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6-67 告白

悠はフェルゼンとミーノス間を行き来して人員を分配すると、自身もミーノスに入った。そのままギルドに先行させていたバロー、ハリハリ、アルトと合流した時にはギルド職員が大勢で査定を行っている最中であった。


「よう、まだ査定は終わってないぜ。・・・ナターリアのくれたお宝に希少品が幾つもあるらしくて、査定に手間取ってるらしい」


エルフと人間に交流は無く、ナターリアが多少の金銭になるだろうと持って来た品々の中には人間にとっては非常に高価な物が混じっていたのだ。また、ダンジョンで手に入れた品々も多数あり、その査定にギルド職員は朝から掛かり切りになっていた。


「今回だけで滞っていた依頼も含めて10ほど片付いたらしいぜ。もし俺達がⅧ(エイス)じゃなかったらランクが上がってる所だな」


「ふむ、これ以上はあまり依頼をこなさん方がいいかもしれんな。他の冒険者の仕事を圧迫してしまいそうだ」




「心配いらんよ、今この国にゃやたらと人が集まって来てるからな。依頼には事欠かないぜ?」




そこに奥からコロッサスがやって来て査定の様子を一瞥した。


「それどころか益々依頼が増える始末だ。ここも増員しないとそろそろ厳しいな。学校とやらの卒業生には俺も熱い視線を注いでるんだが?」


「であれば、ギルドからも教師を派遣せねば他所に全部持って行かれるぞ?」


「だよなぁ・・・殿下と交渉して枠を確保しておくか」


ミーノスに政変があった事は既に周辺に広まりつつあり、開放的なルーファウスの言葉に商機や機会を見出した者達が続々と王都に流入して来ていたのだ。人が増えればその分様々な需要が増大し、結果として悠達が手の回らない様な中堅以下の依頼は増える一方であった。


「だがよ、これだけギルドに貢献すると、そろそろ本格的に本部からの催促が煩くなりそうだ。俺達以後、Ⅸ(ナインス)の冒険者は殆ど現れていないし、ギルド本部もⅨの冒険者が生まれて活躍すれば自分達の株が上がる。ここも少しは落ち着いたから、一度行ってみてくれんか?」


「・・・そうだな、ならば次の目的地はギルド本部にしよう。もし催促されたら近い内に行く用意はあると伝えておいてくれ」


「助かるぜ! あそこにゃ俺も頭が上がらない人間が多くてなぁ・・・」


苦笑するコロッサスの下に査定を終えたエリーが一覧を持ってやって来た。


「こんにちは、ユウさん。査定が終わりましたよ。・・・相変わらず豪快な依頼のこなし方をなさいますね?」


「ああ、お疲れ様。今回はたまたま幸運が重なっただけだ、特に狙った訳ではないぞ?」


「ふふ、並の冒険者パーティーでは10集まって倍の時間を掛けてもこの半分も狩れませんよ。金額の明細と一覧をご確認し、署名をお願いします」


悠は手渡された一覧と内訳、金額にざっと目を通し、すぐに署名をしてエリーに返した。そのエリーの胸元には以前悠が贈ったペンダントが光っている。


「つけてくれているのか、ありがとう」


「え? ・・・あ、は、はい。私には分不相応だとは思いますけど、せっかく頂いた物ですから・・・」


「そんな事は無い。自分で贈っておいてなんだが、良く似合っていると思う」


気負いなく語る悠にエリーは顔を真っ赤に染めて俯いた。それを隣のコロッサスがニヤニヤと眺めている。


「金貨千枚弱か。拾得物にいい値が付いたな」


「え、ええ、中々手に入らない貴重品もありましたから。塩漬けになっていた依頼と重複していましたので、報酬に上乗せされています」


「そうか。では俺達は王宮に用があるので行かせて貰う。また何かあったら頼むぞ」


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


「じゃあな、殿下に学校の件は協力を惜しまないと伝えておいてくれ」


エリーとコロッサスに頷き、悠は報酬を受け取ってギルドを後にしたが、悠達が去った後のギルドは俄かに喧騒に包まれた。


「やっぱり教官はスゲェな、金貨千枚を前にしても顔色一つ変わりゃしねぇや」


「そりゃそうだ、噂じゃドラゴンを狩ってフェルゼンのギルドに持ち込んだ時には五千枚の金貨を前にしても眉一つ動かさなかったらしいからな。今更千枚程度、フツーだろフツー」


「・・・エリーさん、もう付き合ってるのかな・・・」


「あ、お前エリーちゃん狙ってんの? 悪い事言わないから止めとけって。実力、財力、包容力、顔のどれをとってもお前じゃ無理だぜ」


ミーノスにおいて最早『戦塵』は生ける伝説である。ドラゴンすら欠員無く狩り、巨万の富を手に入れ、更に人望もあるとなれば憧れない方が少数派であろう。その噂に多少尾ひれがついていれば尚更だ。


「エリー、お前ももう少し積極的になれよ。休みの日に街に誘うくらいしておかないと、ユウを取られちまうぞ?」


「わ、私とユウさんは、そ、そんなんじゃありませんから!! 失礼します!!」


顔を赤くして立ち去るエリーを見て、コロッサスはガリガリと頭を掻いた。


「お節介が過ぎたか。だがユウならエリーの秘密を知ってるし、腕っ節も抜群だからいう事無しなんだがなぁ・・・」


まるで父親の様なセリフを呟き、コロッサスは執務室へと戻っていった。




王宮は王宮で相変わらず慌ただしい雰囲気に満ちており、宮中で働く者達は誰もが早足で行き来していた。


もう慣れたもので、悠はその人の流れの邪魔にならないようにスイスイとルーファウスの居場所へと向かっていく。この時間帯であれば、ローランと共に執務室であろうと当たりはついていた。


