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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(前) 下克上編
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7-2 登用試験2

「予想していたとはいえ、酷い有様だね・・・」


「全くです。今採点させておりますが、果たして合格者が40人も出るかどうか・・・」


ルーファウスとローランは悠に聞いた結果を受けて大きな溜息を付いた。カルマで引っ掛かる人間はそれなりに多いだろうとは思っていたが、不正を働く事でまず半分が不合格になるという事態は想定していなかったのだ。


「初年度は業を中心に採用した方が良かろう。成績が良くても業の低い者は今後何らかの不正を行う可能性が高い。反ルーファウスの尖兵の危険性もあろう。性根がまともな者であれば現在の能力に多少不備があっても努力で補えるはずだ」


「それが無難かな。来年度以降は試験の告知でも不正は厳しく罰する旨を書き足す事にするよ」


ローランはサラサラと書類に注意事項を書き足していく。


「でも余りに優秀な者は業が低いからという裏の事情で落とすのは難しいな。一応実力で試験を受けてはいるんだ。特に旧貴族の子弟で動向が不穏な者は弾いておきたいが・・・」


ローランが新たに手に取った書類は受験者の中で思想上問題があろうかと疑われる者達の情報が記された物であった。親や親類にマンドレイク派に与した者が居たり、本人が特権意識を捨て切れて居ないと思われる者である。それがもっと踏み込んだルーファウスへの害意や実際のテロなどを目論んだ者は既に捕縛されており、その情報の裏付けにはメロウズやヘイロンが奔走していた。


「ならば言い訳出来ぬふるいに掛けてしまえばいい」


「おっ、何か考えがあるみたいだね?」


悠の言葉ローランは身を乗り出した。


「別に大した策でもないぞ、緊急時にこそその者の本性が現れるものだ。例えば――」


悠が語る内容を聞いて、ローランはニヤリと顔を歪めた。


「なるほど、それは面白そうだ。では少し脚色を加えてやってみようか。極限状態の人間がどれだけ理性的に振舞えるのか、見せて貰おうじゃないか」


「・・・あまり私の家を荒らさないでくれよ?」


ルーファウスも消極的ながらそれに異を唱える事はせず、実行される事になるのであった。




2日後、試験結果を見たエリオス・クーラレイン子爵は表面上は柔和な笑顔で合格という結果を喜びつつも、その内心は全く違う事を考えていた。


(ふん、試験といえど実力で受かってしまえばルーファウスもフェルゼニアスも文句は言えまい。今日の日の為に怪しまれる筋とは徹底的に関係を断ち切って来たのだ。後は俺の優秀な頭脳があれば、いずれこの国の重要人物になれる事は疑いない事実だ。今は精々その椅子の座り心地を楽しんでおくのだな!)


エリオスほど徹底して猫を被った者は保身を図る者達の中でも極少数派であった。確かに優秀な頭脳を持つエリオスはこの体制変化が一過性では終わらぬと見ると早々に引退した父に代わってルーファウスへの忠誠を示したのだ。元々が中立派だった事もあり、大きな瑕疵を抱えていなかったクーラレイン家は爵位も財産も特に打撃を被ってはいなかった。


(いずれ俺が反対派の貴族を纏め上げてこの国を飲み込んでやる! フェルゼニアスやルーファウスも若いが、俺はもっと若いのだ! 見ていろよ、宮中に入り込んだ下賎な血など一滴残らず流し尽くしてやるからな!!)


と、内心で気勢を上げるエリオスのすぐ1メートル隣にはぼんやりと試験結果を眺めるローテンションな若者が存在していた。


(何だこの『補』って? ・・・あぁ、補欠って事ね。一応合格、か? 面倒な事になったなぁ・・・)


その若者の名はヤールセン・リオレーズといい、幼い頃は神童として知られた人物であった。物事の無駄な部分を感じ取る能力に優れ、またそれを応用して改善する能力を持ったヤールセンを成り上がり者で学の無い父親は喜んだが、それも彼が20歳を過ぎる頃には失望に変わっていた。


ヤールセンは学業への意欲を全く失い、父親の目から見ればどうでもいい事にしか興味を示さなくなったのだ。それは物事に無駄を感じ取るヤールセンの能力が他ならぬミーノス自体に無駄を感じ取り、努力の無意味さを悟った為に他ならなかったが、他人の目から見ればそれは単に怠け者にしか見えなかった。


