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1-37 見回り2

「おい、ありゃあ神崎竜将じゃあないか?いつの間にお子さんがいらっしゃったんだ?」


「いや、そんな話は聞いた事ないぜ?・・・隠し子ってやつじゃないか?」


「神崎竜将、案外子煩悩なんだな~・・・」


「うっうっうっ、なんで隣を歩いているのが私じゃないのっ!!」


「これは夢これは夢これは夢・・・」


「おかあさん、わたしもかんざきりゅーしょーにかたぐるましてほしい~」


「無理言わないでよ・・・うっ、母さん胃が痛くなるわ」


まだ街に残っていた民衆達はドラゴンに奇襲を受けた時よりも強い驚愕の表情で悠達を出迎えていた。中にはもう眠ってしまった者を起こしてまで見物に駆けつけている野次馬も居る。


「これは・・・予想以上に混乱が生じていますね」


「仕方ないでしょ、泣く子も黙る鬼の神崎竜将が幼女を肩車して街を練り歩いたら、下手すりゃ陛下より注目されると思うよ?」


「迂闊だったわ・・・見惚れてる場合じゃなくて、注意しなければならなかったのに」


「えへへ~、みんなこっちをみてるね~。めい、おひめさまになったみたい!」


「・・・よし」


この状況をむしろ悠は好機と捉えて、周囲の民衆に大声で語りかけた。


「夜分遅くすまない!自分はこの子の姉と母を捜している!誰か知っている者はいないか?」


この言葉で民衆は悠が迷子を保護したのだと気付き、周りの者同士が尋ねあった。


「お前知ってるか?」


「いや、皇都は広いからなぁ」


「あ、良く見たらあの子、見たことあるぞ」


「ああ、仕立てをやってる小鳥遊さんのとこの子じゃないか?」


「小鳥遊さんなら、確かさっき母子で向こうに・・・」


「すいません、通してください!!すいません!!」


と、その時、騒ぎを聞きつけて二人の女性が民衆を掻き分けて悠の前にやってきた。それは予想通り姉のけいと母親であった。


「ああもう明っ、あなたはどうしてすぐどこかに行っちゃうの!って、悠さん!?」


「かかか神崎竜将閣下!?こ、これ!恵!明!そそそ粗相をしてはいけません!」


「あ、おねえちゃんとおかあさんだー。まいごになってごめんなさい~」


「いいいいいから降りなさいっ」


「えー、めい、ゆうおにいちゃんのかたぐるまがいいなー」


「あな、あなたはっ・・・あふぅ」


「おっと」


「わっ!お母さんしっかりしてっ!」


わが子が悠を名前で呼んだばかりか、肩車をさせて市内を引き回すという所業を目の当たりにした母親は、精神が限界を迎えて遂に倒れてしまった。地に着く前に悠が掴んだが。


「千葉竜佐、すまんが明を頼む。明、悪いが明の母上を背負うので降りてくれるか?」


「はい、了解です」


「すいませんっ!本当にすいませんっ!!」


「しかたないなー。つぎはおかあさんをかたぐるまするの?」


そんな事をしたら次の日から母親は街を出歩けないだろう。


「恵、もう謝らなくていいから道案内を頼む。君も疲れている所を悪いが・・・」


「いいえ!!ご、ご案内しましゅ!!」


色々な思考が混線して語尾を噛んでしまった恵だったが(明が失礼だとか、お母さんが大丈夫かだとか、私も気絶してたら悠さんがおんぶしてくれたのかな?など)、何とか言われた事の意味を理解して歩き出した。


「皆、道を開けてやってくれ」


その言葉にまるでモーゼの様に民衆は道を譲るのだった。







「ここが私達の家です。今開けますので」


中央通りから歩く事10分、住宅街に当たる一角に小鳥遊家はあった。


「ではまず母上を寝室に運ばなければな」


「はい、母の寝室は入って突き当たりです。私は明を寝かせてきますね」


「ああ、了解した」


「すみません、千葉竜佐、付いて来て頂けますか?」


「ああ、妹さんの寝室はどちらかな?」


そう言って女性陣は途中で寝てしまった明を寝室に連れて行ったので、悠も母親を寝かせる為に寝室へと入っていった。


ドアを開けるとそこは8畳くらいの空間があり、奥のベットへ腰掛けた悠はそのまま母親を下ろそうとしたが、半端に意識が戻ったようで、首に回す手に力が入っていて下りなかった。


