表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
465/1111

7-10 矛と盾6

屋敷の広間に場を移した両者の間には全くと言っていいほどに友好的な雰囲気など存在しなかった。


「客では無いから茶は出んぞ」


「いらぬ!! どうせ毒でも盛る気であろう!!」


「・・・」


《と、とにかく、まずはあの後我がどうなったかを話すべきであろう。そちらの情報と合わせてな、な?》


悠は状況説明の一切はスフィーロに任せるつもりで自らは情報を補足する役目に留める事にした。どうせ悠の口から聞いた事などサイサリスもウェスティリアも信じはしないだろうと理解していたからだ。


スフィーロも何故今自分がこの様な状況で悠の手元にあるのかを自分の知り得る情報を組み立てて2人に語っていく。


《・・・つまり、ユウは我らドラゴンがこれ以上人族に武力を持って関与する事は認められんという事だ。それに加えて我らも誘導されている節がある。例の女の寄越した技術や品々はその出自すら明らかではない。それに頼るのは危険だと我も判断した》


「・・・スフィーロ様が生きておいでであったという事実は私にとって何事にも変え難い吉報であったという事に間違いは御座いません。しかし!! この人族の言う事を鵜呑みにしてドラゴンが一族に弓引かれるおつもりですか!? たかが人族など・・・!」


《そのたかが人族にドラゴンでも名うての我らが束になって掛かってもまるで歯が立たんのを棚に上げて、か? それともドラゴンともあろう者達がたった一人に国を挙げて決戦でも挑むのか?》


スフィーロの指摘にサイサリスは歯をギリギリと噛み締め、ウェスティリアとスフィーロに『心通話テレパシー』で話し掛けた。


(ならば今一度仕掛けるのみ!! この距離で私とウェスティリアで不意打ちすれば・・・)


(分の悪い賭けだとは思うが、確かに『竜騎士』という状態では無い今ならば先ほどよりも・・・)


(・・・止めておけ、これ以上レイラを――)




(ドラゴンっていうのはもっと頭のいい種族だったと思ったけど、どうやら勘違いだった様ね)




『心通話』に割り込まれてサイサリスとウェスティリアの目が驚愕に見開かれた。これまで気配を抑えていたレイラは今こそその力を隠す事も無く、強烈なプレッシャーを放ってサイサリス達に叩き付ける。


《そもそも勝手に人族の縄張りに踏み込んだのはドラゴンの方でしょう? それが相手が強いからっていって泣き言? 騙し討ち? 呆れたわ、よくそんな体たらくで偉そうに出来たものね? 討ち死にが望みならこの場ですぐに魂の欠片すら残さないほど最小単位以下に砕いてあげるから掛かってらっしゃい!!!》


「な、何者、なのだ・・・!!」


「馬鹿な・・・『心通話』に割り込むなど・・・」


自分達の頂点に立つ龍王すら上回る濃密な力の気配にサイサリスとウェスティリアはまるで人間の様に額から大量の汗を滴らせて硬直してしまった。ほんの僅かでも体を動かせば逃れられぬ死が待っていると強制的に理解させられてしまったのだ。


《・・・だから言ったであろう、レイラは我らなど遥かに及ばぬ神話級のドラゴン・・・いや、リュウだ。我らドラゴンが強者に従う者であれば、むしろレイラに従わねばならない理屈になる》


「別にドラゴンを支配下に置こうなどとは考えておらん。人間が皆聖人君子という訳でもないからな。だが力で人間を弄ぶつもりなら、より大きな力で叩き潰される事も覚悟して貰おう。考えを改める気が無いのならドラゴンの一族は次の年を越せるとは思わぬ事だ」


たかが人族と侮っていたサイサリス達の顔は血の気が引き、既に死者のそれに近い顔色になっていた。悠とレイラの言葉には恫喝する気配など微塵も感じられず、ただ事実を述べている平常心しか読み取る事が出来なかった。


自分が1000回命がけで戦っても絶対に勝てないと悟ったサイサリスは呆然とその目から涙をこぼした。悠はスフィーロの仇ではなかったが、弟であるダイダラスの仇である事に変わりは無い。だがダイダラスも卑怯な手段で殺された訳では無く、またダイダラスが他の種族を殺していない訳では無い。それを恨みに思い続けるのは弱肉強食を旨とするドラゴンの流儀ではあり得ない。


