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1-36 見回り1

官舎に帰った時、既に日は傾き始めていた。


「昼から居たにしては、随分時間を食ったようだ」


《近況や戦闘理論で4時間以上喋れば、そりゃ日も傾くわよ・・・》


呆れ気味にレイラが呟いた。


「千葉家への連絡を頼んでおかんとな」


近くに居た下士官を捕まえて、軍本部の真へと伝言を預けた悠だったが、頼まれた下士官はガチガチになって、まるで国家機密でも扱うかの様に、大切に伝言を預かって本部へと走って行った。


「また今日も伝言が多いか。お?」


その中に雪人から今日の夜の警備任務についての伝言も混じっていた。そこにはこう記されている。


『本日午後8時より、市内及び高天原周辺の警備に当たられたし。尚、その際本部にて随行員若干名を付けるものとする。・・・つまり全周警備だ。貴様が働いている時に眠れると思うと俺も気分がいい。ハッハッハ。』


悠は即座にその紙を破り捨てるとゴミ箱へと投げ捨てた。


「いつまでも子供の様な事をするな、雪人は」


《言い合いしてる二人は大体こんな感じよ、ユウ》


「・・・」


何か不愉快な事実を聞いた気がしたが、気にしない事にした。


「では軽く飯にして、その後は本部へ行ってから警備だな」


そして少し早いが腹ごしらえをしておくのだった。








「神崎だ、警備任務の為出頭した。これが身分証明だ」


8時になる15分前に、悠は軍本部に到着して、この後の警備に備えた。


「ハッ、確認しました。神崎竜将にこの様な任務をお任せするのは心苦しいのですが、その、真田竜将から是非にと薦められまして」


警備を担当する課の軍人が、恐縮しながら悠に頭を下げて、身分証明書を返す。


「構わん、自分もここに居る時は一軍人だ。命令には従うさ」


「では、この後8時から10時までは皇都内の警備、1時間の休憩を挟みまして、11時から1時までは皇都外の警備になります。休憩はどこで取って頂いても構いません。11時までに正門の詰め所にて記帳をお願いします。今回は四人でチームを組んで貰います。随行するのは・・・」


「お待たせしました!」


「すいません~、遅れてはいないですよね?」


「だから私は早目に夕食は済ませておくべきだと・・・」


「・・・例え仕官の方でも、より上級の神崎竜将をお待たせするのは感心しませんよ?」


警備担当の軍人が、遅れて到着した三人を窘める。その三人とは、


「チームを組むのはお前達か」


そこには昨日の練兵以来の亜梨紗、燕、蓮の姿があった。


「申し訳ありません、神崎竜将」


三人を代表して亜梨紗が謝罪し、残りの二人も揃って頭を下げた。


「10分前行動は出来ている様だから構わんが、時間に厳しい上官の時にはもう少し早目に行動するんだな」


「「「はっ、了解であります!」」」


「では身分証明を済ませて来い。終わったら早速向かうぞ」


その言葉に従い、三人は身分証明を提示して任務に着くのだった。







「体には支障無いか、三人共?」


「ええ、昨日練兵に参加した竜器使いは午前に半休が貰えましたので、ゆっくり休みました」


「あたしは少しまだだるいです。気合が足りなかったからかなぁ」


「精神攻撃を引きずるのは鍛え足りない証拠よ、燕」


街中に出た四人は軽い調子で街を流していた。高天原の住人の夜は早い。7時には夕食を終え、9時には眠りにつく。夜出歩くのは危険だった為であり、比較的安全になった今でも夜更かしする習慣があまり無いのだ。それでも夜歩くという新鮮さに街に足を伸ばしている住人の姿もちらほら見受けられる。


しかしその程度の人間しか居ないのではトラブルなどそうそう起こらないので、見回る警備もあまり仕事が無い。次の外の警備が本番なので、体を慣れさせる意味合いもあった。


「夜にこれだけの人が居る皇都を見るのは始めてかもしれません」


亜梨紗が感慨深げに言う通り、中央通りに差し掛かると更に出歩いている人間の数が増してきた。これも露店の効果だろうか。


「10時以降でもやっているようならここで休憩にするか」


「え、奢って頂けるんですか?」


「燕っ、はしたないわよ!」


「構わんぞ。警備を疎かには出来んが、良さそうな店があったら覚えておけ」


「やったー!夜ご飯は急いで食べたからいつもの半分しか食べてないんですよー」


「それは貴女が中々起きなかったせいでしょうに・・・」


「ありがとうございます、神崎竜将」


女三人寄れば姦しいとは良く言った物だと悠は思ったが、口には出さない分別はあった。









そして時刻は9時半。悠達は街の中心から離れた、悠と雪人がこの間酔いを醒ました公園にやって来た。


「この近辺で見回り地点は終わりだな。特にここも異常な・・・ん?」


異常無しと言おうとした悠の目線が公園のベンチで止まった。そこに小さな人影があったのだ。


めい・・・か?」


そこに居たのは悠が墓参りに行った日に出会った、小鳥遊姉妹の妹の明だった。悠の呼びかけにも答えない俯く明に近づいても反応が無い。どうやら眠っているようだ。その顔はさっきまで泣いていたのか、頬には涙の後が残っていた。


「明、明、聞こえるか?」


悠はそんな明を軽く揺すりながら名を呼び続けた。少しむずがる明が、やがて徐々に覚醒していき目を開けると、目の前に居る悠に気付いて抱きついた。


「ふあ?・・・・・・あっ、ゆうおにいちゃん!!」


「こんな時間にこんな場所でどうしたんだ、明?母上や姉上はどうした?」


「めい、まいごになったの。よるごはんをそとでみんなでたべたんだけど、いつのまにかふたりがいなくて、いっぱいさがしたんだけどみつからなくて、あしがつかれて、こわくなって、ねむくなって・・・」


話している内に、また段々悲しくなって来たのか泣き出しそうな明の頭にポンと手を乗せると、悠は優しく撫でた。


「もう心配はいらん。俺達と一緒に二人を探そう」


「ほんと!?」


「ああ。しかし、そのまま連れて歩くのも無理そうだな。・・・よし、明、肩車をするから乗りなさい」


「え、いいの?やったーー!!」


さっきまで泣いていたのが嘘の様に満面の笑みを浮かべた明は、早速とばかりにしゃがむ悠の肩の上に乗り込んだ。


「神崎竜将!私が背負いましょうか?」


「いや、この子はと縁があってな。それに、背が高い人間が肩車した方が見つかり易かろうよ」


「そうですか・・・分かりました」


亜梨紗の申し出を悠は断り、そのまま中央通りに向けて歩いていく。いつもと違う視点に、明は大感激だった。


「たかいたかーい、えへへ~。ゆうおにいちゃん、おとうさんみたい」


「あまり暴れると危ないぞ。しっかり掴まっていろよ?」


「はーーーーーい!」


(こうして並んで歩いていたら、私と悠さんと、この明ちゃんで・・・ふふふ夫婦に見えたりするのかしら。きゃーーーーー)


そんな事を考えながら並んで歩く亜梨紗と、


(神崎竜将が子供には優しいって本当だったんだ・・・ギャップが燃えるわぁ)


(流石は神崎竜将だわ。惚れ直すわね)


そのような事を小声で囁く二人であった。



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