「小鳥遊さん、下りて頂けますか?」


「・・・ぃゃ」


「はい?」


「小鳥遊さんなんて・・・さきって・・・よんでくだしゃい・・・」


そう言って立派な両胸をぐりぐりと悠の背に押し当ててくる。普通の男なら色々な意味で硬直し、動けないか襲い掛かるかの二択だろう。しかし悠は再び起き上がるとベットの下の方に移動してベットに向けて咲を背負い投げの要領で投げ飛ばした。


「ふぎゃ!?・・・い、一体何が・・・静さんにおんぶしてもらってたのに・・・あれ?・・・」


徐々に意識が戻ってきて、頭上にある悠としばし見つめあうと、思い出したのか、両胸を押さえて大声で叫んだ。


「きゃーーーーー!!!!!」







「申し訳ありませんでした・・・うぅ」


謝る恵は涙声だ。それも無理あるまい。母親が寝ぼけて、助けてくれた軍人さんを旦那と間違えて誘惑して、尚且つ大声で叫んだのだ。最初は悠が母親に良からぬ事を企んだのかと思って詰め寄ってしまったのも恥ずかしさに拍車をかけていた。しかし謝るべきの咲はあまりの羞恥に布団から出る事も出来ないほど打ちのめされていた。初対面の偉い軍人に寝ぼけて胸を押し当てて誘惑したら、大体こんな感じになるのも仕方が無い。


後ろに控える三人も無言で頬を染めている。彼女らも最初は状況が状況だけに誤解しかけたのだが、悠が『その程度』の誘惑でどうにかなるならとっくに誰かが誇らしげに戦果を語っているはずだ。むしろ、そのような偶然を装ったハプニングで悠に迫った彼女らは、無表情に、冷静にそれを見る悠と目が合うと逆にそれを鏡にして自らを羞恥してしまった。冷静な人間の前で痴態を演じるのは相当な精神力が必要なのだった。


それに竜騎士には相棒のリュウも居るのだ。嘘などつけようはずも無いし、レイラも(一応女性的パーソナリティーを持つ存在として)許さないだろう。


「いや、たとえご家族が居ようとも男一人で女性の部屋に入ったのは俺の落ち度だ。恵も母上殿もすまなかった」


「いいえっ!」


がばぁっと布団が吹っ飛んだ。さすがに自分のせいでこれ以上悠と恵を矢面に立たせておく事に、罪悪感が羞恥心を上回ったらしい。そして素早くベットで三つ指をついて土下座した。


小鳥遊たかなし さきと申します。初対面の折からの度重なるご無礼、平にご容赦願います」


さすが軍人の妻だけあって、しゃんとすればしゃんとするものである。慌てて咲のめくれたスカートを直す恵の姿が無ければ完璧だったかもしれない。


悠はそれらを完璧に見ない振りで答えた。


「重ねて言うが謝罪は不要だ。御子女が無事で良かったではないか。それで済ませよう」


「はい、ありがとうございます。悠さん」


「これ、ちゃんと神崎竜将とお呼びしなさい」


「あ、す、すいません、神崎・・・」


「いや、恵に名で呼んでいいと言ったのは自分だ。構わない。今はもう休憩に入っているのでな。咲殿も敬称はいらんよ」


時刻はいつの間にか10時を回っていた。


「では、神崎さん、娘を保護して下さってありがとうございました」


「ありがとうございました、悠さん」


「ああ」


そして悠は立ち上がり暇を告げたが、二人に猛然と止められた。


「このままお返しするなんてとんでもない!せめて一服されて下さい。皆様も」


そう言って四人を引き止めるのだった。

残念お母さんの咲さんです。結婚は早かったのでまだ33歳です。


残念な女性っていいですね。


恵は一番苦労が多そうです。


あと、上手い人間が投げるほど、背負いはダメージがありません。下手に投げるとあちこちぶつけたり捻ったりして痛いのですよ。

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