実家は本を商っており、それなりに裕福だった為に食うに困る事は無かったが、30を手前にして遂に両親共に怒髪天を突き、父親はヤールセンに代わって官吏登用試験の申し込みを済ませ、その結果次第ではまともに仕事をしないのなら出て行けと最後通牒を食らってしまったのだ。


嫌々ながらも試験を受けたヤールセンだったが、昔取った杵柄と言おうか、なんとか補欠のギリギリの成績で合格ラインに引っ掛かったのであった。


「合格した者は王宮にて伝達事項があるので係員に従って会議室に移動する様に」


悲喜こもごもの受験者に向かって発せられた命令によってエリオスは意気揚々と、ヤールセンは溜息を付きながら王宮へと向かったのであった。




そこで受験者を迎えたのは思っていたよりも高位の人物であった。


「ふむ、これで全員集まったようだね」


最後に入室したヤールセンを見たローランが微笑みを浮かべてそちらを見やった。


(うえっ!? まさか宰相閣下直々にお出ましかよ!?)


もっと下級の官吏が出て来るものと考えていたヤールセンは恐縮しつつも後方の席に着いた。貴族全般を冷ややかな視線で見ているヤールセンにも尊敬に値する貴族が少数存在しており、ローランはその数少ない例外の一人なのだった。


「ではこの国の官吏となる資格を得た君達に、先達として言っておかねばならない事が幾つかある。先の動乱においてこの国の制度が大きな転換点を迎えた事は記憶に新しいところだけど、それに伴って今この国は深刻な人材不足に悩まされている。今回の急な登用試験はその穴埋めでもある訳だが、だからと言って国の為にならない者を宮中に入れるほど我が国は落ちぶれてはいない。見事合格を勝ち取った者はその事を重々心に刻んで欲しい。そもそも――」


ローランの話は結局の所、官吏の自覚を持って日々精励せよという内容だと感じ取ったヤールセンはふと疑問を持った。言っている内容は尤もらしいが、どうにも修飾語が過剰で内容も重複気味なのである。自分の知るフェルゼニアス宰相とは果断の人であり、無為に時間を費やす事を好む人物では無かったはずだ。


そんな事を考えるヤールセンの耳に背後の廊下からバタバタと走り回る音が聞こえて来て、それが次第に悲鳴や怒号として認識されるにあたり、近くの衛兵に何事か問い掛けようとした直後、部屋を揺るがす轟音が鳴り響いた。




ドゴォオッ!!!




「うっ!?」


その震動でバランスを崩したローランが壁に頭を打って倒れ、扉も何らかの圧力が掛かって外れ、人一人が通れるのが精々といった隙間を残して震動は沈静化したが、事態は急を告げていた。


「火事だーーーーー!!!」


「曲者が入り込んだぞ!!! ベルトルーゼ様は?」


「分からぬ!! ルーファウス殿下も行方不明だ!!」


外から響いて来る怒声に受験者達はパニック状態に陥ったが、内部の無事な官吏がそれを鎮めようと声を張り上げた。


「落ち着け!! まずは宰相閣下を安全な場所に避難させるのだ!!」


普段であれば当然と言える対応だが、その声に否と答える者達が存在した。エリオスをはじめとした、貴族の受験者達だ。


「馬鹿な!! あの煙が見えんのか!? こんな所でグズグズしていれば死ぬだけだ!! 俺は逃げるぞ!!」


「俺もだ! なんで俺がそんな危険な事をせねばならんのか!? 動けない者などほっておけばいい!!」


「やばいぞ、ここにも煙があんなに・・・! は、早く逃げろ!!」


我先にと一人分の隙間を求めて出口に群がる受験者とすれ違ってヤールセンは前方で倒れるローランの下に辿り着いた。他の受験者もパニックになりかけてはいたが、それでも自分勝手な行動は控えて官吏の指示に従っている。


「・・・大丈夫ですか、宰相閣下? ・・・っていうか大丈夫に決まってますよね?」


ヤールセンがやや呆れた声で倒れたローランに言い放つと、ローランがチラッと目を開いて舌を出した。


「おや、この状況の中で随分と余裕があるじゃないか? 確か君は・・・ヤールセンだよね? 昔聞いた事があるよ、同年代の子で神童と呼ばれた君の名をね?」


「からかわないで下さい。神童も20歳過ぎればただの人です。それよりこれは芝居ですよね?」


「その通り。そろそろ種明かししてもいいだろう」


ヤールセンに促されたローランは何事も無かったかの様に立ち上がり、手を叩いた。

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