悠の予測通り、ルーファウスはローランと顔を突き合わせて議論を交わしている最中であり、その内容は人材確保の為の試験についてであった。


「精が出るな」


「やぁ、そちらこそご苦労様。エルフのお姫様は満足して帰ったかな?」


丸まっていた背を椅子の背もたれで反らしながら尋ねるルーファウスに悠はサラリと爆弾を投げつけた。


「どうやら監視されていたらしく、アリーシア女王も一緒だったが無事に帰した。手間が省けたな」




ガターンッ!!!




ブレーキを掛けていた足が空回り、ルーファウスの体が弧を描いて椅子ごと後ろに倒れた。それをローランが慌てて引き起こしている。


「あたた・・・」


「・・・ユウ、そういうのを無表情で言わないでくれないかな? 心の準備が出来ないから」


「特に敵対した訳では無いから勿体ぶる必要を感じなかったのだが・・・。とりあえずは相互不干渉という事で纏まった。後は具体的な証拠を持って来れば友好も考えないでもないそうだ」


「良くあの恐ろしい女王陛下を説得したものだね・・・」


「言葉が通じて意思の疎通が出来るのなら何とでもなろうよ」


ローランはエルフの恐ろしさを散々叩き込まれて育った経験上、アリーシア女王と聞けば反射的に背中に冷気を感じずにはいられないのだった。


「それよりもルーレイ殿下の様子を見たいのだが、構わんかな?」


「ああ、それなら――」




「アルトアルトアルトーーーーーーーッ!!!!!」




執務室のドアが突き破らんばかりの勢いで開き、室内のアルトを見つけると、ルーレイがそのままの勢いでアルトに跳びついた。


「ルーレイ!? 元気になったんだね!!」


「モチのロンロン!!! ん~~~・・・アルトの匂いだぁ・・・くんくんくん」


「どうやらもう心配はいらん様だな」


アルトに抱き付いたままクンクンと鼻を鳴らすルーレイにアルトは苦笑したが、元気に動くルーレイにやがて苦さは取れ、笑顔でその頭を撫でた。


「ルーレイ、ちゃんと挨拶くらいせんか!! ・・・済まないね、今日の朝に目を覚まして薬を飲んだら途端に元気になってしまって・・・」


「ハッ!? 挨拶と言えばばばっ!!」


アルトに抱き付いていたルーレイが体を放し、ぐるんと半回転してローランと真剣な顔で向かい合った。


「・・・? あの、私に何か?」


「フェルゼニアス公!!! ・・・いーや、お義父とうさん!!!」


見た事も無いくらい真剣な顔でルーレイはその場に両膝両手を付いてローランに頭を下げた。




「アルトを、娘さんを俺ちゃんのお嫁さんに下さい!!! 必ず一緒に幸せになります!!!」




「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・プッ・・・クックククククク・・・」


「だ、ダメですバロー殿、笑っては可哀想で・・・ブフッ!」


真っ赤な顔で笑いを堪えるバローを肘で突きながら、ハリハリもついつい噴き出してしまった。ローランは何とも言えない表情でルーレイの後頭部を見つめ、残酷な真実をいかに柔らかく伝えるかを考えた・・・が、特に思いつかなかったので思考を放棄した。


「・・・アルト、自分で説明しなさい」


今までどの様な目で見られていたのかを悟り、表情を選択出来ないままアルトは平坦な声で答えた。


「・・・ルーレイ、僕は男だから君のお嫁さんにはなれないよ・・・」


ルーレイはアルトの言葉に首を傾げ、色々な角度からアルトを見て、やがて悲しそうに呟いた。


「・・・そんな嘘つくくらい、俺ちゃんのお嫁さんになるのがヤって事なの?」


「な、何で信じてくれないの!?」


「だって女の子じゃん!! それにイイ匂いもしたし!! こんなキレイな男が居るはずないって!!」


「ギャハハハハハハハ!!! ひー苦しー!!!」


真剣な表情のルーレイに耐え切れずにバローはその場に蹲って爆笑し始めた。


「・・・ルーレイ、良くお聞き? 確かにアルトは整った顔立ちをした子だけど、間違い無くローランの息子だよ? そもそも女物の服なんて一度も着ていなかっただろう?」


「そ、そういう服の趣味じゃないん?」


「・・・うん、違うね。というかお前が貴族の正装をなんだと思っているのか私は問い詰めたいよ・・・」


「・・・」


それでも納得がいかない様子のルーレイにアルトは服のボタンを外し、前を開いて見せた。


「ほら、僕に胸なんて無いでしょう? 僕は正真正銘の男だよ」


アルトの胸は多少筋肉が付いて薄く胸板を形成していたが、明らかに女性の乳房とは異なる男の体であった。


「お、おっぱいが小さいだけかと思ってた・・・でも言ったらアルトが傷つくと思って俺ちゃん黙ってたのに・・・」


「うん、今まさに僕は傷ついているけど?」


「そ、そんな、そんな!! そんなーーーーーーーーッ!!!!!」


ガラガラと崩れ落ちる薔薇色の未来図にルーレイは絶叫して部屋を飛び出していったのだった。

現実は酷薄。

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