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閑話 遥かなる呼び声@蓬莱2

「遅いぞ真! 言い出しっぺのお前が最後とはどういう了見だ、ああ?」


「す、すいません!! その、少し揉めまして・・・」


軍本部に真と亜梨紗が到着した時には既に他の関係者は全て揃っており、会議室に入るなり真は雪人に絡まれてしまった。そんな雪人はそこかしこに包帯やガーゼを貼り付けており、一段と人相を悪くしている。


「絡むな雪人。陛下の玉体をこちらまで運んで頂いたのだ、速やかに検分するべきだろう。真、報告を頼む」


そう匠が促して話の進展を図った。今この部屋に居るのは最後に来た真と亜梨紗、そして匠、雪人、朱理、仗、志津香、ナナナの計8名である。


「はい、まずは・・・」


「あ、待った待った。マコト、『隔世のペンデュラム』を貸してよ」


口を開き掛けた真を遮ったのはナナナである。真は借り物であるので特に何も考えずナナナにペンデュラムを渡した。


「このペンデュラムには記録機能も付いててね、普通に力を注ぐと中継器になるんだけど、逆に先端から力を注ぐと前に見た物を再生したりも出来るんだ」


そう言ってナナナがペンデュラムを垂らし、先端に触れたのを見て真は大いに慌てた。


「えっ!? じ、自分がちゃんと見聞きしましたから別にその必要は・・・!」


「何を言っているのです、兄上? 私達だって元気な悠さんの姿が見たいのです。それに、伝聞情報よりもその方が確かではないですか」


「亜梨紗の言う通りだ。それとも何か? お前、久々に会って悠に泣き付きでもしたのか? それならば是非とも見てやらねばならんな。ナナナ殿、構わんから再生してくれ」


「ふふふー、行くよ~」


「あっ・・・お、俺はもう知りませんよ・・・!」


真がこの後に起こる事を予測して目を閉じ、耳を塞いだ。その過剰な反応を訝しむ雪人の背中に一瞬冷たい物が滑り落ち、これは真関係のネタでは無いと察してナナナを見ると、既にナナナは再生を開始してしまっていた。


そしてそこに映った悠に約2名ほどビシリと硬直してしまう。


「・・・両脇から少女に囲まれて随分と楽しそうな状況だな、悠は」


「いえいえ、これは助け出した子供達でしょう。別に神崎先輩と深い仲という訳では無いはずです。ですから落ち着いて下さい、志津香様」


「わ、わた、私はい、いいいいつだっておち、落ち着いて、いますわ! こ、こっ、子供相手にと、取り乱すなど、あああ有り得ません!!」


「・・・噛み過ぎです、少し水でも飲んで落ち着いて下さい」


朱理に促されるままに志津香は震える手で水差しを取り、テーブルの上に半分ほどこぼしながらもコップに口を付けて一息付いた。その瞬間にトドメが飛んで来た。


《悠先生の婚約者候補の葛城 蒼凪です。ではでは》




ブホッ!!!!!




志津香が盛大に口に含んでいた水を隣の朱理の顔に噴き出した。そのままむせる志津香と水を滴らせる朱理を中心に非常に気まずい空気が発生し、部屋の中が静まり返る。


「・・・・・・・・・真、ちょっと部屋の外に出ましょうか」


「い、嫌だ!! 俺は悪くない!! 俺は悪くない!!! 悪いのは真田先輩――」


凄絶な気配を漂わせる朱理に真が潔白を表明して雪人を見たが、当の雪人は真に背を向けて、匠と真面目な顔で話し合っていた。


「小鳥遊姉妹と他の子供達が無事保護出来たというのは朗報ですな。早速明日の朝にでも小鳥遊家に報告に行かねばなりますまい」


「しかし懸念もある。悠が息災だったのは喜ばしい事だが、どうも一筋縄で収まる話では無い様だ。ナナナ殿はどう見る?」


「ん~~~~~・・・今の情報だけだと確かな事は言えないかな? その召喚器っていうのが気になるけど、現物を見ない事には・・・」


「きっ、汚い!! 汚いですよ真田先輩!?」


「いいから行きますよ兄上。往生際の悪い・・・」


無表情で立ち上がった朱理と憤怒の表情の亜梨紗が蒼白な顔で首を振る真を練兵場へと連行していった。


「全く、相変わらず空気を読めん奴だ。この程度は先に読んでペンデュラムを置いて来れば良かったものを」


「いやー、マコトにはちょっと悪い事したかな? でもようやく通信が繋がったから、これからは向こうの情報も手に入る様になりそうだね」


「うむ・・・ナナナ殿、少し確認したい事があるのだが、先ほどの映像を静止状態に出来ないだろうか?」


真が理不尽を一手に引き受けている内に雪人達は情報の精査に取り掛かっていた。・・・志津香は少しそっとしておく方向で一致したらしい。


「出来るよ? えーと・・・この辺?」


ナナナは匠に促されるままにもう一度映像を再生――音声はカット――して、適当な所で静止させた。


「・・・やはりな、何があったのか知らんが、悠の右手が無い。あちらにも悠に手傷を負わせるほどの相手が居るという事か。『再生リジェネレーション』していない理由は分からんが・・・」


