7-7 矛と盾3
「ルアアアアアアアッ!!!」
獣の様な雄叫びを上げ、顔の前で交差した手を振るとサイサリスの爪が一気に伸び、サイサリスはそのままシュルツに躍り掛かった。
「速い!」
その上段からの爪の切り下ろしをシュルツは交差した双剣で受けたが、次の瞬間に起こった出来事はどちらにとっても予想外の結果であった。
「なっ!? 私の爪がこんな鉄屑如きに!?」
「ぐっ!? 何という膂力!!」
受けられたサイサリスの爪4本の内2本がシュルツの龍鉄の剣に斬り飛ばされ、受けたシュルツもその人外の筋力の一撃がつま先まで浸透して片膝を付いた。だが相手が驚愕している内に残りの2本に照準を合わせ、一気に双剣で挟み込む。
「『斬壊剣』!!」
『飛翔斬壊剣』ほどの威力は出ないが、既に痛んでいたサイサリスの2本の爪はその一撃でまたも斬り飛ばされていた。
「おのれっ!!」
必殺を期した一撃が防がれた事でサイサリスは一端シュルツから距離を取り、もう一度腕を振って爪を再生する。
「便利な得物だな」
「貴様・・・聖剣持ちか。私の爪をこうも易々と・・・」
シュルツの双剣がドラゴンの爪や鱗すら切り裂く業物であると見なしたサイサリスが警戒も露にジリジリと低い姿勢でシュルツの周囲を回った。シュルツは殊更得物を見せ付ける様にしてサイサリスの警戒心を刺激する。・・・実は先ほどの一撃で受けた痺れがまだ抜け切っていなかったからだ。
「最初の一合で全て斬り飛ばせぬ様では拙者もまだまだ未熟。だが貴様如きは師自ら相手をするまでもない。拙者が冥府へと送ってくれようぞ」
シュルツは悠になるべくサイサリスは殺さぬ様にと聞かされていたが、これは死ぬ気、殺す気でやらねばこちらが殺されると見切り、殺気を最大限に放出した。
サイサリスも負けじと殺気を漲らせ、両者の殺気がその中間点で拮抗し、2人の殺し合いはしばしの膠着状態を迎えたのだった。
「はああっ!!」
ウェスティリアが気合を入れ拳を握って腰だめに構えると、右手首の辺りから真っ直ぐな5、60センチほどの紫色の刃が伸び、左手首はそこを中心に楕円状の盾が現れたが、それに動揺する事無くギルザードは低く宙を飛び、剣を上段に構えて飛び込みで唐竹割りを繰り出した。
「死ねっ!!」
ウェスティリアは最初その攻撃を自分の盾で受けようとしたのだが、視線の先に居るサイサリスの爪が斬り飛ばされたのを見て慌てて掲げていた盾を自分の体ごと斬撃から外そうとしたが、盾の大きさゆえ、端の数センチがギルザードの剣に捉えられた。
その盾が一瞬の抵抗も許されず乾いた音を立てて斬られたのを見てウェスティリアは自分の判断が正しかった事を悟る。こちらもこのままであればサイサリス対シュルツの様に膠着状態に陥ったかもしれないが、あちらとの違いはもう一人攻撃手が居る事であった。
「『双竜牙』!!!」
「何っ!?」
ギルザードの斬撃を回避し、その威力にほんの一瞬だけ神奈の存在を忘れてしまったウェスティリアが振り向いた時には2人に増えた神奈が自分に向かって鋭い蹴りを放っている所だった。
「うぐっ!?」
それでも盾と剣を瞬時に立てて防御したウェスティリアは流石に只者では無いが、その一撃を受けた盾と剣に大きく亀裂が入ってしまう。
「あちゃあ・・・やっぱり悠先生みたいにはいかないな。また筋トレしなきゃ」
「ば、馬鹿な・・・このウェスティリアの鱗が子供が蹴った程度で壊れるはずが無い!!」
「だろうね。でも生憎あたし達はちょっと普通じゃないんだなっ!!」
そう言って一気にトップスピードで迫った神奈にウェスティリアは警戒せざるを得なかったが、神奈は本当に最初の一瞬だけ『敏捷上昇』を使い、瞬時に切ってウェスティリアのタイミングを大きく外した。
「なっ!?」
「ドラゴンがフェイントに疎いというのは本当らしいな、がら空きだ」
今度はそこに横からギルザードがタックルを敢行し、亀裂の入った剣と盾ごとウェスティリアを吹き飛ばした。
「ぐああっ!?」
ウェスティリアは大きな混乱状態にあった。何故中位の魔物のデュラハンがこんなに強いのか? 細身の少女にドラゴンの鱗を破損されてしまうのか? その答えをウェスティリアはサイサリスと同じく装備に求めた。
「どうやら貴様らの身に付けている装備はただの鉄などでは無いな!!」
「答える必要は無いだろう? 共に退くならば追わぬ・・・と言いたい所だが、どうも貴様の相方の殺気を鑑みるにそういう訳にはいかぬようだな」
「サイサリスは負けぬ!! そしてこの私もな!!!」
ウェスティリアが手再び構えると欠損した装備が完全な状態に戻るが、それを見ても神奈とギルザードは怯まずウェスティリアに肉薄していった。
「あまり殺すつもりはないが、せめて動けない程度のダメージは覚悟して貰うぞ!」
「あたし達の家を壊そうとしたのは一発殴るまで許さないからな!!」
「ほざけ! 多少良い装備をしているくらいでドラゴンを舐めるなぁ!!!」
口ではそう言いながらも旗色が悪い事は隠せないウェスティリアは、分が悪い事は承知の上で何とか付け入る隙を見出す為に先の見えない防御戦闘に従事するしかなかったのであった。