この瞬間、サイサリスの心の糸がぷつんと切れた。戦っても勝てず、恫喝しても取り戻せないのであれば、これまで生きて来て一度たりともやった事が無い方法でスフィーロを返して貰う事しかサイサリスには残されていなかった。


「・・・」


「・・・サイサリス?」


生気の無い表情で立ち上がるサイサリスをウェスティリアが怪訝な顔で見たが、そのサイサリスが悠の前にフラフラと歩み寄り、膝を折って頭を下げるに至ってウェスティリアは絶句した。




「・・・お・・・お、お願い、だ・・・・・・す、スフィーロ様を、か・・・返して、くれ・・・」




誰かにこの様に卑屈に謝るサイサリスなどウェスティリアは見た事が無かった。サイサリスという女は頑固で融通が利かないが信頼に値する高潔な精神と誇りを持ったドラゴンであり、例え殺される時でも自分から命乞いをする様な軟弱者では断じてない。そのあまりに哀れな行動にウェスティリアも思わず席を蹴っていた。


「止めろサイサリス!!! 雄の為に狂ったか!?」


サイサリスの肩を掴んだウェスティリアであったが、サイサリスは微動だにせず、震える声で小さく呟いた。


「・・・そうだ、私は狂ってしまったよ、ウェスティリア・・・。私は以前、情報を持ち帰る為と言ってスフィーロ様を置き去りに逃げた。・・・一度、一度だけなら万の後悔を積み上げてでも耐えて見せよう。だが2度は耐えられぬ!!! 耐えられぬのだよ・・・!!!」


床についたサイサリスの握られた手から鮮血が溢れ出した。サイサリスはドラゴンの全てとスフィーロでは当然ドラゴンの方を優先すべきであると頭では考えていた。だがそれは間違いだったのだ。そもそも自分本位のドラゴンが自分の感情より優先させるべき事柄などあろうはずがなかったのだと今更ながらに思い知らされていた。


「私の命で済むのなら殺しても構わぬ。どうせスフィーロ様とダイダラスの仇を取った後は死ぬつもりだったのだからな。だからどうかスフィーロ様だけは殺さないでくれ・・・」


《サイサリス・・・》


「め、目を覚ませサイサリス! その様な下らぬ感情で――」


「下らない感情などでは断じてない」


説得しようとするウェスティリアの言葉を遮って悠は椅子から立ち上がり、サイサリスの前に片膝を付いた。


「スフィーロとは約定を交わしている。サイサリスを殺すなとな。だが竜器になったからには元のドラゴンに戻る方法はただ一つ。『顕現マニフェスティション』という再受肉だけだ。それにはスフィーロ自身を鍛えねばならん。この世界のドラゴンは三根源制御がどれも甘いのでな。それが終わればスフィーロを返すと約束しよう」


「ほ、本当か!?」


「ああ、その後は2人で平和に暮らすがいい」


「止めろ!!! サイサリスに甘言で付け入るな!!!」


サイサリスを洗脳しようとする悠の肩を乱暴に掴んだウェスティリアであったが、その逆に手を掴まれ、その痛みに脳髄が漂白された。


「あっぐ!!!」


「友情を解する貴様が愛情を解さぬのか? スフィーロの為に全てを捨てたサイサリスと、サイサリスの為に全てを失う覚悟をした貴様と何が違う?」


「黙れ!!! 別に私は同胞を見捨てたつもりは無い!!!」


「つまり貴様の覚悟は口先だけで、龍王の娘である自分であれば許されるとタカを括っているという事か?」


「ち、違う!!! わ、私はそんなつもりでは・・・!」


自分の無意識の傲慢を暴かれ、ウェスティリアは返答に窮した。悠の言葉はウェスティリアがどこかで考えていた事を赤裸々に明文化していたのだ。


「・・・ウェスティリア、私はお前の友情を疑っていない。ここまで付いて来てくれてありがとう」


「馬鹿、礼など・・・礼など・・・!」


律儀に礼を述べるサイサリスにウェスティリアの足の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。いつの間にか己の心と向き合わねばならなくなったウェスティリアの脳裏には肯定と否定、そして巨大な罪悪感が乱舞し、その思考を妨げるのであった。

実はちょっとだけそう考えていたウェスティリアでした。ウェスティリアも割と真面目な方なので、そういう自分の狡さを指摘されて落ち込んでしまっています。ダイダラスみたいなタイプの方が人生楽に生きられそうですね。ヒャッハー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