自信作の一つでしてね、一つ使い方をお教えしておこうと思いまして」


「使い方というと?」


「勿論コロッサス殿ほどの剣士の方に剣の振り方を指図するという事では御座いません。そうですな・・・あの標的の方を向いて剣を構えて頂けますか?」


カロンはそう言って遠くの案山子の様な標的を指差した。


「構いませんが・・・?」


「ほう・・・」


不思議に思いながらもコロッサスは言われた通りに剣を抜き、その場で構えを取る。その自然体の構えを見たギルザードが邪魔にならない程度の感嘆の声を上げた。その隙の無さからコロッサスの力量を読み取ったのだ。


「ではそのまま剣先に向かって魔力マナを通して下さい」


「魔力を? 分かりました・・・・・・おおっ!!」


コロッサスが言われた通りに魔力を剣に向かって通すイメージを練ると、それに伴いコロッサスの剣が光を放ち始めた。


「今です!! あの標的を斬るつもりで振って下さい!!」


「せいっ!!」




ザンッ!!!!!




コロッサスが気合一閃、剣を振り下ろすと、その剣から飛び出した剣閃が標的に向かって走り、標的を真っ二つにして通り過ぎた。


「・・・こ、これはサイコの聖剣の・・・!」


「流石はコロッサス殿、一度で成功されましたか! その剣は銘を『裂空』と申しまして、基本構造に神鋼鉄オリハルコンを用いておりますが、神鋼鉄は魔力を蓄積する性質を持っておりましてな。魔力を蓄積した剣を攻撃的イメージで振る事で斬撃を飛ばす事が出来るのですよ。かの外道勇者の剣も同じ能力では無いかと私は睨んでおります」


「お、おい、カロン! こんな便利な能力、俺は聞いてねぇぞ!?」


「済みません、これは神鋼鉄独自の能力でして、真龍鉄では使えないのですよ。その分、真龍鉄の方が硬度ではかなり上ですが。神鋼鉄はドラゴンの鱗を混ぜると逆に劣化してしまいますのでいいとこ取りは出来ませんでした」


詰め寄るバローにカロンは申し訳なさそうに説明したが、バローは羨ましそうにコロッサスの剣を見た。


「チクショウ! こんな事ならその剣も俺が貰っておきゃあ良かったぜ!!」


「ハッハッハ、こいつはスゲェモンを貰っちまった!! 気分は勇者だな!!」


「遠距離攻撃出来る剣士とは脅威ですね。これで益々コロッサス殿は隙が無くなってしまったのでは?」


「ただ、多用するとその分疲労するのも早くなりますからお気を付け下さい」


「ああ、ありがとうカロン殿。この剣は俺の愛剣にさせて貰う」


一連のコロッサスの動きを見たギルザードが拍手をしてコロッサスを褒め讃えた。


「なるほど、今世一との噂に違わぬ実力者だ」


「そういうギルザード殿も相応の実力をお持ちの様だが?」


気分が良くなったコロッサスは軽く手合わせでもするつもりでギルザードに尋ねたが、それをバローが遮った。


「下手に手合わせなんぞしない方がいいぜ、コロッサス。こいつ、ここでユウの次に強ぇからな。アイオーンとやり合う前に大怪我しちまうぞ?」


「げ・・・ま、またの機会にな、ギルザード殿?」


「むぅ・・・バロー、せっかくその気になってくれたと言うのに水を差すな」


そう言って抜かれたギルザードの大剣グレートソードが立てる音にコロッサスの背中に鳥肌が立った。


「・・・止めておいて正解だな・・・」


「ヤハハ、ギルザード殿は全身凶器というか、狂気の沙汰と言った武装ですからね。一人で一軍だって蹴散らせますよ」


「上手い事言ってんじゃねぇよ。・・・っと、長話が過ぎたな、もう着いたみたいだぜ」


「もうフェルゼンかよ!? なんて速度だ・・・」


玄関先で立ち話をしている内にもう目的地に着いたらしく、敷地の外には見慣れたフェルゼン近郊の景色が映し出されていたのだった。

コロッサスがファンタジー剣士の能力を身に着けました。他の魔力伝達金属と神鋼鉄の違いは単に通すだけなのか、蓄積出来るのかという点です。


ただ、神鋼鉄なので真龍鉄には硬度で劣ります。

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