「それだけではありませんな、悠に装飾品を身に着ける洒落っ気などありません。この首に下がっている、レイラの隣にある物は竜器と見ましたが?」


「んだと!? ・・・チッ、やっぱり旦那ばっかり楽しい事やりやがって!! おいチビ、お前の上役に言って今度は俺をあっちに送る様に言えよ」


「む、無理無理!! ユウさん一人だけで精一杯だよ!! それとチビじゃないもん!!」


混沌とし始めた場を雪人が仕切り直した。


「静かに、今分かる事は世界の名がアーヴェルカインである事。小鳥遊姉妹が無事保護出来た事。召喚の原因を突き止めた事、何者かの介入が考えられる事、そして映像から分かる事として、悠に傷を負わせるレベルの敵対者が居る事、竜器がある事から向こうにもドラゴンリュウが居る可能性が非常に高い事だ。これらを踏まえて対応を考えねばいかん」


「小鳥遊姉妹に関しては迅速にその無事を伝えるという事で良かろうが、その他は悠の続報を待たねばならんだろう。次回はその召喚器と、アーヴェルカインでの脅威について聞くべきだな。もし向こうでも竜が居て協力を得られるのなら、アーヴェルカイン独自の『竜騎士』として悠の助けになってくれるかもしれん」


「初めて繋がったばかりだから、次に連絡があるのはもう少し先になると思うよ。『隔界心通話』は慣れないと消耗が激しいから・・・」


雪人が頭を高速で回転させながら髪を掻き上げた。


「しばらく真を皇都からは離せんな。志津香様には申し訳ないですが、真以外でも『隔界心通話』が繋がる様になるまでは少々遠征は延期になるでしょう・・・志津香様?」


「・・・え? は、はい! どうぞよしなにっ!」


ぼんやりと宙を見ていた志津香が急に声を掛けられて慌てて返答したが、明らかに心ここにあらずといった風情であった。


「お待たせ致しました。ちょっと血・・・もとい、水に濡れた服を替えるのに手間取りました」


「中座して済みません。お話は纏まりましたか?」


そこに席を外していた朱理と亜梨紗が戻って来た。朱理に至っては着替えまでしていて、先ほどの影響は微塵も残ってはいない。


「ああ、今回は悠と小鳥遊姉妹の無事が確認出来た事が収穫だな。その他についてはまた連絡が付いた時に詳細を訪ねるという事になった。内容についてはまた明日にでもここで話し合うつもりだ。どうやら習熟するまで長くは話せん様子なのでな、纏めておかねば無為に時間を過ごしかねん」


「では今日は解散ですか?」


「それがいいだろう。ようやく状況が動き出したのだ、焦らずに事を進めて行かねばな」


「分かりました、では志津香様、皇居に帰りましょう。・・・そう心配せずとも、神崎先輩は真田先輩と違っていたずらに花を手折る趣味はお持ちではありません。その様に疑っては女としての器量を疑われますよ?」


朱理のセリフは志津香に向けられた様に見えて、その後ろに居て聞いていた亜梨紗も縮こまらせた。


「おい、俺を引き合いに出すな、別に俺とて手あたり次第に手折っている訳では無いぞ? 双方の合意を持って節度ある大人の付き合いをだな・・・」


「すみません、そのご高説はいつか有り得ないくらい暇な時にお願いします。さ、志津香様」


切り捨てられた雪人が憮然とした表情を浮かべたが、朱理は構わずに志津香の手を取った。


「・・・もう大丈夫です。では皆様、遅くまでご苦労様でした」


「私も帰るね、お疲れ様!」


志津香が立ち直ったのを見た亜里沙も自分に気合を入れ直し、更に精進する事を誓って部屋を出たのだった。


「では我らも解散しましょう。また明日に」


「うむ、また明日に」


「旦那に聞く事か・・・手強い相手の話でも聞きてぇな。じゃ、あばよ」


約1名完全に忘れられている者が居たが、その事には誰も突っ込まないのであった。

どうして雪人のカルマは赤くないんだろう・・・


第六章もそろそろお終い。もう少しお付き合い下さいね。

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